「有期契約労働者」とは、雇用期間を一定期間に定めて雇用した従業員のことをいいます。
「度重なる遅刻・欠勤。」、「能力不足によって予定されていた仕事が終わらない。」、「単純ミスが多い。」といった問題点があるとの報告を受けた場合、会社としてはどのように対応したらよいでしょうか。
たとえその従業員に問題点があったとしても、雇用期間の途中に解雇したり、期間満了によって更新をしない(「雇止め」といいます。)ことには、一定の制限がありますので、注意が必要です。
決して、「契約期間終了によって当然終了するので、少し前に伝えればよいだろう。」と甘く考えて問題行為を放置してはなりません。
有期契約労働者であって正社員ではないからといって甘く見てはならず、解雇、雇止めを軽くみてはいけません。
今回は、問題のある有期契約労働者の解雇・雇止めについて、企業の労働問題を得意とする弁護士が解説します。
1. 有期契約労働者の解雇と雇止めの違い
有期契約労働者を会社から辞めてもらうための方法としては、「解雇」と「雇止め」とがあり、この2つは区別して考えなければなりません。
「解雇」と「雇止め」の違いについて、まずは解説します。
1.1. 有期契約社員の解雇
有期契約社員の解雇とは、雇用契約によって定められた雇用期間内に、会社の一方的な意思によって、雇用関係を解消することをいいます。
労働契約法によって、有期契約社員の解雇は、「やむを得ない事由」がある場合でなければできないと定められています。
労働契約法17条
- 使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
- 使用者は、期間の定めのある労働契約について、その労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない。
この労働委契約法にいう「やむを得ない事由」とは、雇用契約期間がある以上、「雇用契約期間の満了を待たずして中途解約せざるを得ないほどの事情」であることを必要とするとされています。
したがって、正社員など期間の定めのない労働者の解雇に求められる理由よりも、更にハードルが高いと考えられます。
有期契約社員を期間途中で解雇することは、非常に慎重な対応が求められます。
1.2. 有期契約社員の雇止め
有期契約社員の雇止めとは、定められた雇用期間の満了と共に、次の更新を拒絶することによって雇用契約を解消することをいいます。
雇止めには、次で解説する「雇止め法理」というルールの適用があり、労働者の更新への期待を一定程度保護することとされています。
労働者が更新を期待する理由がある場合には、会社からの一方的な雇止めはある程度制限されざるを得ないということです。
「雇止め法理」は、判例法理として形成された法理ですが、平成24年、労働契約法改正によって法律に定められることとなりました。
労働契約法19条有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
したがって、雇止めを行おうとする場合には、次の「雇止め法理」のうち、御社の状況がいずれに該当するかを検討した上で、慎重に行う必要があります。
2. 雇止め法理とは?
