企業で不祥事が発生したら、慎重な対応を要します。速やかに対処しなければ、事後対応の悪さがますます事態を悪化させてしまいます。誠意の見られない対応と評価されれば、企業の社会的信用を低下させ、二次的な損失も避けられません。
軽率な判断で誤った対応をせぬよう、有事に備えた事前準備をすべき。企業の不祥事への対応をマニュアル化するのが重要です。突然の不祥事は、業種・業態や企業規模、知名度を問わず、いかなる会社にも起こりえます。「自社に不祥事は起こらない」という甘い考えでは、適切な判断をスピーディにすることはできません。
不祥事が起こると課題は山積みとなり、即座に判断しなければ周囲の攻撃の手は止みません。不祥事の内容がSNSで拡散されて炎上したり、メディア報道されたり、記者会見が必要なケースもあります。社会的評価が落ち、顧客離れが進んだ結果、不祥事をきっかけに倒産に追い込まれる企業もあります。一方、対応が適切だと、逆に評判が上がる例もあります。
今回は、企業の不祥事における適切な対応と、不祥事対応マニュアルの必要性を、企業法務に強い弁護士が解説します。
- 企業の不祥事は、直後の対応を速やかにすれば、社会的評価を上げることができる
- 企業の不祥事への対応は、まず原因を調査し、正確な事実を公表することから始める
- 不祥事対応をマニュアル化し、社員によって対応が異なり信用を失うことを防ぐ
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企業の不祥事とは
企業の不祥事とは、不正会計や情報漏えいなど、企業の信用を失わせる出来事のことです。
企業の不祥事には、ヒューマンエラーやミス、過失によるものから、悪意のあるものまで様々あります。ただ、企業の活動が人の手によって行われる以上、不祥事をなくすことはできません。都合の悪いことを隠蔽すれば、その悪影響は更に拡大してしまうため、誠意ある対応は必須です。
企業の不祥事が起こると、第三者に与えた損害の賠償を請求されたり、行政指導を受けたりして、事業の存続の支障となってしまいます。
悪質な不祥事は、社長が逮捕されたり、刑罰を科されたりする事態に発展することもあります。
現代の不祥事対応では、メディアの報道やSNSによる拡散が、これら不祥事のリスクの拡大に拍車を掛けている点に注意を要します。不祥事を放置すれば、次のリスクがあり、最悪は企業の存立が危ぶまれることもあります。
- 企業の社会的信用が低下する
- ブランドイメージが失墜する
- 株価が急落する
- 経営者の個人責任を追及される
- 不買運動を起こされる
- 業績が悪化する
- 社員のモチベーションが低下する
- 愛社精神が低下する
- 離職率が上昇する
悪化した企業イメージは、社員の士気の低下にも影響します。離職率が上昇する一方で業績は悪化し、優秀な人材が採用できなくなるなど、不祥事をきっかけとして起こるトラブルは、負の連鎖を引き起こします。そのため、企業として、不祥事が発覚したら、早急な対応が必要です。
企業の不祥事の具体的な事例
次に、企業の不祥事の具体例について、よくある類型に分けて解説します。
粉飾決算・脱税などの不正経理
粉飾決算は、不正な経理によって実際より大きな利益が上がったかに見せかける問題行為、脱税は逆に、不当に少ない利益や過剰な経費を申告するなどして納税を免れる問題行為。いずれも不祥事として問題化する可能性の大きいトラブルです。
例えば、次のケースが記憶に新しいでしょう。
- グレイステクノロジー粉飾決算事件(2020年1月頃)
架空取引による売上を計上し、役員の自己資金で仮装入金していた事件。粉飾決算の発覚により、上場は廃止。一時は1株4235円から53円まで急落し、主要役員には損害賠償責任が認められた。 - カルロス・ゴーンによる有価証券報告書の虚偽記載(2018年11月頃)
日産立て直しで話題となったカルロス・ゴーンが、有価証券報告書の虚偽記載により、金融商品取引法違反で逮捕された事件。 - はれのひ事件(2018年1月頃)
架空売上を計上した決算書を作成していた振袖レンタル業者「はれのひ」が、成人式直前に倒産した事件。新成人に振り袖が届かない被害で話題になったが、銀行から融資金をだまし取ったとして有罪判決が下された。 - 東芝不正会計事件(2015年5月頃)
東芝が、2008年度から2014年度にかけ、総額1518億円の不適切会計を行っていたことが証券取引等監視委員会の検査によって発覚。第三者委員会が開かれ、経営陣の半数が引責辞任し、21億円の課徴金、3ヶ月の新規取引停止の処分が下された。
情報漏えい
