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働き方改革法による新たな「労働時間の上限規制」と36協定

「働き方改革」における最重要のキーワードの1つが、「長時間労働の抑制」です。そのため、働き方改革関連法では、「労働時間の上限規制」について、新たなルールが導入されました。

つまり、時間外労働(残業)が、これまで以上に厳しく制限されることとなったのです。

あらたな労働時間数を延長する際の上限の導入に伴い、この上限規制にしたがった正しい「36協定(サブロク協定)」の締結、届出が必要となります。

今回は、労働時間の上限規制を守り、労働時間を適正に管理するための、改正労働基準法(労基法)の「労働時間の上限規制」について、弁護士が解説します。

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目次(クリックで移動)

労働時間の上限規制とは?

「労働時間の上限規制」について、2018年6月29日に成立した働き方改革法以前には、法律のよる上限は定まっていませんでした。

「1日8時間、1週40時間」(法定労働時間)を超えて残業させる場合には、労働基準法(労基法)36条に基づく労使協定(36協定)を結ばなければならないとされ、「労働基準法36条1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」(平成10年労働省告示154条)という告示によって、36協定に記載できる限度時間が、次のとおり定まっているのみでした。

期間 限度時間(一般の労働者) 限度時間(対象期間3か月を超える1年単位の変形労働時間制)
1週間 15時間 14時間
2週間 27時間 25時間
4週間 43時間 40時間
1か月 45時間 42時間
2か月 81時間 75時間
3か月 120時間 110時間
1年間 360時間 320時間

この「限度基準」は、あくまでも、36協定を作成・締結するときの行政庁(厚生労働省)の定めたルールに過ぎず、法律ではありませんでした。

そのため、極端な話をすれば、どれだけ長時間の残業を36協定に記載しても、労働基準法(労基法)などの法律違反とはなりませんでした。

加えて、「限度基準」を超える「特別条項」を定めることが、年に6か月許されており、この場合の上限については、特に規定されていないことも、「長時間労働の温床」だと問題視されていました。

働き方改革関連法による、改正労働基準法(労基法)の新たな「労働時間の上限規制」を、弁護士がまとめておきます。

  • 労働時間の上限規制が、「告示」でなく「法律」で規制されます。
  • 1. 月45時間
    2. 年360時間

  • 特別条項の場合の、労働時間の上限規制が導入されます。
  • 1. 年720時間
    2. 複数月平均80時間(休日労働を含む)
    3. 月100時間未満(休日労働を含む)

36協定とは?

「1日8時間、1週40時間」(法定労働時間)を超える労働、「1週1日もしくは4週4日の休日」(法定休日)における労働は、いずれも、「時間外労働」(残業)といわれ、割増賃金(残業代)の支払が必要です。

しかし、これらの時間外労働は、労働基準法(労基法)の原則としては許されておらず、労働基準法(労基法)36条の労使協定、すなわち「36協定(サブロク協定)」を締結してはじめて、適法に命令することが可能となります。

労働基準法36条1項

使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この条において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。

36協定を作成・締結するときには、労働者の過半数が加盟する労働組合があればその労働組合と、なければ、労働者の過半数代表を選出し、その代表との間で締結する必要があります。

また、「様式9号」という書式にしたがった記載事項を、労働基準監督署(労基署)に届け出る必要があります。

つまり、労働者との間で同意し、労働基準監督署(労基署)に届け出た36協定の範囲内において、会社(使用者)は労働者を、時間外労働(残業)に従事させることができるというわけです。

参考

36協定を作成するにあたり、「労働基準法36条1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」(いわゆる「限度基準」)に適合するような協定内容とする努力義務が、会社には課されています。

しかし、改正前は、これは法律ではなく告示に過ぎませんでした。そのため、労働契約や労使協定に対して、強制力を持つものではないとされていました。

違反した場合には、行政官庁から助言、指導を受けることとなりますが、刑事罰(懲役刑・罰金刑)はなく、違反した36協定もただちには無効とはならないとされていました。

【改正】新たな「労働時間の上限規制」と36協定

「働き方改革関連法」の成立にともない、労働時間の上限規制を定める労働基準法(労基法)36条に、重要な改正がなされました。順に、弁護士が解説します。

様式9号の統一(労基法36条1項)

