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確実に債権回収するための、平時の債権管理のポイント

「取引先の企業が倒産する、という噂を聞いた」「支払期日になっても一向に代金が支払われない」。

切迫した事態となれば、企業としては、いち早く債権回収にとりかかりたいところです。

しかし、危機的な財産状況にある企業は、運転資金の余裕がなく、御社だけではなく他社への支払いも滞り、催告を受けている可能性が高いといえます。

日頃から、契約書や請求書等の重要な書面をしっかりと作成し、債権回収の事前準備をしている企業であれば、債務者から優先して債務の支払いを受けられることが大いに期待できます。

また、相手方企業と各種契約を締結する場合には、抵当権、譲渡担保、所有権留保といった担保権設定を行っておくことも重要です。

担保権設定を行うことにより、他の債権者より優先的に、かつ簡易な手続きで自社の債権を回収できるからです。

今回は、債権回収を確実にするために企業がとるべき平常時の備えについて、企業法務を得意とする弁護士が解説します。

目次(クリックで移動)

1. 確実な債権回収には平時の備えが大切

「債権回収」について、取引先の債権が焦げ付くようになって初めて、相手方の財産状態や債権債務関係について調査していては遅いです。

債権回収は「時間との勝負」です。

スピーディに対応しなければ、債務者の財産は減少する一方ですし、財産の差押さえを免れようと、様々な「逃げ工作」を始める債務者もいないとは限りません。

したがって、債権回収を確実に行いたい場合には、平常時の十分な備えと素早い判断が必要です。

平常時の準備がしっかり行われている企業こそ、緊急時に素早く未払い債権を回収することができるのです。

2. 平常時の適切な債権管理とは?

債権を確実に回収するためには、平常時からの適切な債権管理が重要です。

債権保全の観点から考えると、企業として行うべき適切な債権管理は、次の通りです。

2.1. 債権及び債務の残高、支払期日を管理すること

御社では、「取引先の数」「各取引先ごとの債権債務の金額」を問われた場合、すぐに答えることができますでしょうか。

取引先の一覧表やその取引先ごとの債権額が分かる書類を作成し、保管していますか。

まず、取引先に対する売掛金の残高等、債権債務残高を把握するとともに、支払期日についても、すぐにわかるよう、普段からきちんと管理しておきましょう。

仮に、支払期日が過ぎても支払がないようであれば、直ちに催告を開始しましょう。

取引先に対して債務がある場合には、債権回収の一手段として「相殺」という方法をとることができますので、自社の債務についても的確に把握しておく必要があります。

2.2. 債権証書や担保・保証に関する書類を管理すること

債権証書は、債権の存在を示すもので、訴訟などの争いとなった場合には証拠ともなる、重要な書類です。債権証書の典型例が「契約書」です。

取引を始める際は、後の債権回収が容易になるように、必要事項が明記された契約書を交わしておく必要があります。

また、取引の規模や取引先企業との関係を考慮に入れながら、万一の場合に備えて担保契約や保証契約を締結できるよう、事前に交渉しておきましょう。

担保・保証に関する書類は、債権証書と同様に重要なものです。

取引先ごとに、上記契約書や担保・保証に関する書類を整理して管理しておきましょう。

2.3. 取引額の上限を設定し管理すること

他社との取引を行う場合、いかに信用ができる会社であったとしても、無制限に取引額が増大することは望ましいことではありません。したがって、取引額の上限を定めておきます。

継続的な取引で、「取引基本契約書」の締結をしている場合は、この基本契約書において、取引額の上限を規定します。

いわゆる「与信限度」の設定です。例えば、代金の支払期日を1か月先にした場合は1か月分の、半年先にした場合は半年分の信用を取引先に供与していることになります。

取引額の上限を設定し、その限度額を超えないように管理しましょう。

既に解説したとおり、支払期日を先延ばししているということは、取引先に対して信用を供与していることを意味します。取引先に関する次のような信用情報を入手しておくことが、与信管理には有益です。

