賃貸借契約をするとき、暴力団事務所として使用されると、貸主にとって不利益があるのは当然です。暴力団の排除が社会問題となっている現在、暴力団は賃貸借契約を締結しづらく、その実態を隠して、一般企業であるかのような体裁をとって賃貸借契約を締結しようとすることがあります。
真っ当な企業に賃貸したはずが実は反社会的勢力だったり、名義貸しだったり、暴力団事務所に又貸しされてしまったりしたのが発覚したら、その賃貸借契約を解除する必要があります。また、ただちに貸室を暴力団から明け渡させ、マンションの健全な秩序を回復しなければなりません。
速やかに対処しないと、暴力団事務所や詐欺集団のアジトとして使用され、周囲の住民やテナントからクレームが来てしまいます。用途が不明なとき、よく把握しなければなりません。反社会的勢力に好んで賃貸することはないでしょうが、結果的に、暴力団に手を貸した不動産会社や貸主は、信頼が低下し、評判が悪化します。今後の借り手も見つからず損失が出るおそれもあります。
今回は、暴力団事務所として使用されたことが発覚したとき、賃貸借契約の解除と、貸室の明渡請求をする方法を、企業法務に強い弁護士が解説します。
- 暴力団事務所を賃貸することは、反社会的勢力の排除の観点から許されない
- 貸室が暴力団事務所として利用されたと判明したら、契約を解除し、明渡しを請求する
- 暴力団と自身で対峙するのが困難なとき、弁護士から内容証明を送付してもらう
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暴力団事務所の賃貸が禁止される理由
そもそも、暴力団事務所として、不動産を貸すこと自体、許されることではありません。暴対法、暴排条例などにより、暴力団を社会から排除、駆逐することは、社会的な常識となっているためです。賃貸借契約を締結する時点で、相手が暴力団などの反社会的勢力でないかどうか、よくチェックしなければなりません。
それでもなお、不注意や見逃しにより、暴力団に不動産を賃貸してしまうことがあります。暴力団側でも、事務所として使用することは巧妙に隠してくるでしょう。企業舎弟やフロント企業など、法人名義を利用して借りようとするケースもあります。
高額の賃料に目がくらんで、知っていながら暴力団に手を貸す不動産業者もあります。
しかし、暴力団をはじめ、反社会的勢力に不動産を賃貸するのには、大きなリスクがあります。
暴力団が事務所を借りられれば、それにより詐欺や脅迫などの犯罪行為をやりやすくなります。このような点から、行われた犯罪を助けた責任が、不動産の貸主に生じるおそれがあります。これを法律用語で、犯罪行為の「幇助」といいます。幇助犯について刑法は次のとおり、(正犯より軽い刑ではあるものの)処罰されると定めます。
刑法62条1項
正犯を幇助した者は、従犯とする。
刑法63条
従犯の刑は、正犯の刑を減軽する。
刑法(e-Gov法令検索)
暴力団が逮捕されたり、詐欺をしていたアジトだと特定されたりすれば、それに協力したとして責任を追及されるおそれがあります。また、刑事責任を逃れても、暴力団事務所として住所が特定されれば、その住所は汚れ、今後、他の借主は現れないでしょう。いわく付きの住所に、次のテナントとなりたい企業はありません。ヤクザが出入りしているとなれば、近所でも噂になり、クレームが出ます。
すると、暴力団事務所として貸し続けるしかなく、暴力団の不当要求に屈せざるを得なくなってしまいます。
反社会的勢力に関わらないための企業の対策は、次に解説しています。
暴力団事務所と判明したら賃貸借契約を解除する
次に、暴力団を賃借人とする賃貸借契約を解除する方法を解説します。近年、暴力団を排除する風潮はますます強まっています。暴力団事務所に使用されたと判明したら、ただちに賃貸借契約を解除しなければなりません。
契約解除の方法は、その理由によって2種類あります。
いずれも、暴力団事務所になっていることが明らかなら、十分な解除理由です。そして、賃貸借契約を解除したら、明渡しを請求できます。とはいえ、暴力団が賃借人だと、恐怖を感じることでしょう。自身で解除の意思を伝えられないときは、弁護士に依頼し、内容証明を送付する方法が有効です。
暴排条項に基づく解除
暴力団を排除するため、賃貸借契約にも、暴力団排除条項(暴排条項)が定められるのが通例となりました。
暴排条項は、暴排条例の制定に伴い、契約書に定められるのが一般化したものです。賃貸借契約においても、暴力団などの反社会的勢力とは無関係であることを保証し、万が一相手がそのような属性を有していると明らかになったら契約解除、損害賠償請求などの責任追及ができると定めます。
暴排条項が定められた賃貸借契約ならば、貸した不動産が暴力団事務所として利用されたと判明したら、規定に基づいてただちに解除することができます。
契約書における暴排条項の定め方は、次に解説しています。
信頼関係破壊を理由とする解除