「雇止め法理」は、有期契約社員の人事を考えるにあたって、最重要のものですので、しっかりと理解してください。
「雇止め法理」とは、契約期間に定めのある労働者であっても、更新をせずに辞めてもらうことには、一定の制限がある、というルールです。
2.1. 雇止め法理の目的
「雇止め法理」とは、更新がある程度継続するなど、労働者に更新を期待させる事情がある場合には、労働者の期待を保護することを目的とする法理です。
「正社員でないからクビにするのは簡単。」、「そんな重要な仕事は任せていない。」などと甘く考えるのはやめましょう。
労働契約法19条、および裁判例によれば、有期契約社員は次の4つのタイプにわかれており、それぞれ、辞めてもらうための制限が異なります。
- 実質無期タイプ
- 期待保護(反復更新)タイプ
- 期待保護(更新約束)タイプ
- 純粋有期タイプ
したがって、有期契約社員のタイプに応じて、雇止めにかかる制限が変わることから、雇止めをする際には、御社の取扱いがいずれにあたるかを判断して、無効とされないように雇止めの準備を進めなければなりません。
2.2. 実質無期タイプ
「実質無期タイプ」とは、有期契約の形式をとっていながら、実質は雇用契約期間の定めがない社員と同様の扱いを受けているケースをいいます。
実質的には無期であるかどうかは、次の事情を考慮して判断されます。
- 業務内容が、恒常的なものである。
- 更新回数が多い。
- 雇用期間が長い。
- 更新手続きが形骸化している。
- 過去に、同様の処遇の従業員について、雇止めの例がない。
特に、「更新手続きがきちんと行われているかどうか?」は重要で、更新のたびごとに、事前に面談を行い、契約書を締結するといった手続を放置していた場合、「実質無期タイプ」と判断されるリスクが高まります。
「実質無期タイプ」の場合には、「解雇権濫用法理」の適用を受け、正社員と同様の程度に、雇止めが無効とされるリスクが高まります。
2.2. 期待保護(反復更新)タイプ
「期待保護(反復更新)タイプ」とは、実質的に無期契約と同等とまではいえないものの、反復更新が続いていることから、有期契約社員の期待を一定程度保護すべきケースをいいます。
「期待保護(反復更新)タイプ」の場合には、労働者に期待を抱かせるような事情がどの程度あるかによって、雇止めが無効とされるかどうかの程度が変わってきます。
まずは、次の事情を考慮して検討しましょう。
- 業務内容が臨時的か、恒常的か。
- 業務内容、責任が正社員と同等か。
- 更新回数が多いか、少ないか。
- 雇用契約期間が長いか、短いか。
「解雇権濫用法理」による制限を受ける場合には、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当である雇止めでなければ、解雇権濫用として無効となります。
2.3. 期待保護(更新約束)タイプ
「期待保護(更新約束)タイプ」とは、更新が反復継続していなくても、一定の場合には、有期契約社員の期待を保護すべき場合があるというものです。
ただし、このケースは、特にその雇用契約に特殊な事情がある場合が多いといえ、一般化できる場合は少ないといえます。
例えば、「更新回数、雇用契約ともに少ないが、更新を継続することを明言しており、他の社員も誰も雇止めされていない。」といったケースが該当します。
2.4. 純粋有期タイプ
「純粋有期タイプ」とは、雇用契約期間の定めがあるという形式と、実質とが合致している場合をいいます。
雇用契約期間を定めた有期契約社員の場合には、雇用契約期間が満了すれば、期間満了によって契約が終了するのが原則であり、むしろ、今まで解説してきた①~③は例外です。
したがって、形式と実質とが合致している「純粋有期タイプ」の場合、契約期間が満了すれば、更新をするもしないも、会社と従業員との合意で決めることとなります。
「純粋有期タイプ」に該当するかどうかは、次の事情を考慮して検討します。
- 業務内容が臨時的である。
- 契約上の地位が臨時的なものである。
- 更新回数が少ない。
- 雇用契約期間が短い。
- 更新の手続きが厳密に行われている。
この場合には、雇止めも有効に行うことができることとなります。
3. 雇止めを有効にするための、契約時の対策
以上の解説からもわかるとおり、有期契約社員であるからといって、雇用契約期間が満了したらすぐに雇止めとできるわけではなく、慎重な対応が必要です。
期間満了によって雇止めができるかどうかは、そこまでの会社の人事労務管理のすべての事情が影響してくることですから、まずは契約時(更新時)から、事後の雇止めをも見据えた適切な対策が必要となってきます。
有期契約社員の更新拒絶(雇止め)を有効に行うことができるようにしておくためにも、採用の際に人事担当者は、次のことに注意してください。