情報漏えいは、企業の保有する重大な情報が外部に漏れてしまうことです。その中でも顧客などから預かった個人情報(氏名、住所、電話番号、クレジットカード情報など)を漏らすと、企業の信用を大きく下げる不祥事に発展します。また、ノウハウや顧客情報、製品情報といった企業秘密の漏えいも、不祥事に繋がる大きな問題です。
東京商工リサーチの調査によれば、2021年には120社の上場企業及びその子会社で個人情報の漏えいが発生しており、流出した個人情報の数は574万9773人分にも及びました。主な情報漏えいによる不祥事には、次の例があります。
- 楽天による情報漏えい(2020年12月頃)
システムの設定不備で、楽天、楽天カード、楽天edyの利用者情報最大148万1735件が漏えいした事件。 - PayPayによる情報漏えい(2020年12月頃)
PayPay株式会社が不正アクセスによる攻撃を受け、加盟店情報を流出させた事件。 - ベネッセ個人情報流出事件(2014年7月頃)
通信教育などを行うベネッセで、子どもや保護者の住所や氏名、電話番号などの個人情報が漏えいした事件。流出した顧客情報は最大で3504万件に及ぶ。同社は、個人情報保護法に基づく経済産業省の勧告を受け、消費者の信頼回復のため、謝罪文と共に顧客1人につき500円のギフト券を送付した。 - 三菱UFJ証券事件(2009年頃)
三菱UFJ証券の社員が、顧客情報約148万人分の個人情報を不正に引き出し、そのうちの一部を転売した事件。同社は、情報漏えいのあった約5万人に補償対価として1万円分の商品券を送付し、合計補償額は約5億円。
内部告発やリークといった悪意による情報漏えいが不祥事になるのを防ぐため、コンプライアンス(法令遵守)を徹底するに越したことはありません。また、セキュリティを徹底し、技術的に漏えいを防ぐ必要があります。
製品・サービスによる消費者被害
製造やサービスによる消費者被害でも、企業の責任が問われることがあります。製品・サービスによる消費者被害は、人の生命、健康に被害を生じる可能性あるとても危険な不祥事である反面、隠蔽されるおそれの強い性質を持ちます。
主な例には、次のものがあります。
- 三菱リコール隠し事件(2000年6月頃、2004年3月頃)
三菱自動車工業が、約23年間にわたり約69万台のリコールにつながる重要な不具合情報を、社内で隠蔽していた事件。その4年後には、大型トレーラーのタイヤ脱落事故をきっかけに、更に別の74万台ものリコール隠しが発覚。一連のリコール隠しの影響で販売台数は急減。民事訴訟はもちろん、刑事訴訟にまで発展する事態となった。 - 東京地裁平成31年3月19日判決
ノートパソコン搭載のバッテリーパックから発火して火災が発生した事件。パソコンを適正な方法で使用したにもかかわらず、バッテリーパックが充電中に突然発火したことから、裁判所は、通常有すべき安全性に欠けると判断。メーカーに製造物責任として約70万円の支払いが命じられた。
社員による問題行為
社員による問題行為も、企業の不祥事として、社会的信用に影響します。会社が組織として利益を上げ、社会活動を営む以上、その構成員である社員の行為について管理監督する責任を負うからです。
社員による問題行為の中でも不祥事に発展しやすいのは、セクハラ、パワハラなどのハラスメント行為、飲酒運転や交通事故といったケースが代表例です。
- ALSOK社員の窃盗未遂事件(2020年7月頃)
ALSOKの社員が、警備を担当するビルにマスターキーで侵入し、窃盗を試みた事件。警備会社の社員による、業務上の立場を利用した窃盗ということで報道で注目され、会社が謝罪する事態となった。 - 三菱電機パワハラ事件(2019年8月頃)
上司のパワハラによって新入社員が自殺した事件。同社は、上司を教育主任に任命した点などに安全配慮義務違反があったと認め、遺族に謝罪と損害賠償を行った。 - 電通過労死自殺事件(2015年頃)
電通で、新入社員の女性がうつ病にり患し、自殺した事件。1ヶ月の時間外労働が130時間に達していたほか、女性のSNSなどからセクハラ、パワハラを伺わせる事情が発見され、電通に50万円の罰金が命じられた。 - バイトテロの事例(2013年7月頃)
ローソン社員がアイスクリームケースに寝そべって悪ふざけをした画像がネット上で拡散されて非難が殺到。当該店舗は当面の間休業を余儀なくされ、謝罪するなど対応に追われた。
バイトテロをはじめとした社員の問題行為を防ぐには、社内の意識を向上させ、倫理観が欠如しないよう教育する必要があります。弁護士など外部の講師を招き、不祥事によるリスクについて研修を実施する方法が効果的です。
企業の不祥事の原因
企業の不祥事が生じるのには、原因があります。原因の理解が、不祥事直後の対応をスムーズに進めるのに重要なのは当然、再発防止のためにも原因究明は欠かせません。
