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努力義務とは?義務との違い、努力義務に違反した時の制裁について解説

企業法務に関する法律には、努力義務が多く定められます。「努力義務」という言葉を文字通りに捉えれば、あくまで努力すればよく、対応せずとも全く責任がないようにも感じます。しかし、実際のところこの考えでは甘いと言わざるを得ません。

努力義務にどう対応すべきか理解しなければ、思わぬ不利益を負ってしまいます。企業の経営を考える際は特に、企業規模が大きいほど責任も増し、社会的な信用が大切になります。努力義務だからといって無視はできません。また、社内に目を向ければ、労働法の分野において、使用者は労働者に対し、働きやすいように多くの配慮を与える努力を要します。

今回は、努力義務の意味、努力義務と義務の違いと、努力義務に違反した場合の損害賠償請求をはじめとした制裁について、企業法務に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 努力義務とは、一定の行動をとるよう努力すべき義務を定めるもの
  • 努力義務と義務との違いは文言により区別され、違反した場合も制裁の有無に違いがある
  • たとえ努力義務に過ぎなくても、違反することには大きなリスクがある

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努力義務とは

努力義務とは、努力することを義務付けるような文言で定められた条項のこと。つまり、「一定の行動をすること」を義務付けるのではなく、「そのように努力すること」を義務付ける内容です。

努力義務のよくある定め方は、「〜するよう努めなければならない」「〜するよう努めるものとする」といった規定です。努力義務を定める条項のことを、努力義務規定といいます。

努力義務は、その規定される根拠によって、法律による努力義務、契約による努力義務の2種類に分けられます。

法律に定められた努力義務

法律に定められた努力義務とは、法律の条文として「〜するよう努めなければならない」「〜するよう努めるものとする」と規定された義務のこと。基本的には、努力義務として、当事者の自発的な行為を促し、期待する効果があるに過ぎません。

法律に努力義務が定められている場合には、「しなくてはならない」という強制的な義務ではありません。なので、違反した場合の罰則は定められていないのが基本です。違反しても法的に責任をとらされることはなく、刑事罰はもちろんのこと、過料などの行政罰による制裁を受けることもありません。

なお、努力義務と似た考え方に、配慮義務があります。

配慮義務は、「配慮」として一定の行為を義務付けられる点で努力義務とは異なりますが、通常の義務ほど内容が明確に定まっているわけではありません。

契約に定められた努力義務

努力義務は、契約によって定められることもあります。契約は、他者との約束を意味し、契約当事者は、約束した内容に拘束されます。この約束した内容を証拠として残すのが、契約書です。したがって、契約に定められた努力義務は、契約書における努力義務規定として確認することができます。

契約に定められた努力義務も、あくまで努力を求めるのみで、強制ではありません。契約書上も、努力義務違反によっては契約を解除されたり損害賠償請求されたりといった制裁を受けないのが原則です。

努力義務と義務の違い

努力を求めるだけの努力義務とは違って、必ず行うべき義務を定めるのが、通常の義務。その規定のことを単に「義務規定」と呼びます。努力義務と、義務との違いについて、よく理解してください。

努力義務規定と義務規定の違いは、条文の定め方によって区別できます。義務規定は、「〜しなければならない」「〜してはならない」などのように、命令形で定められます。

法律に義務が定められる場合は、どちらの意味だと解釈できるのか、条文の趣旨をよく検討して対応すべきです。解釈の参考として、法令の作成経緯に関する資料や、行政解釈などを参考にするのが通例です。

また、契約書に義務を定める際には、自社の意図が明確に反映されるよう、定め方を工夫しなければなりません。

そして、法律に定められた義務規定には、違反した場合の罰則が合わせて定められることも多くあります。義務規定の重要性に応じて、行政による注意指導や勧告などにとどまる義務もありますが、重大な義務だと、過料などの行政罰や、最悪のケースでは刑事罰を科せられることもあります。

あわせて、義務違反によって損害を受ける被害者から、損害賠償請求を受ける危険があります。損害賠償請求は、法律上の義務違反が不法行為(民法709条)に該当する場合、もしくは、契約上の義務違反が債務不履行に該当する場合に、民法上の要件に基づいて請求する権利が生じます。損害賠償の際には、義務違反があったことは重要な事情として考慮されます。当然ながら、義務規定のほうが、努力義務よりも違反した場合の責任は重く評価されます。

契約書の損害賠償条項のポイントも参考にしてください。

努力義務規定への適切な対応

では、ここまでの努力義務についての基本的な解説をもとに、努力義務規定に対して、企業がどう対応すべきなのかを解説します。

努力義務というと、「努力をしなければならない」というように聞こえます。しかし、一般用語としての「努力」は非常に多義的で、判断する人によって考えが異なります。一方からは「十分に努力した」と評価される行動も、他の人から見れば「努力が不十分だ」という例もあります。特に企業法務の場面は利害関係が錯綜し、利益の相反する人にとって「努力」の評価は分かれがちです。自分は「努力」だと考えている行動が、外から見ると「努力」と評価されないこともしばしばです。

努力義務規定への適切な対応方法は、次の順序で検討してください。

STEP
努力義務を定める条文を読む

努力義務を定めた法律の条文をよく読むことで、どのような努力が求められているか、理解できます。

努力義務規定それ自体だけでなく、その前後の条文が解釈の参考になります。多くの法律は、第1条に目的規定を置き、法律の趣旨を定めています。その目的に沿った行動をすることが、努力義務を果たす大切なポイントです。

