ネット上の誹謗中傷が社会問題となるなか、削除を請け負う業者が増えています。あなたの代わりに削除を行ってくれる業者が、削除代行業者です。削除代行業者に依頼することで、ネット上に発信された情報が削除できたり、検索結果の上位に表示されなくなったりといった結果を得られるケースもあります。
しかし、削除代行業者によるネット上の情報の削除請求は、非弁行為となるおそれがあります。実際に、削除代行業者による削除請求を違法だと判断した裁判例もあります。法律に関する紛争の交渉は、弁護士だけが行うことができると定めた弁護士法に違反するからです。
また、明白に違法とは言い切れなくても、悪質な削除代行業者に依頼すると、かえって事態を悪化させます。業者に払った費用を失うのはもちろん、更に炎上を拡大させるなど、依頼した企業側にも大きなリスクがあります。
今回は、ネットの削除代行の違法性と、代行業者と弁護士による削除の違いを、企業法務に強い弁護士が解説します。
- 弁護士以外の、業者による削除代行は、違法な非弁行為になる可能性がある
- 違法な削除代行業者に削除請求を依頼すると、状況が悪化し、企業イメージ低下のリスクあり
- 違法な削除代行業者だと発覚したら、直ちに依頼を取りやめ、返金を請求する
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業者による削除代行は違法の可能性あり
インターネットが普及して久しく、企業経営におけるネット上の情報の重要性が高まっています。BtoCのビジネスモデルは特に、口コミが購買動機となり、売上に大きく影響します。自社に対する不利益な情報発信に気を配り、不利益な情報は、拡散される前に速やかに削除しなければなりません。
この社会的な風潮のなか、ネット上の不利益な情報の削除をサービスとする、削除代行業者が増加しましたが、結論として、弁護士以外の行う削除代行は、違法となってしまう可能性があります。
削除代行業者とは
削除代行業者は、ネット上の情報のうち、あなたの権利を侵害するもの、例えば、名誉毀損、誹謗中傷やプライバシー侵害といった情報を、被害者に代わって削除してくれる業者です。
ただ、次章の通り、削除代行業者には、法的な代理権がありません。そのため、削除代行業者は、削除請求フォームや問い合わせフォームから、本人になりすまして削除を申請し、情報の抹消を目指します。サイト管理者やサーバー管理者が連絡先を公開しているときには、フリーメールアドレスなどを活用し、身元を隠して削除を申請することもあります。
このような削除代行業者のやり方は、権利侵害が明らかなケースなど、サイト管理者やサーバー管理者が協力的に情報を削除してくれるなら一定の効果はあります。
ただ、次章の通り、違法の疑いがあり、リスクの高い行為と言わざるを得ません。
削除代行業者の非弁行為は違法
弁護士法72条は、「法律事件」「法律事務」を、本人の代わりに交渉できるのは弁護士に限ると定めています。弁護士法72条に違反する行為を「非弁行為」といい、非弁行為に該当すると「2年以下の懲役又は300万円以下の罰金」という刑罰が科せられます(弁護士法77条)。
弁護士法72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
弁護士法(e-Gov法令検索)
削除代行業者による削除請求の違法性が争点となった裁判例(東京地方裁判所平成29年2月20日判決)では、削除代行業者による削除請求は弁護士法違反の非弁行為であり、違法だと判示しました。その上で、削除請求のために払われた報酬を返還するよう命じました。
削除請求業者は、簡易なフォームからの申請ならば弁護士法違反ではないと反論しましたが、認められませんでした。これまで、削除代行業者は、本人のふりをして業務をしてきましたが、実態として代理交渉しているのに変わりありません。
削除代行業者は、サービス内容によっては違法のおそれがあり、依頼は慎重にならなければなりません。