よく起こる不祥事の原因となりやすい事情に、次のものがあります。
ヒューマンエラー
不祥事の原因の1つ目が、ヒューマンエラーです。
業種、業態にかかわらず、人の手で運営するビジネスである以上、過失は付き物。社員の不注意による事故を全くなくすことはできないから、事後対応を適切にすることで不祥事を防ぐべきです。
不正な動機
不祥事の原因の2つ目が、不正な動機です。
単なるミスではなく、不祥事を実行した人に悪意があると、トラブルは更に拡大します。その悪意の多くは、利益を得たいという欲求から来るケースが多いもの。遵法意識が低いと、自らの地位の向上、目先の利益の追及を優先しがちです。企業の果たす社会的な役割をよく理解させ、教育、指導を徹底しなければなりません。
コーポレートガバナンスの不整備
不祥事の原因の3つ目が、コーポレートガバナンスの不整備です。
人間に誰しも欲求があるのは当然ですが、理性で抑えていれば不祥事は起こりません。問題は、企業側が、不正な動機を打ち消すだけの傷害を構築できていない点にあります。コーポレートガバナンスは、企業が法令を遵守しながら統治を行う仕組みであり、組織としての体制を整備することで不祥事を防ぐ必要があることを意味します。
責任転嫁
不祥事の原因の4つ目が、責任転嫁です。
制度上の問題だけでなく、社風や文化、雰囲気が、不祥事の拡大に拍車を掛けます。ミスを上司に報告しづらい、発覚すると非難され、処分される、仲間同士の馴れ合いで事故が隠蔽されるといった企業は、不正行為の機会を自ら与えているに等しいもの。このような空気が蔓延すると、不正行為の責任が転嫁され、正当化される事態に繋がりかねません。
企業の不祥事における適切な対応
次に、企業の不祥事が起こったとき、優先的に進めるべき初動対応を解説します。
不祥事対応の責任者を決める
企業の不祥事への対応は、現場の担当者に一任せず、会社組織として、チームで対応すべきです。ただし、速やかな意思決定のためには責任者を決め、裁量を与える必要があります。
中小規模の企業では、法人代表者(社長など)を不祥事対応の責任者とすべきです。社長自ら対応することで誠意をアピールする意味もあります。規模の大きい企業ではコンプライアンス担当の役員や法務の責任者が対応し、メディア対応を要するケースは広報の責任者をチームに加えます。
不祥事に対応するメンバーは、初動が落ち着くまでは通常業務をストップし、緊急対応に集中します。そのために、不祥事対応の重要性を全社に説明し、理解と協力を求める必要があります。
連絡が錯綜し、情報漏えいに繋がらぬよう、対外的な窓口を決めて問い合わせを一元化します。
広く消費者に被害が生じた不祥事は、クレームが殺到するため、対応窓口を整備しないと収拾がつきません。被害が大規模なケースは、特設サイトでの公表、Q&Aの設置なども検討してください。
対応スケジュールを策定する
企業の不祥事が発覚すると、対処すべき課題はあまりにも多いもの。全て並行して進めようとすれば判断を誤ります。初めに不祥事の対応に優先順位を付け、スケジュールを策定し、初動を重視して進める必要があります。
調査の正確さも大切ですが、使える時間は限られます。メディア報道された不祥事、警察や所轄官庁の調査・処分が予定される不祥事などは、特に時間的な制約が厳しく、スピード重視の対応が求められます。
不祥事の原因を特定する
企業の不祥事に対応する方法は、原因によって異なります。そのため、不祥事を調査し、起こった原因を特定する必要があります。
例えば、粉飾決算・脱税などの不正経理なら、決算書や預金通帳といった客観的な資料を調査します。デジタルデータの調査を要するケースは、フォレンジックやデータ復旧など専門的なサービスを依頼すべきです。合わせて、不正をした人の出社を直ちに止め、口裏合わせをされないよう注意しながら一人ずつヒアリングを実施します。
また、製品による消費者被害の場合は、どの製品による被害か、製造時期、製造先、原因となった成分などを調査し、特定する必要があります。
事実を公表し、謝罪する
不祥事が対外的に知られていなくても、「公表せず沈静化できるのでは」という考えは甘いです。
企業の不祥事は、迅速に公表するのが最善となるケースがほとんどです。公表して謝罪すれば、これ以上の被害を抑えられます。企業のコンプライアンス(法令遵守)が重視される現代では、違法行為があるとメディアも盛んに報道します。ネットやSNSの普及で、消費者の目から不祥事が発覚し、拡散される危険もあります。
予期しないルートで不祥事が発覚すると、非公表とした点が「隠蔽」と評価され、信用はますます低下します。不祥事の隠蔽と非難されないよう、速やかに公開するのが基本です。
