企業経営において、インターネット上で情報発信する重要性は増してします。
経営者にとっては特に、SNSを活用した発信は、会社の理念を伝え、認知を獲得すると共に、営業や採用における競争力を付ける役にも立ちます。
企業規模が大きくなるほど経営者は遠い存在となりがちなので、SNS上で意見や考えを発信することが、自社の価値を高めます。潜在的な顧客へのアプローチはもちろん、投資家や社員に自社の価値を知ってもらう重要な機会にもなります。
一方で、SNSによる情報発信には注意点もあります。風評被害や炎上による企業イメージの低下、インサイダー取引など、不用意なSNS発信はトラブルの温床だからです。
今回は、SNSでの発信の注意点と法律上のポイントを、企業法務に強い弁護士が解説します。
- 企業経営において、ネットやSNSでの情報発信の重要性が高まっている
- SNSによる情報発信は、経営者の立場でするときは特に慎重な注意を要する
- 発信が違法であったり不適切であったりすると重い責任を負うおそれあり
\お気軽に問い合わせください/
SNSによる情報発信のメリット
企業の経営方針には、経営者の理想や理念、思想や考え方が色濃く反映されます。
顧客や取引先、投資家、社員など、会社に関わる全ての人が、経営者の考えを知りたいと考えます。思想に共感できる企業にこそ、積極的に貢献したい気持ちが湧くからです。そのため、経営者の考えを発信する場が重要で、この際に活用すべきなのがSNSです(従来は「経営者ブログ」がその役割を果たしましたが、現在はFacebookやX(旧Twitter)などのSNSに取って代わりました)。
経営者の考えをSNSで発信し、広めることには、次のメリットがあります。
- 企業の知名度を上げることができる。
- 潜在的な顧客に商品・サービスの良さをアピールできる。
- 優秀な人材に入社してもらえる。
- 取引先の信頼を得られる。
- 金融機関の信用を集め、融資を受けやすくなる。
- 投資家に将来性をアピールし、出資を受けやすくする。
SNSによる情報発信をうまく活用すれば、自社の認知度を上げ、評判を向上させ、売上の拡大に繋げることができ、そのビジネスインパクトは非常に大きいです。SNSをはじめとしたウェブマーケティングに成功して拡大した企業の実例を見ればよく理解できるでしょう。
SNSによる情報発信のリスクとデメリット
次に、SNSによる発信のリスクを解説します。
活用すればメリットの大きいSNSにも、デメリットがあります。経営者という立場ゆえに、SNS運用の危険性は、一般の個人よりも大きいことを理解してください。
- 拡散スピードが速い
ネット上の情報拡散スピードは非常に早いです。SNSは特に、Facebookのシェア、X(旧Twitter)のリポストに代表される情報拡散機能が備わっています。 - 情報がネット上に残り続ける
ネット上の情報は、一度発信すると残り続けるリスクがあります。コピーが容易で、コピーサイトやキャッシュが出来上がると、元の情報を削除しても痕跡を全て消せないこともあります。 - 経営者の発信は企業の公式見解となる
SNSによる情報発信の中でも特に、経営者の発言は、企業の公式見解として受け取られます。「個人的な見解に過ぎない」という弁明は通用しません。
経営者によるSNSの発信は、影響力があってメリットが大きい反面、責任も伴うのでくれぐれも慎重に行わなければなりません。
「SNS投稿監視サービス」の解説

