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債権回収の裁判の流れは?民事訴訟と他の方法のメリット・デメリットを弁護士が解説

「取引先の入金が滞っている」「貸したお金が返ってこない」など、債権回収のトラブルは、企業にも個人にも起こり得る深刻な問題です。

支払いを求めても相手が応じない場合に、裁判を起こすべきか、それとも他の手法で回収を試みるべきか、悩む方も多いです。確かに、裁判手続きには時間と手間、そして費用がかかり、法律知識も必要なので、なかなか気が進まないでしょう。

しかし、手を打たずに放置すれば、最悪は財産を隠されたり、時効が成立したりして、回収不能となってしまう危険もあります。債権回収こそ、交渉がスムーズに進まないなら、速やかに法的な手続きを検討すべき法律問題だといえます。

今回は、債権回収のための民事訴訟の具体的な流れと、裁判以外の手段との違い、メリット・デメリットについて弁護士がわかりやすく解説します。

この解説のポイント
  • 債権回収の最終手段が裁判であり、判決が出れば強制執行が可能
  • 債権回収の裁判を起こすかどうか、相手の資産の有無を見極める
  • 債権回収の複数の手段について、メリット・デメリットを比較して選ぶ

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目次(クリックで移動)

債権回収とは

はじめに「債権回収」の基本について解説します。

債権とは、ある人が他人に対して一定の行為(金銭支払いなど)を請求できる権利です。逆に、請求を受ける側の義務を「債務」と呼びます。

そして、相手が、債権を任意に履行してくれない場合、「債権回収」が必要です。単に支払いが遅れている、支払いが不能といったもののほか、明確に拒否されていたり、支払うべき金額に争いがあったりするケースもあります。

債権回収を要する典型的なケースとして、次のような場面があります。

  • 企業間取引での売掛金の未回収
  • 個人間の貸し借り(金銭消費貸借契約)
  • フリーランスの報酬が支払われない
  • 賃貸借契約における家賃滞納
  • 損害賠償請求が認められたが払われない

支払いが滞ったとき、取れる選択肢は一つではありません。

支払いを拒否されたら、すぐに裁判をすべき、と考える人もいますが、実際には、債権回収には複数の手段があり、状況に応じた柔軟な対応が必要です。相手の反応や資産状況、証拠の有無、回収コストやかけられる時間などを考慮して、最適な手段を選びましょう。

債権回収には、大きく分けると、任意交渉、支払督促、少額訴訟、民事調停、通常訴訟、といった手段が考えられます(各手段の比較は「債権回収の裁判と、その他の手段の比較」参照)。

民事訴訟による債権回収の流れ

次に、民事訴訟による債権回収について、その手続の流れや費用・期間を解説します。

債権回収の最終手段となるのが、民事訴訟を通じた法的手続きです。裁判所で判決が得られれば、相手が協力しなくても強制執行によって債権回収を実現できます。ただし、裁判に至るまでには一定の準備が必要であり、また、訴訟そのものにも時間や費用がかかります。

債権回収の裁判の流れ

債権回収の裁判の流れは、次のように進みます。

STEP

訴訟提起前の準備

まず、訴訟には手間と費用がかかるので、前段階の準備が欠かせません。

先に、支払いを求める最後通告として、内容証明を送付しておきましょう。このプレッシャーにより相手が支払い意思を示せば交渉で解決可能ですし、そうでなくても「未払いである」という証拠を明確に残すことができます。

この段階で解決できれば、裁判より時間も費用も抑えられるので、先に裁判を避ける方向での調整を試みるべきです。相手が話し合いに応じない場合に備え、弁護士への相談は早めにしましょう。

STEP

訴訟提起(訴状の提出)

原告が、裁判所に対して訴状を提出することで、訴訟を提起します。

この際、必要な証拠も添付しましょう(債権回収の場合、契約書、請求書、納品書、支払いを拒絶しているメールの写しなど)。

STEP

第1回口頭弁論期日

裁判所が訴状を受理すると、第1回の口頭弁論期日が指定され、被告にも訴状と呼出状が送達されます。被告は、答弁書を提出することで反論を裁判所に伝えることができます。被告が答弁書を出さずに出廷もしない場合、原告の主張が認められます。一方、被告が答弁書を出して争うなら、原告も追加の主張や証拠を提出する必要があります。

