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表明保証とは?違反した場合の損害賠償についても解説

M&Aで、後のトラブルを避けるために欠かせないのが「表明保証」です。

表明保証とは、契約当事者が、契約締結時の事実関係や状態について「真実であり、正確である」と明示し、万が一虚偽があったときは損害賠償責任を負うという条項です。

M&Aでは、買収検討の判断材料となる情報を売り手が示し、買い手がデューデリジェンスにて調査します。その結果、最終合意の契約書に、表明保証条項を記載します。表明保証条項を適切に定めることは、両当事者にとって、責任の分担を決めるのに非常に重要です。

今回は、表明保証の基本的な仕組みから、違反時の損害賠償責任について、企業法務に強い弁護士がわかりやすく解説します。

この解説のポイント
  • 表明保証は、M&A取引の前提事実を明確化し、責任を明示する
  • 表明保証に違反した場合、損害賠償請求による責任追及が可能となる
  • 表明保証の実効性を確保するため、明確な条項とデューデリジェンスが必須

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表明保証とは

表明保証とは、契約当事者が、契約締結時点またはクロージング時点における事実や状況について、真実かつ正確であることを相手方に対して約束する条項です。つまり「表明」(ある時点における事実について「こうである」と明言すること)と、「保証」(表明した内容が真実であることに責任を負うこと)が合わさった言葉です。

万が一、事実と異なっていた場合、違反した側に損害賠償義務が発生します。M&Aをめぐるトラブルでは、表明保証の内容が争いになることが多く、条項の記載は特に注意を要します。

表明保証の目的

表明保証の目的は、デューデリジェンスで判明しなかったリスクが顕在化した際の損失を回避するためです。入念にデューデリジェンスをしても、対象会社の全ての問題点を調べ尽くすのは難しく、調査には限界があります。ケースによっては、売り手側が不利な資料を開示しなかったことで、リスクを見逃してしまうこともあります。

したがって、想定外のリスクが生じた際は、表明保証に基づいて金銭の調整を行います。

表明保証条項は、M&Aの当事者間で、信頼を担保するための契約上の義務となります。契約自由の原則のものと、最終合意書などに定めれば、その条項通りの内容を表明し、保証したこととなります。その場合、違反があれば、民法上の債務不履行責任(民法415条)や、場合によっては不法行為責任(民法709条)に基づく損害賠償請求をすることができます。

表明保証条項の具体例と一般的な内容

M&Aの取引では、買主が譲受対象企業のリスクを正確に把握できるよう、売主が多岐にわたる事実を「表明保証」することが通例です。

M&Aの契約書における、表明保証条項の具体例は、次のようなものです。

売主は、20XX年X月X日時点において、対象会社が訴訟その他の法的手続きに係属していないこと、かつ対象会社の財務諸表が適正に作成されていることを表明し、保証する。

買主側は、表明保証条項に可能な限りのリスクを網羅したいでしょう。一方、売主側は、将来のリスクを避けるため、内容の限定を希望します。最終的には、両者の交渉と調整によって条項の内容を決定しますが、一般には次のようなことが記載されます。

  • 株式の帰属
    売主が、対象会社の株式の所有者であること。
  • 財務情報や会計帳簿の正確性
    会計基準に従い、真実の通りに正しく作成されていること。
  • 訴訟リスクの不存在
    現在進行中または予見可能な訴訟や紛争が存在しないこと。
  • 開示資料の正確性
    デューデリジェンスの際に開示された情報に虚偽がないこと。
  • 許認可の取得状況
    事業に必要な許認可を、全て取得し、現在も保持していること。
  • 資産・負債の把握状況
    想定外の簿外債務が存在しないこと。
  • 税務コンプライアンス
    納税義務を適切に履行していること。

以上は、買主にとって極めて重要な情報であり、万が一虚偽があった場合、対象企業の価値を見誤ってしまいます。そのため、表明保証条項を定め、重要な事実に誤りがあったり、虚偽や隠匿があったりした場合に、損害賠償請求の根拠とするわけです。

M&Aの基本合意書」の解説

表明保証違反とは

次に、どのような場合に、表明保証違反となるか、その責任追及について解説します。

表明保証違反となる具体例

表明保証違反とは、契約当事者の行った表明保証が事実と異なっていた、あるいは不正確・不完全であった場合に成立する法的な責任のことです。例えば、以下の状況が典型例です。

  • 虚偽の記載
    売主が悪意をもって、明らかに事実と異なる情報を伝えた場合(例:直近の税務調査で追徴課税を命じられた事実を隠していた)
  • 不正確な情報の開示
    積極的な悪意までなくても、買主の意思決定に重大な影響を及ぼす事項に不正確な記載があった場合(例:売掛金の回収は可能と伝えたが、回収困難なものが含まれていた)
  • 表明時点からの変化
    表明時点では正確だったが、クロージングまでに変化が生じた場合(例:大口の取引先から契約を解除された)