長年にわたって更新された賃貸借契約などでは、暴排条項を定めていない例もあります。それでもなお、現代の社会情勢からすれば、暴力団事務所としての貸室利用は、停止しなければなりません。この場合には、他の賃貸借契約と同じく、信頼関係が破壊されたことを理由として、契約を解除することとなります。
賃貸借契約は、一度きりではなく、継続的な契約です。そのため、解除するには、賃貸人と賃借人の信頼関係が実質的に破壊されていることが必要とされています。暴力団事務所としての利用を中止させるために、次の理由付けで、信頼関係が破壊されたと主張することが考えられます。
家賃滞納
家賃滞納が3ヶ月以上に及ぶ場合には、信頼関係が破壊されたと考え、賃貸借契約の解約を許すのが実務です。まずは、暴力団事務所として利用された不動産の家賃が、継続的に払われているか、確認してください。
無断転貸
賃貸人が名義貸しをして、暴力団に事務所として利用されたとき、無断転貸を主張できます。賃貸借契約では、貸主の許可なく第三者に転貸するのを禁止している場合が通例で、このとき、無断転貸は信頼関係の破壊に当たります(特に、暴力団事務所への転貸は、許可しないだろうことが容易に推測できます)。
用法遵守義務違反
賃貸借契約において、貸室の用途は契約書に明記される場合が多く、定めた用途・用法への違反は、信頼関係の破壊に繋がります。住居用に借りた不動産をオフィス使用している場合が典型ですが、暴力団事務所など、反社会的な利用なら、信頼関係の破壊が著しいといえます。
善管注意義務違反
賃貸借契約において賃借人は、善良な管理者の注意をもって貸室を保管する義務を負います(善管注意義務)。暴力団事務所として利用し、暴力的な行為を貸室内ですれば、オフィスの状態を保存する義務に違反する可能性があります。
暴力団事務所の明渡を請求する
賃貸借契約を解除できたら、貸室を利用する契約上の根拠がなくなります。したがって、賃貸借契約の解除にともなう原状回復として、もしくは、その不動産の所有権に基づいて、明渡しを請求することができます。
どうしても借主が明渡しに応じなければ、不法な占拠となります。暴力団が、不法占拠を続けるとき、自身での対応は恐怖を感じ、困難を極めるでしょう。
このようなときは、弁護士に依頼して内容証明を送付してもらい、それでもなお明け渡されないときには明渡請求訴訟の裁判と、それに引き続く強制執行によって実現するのが有効です。
暴力団事務所の賃貸借契約の解除を認めた裁判例
暴力団事務所として使用されていたことを理由として、賃貸借契約の解除を認めた裁判例に、東京地裁平成7年10月11日判決があります。この判決では、暴力団事務所としての使用は、背信行為に当たるとしました。
組事務所となった貸室は、繁華街にあり、ドアに銃弾が3発打ち込まれて近隣から苦情が出るなどの不都合が生じていました。また、賃料も2ヶ月滞納されていました。裁判所は、これらの事情が信頼関係を破壊する背信的行為であって、賃貸借契約関係を継続し難い重大な理由があるとし、貸主の請求を認容しました。
裁判所は、次のように判示しています。
被告が、賃借人としてビルの共同生活の秩序を守り、近隣より苦情が出たり他人の迷惑になるような行為をしてはならないとの義務に反していることは明らかである。……(中略)……被告の各行為は、原告との信頼関係を破壊する背信行為であって、本件賃貸借契約を継続しがたい重大な事由であるというべきであり、原告の右契約解除の意思表示により、本件賃貸借契約は解除されたことになる。
東京地裁平成7年10月11日判決
また、会社の事務所として利用するはずが、暴力団事務所として使われていたという用法の違反の事情から、催告を要しないものとしました。
まとめ
今回は、賃借人が暴力団だったときの、賃貸借契約における対応を解説しました。
賃貸マンションでも貸オフィスでも、暴力団事務所や詐欺集団のアジトとして使用されることは厳に避けなければなりません。社会的に問題ある方法で利用されていたと判明したら、すぐに賃貸借契約の解除と、明渡請求をするのが適切な対応です。暴力団などによる反社会的な利用方法は、他の住民やテナントなど周囲に迷惑なだけでなく、貸した人の評判にもつながります。
特に、不動産オーナーや、不動産会社は、暴力団事務所として取扱い物件を差し出してしまうことのないよう、注意しなければなりません。対策として、今後の賃貸借契約に暴力団排除条項(暴排条項)を必ず定めましょう。自身での対応が難しいときは、弁護士に相談ください。
- 暴力団事務所を賃貸することは、反社会的勢力の排除の観点から許されない
- 貸室が暴力団事務所として利用されたと判明したら、契約を解除し、明渡しを請求する
- 暴力団と自身で対峙するのが困難なとき、弁護士から内容証明を送付してもらう
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