客観的な事実のみを正確に公表し、嘘をついたり隠したりするのも控えるべきです。
責任逃れ、隠蔽、偽装を疑われないよう、責任の所在を明らかにして、事実を正確に公表しなければなりません。そして、不祥事の公表の際には、あわせて次の対応をするのが適切です。
- 謝罪
原因が、企業側にある場合は、謝罪の必要がある。 - 被害抑止のための注意喚起
被害が拡大するおそれのあるとき、迅速に公表して情報提供し、注意喚起すべき。
(例:食品の異物混入、製品の健康被害など) - 被害製品の回収
被害の原因となった製品を回収し、補償する必要がある。 - 経営陣の責任
監督責任ある社長や役員が辞任するなどし、経営陣を刷新する。 - 問題社員の解雇
不祥事の責任が一社員にある場合、問題社員を解雇する。 - 行政への報告
所轄官庁への必要な報告を直ちに行う。
(例:保健所、労働基準監督署など) - 記者会見
重大な不祥事で、広く社会に公表すべきケースでは、記者会見をすべきことがある。 - 社員への箝口令
企業の公式発表のみを公表するため、社員のリーク、個人的な取材対応は控えるよう指示する。
再発防止策を講じる
不祥事への対応の最後に、再発防止策を講じます。
企業の不祥事が起こることで、原因となる問題点が明らかになったでしょうから、改善策を検討する必要があります。再発防止策について、必要に応じて、公式サイトやメディアを通じて社会に周知します。再発防止策は、社内の今後の指針ともなります。同じ過ちを繰り返さない姿勢を対外的にアピールするのが大切です。
企業の不祥事を抑止するために必要な体制作り
次に、企業の不祥事を抑止するための、必要な体制について解説します。
第三者委員会を設置する
社会問題となりやすい大規模な不祥事では、第三者委員会を設置して調査するのが適切な対応です。
不祥事対応において第三者委員会を設置すると、社外の専門家に、客観的な目線から調査されます。これにより、不祥事の隠蔽を疑われる危険を排除でき、公正かつ誠実な対応をする企業だとアピールできます。
内部通報窓口を設置する
不祥事が発生するリスクを軽減するには、内部通報窓口の設置は必須です。相互チェックと社内の自浄作用を働かせることによって、不祥事を未然に防ぐことができます。
内部通報窓口とは、社内で不正行為の疑いのあるとき、発見した社員が匿名で報告できる窓口です。適切な窓口が設置されていないと、上司に報告しても不正を見逃され、握りつぶされるおそれがあります。そもそも、報告すべき上司や社長に不正があるとき、構造上、対策ができなくなってしまいます。
不祥事対応をマニュアル化する
いざ不祥事が発覚したときには、冷静な判断が下せないおそれもあります。平時から、不祥事に備えて、対応をマニュアル化し、弁護士のアドバイスを得ておくのが大切です。
企業の不祥事が起こったとき、適切な対応を怠ると企業の社会的信用は低下します。顧客離れや、取引停止に繋がるだけでなく、信用低下によって株価が下落すれば、VCや個人投資家など出資者からも非難されるでしょう。取り返しのつかない判断ミスで、企業の経営が立ち行かなくなることもあります。
顧問弁護士を依頼する
不祥事対応の経験豊富な弁護士なら、平時のマニュアル作りに専門的知見からアドバイスできるのは当然、いざ不祥事が発覚した際の対応もサポートできます。また、不祥事の原因を詳細に分析し、再発防止策の立案を任せることもできます。
企業経営にはリスクが常に付きまとうため、常日頃から相談してリスクを軽減するには、顧問弁護士を依頼し、継続的にサポートしてもらう手が有効です。
まとめ
今回は、思いもよらぬ不祥事が発生したときに焦らぬよう、企業の不祥事への対応を解説しました。
不祥事の危険は常に存在します。企業経営にリスクが付き物なので、不祥事をゼロにはできません。しかし、トラブルが拡大せぬよう対策し、乗り越えるのが大切。平時から、不祥事の対処法をよく理解し、速やかに実行する必要があります。
企業の不祥事への対応は、会社組織で一丸となってする必要があり、マニュアル化して、社員教育を徹底すべきです。起こってから焦るのではなく、事前に対処法を決めておきましょう。また、不祥事が起こりづらいようリスクを管理するため、事前に弁護士のアドバイスを受けるのが有益です。
- 企業の不祥事は、直後の対応を速やかにすれば、社会的評価を上げることができる
- 企業の不祥事への対応は、まず原因を調査し、正確な事実を公表することから始める
- 不祥事対応をマニュアル化し、社員によって対応が異なり信用を失うことを防ぐ
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