表明保証違反が判明するタイミング

表明保証違反は、契約書の締結直後ではなく、後日判明することが多いです。

例えば、M&A契約において、契約締結日と取引実行日(クロージング)が異なる場合に、この間に事情の変更が生じ、クロージング後になって表明保証違反が明らかになることがあります。この場合、取引完了後も、契約書に定めた期間内であれば、違反の責任を追及できます。

M&Aでは、買主は通常、契約前にデューデリジェンスを実施します。したがって、表明保証違反が争いになるのは、デューデリジェンスによる調査でも把握できなかったリスクが、契約後に顕在化したケースです。

法務デューデリジェンス」の解説

表明保証違反に対する損害賠償

表明保証に違反した場合、損害賠償による責任追及をすることができます。民法上、表明保証違反の責任追及は、次の構成で行われます。

  • 債務不履行責任(民法415条)
    契約条項として定められた表明保証に違反した場合、契約違反の責任が生じる。
  • 不法行為責任(民法709条)
    悪意ある虚偽説明があるケースは、不法行為の責任を問える場合がある。

ただし、表明保証違反の責任を追及するには、請求側がその立証をする必要があります。

そのため、表明保証条項に、重要な事実が網羅的に記載されていないと、責任を追及できないおそれがあります。また、実際に被った損害額や、表明した事実が真実であったなら得られた利益なども、請求側が立証しなければなりません。

表明保証違反の損害賠償を請求する場合、まずは内容証明で相手方に通知して交渉し、決裂する場合には訴訟提起する流れとなります。「違反発覚後◯日以内に通知すること」など、契約書に手続きを定めた場合、これに従うのが原則です。

表明保証違反の責任追及の制限

例外的に、表明保証違反の責任追及が制限されるケースもあります。

契約書上の上限額がある場合

M&A契約において、表明保証違反の責任に上限を設定した場合、これを超える損害についての賠償請求はできません。売主側としては、責任が過大にならないよう、上限額の設定を積極的に交渉してください。

軽微な違反に過ぎない場合

表明された事実が少々異なっていても、取引の判断に影響しないなら責任は追及できません。つまり、「表明保証とは異なるが、企業買収の目的は果たされた」という場合、損害賠償を認める必要はありません。

裁判例でも、軽微な違反について表明保証の責任を否定した例があります。

東京地裁平成23年4月19日判決

譲渡人が表明保証の対象となる事項について「重要な点」で不実の情報を開示し、あるいは情報を開示しなかった事実も認められず、また、子会社の財務諸表の記載が一般に公正妥当と認められる会計基準に反していることを認めるに足りる証拠も見当たらず、実質的に見ても、譲受人が譲渡契約を実行するか否かを判断するに必要な情報は提供されていたということができる判示の事実関係の下においては、譲渡人は譲受人に対して当該表明保証に基づく責任を負わない。

買主が事実に気付いていた場合

表明保証違反に買主が気づいていた場合も、賠償責任を負わせるべきではありません。この点で、専門家が入念にデューデリジェンスを実施したにもかかわらず買主が問題に気付けなかったのであれば、売主は免責される可能性があります。

法務デューデリジェンスを依頼する弁護士は慎重に選択しなければ、専門家がリスクに気付かなかった場合にトラブルが拡大してしまいます。

東京地裁平成18年1月17日判決

原告が、本件株式譲渡契約締結時において、わずかの注意を払いさえすれば、本件和解債権処理を発見し、被告らが本件表明保証を行った事項に関して違反していることを知り得たにもかかわらず、漫然これに気づかないままに本件株式譲渡契約を締結した場合、すなわち、原告が被告らが本件表明保証違反を行った事項に関して違反していることについて善意であることが原告の重大な過失に基づくと認められる場合には、公平の見地に照らし、悪意の場合と同視し、被告らは本件表明保証責任を免れる余地があるというべきである。

表明保証を巡る実務上の注意点

次に、表明保証を巡る実務上の注意点について解説します。

表明保証は、M&A契約の信頼性と透明性を確保するのに非常に重要です。そのため、記載内容をしっかりとチェックしておかなければ、重大な法的リスクを抱えるおそれがあります。

表明保証条項の文言に注意する

表明保証条項は、M&Aの売主と買主の間の信頼の土台となります。そのため、不明確であったり抽象的であったりすると、その文言の解釈が争いの火種となってしまいます。

例えば、「重大な訴訟リスクは存在しない」と表明したところ、「重大」の基準が不明確であり、当事者間の認識に齟齬が生じて争いになるケースがあります。契約ドラフトの段階で、具体的な文言で、明確に記載しなければなりません。

