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労働組合の組合事務所・掲示板の貸与の要求に応じる必要ある?

企業内に、労働組合の事務所がある場合、会社がその所有・管理する建物を、労働組合に貸与していることとなります。

労働組合の中には、組合事務所だけでなく、広報・宣伝活動のために、掲示板の使用を要求してくる団体もあります。

会社側(使用者側)は、労働組合の要求に応じて、組合事務所や掲示板など、会社の施設を貸さなければならないのでしょうか。また、一度貸し与えた施設を取り戻すには、どのような方法によるべきなのでしょうか。

今回は、会社が労働組合に対して与える組合事務所や掲示板の貸与などの便宜供与について、「不当労働行為」と言われないために注意すべきポイントを、弁護士が解説します。

「労働組合対策・団体交渉対応」の法律知識まとめ

目次(クリックで移動)

労働組合への組合事務所の貸与とは?

労働組合への組合事務所の貸与は、労使の合意に基づいて行われます。つまり、会社側(使用者側)として、不都合があれば同意せず、組合事務所を貸与しないことも可能です。

労働組合と会社といえども、それぞれ別の法人格を有していることから、組合事務所を貸与する際の法律関係は、「賃料が生じているかどうか」という点で、次の2つの契約関係に区別できます。

賃貸(有償)の場合

会社から労働組合に対する組合事務所の貸与について、賃料が発生する場合には、民法上の賃貸借契約が成立します。

賃貸借契約書が締結されることは少ないでしょうが、賃料を含め、貸与関係についての基本的なルールについては、事前に、労働協約などによって締結されることが一般的です。

使用貸借(無償)の場合

組合事務所の貸与の際に、賃料が発生しない場合、つまり、無償で貸与している場合には、民法上の使用貸借契約が成立します。

ただし、民法の使用貸借契約に関する定めでは、契約に定めた時期、もしくは、契約に定めた目的に従った使用・収益を終えた時には返還請求が可能とされていますが、このことは、労働組合に保障された労働三権(団結権・団体行動権、団体交渉権)を考えると、十分とはいえない可能性があると批判的な意見もあります。

また、法律上の性質がどのような契約であると理解するにせよ、合理的な理由なく一方的に取り上げることは、支配介入などの不当労働行為に当たるおそれがあります。

貸与した組合事務所の返還請求はできる?

労働組合の要望に応じて一度は組合事務所を貸与したものの、業務のために使用する会社側の必要性が高いなど、貸与した場所を返還してほしい場合に、どのように対応したらよいのでしょうか。返還請求は可能なのでしょうか。

無償で貸与された場合の法律関係について「使用貸借」であると理解したとしても、裁判例では、会社側(使用者側)からの一方的な返還請求について、一定の制約を課しています。

貸与した組合事務所の返還請求について、制限をした裁判例は、次の通りです。

  • 組合事務所の貸与は「使用貸借契約」であるが、使用者の権利濫用になるとして、返還請求を認めなかった裁判例(岩井金属工業事件・東京地裁平成8年3月28日判決、芝浦工大事件・東京地裁平成16年1月21日判決)
  • 組合事務所の貸与が「使用貸借契約」であるが、事務所の提供をもって貸与機関が到来するという不確定期限の定めがあるとした裁判例(日本エヌ・シー・アール事件・横浜地裁小田原支部昭和52年6月3日判決)

しかし、いかなる場合であっても会社側(使用者側)からの返還請求ができないとすると、業務上、多大な支障を及ぼします。裁判例もまた、一定の要件のもとに、返還請求を認めるものもあります。

具体的には、貸与した組合事務所の返還について、賃貸借、使用貸借の解約事由が存在する場合のほか、会社側がその施設を業務に使用する高度の必要性があり、代替施設を貸与する等の配慮をすることが、返還請求を認められるために考慮される事情となります。

このような必要性や配慮なく、一方的に返還請求した場合、労働組合の運営に不当に介入することとなり、支配介入の不当労働行為にあたります。労働委員会への救済命令の申立てがなされないよう、注意してご対応ください。

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貸与した組合事務所への立入り、利用制限はできる?

