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インフルエンザ等の感染症にかかった社員への対応・予防【会社側】

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インフルエンザを始めとする感染症にかかった社員に対して、会社側が適切な対応を行わなければ、他の社員にうつってしまい、会社の安全配慮義務が果たせなくなります。

会社は、社員を健康で安全な環境で働かせる義務(安全配慮義務)を負っており、伝染性の感染症にかかった社員がいる場合には、集団感染を防ぐための対応が必須となります。

また、会社側(使用者側)が行うべき、病気の社員に対する適切な対応は、就業規則などの会社の規程に定め、あらかじめ従業員に対して周知徹底しておくことが必要です。

特に、ビジネスのグローバル化が進展し、海外出張、外国人人材の受け入れなども当たり前のこととなってきて、業務によって新種の感染症にかかってしまうリスクも増しています。デング熱の流行、新型インフルエンザなども記憶に新しいのではないでしょうか。

そこで今回は、インフルエンザをはじめとする感染症対策について、会社が行っておくべき就業規則の整備や社員への対応などについて、弁護士が解説します。

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感染症に対する会社の適切な対応

感染症とは、一般的に、伝染性の疾患、すなわち、人に移る可能性のある病気のことをいいます。

その中でも、集団感染を引き起こすおそれのある病気について、労働安全衛生法では「伝染性の疾病その他の疾病で、厚生労働省令で定めるものにかかった労働者については、厚生労働省令で定めるところにより、その就業を禁止しなければならない」(労働安全衛生法68条)と定めています。

つまり、会社は、労働者の健康と安全を守るために、一定の疾病にかかった労働者を休ませなければならないということです。

労働安全衛生法により就業が禁止される疾病への対応

そこで、労働安全衛生法では、就業を禁止される伝染性の疾病について、どのように定められているか、以下の通り説明していきます。まず、労働安全衛生規則61条において「伝染性の疾病その他の疾病」は次のものとされています。

  • 病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病にかかった者
  • 心臓、腎臓、肺等の疾病で労働のため病勢が著しく憎悪するおそれのあるものにかかった者
  • 前各号に準ずる疾病で厚生労働大臣が定めるものにかかった者

また、感染症の予防及び感染症の罹患に対する医療に関する法律(感染症法)では、次の感染症について、就業制限を課しています。

  • 1類:エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、痘そう、南米出血熱、ペスト、マールブルグ病、ラッサ熱
  • 2類:急性灰白髄炎、欠格、ジフテリア、重症急性呼吸器症候群(コロナウィルス属SARSコロナウィルスに限る)、鳥インフルエンザ(H5N1)、中東呼吸器症候群(MERS)、鳥インフルエンザ(H7N9)
  • 3類:コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフス
  • 新型インフルエンザ等感染症

上記の一覧を見て頂ければわかるとおり、「インフルエンザ」のうち、「新型インフルエンザ」は、法律によって就業が禁止される疾病ですが、「季節性インフルエンザ」はそうではありません。

上記の一覧にある就業制限の対象となる疾病について、「飲食物の製造、販売、調製または取扱いの際に飲食物に直接接触する業務および他者の身体に直接接触する業務、接客業その他の多数の者に接触する業務」について、感染症を公衆に蔓延させるおそれがなくなるまでの期間、従事することが禁じられています。