実際に表明保証が争いになるのは将来のことなので、解釈の余地は最小限に留めるよう、くれぐれも注意してください。

表明保証保険(W&I保険)を活用する

表明保証保険とは、表明保証違反による損害を補償するための保険です(英語で「W&I保険」と呼びます)。主にM&A取引で利用され、近年は日本でも導入が進んでいます。

保険に加入しておけば、売主の責任を限定しやすく、早期のクロージングを促進することできます。買主にとっても、万が一の場合に、被害回復の確実性が高まります。

ただし、保険でカバーされる範囲は限定される点に注意が必要です。限度額や免責額、除外事項が定められている場合もあるので、過信せず、リスク分散の一手段に過ぎないと理解しましょう。

弁護士によるデューデリジェンスが重要

表明保証条項を定めたとしても、デューデリジェンスの重要性は変わりません。

買い手側で「万が一のときは表明保証違反として損害賠償請求をすればよい」と甘くみてデューデリジェンスを怠っていると、そもそも「調査によって気付けるはずだった」とされ、責任追及が困難となってしまう危険があります。

また、デューデリジェンスを行うことは、契約書に反映すべき表明保証の項目を特定するためにも重要です。したがって、M&Aにおける紛争を回避するには、事前に入念なデューデリジェンスを行うことが必須となります。

M&Aにおける弁護士の役割」の解説

表明保証に関するよくある質問

最後に、表明保証に関するよくある質問に回答しておきます。

表明保証違反があった場合、契約を解除できる?

表明保証違反が重大な場合、契約の解除が可能な場合があります。

M&Aの取引の根幹を覆すような大きな違反があれば、解除することができます。ただし、契約解除が認められるには、違反内容が、契約の目的を達成できないほど重大である必要があります。例えば、財務内容に虚偽がある、重要な法令違反があって事業の継続が困難であるといったケースは、契約を解除し、M&Aを中止すべきです。

M&A契約では、クロージングまでに買収対象会社に重大な悪影響が生じた場合に、買主が取引を中止できる「マテリアル・アドバース・チェンジ条項(MAC)」や「クロージング条件」によって解除権を留保することがあります。

中小企業のM&Aでも表明保証は必要?

表明保証は、英米法に端を発し、大規模なM&Aを中心に日本に普及しました。

しかし、中小企業やベンチャー・スタートアップ間のM&A契約であっても、表明保証条項の重要性に変わりはありません。企業規模にかかわらず、買収対象企業の実態に虚偽があった場合のリスクは共通です。むしろ、企業規模が小さい方が、資力が不足していて事後的な責任追及が困難となったり、法令遵守の意識が不十分でトラブルが起きやすかったりするおそれもあります。

したがって、取引規模の大小にかかわらず、法的保護の観点から条項を設けるべきです。

表明保証違反の責任は誰が負う?

表明保証に違反したとき、責任を負うのはその保証をした当事者です。

例えば、M&Aにおいて、売主が会社の財務状況や訴訟リスクについて表明保証をした場合、真実と異なっていた場合の責任は売主が負います。投資契約における表明保証なら、出資を受ける企業が責任を負います。

なお、ケースによっては、法人の代表者が個人保証する場合もあります。

以上のように、責任を追及されるおそれがあるため、表明保証条項を定めることによって、売主がデューデリジェンスにおける情報開示に積極的に応じやすいという付随的な効果も生じます。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、M&Aにおける表明保証について解説しました。

表明保証は、契約の信頼性を確保し、万が一のトラブル発生時には損害を補填するための極めて重要な条項です。クロージング前にデューデリジェンスをするとはいえ、全てのリスクが判明するわけではなく、表明保証によって将来のトラブルのルールを定めておくべきです。

表明保証に違反すると、損害賠償や契約の解除といった重大な法的責任が生じるので、契約締結時に慎重な検討が欠かせません。買い手にとっては万が一の紛争時の保険として、売り手にとっては過大な責任を回避するためにも注意してください。

複雑なM&A取引ほど、多くのリスクを網羅するために、表明保証条項が大部で難解なものになることがあります。表明保証に不安がある場合や、具体的な契約内容について判断に迷う場合は、弁護士に早めに相談すべきです。

この解説のポイント
  • 表明保証は、M&A取引の前提事実を明確化し、責任を明示する
  • 表明保証に違反した場合、損害賠償請求による責任追及が可能となる
  • 表明保証の実効性を確保するため、明確な条項とデューデリジェンスが必須

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