情報通信技術が進歩して、会社の業務を行うにも、非常に利便性が高くなりました。パソコンを1人1台持っているのは当たり前の時代。会社も社員にPCやスマホを貸与し、スピーディなコミュニケーションをするようになりました。今や、メールを送れば、上司や同僚、取引先にも、すぐに連絡をとり、ビジネスを進めることができます。
しかし、便利さの裏には、ネットトラブルも多く潜んでいます。今回解説する「メールの誤送信」もその1つです。メールの誤送信はリスクがとても高く、甘くみてはなりません。最悪は、情報漏えい、企業秘密の漏えいにつながります。トラブルが拡大し会社の損失が大きいケースでは、誤送信をした社員に対し、解雇などの厳しい処分も検討されます。
今回は、メールの誤送信をしてしまった社員の解雇や処分などと、トラブルへの対応方法を、企業法務に強い弁護士が解説します。
- メールの誤送信には、情報漏えいやプライバシー侵害など法的なリスクがある
- メールの誤送信トラブルを拡大させぬよう、速やかに発見し謝罪するのが大切
- メール誤送信を繰り返させないよう、ミスをした社員には注意指導ないし処分を検討する
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メール誤送信の法的リスク
たかがメール誤送信と甘く見ると、とんでもない法的リスクが隠れているおそれがあります。
不注意が、大事故につながるおそれもあります。そのため、まずはメール誤送信の法的なリスクについて解説します。
情報漏えい
まず、最も重大なメール誤送信のリスクは、情報漏えいです。
自社の商品やサービス、ノウハウなどについて、機密情報を書いたメールを誤送信すれば、大問題。最悪は、競合企業に情報を奪われ、自社の競争力が失われてしまいます。
プライバシー侵害
ビジネスで授受するメールであっても、送信先の方の私的な事情を書いている場合もあります。
メールの受け手のプライベートな事情に関するメールを誤送信してしまった場合、プライバシー侵害になります。電話番号や住所など、個人情報を記載するメールを送るときには、特に注意を要します。
会社の信用低下
以上のように大きな法的リスクのあるのが、メールの誤送信。ですので、誤送信を繰り返す社員がいる会社だと思われれば、社会的な信用が低下し、企業イメージが悪化します。
情報管理の不適切な会社と、ビジネスをしたい取引先はいません。個人情報を預けたいと思う顧客も減ってしまうでしょう。その結果、売上は減少し、優秀な人材も離職する危険があります。
トラブルの早期発見のため、ネット上の炎上を監視する方法を参考にしてください。
メール誤送信した社員の処分は?
以上の通り、たかがメールの誤送信とはいえ、下手すれば情報漏えい、プライバシー侵害など大きなリスクにつながりかねないと理解できたでしょうか。社員にもそのことを理解させ、再発を防ぐには、反省を促さなければなりません。
そこで次に、不注意によってメール誤送信をした社員に検討すべき社内処分について解説します。
まずは注意指導する
メール誤送信は、幸いなことに、結果的には大きなトラブルにならないこともあります。とはいえ、だからといって放置してよいはずはありません。このとき、まずは原因となった社員に、注意指導をしてください。
注意指導は、後にトラブルに発展した際の証拠となるよう、書面で行うようにします。特に、メール誤送信を繰り返して、解雇せざるを得なくなったケースでは、社員側から、不当解雇だと反論され、労働審判、訴訟などで争われる可能性があります。このとき、会社が適切に注意指導し、改善の機会を与えていたことを主張しなければなりません。
改善されないときは懲戒処分を下す
注意指導を繰り返してもなお、不注意が治らず、メールの誤送信を繰り返す社員がいる場合には、次の段階に進まざるを得ません。このとき、次に検討すべきは、懲戒処分を下すことです。
懲戒処分には、軽い順に、譴責、戒告、そして減給、降格、出勤停止、さらには退職を前提とした諭旨解雇、懲戒解雇といった処分があります。メールの誤送信といった原因ならば、まずは譴責、戒告などの軽度の懲戒処分を下すことにより、反省と改善を促すのが適切です。
懲戒解雇は重すぎる
メールの誤送信は深刻な問題なのは事実です。残念ながら重大なトラブルにつながった場合には、そのようなメールの誤送信をした社員には、厳しい処分を下すべき。とはいえ、懲戒解雇は、会社が社員に下す処分で最も厳しいものであり、メールの誤送信という行為の性質が比較的軽微であることから、処分が重すぎると考えます。
よく検討をせずに、会社の一方的な判断で懲戒解雇としてしまうと、争われる可能性が高まります。労働審判や訴訟で争われ、不当解雇と判断されれば無効となってしまいます。
メール誤送信した社員の上司の責任は?