3.1. 【対策①】契約書で更新の期待を抱かせないこと
まず、入社時、更新時には契約書を締結するわけですが、契約書の記載に不備がないことが重要です。
就業規則を作成している場合には、有期契約社員にどの就業規則が適用されるか、そして、その就業規則に更新を期待させる制度が記載されていないかを確認しておきましょう。
就業規則・契約書が、正社員と同様のものとなっていたり、そもそも検討を行っていなかったりといった場合、雇止めができなくなるおそれがありますので、企業法務に精通した弁護士にチェックをしてもらいます。
3.2. 【対策②】更新の期待を抱かせる言動を行わないこと
入社時、更新時に、面談などで、採用担当の人が更新の期待を抱かせる言動を行わないことが重要です。
良い人材に逃げられないために、入社の際につい、今後の雇用保障が安定しているといった発言をしてしまうケースも少なくありませんが、労働トラブルとなった場合には、この言動が窮地を招くこととなります。
「みんな長く勤めているから大丈夫。」、「何か問題がなければ更新するから。」といった、会社側の何気ない言動であっても、問題となるケースも少なくありません。
入社する従業員が、採用面談を録音にとっている可能性もあることを頭に入れて、発言には細心の注意を払ってください。
4. 雇止め時の会社側の対策
有期契約労働者を有効に雇止めするためには、会社が事前準備をしっかりと行っておかなければなりません。
何らの準備もなく突然雇止めをするとすれば、労働審判や団体交渉、訴訟などで労働者側から争われた場合に、「権利濫用の不当な雇止めである。」という厳しい判断を下されるおそれがあります。
会社が、雇止めの事前に行うべき対策は、次のようなものです。
4.1. 【対策①】雇止め理由を整理すること
まず、雇止めをする理由を整理します。雇止めを対象となる従業員に通知する前に行わなければなりません。
整理した雇止め理由は、「雇止め通知書」にして、雇止めのタイミングで従業員にしっかりと説明できるように準備しておきます。
適切な雇止め理由が過不足なく記載されているかどうか、企業法務に精通した弁護士のアドバイスを受けておきましょう。
雇止め理由によってケースバイケースですが、事案によっては「雇止め通知書」が何ページにもわたる大部となることも少なくありません。
逆に言えば、それほどに、解雇・雇止めは重く受け止めなければいけないということです。
4.2. 【対策②】問題行為は適切なタイミングで注意すること
雇止めに値するような問題行為がある従業員に対して、「どうせ雇用期間が定められているし、期間満了時に注意して雇止めにすればよい。」と考えて放置しておくのは適切ではありません。
問題行為があれば、雇用契約期間の途中であったとしても、口頭での注意指導にとどまらず、「]注意指導書」を交付して、改善を促すようにしてください。
これにより、雇止め時に、従業員から「聞いていなかった。」「注意してくれたらすぐ直したのに。」という反論を受けることを防ぐことができます。
注意指導を積み重ねることによって、雇止めの準備とし、これを証拠として残すようにしましょう。
5. 雇止めは事前の予告が必要?
雇止めは、解雇とは異なり、「事前の予告」は法律上は不要とされています。
すなわち、解雇の場合には、労働基準法に、次の通り解雇予告の規定があることから、解雇予告を行わない限り、同日数分の「解雇予告手当」を支払わなければなりません。
労働基準法20条1項使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
これに対して、雇止めであっても、一定の場合には更新の期待が生じ、一定の更新の期待に対しては、労働契約法によって保護がされていることは既に解説したとおりです。
そのため、一定以上の期間更新を続けていた場合には、雇止めであっても、事前の予告が必要であることが、厚生労働省告示で定められています。
「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」使用者は、有期労働契約(当該契約を3回以上更新し、又は雇入れの日から起算して1年を超えて継続勤務している者に係るものに限り、あらかじめ当該契約を更新しない旨を明示されているものを除く。次条第2項において同じ。)を更新しないこととしようとする場合には、少なくとも当該契約の期間の満了する日の30日前までに、その予告をしなければならない。
6. まとめ
有期契約社員の雇止めには、雇止め法理により、解雇権濫用法理と類似する一定の制限がなされるケースがあります。
会社がいざ、雇止めを行おうとした際に、有効に雇止めが可能となるために、準備、対策をきちんと進めておいてください。