STEP
法律の趣旨を理解する

努力義務には、それを定めた趣旨が存在します。法律の趣旨は、法律そのものだけでなく、政令や省令、通達、ガイドラインといった行政の資料が参考にされます。

法律制定時の資料を読み解き、法律が定められた際の議論を参考にすべきケースもあります。

STEP
裁判例を参考にする

過去の先例もまた参考になります。裁判例では、どのような行為をすれば努力義務を果たしたと評価されているのか、裁判所の判断を知ることができます。

その努力義務違反に対して制裁を課した裁判例がある場合、リスクを軽減するために特に参考とすべきです。

STEP
弁護士のアドバイスを受ける

弁護士は、多くのケースに対応した知識、経験を活かしてアドバイスできます。その義務違反について過去の先例がないときでも、類似の事例から類推して、リスクのより少ない方法を提案できます。

法律の条文に定められた努力義務には、法的拘束力がありません。しかし、努力義務だからとて、全く対応しないと、努力義務違反の作為ないし不作為について、行政からの指導や損害賠償請求など、一定の制裁を受けるリスクがあります。そのため、努力義務であっても正しく対応しなければなりません。

努力義務違反に対する制裁は?

前章の通り、努力義務の場合には、違反に対し、法律上は制裁が明文化されていません。つまり、法律の規定に「義務に違反した場合にはXXという罰則がある」とは定められていないのです。

しかし、これはあくまで法的な制裁が定められていないというだけ。違反に対して制裁が定められていないからといって、「努力義務を守らなくてもよい」「努力義務に違反するリスクは全くない」というわけではありません。むしろ、努力を不注意から怠っていたり、努力義務の趣旨とは正反対の行為をしたりすれば、大きなリスクがあります。

努力義務違反による損害賠償請求

努力義務違反の行為によって損害を受けた被害者がいると、損害賠償請求を受ける危険があります。

努力義務そのものの制裁はなくとも、行動を慎むべきケースは多くあります。全くの違法ではなくても、常識やマナーを守って行動すべきは当然。企業経営では、組織としての会社の責任は、個人よりも重く、節度を持った行動が求められます。

契約書に定める損害賠償条項は、次に解説しています。

行政上の制裁

努力義務に違反した行為が、法律の趣旨にそぐわない場合、監督官庁から行政指導を受ける可能性があります

行政指導もまた、努力義務と同じく法的な拘束力はありません。ただ、強制力のない行政指導ですが、従わなくてもよいわけではありません。行政の意向に逆らうことによって、事実上の不利益を受ける危険があるためです。

社会的な制裁

努力義務による制裁は、なにも法的なものに限りません。法律は、社会の情勢を反映するもの。法律に努力義務が定められているということは、そのような行動を推奨したいという社会の風潮が背景にある例も多いものです。

そのため、努力義務にあえて反する行動をとれば、社会的な評価が下がるおそれがあります。つまり、努力義務違反による社会的な制裁を受けるわけです。このような社会的制裁は、風評を気にすべき大企業ほど、より大きなリスクとなります。

風評対策を実施するため、炎上を監視する方法も参考にしてください。

努力義務は、将来に義務化されることもある

努力義務を甘く見てはならないのは、努力義務が将来において義務化される可能性がある点からも明らかです。

というのも、努力義務規定の多くは、一時的かつ暫定的なものだからです。例えば、法改正によって定められた義務を、施行時にはまずは大企業に義務付けるものとし、ただし、中小企業においては費用や手間が多くかかることから直ちには適用しない例がこれにあたります。この場合、決してその義務を守らなくてもよいわけではなく、単に即座の対応が難しい会社に限って、義務化を遅らせているに過ぎません。

このような趣旨で定められた努力規定は、時間の経過や、それに伴う法律ルールの浸透によって、徐々に義務化される方向へと進みます。既に、一律義務化される施行日が将来に迫っている法律も少なくありません。

努力義務だからと対応を放置していたら、いつの間にか義務化しているケースもあり、注意を要します。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、努力義務について、正しい対応を解説しました。

法律の条文でよく使われる「〜するよう努めなければならない」という努力義務規定。その意味や義務規定との違いをよく理解し、適切に対応すべきです。努力義務なら、違反しても責任を問われないのが原則ですが、対応を誤れば不利益を受けることもあります。あまりに常識はずれだと、違反に対して制裁が加えられるおそれもあります。企業として対応するなら特に、失敗した際の損失が、思いの外に拡大する危険もあるでしょう。

努力義務は、法律の条文だけ見ても、必要となる行為がすぐにはわからず、軽視されがちです。しかし、別に規則が定められていたり、通達やガイドラインなど、行政のルールを参考にすべき努力義務も多くあります。法律の趣旨にしたがって行動しなければ、不利に働くおそれもあり、注意を要します。

この解説のポイント
  • 努力義務とは、一定の行動をとるよう努力すべき義務を定めるもの
  • 努力義務と義務との違いは文言により区別され、違反した場合も制裁の有無に違いがある
  • たとえ努力義務に過ぎなくても、違反することには大きなリスクがある

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