STEP

主張整理と証拠提出

双方の認識する事実に争いがあり、主張が異なる場合には、複数回の期日を経て、主張を整理し、証拠を提出して裁判所の審理を受けます。場合によっては、書証だけでなく証人尋問を行うことで真実を明らかにします。

STEP

裁判手続きの終了(判決・和解など)

一定の審理を経た結果、裁判所は判決を言い渡します。判決に不服があれば、送達から2週間以内に控訴することが可能です。判決が確定した場合、強制執行によって相手の財産を差し押さえて、債権回収を実現することができます。

なお、裁判官が和解勧告を行い、判決に至る前に和解が成立するケースもあります。和解調書には判決書と同様の効力があり、強制執行も可能です。

債権回収の裁判にかかる期間

民事訴訟は、争点の複雑さや証拠の量にもよっても異なりますが、6ヶ月〜1年程度の期間を要します。途中で一方が譲歩することで和解が成立すれば、早期解決も可能です。一方で、高額な債権回収であったり複雑な争点があったりすると、訴訟は長期化し、証人尋問がある場合などは、更に長引くケースもあります。

なお、債権の時効は「債権者が権利を行使することができることを知った時」から5年、「権利を行使することができる時」から10年(生命・身体の侵害の場合は20年)とされます(民法166条)。

債権回収の裁判にかかる費用

債権回収の裁判をするには、裁判費用と弁護士費用がかかります。

裁判費用は、裁判所に支払う費用であり、次のような内訳になっています。

  • 申立手数料(収入印紙代)
    請求金額に応じて、「手数料早見表」に従って決定されます。
  • 郵券代
    裁判所とのやり取りに生じる郵送費用。裁判所によっても異なりますが、数千円程度とされていることが多いです。

債権回収の裁判は自分でもできますが、弁護士を依頼した方が法律知識に従って有利に進めることができ、精神的な負担も軽減できます。

債権回収の弁護士費用は、請求額に応じて決められることが多く、旧日弁連報酬基準に従えば次のように計算することができます。

スクロールできます
経済的利益着手金報酬金
300万円以下8.8%17.6%
300万円超〜3,000万円以下5.5%+9万9,000円11%+19万8,000円
3,000万円超〜3億円以下3.3%+75万9,000円6.6%+151万8,000円
3億円超〜2.2%+405万9,000円4.4%+811万8,000円

債権回収の裁判と、その他の手段の比較

次に、民事訴訟を含む代表的な5つの手段について、比較して整理します。

債権回収には複数の手段があり、それぞれメリット・デメリットがあります。適切な手続きは、相手の対応状況や証拠の有無、かかるコストや期間などを踏まえて総合的に選択しなければなりません。不安なときは、早めに弁護士に相談してください。

任意交渉

任意交渉による債権回収とは、相手に対して内容証明などを用いた請求書・通知書を送付し、交渉によって回収を図る手段です。弁護士名義の内容証明なら、心理的なプレッシャーを与えて回収の可能性を上げられると共に、後の裁判でも証拠として有効です。

  • 任意交渉のメリット
    • 安価かつ短期間で回収できる。
    • 弁護士に依頼すれば心理的圧力が大きい。
    • 記録を残して、後の訴訟の証拠とすることができる。
  • 任意交渉のデメリット
    • 法的な拘束力がない。
    • 強硬に支払いを拒否する相手は、無視する可能性がある。
    • 放置していると、財産を隠されて逃げられる。

支払督促

支払督促とは、裁判所を通じて送達される書面によって、相手に支払いを求める法的手続きです。仮執行宣言付支払督促を申し立て、相手の異議なく確定した場合には、これを債務名義として強制執行も可能です。2週間以内に相手が異議を申し立てると、通常訴訟に移行します。