就業制限の対象とされていない疾病への対応

法令によって、就労が制限されていないものであっても、これ以外にも感染症は多く存在します。

そして、法令で就業を制限されたり、禁止されていたりしないからといって、会社側(使用者側)で、管理、対応が全く必要ないという意味ではありません。

就業制限、就業禁止の対象となっていない感染症には、次のものがあります。

  • 4類:E型肝炎、A型肝炎、黄熱、Q熱、狂犬病、炭疽、鳥インフルエンザ、ボツリヌス症、マラリア、野兎病、上記に掲げるもののほか、既に知られている感染性の疾病であって、動物またはその死体、飲食物、衣類、寝具その他の物件を介して人に感染し、上記に掲げるものと同程度に国民の健康に影響を与えるおそれがあるものとして政令で定めるもの
  • 5類:インフルエンザ(鳥インフルエンザ及び新型インフルエンザ等感染症を除く)、ウィルス性肝炎(E型肝炎、A型肝炎を除く)、クリプトスポリジウム症、後天性免疫不全症候群、性器クラミジア感染症、梅毒、麻しん、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症、上記に掲げるもののほか、既に知られている感染性の疾病(4類感染症を除く)であって、上記に掲げるものと同程度に国民の健康に影響を与えるおそれがあるものとして厚生労働省令で定めるもの

上記の一覧を見て頂ければわかるとおり、むしろ法令で就労を制限、禁止されていない感染症には、インフルエンザを始めとして、一般的によく発生する疾病が多く含まれています。

感染症への対策を怠ったり、いざ発生した際の事後措置が不十分であったりして集団感染を起こせば、他の従業員のモチベーション低下による生産効率の低下は免れません。

特に、飲食店や接客業など、顧客や取引先への影響の大きい業種では、集団感染の発生は企業の社会的評価を低下させるレピュテーションリスクにつながります。

会社が就業規則によって行うべき感染症対策のポイント

労働者に対する安全配慮の観点はもちろんのこと、企業としての信用低下リスクも踏まえて考えると、会社経営をするにあたって、インフルエンザをはじめとした感染症対策をすべきことは当然です。

会社が、感染症対策を行い、労働者の安全と健康を守るための方法として、そのルールを就業規則にあらかじめ定め、周知徹底しておく必要があります。就業規則では、「安全衛生および災害補償」という項目に規定することが一般的です。

そこで次に、会社が、就業規則に定めておくべき、インフルエンザをはじめとした感染症対策のポイントを、弁護士が解説します。

健康診断の義務付け

会社は、労働者の健康状態を正確に把握し、管理するために、健康診断を行うことを義務付けられています。

会社が義務付けられている主な健康診断は、入社時の健康診断と、定期健康診断(1年1回)です。

また、インフルエンザをはじめとした感染症対策においては、特に、6か月以上海外に滞在する労働者に対して出発前に健康診断を受けさせることが義務となっていることに注意が必要です。

参 考
会社が行うべき健康診断の義務と内容(時間・費用など)

会社は、その雇用する労働者に対して、「健康診断」を受けさせなければならない義務を、「労働安全衛生法」によって負っています ...

感染症の報告義務

万が一感染症にかかってしまったときに、これ以上職場で蔓延させない努力が、会社にとっては重要となります。

そのため、インフルエンザをはじめとした感染症に社員がかかったことを、適時適切に把握する必要があります。

この点で、法令により就業が制限、禁止されていない感染症であっても、かかった際には報告をし、出社を控えることを義務とする内容を就業規則に規定しておくことが必要です。

インフルエンザのように伝染性の強い疾病の場合には、家族がかかった場合にも報告義務を課し、「濃厚接触者」も休業の対象としたり、在宅勤務を命じたりすることもあります。

休業命令・病気休暇制度

インフルエンザなど、伝染性の強い感染症の場合には、会社を休んでもらうことになりますが、このように「感染症によって休んだことが人事労務管理上マイナスに評価されるのではないか?」という疑問を労働者が持ってしまうと、感染症にかかったことを隠して出社してしまう労働者もいます。

そこで、感染症であることを報告せずに出社し、集団感染を起こしてしまわないように、感染症にかかった場合には休業を命じられることとし、その場合には、病気休暇による特別扱いを認めることを検討してください。