メール誤送信をした社員の上司に対しては、どのような処分をするべきでしょうか。
上司として、部下に対して、メールを誤送信しないよう、常日頃から教育、指導をする責任があります。とはいえ、メールの誤送信トラブルで、上司の監督責任まで問うことは、ケースによっては行きすぎの場合もあります。「メールは正しく送るべき」「誤った送信先にしないようにする」といった注意は、常識的なビジネスマナーであり、細部まで監督して注意するのは難しい場合もあるためです。
上司が「CC」に入っている場合など、誤送信に容易に気付けたにもかかわらず、放置して問題を悪化させたといった場合には、上司にも監督責任があり、社内で処分することも検討すべきです。
メール誤送信を予防する方法
以上のように大きなリスクがあり、会社として、経営者としても、部下がメールの誤送信をしないようくれぐれも気を付けたいものです。
メールの誤送信をしてしまうことを事前に予防できるに越したことはありません。次のことを、部下、社員に対して、きちんと教育、指導しておきましょう。
メール送信前に時間をおく
メールを書いてからすぐに相手に送信するのではなく、一度時間をおくようにしましょう。慌てていたり、その場の感情で書いたりしたメールをすぐ送ってしまうとミスのもとです。
具体的には、下書きとして保存したり、「後で送信」トレイに入れて保存したりして、少し時間を置くようにします。次章に解説するように、時間を置いて見直ししてから送れば、メールの誤送信は格段に減少します。例えば、新たな取引相手への提案のメールなど、重要性の高いメールは、一日寝かせて、翌朝に再度見直しをしてから送ってもよいでしょう。
念入りに見直しする
メールを送信する前の見直しも重要です。単に読みながら見直ししているだけでは、なかなか単純ミスが減りません。
指さし、声出し、場合によってはプリントアウトして確認をすることも大切です。重要なメールであるほど、手間は惜しまず、誤送信の予防の手を尽くすようにしてください。
スマホメールに注意する
最近では、リモートで仕事をする会社も増えてきました。スマートフォンが便利になった結果、パソコンと同じようにメールを送信できるようになりました。移動中に軽く返しておきたいメールなど、スマホで返信することも多くなったのではないでしょうか。
しかし、スマホの画面は小さく、ミスタッチもしやすいもの。スマホで送ったメールは、特にミスが多くなり、誤送信が増えてしまいます。まだ送るつもりがなく見直しや推敲しているうちに、ついタップして送信してしまうというミスも少なくありません。
CC・BCCに注意する
ビジネスメールの特徴として、複数人の相手に送るとき、「CC」や「BCC」などを利用することがあります。
取引先などが「CC」や「BCC」で送信してきたメールに返信をするときは、「全員に返信」などを利用することで、余計な相手先を入れてしまっていないかを注意し、メールの誤送信を減らしましょう。
メール誤送信が起きた後の適切な対応は?