  • 取引先企業の概要
  •   商業登記簿謄本、信用調査会社などから取引先企業の概要を確認します。

  • 本店所在地の土地建物の所有者
  •   商業登記簿謄本により本店所在地が判明したら、次は本店所在地の「不動産登記簿謄本」を入手し、所有者を確認します。

  • 取引先の財務状態
  •   取引先企業の協力を得て、直近3期分の決算報告書を見せてもらい、財務状態を把握しましょう。

  • 商流・物流、商品の保管場所等
  •   商品売買契約の場合,その商品がどのような流通経路をたどっているか確認しておきましょう。

これらの信用情報は、いざ債権回収が緊急に必要となった場合に、即座にすべて収集することは困難です。

事前に収集し、把握しておくことによって、万が一の債権回収をスピーディに進めることが可能となります。

2.4. 時効を管理すること

債権を回収しないまま放置すると、消滅時効にかかって債権が消滅してしまうため、回収できなくなります。

そこで、未回収債権については、いつ消滅時効にかかるのかを管理することが重要です。

以下、債権の種類によって消滅時効期間が異なりますので、まとめておきます。

  • 商行為によって生じた債権の消滅時効:5年(商法522条)
  • 民法で定められている「短期」消滅時効の具体例(民法170条~174条)
  •    ・医師、助産婦又は薬剤師の診療、助産又は調剤に関する債権  3年
       ・工事の設計、施工又は監理を業とする者の工事に関する債権  3年
       ・生産者、卸売商人又は小売商人が売却した産物又は商品の代価に係る債権 2年
       ・自己の技能を用い、注文を受けて、物を製作し又は自己の仕事場で他人のために仕事をすることを業とする者の仕事に関する債権 2年
       ・運送費に係る債権  1年
       ・宿泊料、飲食料等に係る債権  1年

3. 平常時にも必要な準備とは?

緊急時の債権回収を円滑に進めるためにも、平常時から行っておくべき債権回収の準備について解説します。

これらの準備は、万が一の際の債権回収のときに、回収可能性を飛躍的に高めることが可能となります。

3.1. 相殺権を確保すること

まず、相殺権を確保することが必要です。

「相殺」とは、両当事者が、互いに、履行期の到来している同種の目的を有する債務を負っている(債権を有している)ときに、一方当事者の意思表示により、自己の債権と相手方の債権とを対当額において消滅させることをいいます(民法505条)。

自社が取引先に対して売掛金等の債権を有している場合、自社も取引先に対して売掛債務をもち、相殺できる状態にしておく、という方法があります。

なお、相殺権確保のために、「期限の利益の喪失」という条項を入れておくこともひとつの手です。

 参考 

先程解説したとおり、「相殺」は、互いに履行期の到来している債務を対象としています。

そのため、債権回収が必要な時点で、自社の負っている債務が未だ履行期の到来していない場合には、相殺ができないケースがあるためです。

「期限の利益の喪失」条項を盛り込むことにより、取引先が倒産になった場合に、即座に履行期が到来することとなり、相殺を行うことが可能となります。

相殺によって債権回収を行うために、契約書に定めておくべき「期限の利益の喪失」条項の規定例は、次の通りです。

 条項例1 

第○条(期限の利益の喪失)

甲又は乙が次の各号のいずれかに該当した場合は、該当した当事者は、相手方に対する一切の債務について当然に期限の利益を喪失し、直ちに相手方に対して債務を履行しなければならない。
(1) 自ら振り出し又は引き受けた手形若しくは小切手につき、不渡処分を受けたとき
(2) 差押え、仮差押え、仮処分、公売処分、租税滞納処分若しくはその他公権力の処分を受けたとき
(3) 特別清算、民事再生、会社更生の手続の開始、又は破産を申し立てられ若しくは自ら申し立て、又は特定調停を自ら申し立て、又は競売を申し立てられたとき
(4) 資産、信用状態が悪化し、本契約上の債務の履行が困難になるおそれがあると認められるとき

3.2. 相殺予約の合意をしておくこと

取引先との間で、相殺予約の合意をしておくことも考えられます。

相殺予約とは、一定の事由が生じた場合に、一方的に相殺することができるよう、あらかじめ合意しておくことを意味します。法律的な専門用語でいえば、「停止条件付相殺契約」といいます。