労働基準法36条に基づく労使協定である「36協定(サブロク協定)」の書式は、これまでも「様式9号」という書式が定められていました。しかし、これは法律上の様式ではありませんでした。

改正労働基準法では、36協定の届出義務について「厚生労働省令で定めるところにより」行うことが法律に明記されたことから、様式違反についても、労働基準法違反となり、労基法32条違反の刑事罰を科せられるおそれがあります。

この度の法改正にともない、様式9号、様式9号の2が新しく準備されました。

36協定記載事項の明文化(労基法36条2項)

労働基準法36条2項が新設され、これまで、労働基準法施行規則によって定められていた、36協定の記載事項について、法律の条文に明文化されました。

労働基準法36条2項に定められた、36協定の記載事項は、次のとおりです。

  • 時間外労働・休日労働させることができる労働者の範囲
  • 対象期間
  • 時間外労働・休日労働させることができる場合
  • 対象期間における時間外労働時間・休日労働日数
  • 厚生労働省令で定める事項

これらの事項が、これまでの省令ではなく、法律に記載されたことによって、記載事項を満たさない36協定は、労働基準法(労基法)違反となり、「36協定なく残業をさせた違法状態」であるとして刑事罰が科される危険があります。

また、「労働時間の上限規制」があらためられたことから、36協定に記載する時間外労働時間、休日労働日数」もまた、上限規制にしたがった適正な時間数、すなわち「1か月45時間、1年360時間」以内でなければなりません。

労使協定の対象となる期間が「1年」に限られることとなった改正労基法に従い、36協定の期間を1年とし、1年ごとに締結・届出が必要です。

限度基準の明文化(労基法36条3項・4項)

さきほど解説したとおり、労働基準法改正によって、これまで「限度基準」として告示に定められていた時間が、労働基準法に定められました。

これにより、これまでは限度基準に違反しても36協定が無効となるわけではなかったものの、今後は、労働時間の上限規制に違反した36協定は、労基法違反として刑事罰を科される可能性があります。

なお、労働基準法に定められる、労働時間の上限規制についても、「限度基準」として告示に定められていた時間数と同様に、次のとおりです。

  • 1か月45時間
  • 1年360時間

※対象期間3か月を超える1年単位の変形労働時間制の場合には、1か月42時間、1年320時間)

特別条項の労働時間の上限(労基法36条5項)

36協定に、特別の事情がある場合には、上限時間を超える時間数の残業をさせることができると定めることができます。これを「特別条項」といいます。

特別条項自体は、働き方改革関連法による改正前にもありましたが、この度の改正で、特別条項を利用する場合にも、労働時間に法律上の上限が課せられることとなりました。

  • 時間外労働と法定休日労働の合計労働時間数が、月100時間未満
  • 時間外労働が、年間720時間以内
  • 時間外労働時間数が月45時間を超える月数は6か月以内

つまり、特別条項を定めたとしても、1年で6か月までしか、月45時間を超える残業を指示することはできませn。

特別条項が使用できる場合とは、「特別の事情が生じたとき」に限るものとされていた従前の限度基準から、「当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に第3項の限度時間を超えて労働させる必要がある場合」と詳しく記載されることとなりました。

特別の事情には、次のようなものが考えられることが、厚生労働省発行のパンフレットなどで明らかにされています。

  • 予算、決算業務
  • ボーナス商戦に伴う業務の繁忙
  • 納期のひっ迫
  • 突発的な仕様変更、新システムの導入
  • 製品トラブル・大規模なクレームへの対応
  • 機械トラブルへの対応

これまで、特別条項を利用するケースの典型例とされてきた、「予算・決算業務」、「業務の繁忙」、「納期のひっ迫」など、臨時的ではあるもののあらかじめ予想することができた事情について、特別条項を利用できるケースかどうか、慎重な対応が必要です。

また、これまでどおり、改正後も、会社側(使用者側)の必要性や、多忙だけを理由に、特別条項によって労働時間を延長することは難しいとお考え下さい。

実労働時間の上限規制(労基法36条6項)