SNSによる情報発信の注意点
次に、積極的にSNSでの情報発信をする際の注意点を、法的な観点で解説します。
匿名ではないことを自覚する
インターネット上には、匿名掲示板や匿名アカウントによるSNSなど、「匿名」で情報を発信できる場もあります。しかし、氏名を明記していなくても、完全な匿名性は存在しません。特に、誹謗中傷など問題ある投稿は、発信者情報開示請求によって投稿者を特定される可能性があります。
ましてや、実名で発信する経営者のSNSは、その内容に大きな責任が伴います。情報発信には十分な検討を重ね、慎重に行う必要があります。
公私の区別を明確にする
経営者によるSNSでの発信は、企業経営に関わる「公的」なものと位置づけ、プライベート利用するSNSとは明確に区別すべきです。
例えば、GPSの位置情報が写真に付与されていたり、写り込んだ風景から自宅が特定されたりする危険があります。SNSから、個人情報が漏れ、私生活にまで影響が及ぶリスクがあるため、特にスマートフォンでの撮影・投稿時には細心の注意が求められます。
また、個人用アカウントにログインしたまま投稿してしまい、誤って公私の内容が混同されるトラブルにも注意が必要です。
誹謗中傷しない
誹謗中傷は、他人を傷つける行為なので、SNSにおける発信でも、決して行ってはいけません。
名誉毀損や侮辱にあたる投稿をすれば、被害者から慰謝料を請求されるおそれがあります。SNSは、発信者の意図を超えて内容が拡散されることもあるため、言葉選びには慎重さが求められます。公開前に内容をよく見直し、不用意な投稿を避けるよう心掛けましょう。
個人情報を記載しない
SNSにおいては、自分自身の個人情報だけでなく、顧客・取引先・自社の従業員など、第三者の個人情報が投稿内容に含まれていないか、常に注意が必要です。また、企業秘密やノウハウなどを不用意にSNSに公開すると、自社の競争力を損なう重大な問題に発展する可能性もあります。情報発信にあたっては、機密性の高い内容が含まれていないかを必ず確認しましょう。
虚偽や不正確な情報を発信しない
虚偽または不正確な情報の発信は、誤解や混乱を招きかねません。そのため、自らの考えや見解を発信するようにし、他人の情報発信を盗用しないよう心がけるべきです。また、他の情報発信を引用するときは、出典を明らかにし、引用のルールを守って行う必要があります。情報元を明らかにしておけば、不正確さ、曖昧さを回避できます。
著作権や肖像権に配慮する
著作権や肖像権に配慮した発信としてください。
町中での写真撮影は、他人の肖像権を侵害するおそれがあります。個人の情報発信ではもちろん、経営者のSNSによる発信では特に、小さな違法性でも叩かれ、炎上する危険があります。
他人の受け取り方を理解する
どれほど注意していても、SNSでの発言が意図と異なる受け取られ方をすることは避けられません。これは、受け手の立場や感情を十分に想定せずに情報を発信してしまうことが原因です。
特にSNSでは、文字情報だけが一人歩きし、文脈が伝わりにくいため、誤解を招くリスクが高いです。誤解を完全に防ぐのは難しいものの、偏った主張や誤解を招きやすい表現は避け、情報モラルをもって冷静に発信することが大切です。
公開範囲に注意する
SNSの中には、X(旧Twitter)の鍵アカウントのように、公開範囲を制限できる機能が備わっているものもあります。非公開設定にしていると、安心して軽率な投稿をしてしまうケースがありますが、不適切と言わざるを得ません。
ネット上の情報は簡単にコピー・転載され、思わぬ形で外部に漏れることがあります。1対1のダイレクトメッセージでも、スクリーンショットなどで第三者に流出するリスクがあります。
経営者としてSNSを利用する以上、どのような範囲に公開されても問題にならない内容のみを発信する姿勢が求められます。
SNSの規約を遵守する
SNSで情報を発信する際は、法律を遵守するのは当然として、各SNSが定める「利用規約」にも従わなければなりません。規約に違反する投稿は削除されるだけでなく、最悪の場合アカウントが凍結される危険もあります。
違法でなくとも、不適切と判断されれば規約違反とされることもあるため、利用規約を事前によく確認し、ルールを守った発信を心掛けてください。
SNSによる情報発信の効果を最大化する方法
最後に、SNSによる情報発信の効果を高める具体的なポイントを解説します。経営者としてSNSを活用する際は、慎重な姿勢が欠かせません。
SNSによる発信に伴う責任を理解する
SNSは、単なる気軽な発信手段ではありません。現代では、多くの人がSNSを主要な情報源として活用しており、購買行動や採用判断など、企業にとって重要な意思決定にも影響を及ぼします。その分、SNSでの発言には大きな責任が伴うことを自覚する必要があります。
法律に違反し、他人に損害を与えるような投稿をすれば、SNS上の情報発信も不法行為(民法709条)となり、慰謝料などの損害賠償を請求されるリスクがあります。
企業の広報であるという意識を持つ
経営者の立場で行うSNSでの情報発信は、企業の「顔」としての責任を伴います。つまり、社長による情報発信は、企業の広報活動の一環であると捉えるべきです。個人のアカウントによる発信とは異なるという意識を強く持っておけば、内容の正確さ、発信の適切さに対する意識が高まり、問題のある情報発信を未然に防ぐことができます。
弁護士の事前チェックを受ける
SNSへの投稿内容に不安がある場合は、弁護士の事前チェックを受けるのがお勧めです。
弁護士は、ネット上の情報に関する法的な問題だけでなく、発信内容が不適切と受け取られる可能性についても客観的に判断できます。必ずしも違法でなくても、受け取り方次第で誤解を招いたり、企業イメージを損なったりするおそれがあるとき、事前確認の段階で止めることができます。
特に、炎上トラブルの対応経験が豊富な弁護士なら、法律面だけでなく、ネット上のリスクマネジメントにも精通しており、実務的なアドバイスを受けられます。
「風評被害を訴える方法」の解説

まとめ

今回は、SNSで情報発信するときの注意点について解説しました。
特に、会社の「顔」である経営者は、SNSを活用する際のリスクをよく理解して、慎重に対応しなければなりません。社長自らSNSを駆使し、ネット上で発信するインパクトは非常に大きく、企業経営にも多大なメリットがあります。
その反面、デメリットやリスクもあり、SNSにおける情報発信が、風評被害や炎上の原因となったり、失言が取り上げられて企業の社会的評価が傷つけられたりすることもあります。SNSを、経営に有効活用するには、法的な注意点を理解するため、弁護士のアドバイスを受けながら進めるのが有益です。日常的に相談するためには、顧問弁護士を付けることも検討してください。
- 企業経営において、ネットやSNSでの情報発信の重要性が高まっている
- SNSによる情報発信は、経営者の立場でするときは特に慎重な注意を要する
- 発信が違法であったり不適切であったりすると重い責任を負うおそれあり
\お気軽に問い合わせください/