これにより、「インフルエンザにかかったのであれば仕方ない」という姿勢を会社がしっかり示すことで、報告義務が適切に果たされ、安静に休んでいてもらうことができます。

まとめ
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事業場内の予防行為の義務付け

職場内で、インフルエンザをはじめとする感染症を蔓延させず、予防するためには、労働者に予防行為を義務付けておく必要があります。

インフルエンザなどの感染症を予防するのに必要とされている、手洗い、うがい、消毒といった行為や、万が一感染の疑いがある場合のマスクの着用など、予防のための留意事項を列挙し、社員に対して教育します。

会社側(使用者側)として、消毒用アルコール、石鹸、マスクなどの支給を検討してください。

海外出張者への対応

海外出張、海外滞在を社員に命じる可能性のある会社では、特に、重度の感染症についての適切な対応が必須となります。

海外における危険な感染症の情報は、厚生労働省などから情報提供がされています。

会社側(使用者側)として、これら公開されている感染症の情報を逐次チェックし、危険な国への出張、滞在をできる限り控え、万が一感染症の発生が報告された場合に、国外退避などを含めた社員の安全確保の準備をしておく必要があります。

また、出国、入国の際には、必要となる予防接種や健康診断、感染症を疑われる症状を有する場合の精密検査などを、会社の費用負担によって行ってください。

感染症によって就労しなかった場合の賃金は?

法令によって就労制限・就労禁止となっていない、季節性インフルエンザなどの疾病であっても、伝染性の強いものであれば就労を制限し、自宅で安静にしていてもらう必要があることをご理解いただけたでしょう。

他の社員の安全に配慮すべき会社の義務の履行という観点から、健康に甚大な被害を及ぼす感染症の、集団感染を避けるべきことは当然です。

ここで、労使ともに特に気になるのが、インフルエンザなどの感染症によって出社しなかった際の賃金は支払うべきなのかどうか(有給か?無給か?)という点です。

無給として良いケース

労働者が欠勤した場合であって、その責任が会社にはない場合には賃金は不要であり、無給として差し支えありません。

感染症のうち、感染症予防法などの法律によって就業禁止・就業制限とされている特定の感染症にかかった場合には、これを理由とした休業は「会社の責めに帰するべき事由による休業」ではなく、賃金はもちろん、休業手当の支払も不要です。

休業手当(賃金の60%)の支払が必要となるケース

法令によって就業禁止・就業制限とされている感染症以外の疾病にかかって、会社の判断によって休業を命じた場合には、「会社の責めに帰すべき事由による休業」と考えて、賃金の60%の休業手当を支払うべきです。

会社の落度というわけではありませんが、けいえいじょうの必要性によって休業命令をすることとなるためです。

賃金全額の支払が必要となるケース

労働者が欠勤した場合であって、それが会社の責めに帰すべき事由による欠勤であった場合には、賃金の100%を支払う必要があります。

しかし、インフルエンザなどの感染症にかかったという場合、集団感染を防ぎ事業継続をするためにも、休業を命じる必要があり、休業手当はともかくとしても賃金全額の支払は不要です。

例外的に、賃金全額の支払が必要となるのは、社員が自発的に、有給休暇の取得を申し出たケースです。

ただし、インフルエンザなど感染症を理由として休業を命じた場合、そもそも労働義務がないわけですから、その際には有給休暇を取得したと取り扱うかどうかは、会社が判断すべきです。

「人事労務」は、弁護士にお任せください!

今回は、インフルエンザに代表される感染症にり患した労働者に対する、会社側の適切な対応方法について、弁護士が解説しました。

合わせて、集団感染を防止するためには、平時からの準備が重要となります。就業規則に、感染症を予防するためのルールを定め、社員に教育・周知しておかなければなりません。

特に、ビジネスのグローバル化にともない、海外出張、海外派遣、海外滞在が業務上行われる可能性の高い会社では、予防接種、健康診断を絡めた対策が必須となります。

労働者の健康、安全への配慮について、体制整備をお考えの会社は、ぜひ一度、企業の労働問題に詳しい弁護士にご相談ください。

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