相殺予約の合意をしておけば、いち早く相殺することができます。

3.3. 担保により回収すること

相殺が困難な場合に、次の取りうる手段として考えられるのは、「担保」による回収です。

債権額に見合う担保(担保物件や連帯保証人など)をたてることを考えましょう。

確実な担保が獲得できれば、取引先企業が倒産したときでも、優先的に債権回収を図ることができるからです。

担保をつける場合には、まず、担保の内容や保証人の資力などについて十分調査します。

担保物件となる対象不動産の調査では、不動産登記簿謄本を基本的な資料として、次の点を注意して検討してください。

  • 不動産の所有者は誰か。
  • 優先する担保権の設定があるか。
  • 優先する担保権が設定されている場合、その債権者、金利。
  • 仮差押え、仮処分がなされていないかどうか。
  • 競売の対象となっていないかどうか。

また、担保権の設定を受けた場合には、司法書士に依頼し、速やかに登記等の対抗要件を備えることが必要です。

連帯保証人をつける際には、次の点に注意して調査を進めるようにします。

  • 保証人と債務者となる会社との関係
  • 保証人の資力
  • 保証人の住所地
  • 保証人の住所地の土地建物が保証人の所有であるかどうか
 注意! 

担保権設定の時期には十分注意するようにしてください。

というのも、取引先の財産状態が悪化してからでは、担保権の設定自体が他の債権者を害する行為だとして他の債権者から詐害行為取消権を行使されたり、その後に債務者が破産した場合には、破産管財人からこの担保権設定自体について否認権を行使されたりすることがあるからです。

これらの法的権利を行使されると、折角担保権を取得したとしても、無意味となってしまいます。

3.4. 動産売買先取特権により回収すること

自社が動産を売却した「売主側」である場合には、「動産売買先取特権」により債権回収を図ることが可能です。

「動産売買先取特権」とは、動産の売主側が、目的物の代金と利息について、その動産から、他の債権者に優先して弁済を受けることができる法定担保物権です。

「動産売買先取特権」による債権回収のためには、以下の書類を準備しておくとよいでしょう。

  • 売買契約書
  • 発注書
  • 受注書
  • 領収書
  • 納品書

そして、万が一の債権回収の際、ただちに「動産売買先取特権」を行使できるようにするために、「目的物の在庫の量」「転売先」などを把握しておくようにします。

4. 【要注意!】債権回収に失敗する企業

御社が適切に債権回収の準備ができているか、次のチェックポイントで注意を進めてください。

債権が未収となってからはじめて、弁護士に相談するケースがよくありますが、既に手遅れという場合も少なくありません。

どれほど腕のいい弁護士であっても、全く資力のない会社から十分な回収を行うことは至難の業です。

債権回収は、平常時からの、事前の債権管理が決定的に重要であり、この体制整備の段階にこそ、顧問弁護士によるアドバイスが効果を発揮するのです。

4.1. 取引先の財産情報を把握していない

御社は、取引先の財産に関する情報を把握していますでしょうか。取引先が危機的状況になってから、相手方の財産状況を調べるのでは遅すぎます。

危機的な状況に至る前に、取引先などから聞き出しておかなくてはなりません。

平常時に、相手方企業の主要取引先や取引銀行等を聞き出したり、未払いの兆候がある場合には、直近3年分の決算書をみせてもらいましょう。

4.2. 担保設定の交渉力が弱い

「取引先との関係上、担保をつけてほしい、とは言いにくくて。」と担保や保証人をつけることを諦めていませんか。

契約締結当初は言い出しにくく担保を設定していなかったという場合、直ちに修正が必要です。

例えば、相手方から「支払を少し待ってくれ。」などの申し出があった時点で、交換条件として担保設定を提案してみましょう。

4.3. 倒産の兆候に気づかない

「支払が遅れがち」「在庫が急に増えた」「大口の取引先が倒産した」ということはありませんか。

倒産の兆候の可能性があるため、要注意です。

このような兆候にいち早く気づき、倒産に至る前に、他の債権者に先駆けて債権回収を図りましょう。

5. まとめ

以上の解説から十分ご理解頂けた通り、債権が焦げ付きそうになってから、弁護士に相談するのではなく、平常の取引時から、不備のない契約書の作成や、担保権設定などをこころがけることが重要です。

消滅時効が迫っているようなケースでは「時効中断」という方法をとっておかなければ、債権回収は不可能です。

いざ債権を回収する際に迅速かつ的確に対応することができるように、日頃から、自社の取引先リストを開示し、債権回収に強い弁護士にご相談ください。

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