最後に、ここまでの規制にしたがった適切な36協定を締結、届出した後であっても、さらに、次に定める労働時間の上限規制にしたがって働かせなければなりません。

これは、36協定による規制だけでなく、実際に労働者を働かせるにあたっては、更に労働時間を一定程度に抑えるよう注意しなければならないということです。

  • 時間外労働時間・法定休日労働時間が、月100時間未満
  • 時間外労働時間・法定休日労働時間の2~6か月の平均が、月80時間以下

2か月、3か月、4か月、5カ月、6か月間のそれぞれの平均の残業時間を計算しなければならず、その場合に、36協定の期間をまたいで計算しなければならないため、「月80時間を超えないかどうか」の計算がとても複雑です。

特に、36協定の起算日から見て、期間中の平均残業時間が月80時間を超えていなくても、繁忙期に超えているというケースでは、知らないうちに違反状態が継続しているおそれがあります。

労働時間を把握するためのクラウドサービスを利用するなど、より効率的な会社の労務管理体制の整備が求められます。

これらに違反する長時間労働については、「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」という刑事罰の対象となります。

注意ポイント

「1か月100時間未満、2~6か月の平均が月80時間以下」の基準は、脳・心臓疾患の労災認定基準とも同様です。つまり、この基準を超えた労働によって、脳・心臓疾患にり患した場合、業務による負担が強いと判断されて「労災」と認定されやすくなるということです。

つまり、労働基準法36条6項の労働時間の上限規制もまた、労災を引き起こしてしまうほどの長時間労働を抑制する趣旨ということです。

労働時間の上限規制はいつ適用される?(改正法の施行日)

今回解説する、「働き方改革関連法」のうち、労働時間の上限規制についての労働基準法(労基法)の改正は、大企業は2019年4月1日、中小企業は2020年4月1日より施行されます。

中小企業では、その労働時間の動向、人材確保の状況、取引の実態などを踏まえ、施行日が1年間後ろ倒しになっています。

改正労基法のうち36協定についての事項は、2019年4月1日施行日以後の期間のみを定めている36協定に適用されることとなっており、2019年3月31日を含む期間を対象として定めている36協定には、改正前の法律が適用されます。

労働時間の上限規制の「適用除外・適用猶予」

ここまで解説しました労働時間の上限規制には、「適用除外」が定められています(労基法36条11項)。

これによれば、「新技術、新商品、新役務の研究開発」の業務には、36協定の労働時間の上限規制は、適用されません。

適用除外業務にあたるかどうかは、労使間で協議を行い、会社の業務の実態に即して決めるべきです。

加えて、「工作物の建設の事業、自動車運転の業務、鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業」および「医師」について、労働時間の上限規制の適用が、5年間、「適用猶予」されます。

また、次のとおり、一部業務や事業では、適用が猶予されていたり、適用除外となっていたりします。

業種 適用猶予または適用除外
自動車運転の業務
  • 2024年3月31日まで適用猶予
  • 2024年4月1日以降、特別条項付き36協定を締結する場合の時間外労働の上限は年間960時間とする。ただし、月100時間未満、複数月平均80時間以内の規制の適用なし。
医師
  • 2024年3月31日まで適用猶予
  • 2024年4月1日以降の具体的な上限時間については、今後省令で定められる予定
鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業
  • 2024年3月31日まで月100時間未満、複数月80時間以内の規制の適用なし
  • 2024年4月1日以降、上限規制が全て適用される予定
新技術・新製品等の研究開発業務
  • 上限規制の適用なし
  • ただし、医師の面接指導や代替休暇の付与等の健康確保措置を設ける

「人事労務」は、弁護士にお任せください!

今回は、働き方改革の主要な論点である「長時間労働の是正」に関係した、労働基準法の重要な改正について、弁護士が解説しました。

労働基準法(労基法)の改正により、36協定の限度基準などの労働時間の上限規制が、法律上の規制となり、違反に対する制裁(ペナルティ)が重くなることから、会社側(使用者側)として、より慎重な配慮が求められます。

会社内の労働時間制度や健康確保措置、残業代を支払うべきかどうかなどについてご不安な会社は、ぜひ一度、人事労務に強い弁護士へ、ご相談ください。

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