削除代行業者でも対応できるケースならよいですが、そうでないと、違法な非弁行為となる危険があり、知らずのうちに違法行為に加担してしまいます。少なくとも上記の裁判例から分かる通り、フォームからの削除請求でも、非弁行為にあたり違法です。
悪質な削除代行業者の特徴
次に、悪質な削除代行業者の特徴を解説します。
ネット上の情報をコントロールすることは重要であり、役立つ業者、サービスもあるのは事実です。しかし、次の特徴を有するならば、悪質な削除代行業者のおそれがあり、注意を要します。
過大な広告宣伝
削除請求のサービスが乱立し、広告宣伝が過熱しています。顧客獲得のために過剰な宣伝文句を用いるサービスは、悪質な削除代行業者のおそれがあります。次のような根拠のない広告は、疑ってかかるべきです。
- 「削除成功率100%」など、根拠のない数字
- 「必ず消える」と確約する広告
- 「即日に削除できる」と確約する広告
リスクを誇張し不安を煽る
企業にとって、ネット上に悪評が残ると、大きな経済的損失があります。しかし、この弱みにつけこみ、リスクを誇張して不安を煽るような営業手法こそ、悪質な削除代行業者の特徴です。ネット上の書き込みに不快感を覚えるのは当然ですが、高額な費用を払ってまで依頼すべきか、冷静に検討してください。
弁護士を騙る
前章の通り、弁護士以外の者がする削除請求は、違法な非弁行為のため、協力弁護士がいるとアピールする削除代行業者が増えています。しかし、弁護士に名義貸しをさせたり、削除の作業を全て業者が行っていたりと、非弁行為の実態を有するサービスもあります。次のような特徴に、注意してください。
- 依頼した弁護士との面談がない
- 弁護士と連絡がとれず、事務員が窓口となっている
- 削除請求を本人名義、フリーメールアドレスで行う
- 弁護士との委任契約書がない
- 報酬の支払先が削除代行業者の口座
高額な費用
削除請求を専門家に依頼するのには、一定の費用がかかるのは事実です。しかし、不当に高額な費用を請求されたら、悪質な削除代行業者の可能性があります(例:削除申請フォームからの報告のみで、1件30万円〜50万円など)。風評や名誉毀損の被害に遭っている弱みにつけ込んだ強引な営業に、応じてはなりません。
マッチポンプ
自ら不利益な情報を拡散し、削除請求を請け負おうとする悪質な業者もいます。自社の不利益な情報が、不自然に拡散されたり、心当たりが全くなかったりするとき、突然に営業電話が来たら、業者によるマッチポンプかもしれません。
削除代行業者に依頼するデメリット
次に、違法な削除代行業者に依頼するデメリットを解説します。
違法行為に加担する
まず、削除代行業者の削除請求が、違法な非弁行為だとすれば、依頼する人もまた、その違法行為に加担してしまうことを意味します。
事態がより悪化する
ネット上のトラブル解決には、常に炎上リスクがあります。たとえ被害者側といえど、対応策を誤れば事態は悪化します。
違法な削除代行業者に依頼し、高額な費用を払っても、削除できないおそれがあります。削除請求される情報発信者やサイト管理者、サーバー管理者も、削除代行業者のサービスが違法であると認識しており、削除に応じない傾向が広まっています。まして、強硬な情報発信者のなかには、削除代行業者から連絡が来たことを晒して、再炎上を図る者もいます。
企業イメージが低下する
違法業者の提案する不適切な方法を利用すると、自社の企業イメージが低下するリスクもあります。
不適切な方法を使ったことは、前章の通り、サイト管理者によって晒されるなどして明らかになります。違法行為に加担している会社だというイメージが付き、評判に傷が付きます。悪質な違法業者に依頼をしたことで、誹謗中傷のみならず、企業イメージ、ブランド価値が、更に低下することに繋がります。
削除代行業者と弁護士の違い
ネット上の情報の削除請求は、専門的な知識を要するため、専門家に依頼するケースが多いです。このとき頼るのが、弁護士と、削除代行業者ですが、両者には大きな違いがあります。