  • 支払督促のメリット
    • 通常訴訟より迅速に解決できる。
    • 裁判よりも費用が安い。
    • 相手が反応しなければすぐに債務名義を得られる。
    • 相手が債務の存在や額を争っていない場合に有効。
  • 支払督促のデメリット
    • 相手が異議を出すと通常訴訟に移行する。
    • 相手が争ってくることが明らかな場合、支払督促では解決できない。
    • 請求額の根拠が曖昧な場合は不向きである。

少額訴訟

少額訴訟とは、請求金額が60万円以下の場合に利用できる、簡易裁判所における迅速な訴訟手続です。原則として1回の期日で終結できますが、相手が少額訴訟の手続きに応じない場合には、通常訴訟に移行します。

  • 少額訴訟のメリット
    • スピーディーに解決できる可能性が高い。
    • 訴訟よりも費用が抑えられる。
    • 裁判所の関与によって、法的に妥当な解決が得られる。
  • 少額訴訟のデメリット
    • 原則として控訴できない。
    • 証拠が不十分だと不利になる。
    • 相手が遠方だったり住所不明だったりすると利用しづらい。
    • 利用するための要件がある(60万円以下、同一簡裁に1年10回まで)

民事調停

民事調停とは、裁判所で行われる調停手続によって解決を図る方法です。調停手続では、裁判所の調停委員が間に入って話し合いによる解決を目指すので、柔軟な合意形成が可能です。

  • 民事調停のメリット
    • 柔軟な解決が可能。
    • 当事者間の信頼関係を損ないづらい。
    • 裁判よりも心理的負担が軽い。
    • 証拠が少ない場合でも話し合いが可能。
  • 民事調停のデメリット
    • 相手が応じなければ合意が成立しない。
    • 出席を強制することはできない。
    • 徹底抗戦の構えを示している場合には役に立たない。
    • 譲歩が必要となり、全額回収は難しい。
    • 合意がないと、結局裁判をするしかない。

通常訴訟

通常訴訟による債権回収とは、裁判所に訴えを提起し、民事訴訟の審理を経て、判決によって法的に支払義務を確定させる方法です。債権回収の中でも、最終的な手段として位置付けられます。

  • 通常訴訟のメリット
    • 法的拘束力のある判決を得られる。
    • 判決をもとに強制執行が可能。
    • 証拠に基づき、客観的かつ公正に解決できる。
    • 相手が徹底抗戦でも、強制的に解決できる。
  • 通常訴訟のデメリット
    • 訴訟による解決までには時間がかかる(6ヶ月〜1年以上)。
    • 他の手段よりも費用がかかる(弁護士に依頼する場合は弁護士費用も)。
    • 手続きが公開されるため、信用リスクがある。
    • 控訴、上告されると更に時間がかかる。

最適な債権回収手段を選ぶポイント

以上のように、債権回収には複数の手段がありますが、どれを選ぶべきかはケースによって異なります。次の3つの観点を意識することで、より適切な選択をしやすくなります。

債務者が争ってくるかどうか

第一に、債務者が争ってくるかどうかの予想をしてください。

債務者が争わない場合、例えば、債務の存在と額を認めていて、単に「資金繰りが苦しい」「支払を先延ばしにしたい」といった理由で未払いになっているだけなら、任意交渉や支払督促といった簡易な方法でも十分な効果を得ることができます。特に、支払督促は、相手が異議を出さなければ速やかに強制執行に移れるので、最適です。

これに対し、債務者が争ってくる場合は、手段を慎重に検討する必要があります。例えば、「そもそも契約は存在しない」「支払い額に納得できない」といった反論が予想されるケースだと、最終的には通常訴訟による決着しかありません。

事実関係について争いがあるときは、証拠をしっかり揃えて、弁護士を通じて裁判で主張を立証していくことが重要です。

債務者の資産の状況

第二に、債務者の資産の状況を把握しましょう。

債務者の資産の状況は、法的権利はともかくとして、現実問題として債権が回収可能かどうかにかかわります。

債務者に十分な資産があるなら、債権回収の実効性は高いです。預貯金や不動産、給与など、差し押さえ可能な財産が特定できているなら、速やかに支払督促や少額訴訟、通常訴訟など、債務名義が得られる手続きを進め、強制執行に進むのが有効です。