最後に、ここまで解説したメールの誤送信の予防を徹底しても、起きてしまった事態への対処は必要です。残念ながらメールの誤送信を引き起こしてしまったとき、会社がどのように事後対応をしたらよいか、解説します。
重要な情報の記載されたメールの誤送信など、重大なトラブルが予想されるケースほど、スピーディな対処を要します。
社員のメール誤送信をすぐに把握する
メール誤送信に、会社として適切に対処するには、「メールを誤送信したら、すぐ報告する」という組織作り、風土づくりが重要です。というのも、早期発見に資するためです。メールの誤送信は「ミス」であり、社員の身では、なかなか社長や上司には報告しづらいと理解しなければなりません。報告しづらい雰囲気をそのままにしては、放置され、大きなトラブルになってから気付くのでは遅いでしょう。
そこで、会社や社長、経営者が率先して、「メールの誤送信は報告すべきもの」「すぐに報告して対処したなら、ミスは責めないこと」を、社員に周知、啓発しましょう。
メール誤送信の報告フォームを作る
それでもなお、誤送信を言い出しづらい社員は多いはずです。たとえ社長が率先してメールの誤送信を報告するよう促しても、結果的に出世や賃金に影響するのではないかと不安に思うのは当然です。少しでも報告のハードルを下げるには、匿名でも報告できるようにしておく体制作りが大切です。
メール誤送信の報告フォームを作成し、次のことを速やかに会社に知らせることを優先させてください。
- メールの誤送信をしてしまった事実
- 誤送信の日時
- 誤送信してしまった送信先と、本来の送信先
- CC・BCCの有無
- 添付ファイルの有無
- 重要な機密情報が含まれているかどうか
ポイントを絞った簡易なフォームにすることで、誤送信が社内で放置される可能性を少しでも下げるようにします。
謝罪メールをする
機密情報やプライバシーの侵害など、重大なトラブルが起こっているかもしれないのに、相手から指摘されてはじめて誤るのでは、自社の評判を下げてしまいます。誤って送信した先には、速やかにお詫びのメールを送り、謝罪すべきです。重大な被害が生じた際のお詫びメールは、会社として送信します。
誤送信した先に送信する謝罪メールは、例えば次の内容です。
件名:誤送信のお詫び
株式会社XXX
YY 様
平素より大変お世話になっております。
株式会社ZZZのAAでございます。
20XX年XX月XX日XX時XX分頃にお送りしたメールは、当方のミスにより、送信先を誤って入力してしまいました。ご迷惑をおかけいたしまして、大変申し訳ございません。
お手間をかけて恐縮ではございますが、当該メールは開封せず、破棄いただけますと幸いです。今後は、同じミスを犯さぬよう、確認を徹底していまいります。
何卒、ご理解いただけますと幸いです。
この度は、ご迷惑をおかけいたしまして、誠に申し訳ございませんでした。今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。
誤送信した相手に送る謝罪メールには、誤送信のメールを特定する情報(件名、送信日時など)とともに、謝罪と、誤送信メールを削除する依頼を記載しましょう。反感を買わぬよう丁寧に依頼するのは当然です。お詫びの内容が不適切だと、さらに苦情を招く原因ともなりかねません。すぐに謝罪メールを急ぐのでなく、まずは会社に報告させ、重要度に合わせて対応方針を検討するようにします。
メールの誤送信によって迷惑をかけた本来の送信先に謝罪をすべきかは、漏れた情報の重大さによって別途検討しなければなりません。
謝罪電話をする
謝罪メールを送信したら、改めて、相手方に対して、謝罪の電話をします。誤送信をした後の対応が、「改めてメールを送るだけ」というのでは、自社の信用は失墜してしまうことでしょう。
トラブルを起こしたとしても、事後の対応が丁寧であったことによって、逆に評判を上げる会社もあります。できるだけ丁寧に事実について謝罪をするようにしましょう。
企業で不祥事が起きたときの対応についても参考にしてください。
まとめ
今回は、メールの誤送信のリスクと、社内での適切な対応について解説しました。
メールの誤送信は軽く見られがちですが、大きなトラブルにつながりやすいもの。万が一にも起こってしまったら、速やかに対応しなければなりません。メールが発達し、ビジネス上のコミュニケーションのスピードは格段に速くなりましたが、その裏で、トラブルも増えています。そのため、メールの誤送信をした社員への処分によって、反省を促すべきです。
万が一、メールの誤送信をきっかけに機密情報の漏洩、プライバシー侵害など、大きなトラブルとなった場合には、お気軽に弁護士に相談ください。
- メールの誤送信には、情報漏えいやプライバシー侵害など法的なリスクがある
- メールの誤送信トラブルを拡大させぬよう、速やかに発見し謝罪するのが大切
- メール誤送信を繰り返させないよう、ミスをした社員には注意指導ないし処分を検討する
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