まず、ここまでの解説の通り、削除請求については削除代行業者、弁護士のいずれもサービス提供していますが、削除代行業者は違法であるか、少なくとも効果が薄い言わざるを得ず、弁護士の方が効果的に削除できます。
その上、発信者情報開示請求、慰謝料請求、刑事告訴といった対策は、弁護士しか対応できず、削除代行業者に依頼することはできません。
弁護士は、法律トラブルについての交渉を、本人の「代理人」として交渉をする権限があります。ネット上の情報の削除請求についても、訴訟に発展することが予想される法律トラブルということができ、弁護士が代理人として、サイト管理者やサーバー管理者に削除請求し、交渉するのが適切な対応です。
違法な削除代行業者に依頼してしまった時の対策
最後に、ここまでの解説をもとに、違法な削除代行業者に依頼していたことが明らかになったときどうすればよいか、その対策について解説しておきます。
ネット上の情報の状況を確認する
まず、依頼したネット上の情報の状況を確認してください。
違法な削除代行業者に依頼してしまったとしても、削除に成功していればまだましでしょう。対処法を誤り、再炎上など、状況が悪化しているおそれもあります。
ネット上の炎上を監視する方法は、次に解説します。
弁護士に依頼し直す
違法な削除代行業者に依頼してしまい、削除を達成できていない場合には、弁護士に依頼しなおすのがお勧めです。削除代行業者とは違って、弁護士であれば、次のような法律に基づく方法によって、より効果的に削除請求できます。
- 削除依頼の交渉
削除請求フォームから弁護士名義で削除を要請します。送信防止措置依頼書による交渉も可能です。 - 削除の仮処分
裁判所において、緊急性の高い手続きである仮処分を利用し、強制的な削除を請求します。 - 発信者情報開示請求・慰謝料請求
発信者情報開示請求訴訟を提起し、情報の発信者を特定し、慰謝料などの損害賠償を請求します。 - 告訴
名誉毀損罪、侮辱罪などの犯罪に該当するとき、告訴して刑事処分を求めます。
削除代行業者でなく、弁護士に依頼するメリットは、情報の削除については、非弁行為とならず適法に進められる点にあります。相手が既に判明しているなら、弁護士名義の内容証明を送ってプレッシャーをかけることで、任意に削除してもらい沈静化できるケースもあります。
それだけでなく、情報の発信者を特定して慰謝料請求をし、再度の情報発信を抑制したり、悪質な場合には、刑事告訴して刑罰による制裁を求めたりといった対策も、弁護士なら全てサポートできます。トラブルに安全に対処し、再炎上を防げます。
削除代行業者に返金を求める
弁護士に依頼し直すと、その際の弁護士費用が余計にかかってしまいます。その分、違法な削除代行業者には、払った費用の返金を請求しておかなければなりません。前章で紹介した裁判例でも、削除代行業者による削除請求が違法なときには、費用の返還が認められています。
まとめ
今回は、削除代行業者によるネット上の情報の削除請求について、違法の可能性があることを解説しました。
削除請求、風評対策などをうたう業者の全てが違法なわけではありません。しかし、ネット上の情報の削除について、容易に行うことができるように広告する削除代行業者は、違法な手口を利用しているケースが少なくありません。削除請求は、法律知識を伴う、困難な業務であり、誰でもできる作業ではありません。
運良く成功すればよいですが、失敗したとき、違法な業者を利用したことのリスクを負います。かといって、悪質な情報発信を放置してはおけません。風評、誹謗中傷などのトラブルでお悩みの場合は、まず弁護士に相談するのが適切です。
- 弁護士以外の、業者による削除代行は、違法な非弁行為になる可能性がある
- 違法な削除代行業者に削除請求を依頼すると、状況が悪化し、企業イメージ低下のリスクあり
- 違法な削除代行業者だと発覚したら、直ちに依頼を取りやめ、返金を請求する
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