これに対し、債務者の資産が乏しい場合、そもそも裁判に勝ってもお金を取り戻せないおそれがあります。訴訟にかけるコストと回収の見込みを比較し、交渉や調停での柔軟な解決を図る方が合理的です(ケースに応じて、減額や分割払いなどの譲歩も検討してください)。

債権回収にかけられる時間と費用

最後に、自分が債権回収にかけられる時間と費用の余裕を考えてください。

債権回収に長い時間をかけられない場合には、内容証明郵便による交渉や支払督促や調停など、短期間で結果が出る手段が適しています。例えば、長い時間かけていると自社も倒産してしまいそうなケースでは、迅速な解決を優先せざるを得ません。

一方、時間や費用に余裕があるなら、確実な回収を優先しましょう。特に、大きな金額の未払いがあったり、今後の取引関係や企業の信用に影響するようなケースは、民事訴訟を提起し、確定判決を得ることの意義が大きいです。

債権回収の裁判のよくある質問

最後に、債権回収の裁判について、よくある質問に回答します。

裁判で勝っても債権回収できないことがある?

たとえ裁判で勝訴しても、債権回収できないケースがあります。

例えば、裁判に勝って判決を得ても、相手に資産や収入がなければ、現実問題として回収できません。判決は法的な支払い義務を確定するに過ぎず、相手が自主的に応じないなら強制執行を要します。そして、差し押さえられる財産を把握していなければ、回収が困難になってしまいます。

そのため、訴訟提起前に相手の資産状況を調査したり、散逸しそうなときは、仮差押えなどの保全手続きを実施したりすることが重要です。

債権回収の失敗」の解説

相手が請求を無視した場合はどうなる?

債権の請求について無視を続ければ、結果的に、相手に不利になります。

債権者側が、通常訴訟を提起した場合、被告が答弁書を提出せず、期日にも出廷しなければ、欠席判決として原告の主張が認められる可能性が高いです。

また、支払督促の手続でも、異議を出さなければそのまま確定し、強制執行可能な債務名義となります。

したがって、債権者側が適切に対応を進めていけば、「無視する」ことは、結果的に債務者にとって不利になります。

裁判でも債権回収の可能性が低いケースとは?

残念ながら、次のようなケースは、債権回収の見込みが低いです。

  • 相手に資産や収入がほとんどない場合
    無職、無資産、生活保護受給者など
  • 他の債権者からも多数の請求を受けている場合
    多重債務者、倒産間近の会社など
  • 相手が自己破産を申し立てた場合
    個人でも法人でも、破産免責によって回収不能となる

このようなケースでは、裁判にかける費用や労力に見合った回収ができない可能性が高いため、法的手続きを進めないことを決断することもあります。回収の見込みを慎重に見極めて進めるために、事前に弁護士に相談しましょう。

弁護士に相談すれば、債権回収をスムーズに進めるための法律や裁判例の知識から、証拠収集のノウハウなどについてもアドバイスが得られます。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、債権回収に関する裁判(民事訴訟)について解説しました。

債権回収の手段は、裁判を含め、様々な方法があり、それぞれ一長一短です。裁判は法的な強制力を得られる一方、時間や費用の負担もあるので、状況に応じた最善策を講じることが重要です。

また、相手の資力や回収の見込みによっては、訴訟を選ばず、交渉や支払督促といった柔軟な方法を取った方が結果的に有利になることもあります。いずれの方法を選ぶにしても、早期の対応と的確な判断が、回収成功のポイントとなります。

「どの手段を選べばよいかわからない」「相手が無視を続けている」など、債権回収を成功させるための最良の方法に悩むなら、一度弁護士に相談するのがお勧めです。取りうる選択肢と共に、そのリスクや効果についてアドバイスしてもらうことで、納得のいく解決を目指せます。

この解説のポイント
  • 債権回収の最終手段が裁判であり、判決が出れば強制執行が可能
  • 債権回収の裁判を起こすかどうか、相手の資産の有無を見極める
  • 債権回収の複数の手段について、メリット・デメリットを比較して選ぶ

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