貸与した組合事務所の返還請求が難しい場合であっても、会社側(使用者側)としては、「組合事務所内でどのように利用しているか知りたい。」、「不適切な用途での利用を制限したい。」という要望があります。

これらの会社の要望を満たすため、労働組合に貸与した事務所への立入、利用制限を行うことは可能でしょうか。

会社は、その所有・管理する施設について「施設管理権」を持っていますが、一度労働組合に対して貸与した組合事務所のスペースについては、労使の合意に基づき、労働組合がこれを管理する権限を有しています。

そのため、施設管理上、緊急の必要性がある場合を除いては、許可なく、組合事務所への立入り、調査などを行うことはできないものとされています。

許可なく、貸与した組合事務所に立ち入れば、労働組合の管理権、占有権を侵害し、労働組合の運営に不当に介入することとなるため、支配介入の不当労働行為の責任を追及されることとなります。

同様に、施設管理上必要な範囲を超えて、利用目的に制限を加えることはできず、上部団体の組合員の出入りを禁じることもできません。

参考

逆にいえば、施設管理上、必要な範囲にとどまるのであれば、たとえ労働組合に貸与した組合事務所といえども、立入り調査したり、利用制限を加えたりすることもできます。

例えば、次の会社側(使用者側)の要望がある場合に、施設権利上必要な範囲にとどまるかどうか、ご検討いただくことができます。

  • 地震、火災その他の天災などの危険に対応する緊急の必要性がある場合
  • 建物全体のルールを順守させる必要性がある場合
  • 一般常識に外れた危険な利用を禁止する必要がある場合

労働組合への掲示板の貸与とは?

労働組合の活動にとって、掲示板の利用はとても重要です。組合員を増やすためには、会社の従業員がよく見る場所に労働組合の広告・宣伝を行うことが効果的だからです。

会社側(使用者側)の立場からすれば、労働組合への掲示板の貸与は、できる限り認めたくないのが本音ではないでしょうか。

掲示板の貸与もまた、「便宜供与」の一種であり、会社が認めない限り、労働組合が勝手に会社の掲示板を使用することはできません。

会社掲示板を貸与する場合

会社掲示板を労働組合に貸与する場合にも、組合事務所を貸与する場合と同様に、法律構成を考える必要があります。掲示板の貸与に、賃料を徴収しているケースは少ないかと思いますので、原則として「使用貸借」と考えられます。

ただし、掲示板の貸与を使用貸借契約であると考えたとしても、一方的な撤去と労働協約の破棄は、会社による権利濫用にあたり、不当労働行為に当たると判断した裁判例(岩井金属工業事件・東京地裁平成8年3月28日判決)があるため、注意が必要です。

会社側(使用者側)としては、今後将来に、貸与を中止する可能性があるのであれば、最初から貸与を許可しないことが、適切な対応です。

労働組合が掲示板を設置する場合

会社が既に設置している掲示板を貸与する場合だけでなく、労働組合が自身で掲示板を設置する場合にも、会社の許諾が必要となります。これは、会社側(使用者側)に「施設管理権」があるためです。

原則として、労働組合が掲示板を設置することを認めるかどうかも、会社の裁量に任されています。

ただし、掲示板を設置することによってしか組合活動が不可能であるとか、設置を許可することに会社側の負担が少ないなどの事情がある場合に、不許可とすることが不当労働行為と判断される可能性もあります。

会社側(使用者側)としては、単に掲示板設置を不許可とするのではなく、会社側の負担の大きさなど、理由をしっかりと労働組合側に説明し、理解を得ることが適切な対応です。

掲示物の制限はできる?

会社側(使用者側)が、労働組合による会社掲示板の利用、もしくは、労働組合自身の掲示板の設置を許可した場合には、その掲示板をどのように利用するかは、原則として労働組合の自由です。

そのため、労働組合が掲示する掲示物の内容を制限したり、会社が不適切と考える表現内容の掲示物を撤去したりすることは許されず、支配介入の不当労働行為にあたります。

これは、労働組合に、団結権、表現の自由が認められているためです。

しかし、問題のある表現行為であっても全て保護されるわけではなく、正当な組合活動の範囲内におよそ含まれないと考えられる不適切な表現については、撤去したとしても、不当労働行為とはなりません。

会社側(使用者側)の対応として、撤去を検討すべき組合の掲示物には、例えば次のものがあります。

  • 他の従業員に対する、個人攻撃、人格攻撃を含む掲示物
  • 法律違反の表現内容を含む掲示物
  • 労働組合の活動目的外(宗教目的、政治目的など)の表現を含む掲示物

「人事労務」は、弁護士にお任せください!

今回は、よく労働組合から貸与を要求されることのある、組合事務所、掲示板の貸与について、会社側(使用者側)の行うべき適切な対応を、弁護士が解説しました。

組合事務所、掲示板の貸与はいずれも、「便宜供与」といって、会社の自由な意思によって認めるものであって、労働組合から強要される性質のものではありません。

しかし一方で、ひとたび貸し与えた場合には、その管理が面倒になる場合があり、かつ、一方的に廃止する場合には支配介入の不当労働行為とならないよう注意が必要となります。

労働組合対応にお悩みの会社は、ぜひ一度、人事労務に詳しい弁護士にご相談ください。

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