2018年6月29日に成立した「働き方関連法」に基づいて、「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」が改正されました。この改正により「勤務間インターバル制度」の導入が、「努力義務」とされました。
勤務間インターバルとは、労働者が、休養、睡眠の時間を確保するために、前日の終業時刻から、翌日の始業時刻までの時間を、一定程度あけるようにする、という労働者への配慮のための制度です。
企業に関する法律を見ると、ほかにも「努力義務」といわれるものが多くあります。「努力義務」というと、あくまでも「努力」すればよく、やらなくても責任ないとも感じますが、実際のところ「努力義務」にどのように対応すればよいのでしょうか。
今回は、「努力義務」の意味、「義務」との違い、違反した場合のデメリットや対応方法などについて、企業法務を多く取り扱う弁護士が解説します。
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法律における「努力義務」とは?
法律における「努力義務」とは、法律の条文で、「~するよう努めなければならない」「~努めるものとする」と規定された義務のことです。この法律の規定を「努力義務規定」と呼びます。
つまり、「努力をすること」が義務付けられているというわけです。
努力義務規定の場合には、「しなくてはならない」と書いてあるわけではありませんから、違反した場合の罰則は定められておらず、違反しても罰を受けることはありません。刑事罰はもちろん、行政罰(過料など)の制裁(ペナルティ)もありません。
基本的には、努力義務は、当事者の自発的な行為をうながす、期待するといった効果があるに過ぎません。
「努力義務」と似た考え方に「配慮義務」があります。こちらは、「配慮」として一定の行為をすることが義務づけられている点で、努力義務とは異なります。
「努力義務規定」と「義務規定」の違いは?
努力を求める「努力義務規定」とは異なり、必ず行わなければならないことを義務付けている規定を、「義務規定」といいます。
「義務規定」には、「~しなければならない」、「~してはならない」などと記載されており、かつ、義務違反の場合の罰則があわせて規定されていることもあります。
義務規定の場合には、義務違反の罰則が定められていれば、刑事罰、行政罰(過料など)の制裁(ペナルティ)を受けることがありますし、あわせて、義務違反によって損害を被った人から損害賠償請求を受ける危険もあります。
つまり、努力義務規定と義務規定の違いは、法律の条文にどのように記載されているかによって区別することができ、義務規定のほうが、努力義務規定よりも、違反した場合の責任が重くなります。
なお、義務規定の場合には、たとえ義務違反の場合の罰則がなかったとしても、義務違反に対する責任を問われることがあります。特に、義務違反によって、他人に損害を与えた場合には、損害賠償請求の際に、義務違反があった事実が重要視されます。
努力義務規定への対応は?
では、ここまでの努力義務についての基本的な解説をもとに、努力義務規定に対して、会社側(企業側)がどのように対応したらよいのかについて、弁護士が解説します。
努力義務というと、「努力をしなければならない」と言っているように聞こえますが、この場合の「努力」というのは、判断をする人によってさまざまに評価されることがあります。つまり、自分では「努力」だと考えていても、他の人にとって「努力」と思えないこともあるからです。
そして、法律の条文に記載された「努力義務」には法的拘束力がないため、「絶対にこのような行為を行わなければ、『努力している』とは評価されない」というルールもありません。
しかし、次に解説するとおり、「努力義務」だからといって全く対応をしないと、努力義務違反の作為・不作為によって損害を受けた第三者から賠償請求をされたり、行政からの指導を受けたりといったリスクを負うデメリットもあります。
努力義務規定への、適切な対応方法については、次の順序で検討してください。
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1「努力義務規定」の条文を良く読む
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2法律の趣旨を理解する
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3裁判例、弁護士のアドバイスを参考にする
過去の裁判例で、努力義務違反であると判断された例がある場合には、どのような行為を行えば、義務を満たしていると評価できるか、裁判例から判断をすることができます。
判断の難しい場合には、企業法務を取り扱う弁護士にご相談ください。
努力義務違反に対する制裁は?
さきほど解説しましたとおり、努力義務違反に対しては、法律上、罰則などの制裁(ペナルティ)が明文化されてはいません。
しかし、罰則などの制裁(ペナルティ)が定められていないことは、決して、「努力義務規定を守らなくてもよい」、「努力義務規定に違反することにはリスクが全くない」ということではありません。
むしろ、努力を怠っていたり、努力義務とは正反対の行為を行っていたりする場合には、法律上の罰則はなくても、その努力義務違反によって被害を受けた第三者から損害賠償請求を受けてしまう危険もあります。
法律の趣旨にそぐわない場合、監督官庁から行政指導を受けることもあります。行政指導もまた、それ自体法的拘束力(強制力)はないとされています。
注意ポイント
努力義務規定の多くは、義務規定としてしまうと守ってもらう個人・法人に対して多くの費用や手間を負担させなければならないなどの理由から義務の程度を弱めているのみであって、法律の趣旨からすれば守ってもらいたいことが定められているものです。
また、努力義務規定が、時間の経過、ルールの浸透などによって、義務規定に改正、変更されることも少なくありません。つまり、義務規定にすると厳しすぎる場合の努力義務規定でも、「守ってほしい」というのが法律の趣旨であるということです。
「企業法務」は、弁護士にお任せください!
今回は、法律の条文でよく使われる「~するよう努めなければならない」という努力義務規定について、その意味や、義務規定との違い、実際の対応や、違反した場合の制裁(ペナルティ)などを、弁護士が解説しました。
努力義務規定は、その法律の条文からだけでは、どのような行為を義務付けられているのかがすぐにはわからない場合が多く、軽く見てしまいがちです。
しかし、努力義務規定であっても、違反したときには、損害賠償請求などを受けてしまい、そのとき、法律の趣旨にしたがった努力をしていなかったことが不利に働くおそれもあり、注意が必要です。
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