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有期契約社員の無期転換ルールについて、会社が準備すべきポイントまとめ

平成25年4月に改正された「労働契約法」によって、「無期転換ルール」というルールが、契約社員などの期間の定めのある社員に対して適用されることとなりました。

これは、期間の定めのある雇用契約を結んでいる会社は、その契約が更新され、通算期間が5年を超えることとなった場合に、労働者が希望すると、無期労働契約に転換される、というルールです。

そして、半年、1年といった一般的な有期労働契約の場合には、改正労働契約法の施行から5年目である平成30年4月以降、無期転換する社員が多く出現することが予想され、「2018年問題」といわれています。

この労働契約法改正による新しいルールは、政府の進める「働き方改革」の一環ですが、日本では、正社員の解雇は容易には認められないことから、無期転換することで「雇止め」による人件費の削減ができなくなることから、会社にとっては大きな問題です。

今回は、労働契約法の改正によって導入され、平成30年までには遅くとも会社として対処が必要な「無期転換ルール」について、人事労務を得意とする弁護士が解説します。

目次(クリックで移動)

1. 有期契約社員の特徴

「働き方改革」の一環として、無期雇用化をおし進める「無期転換ルール」ですが、会社にとっては非常に重要な課題となります。

日本では、労働者の解雇には厳しい制約があり、なかなか認められないため、業務量の変動によって人件費を調整する方法として、有期契約社員の「雇止め」が多く利用されてきたからです。

一方で、人手不足が深刻かしており、アルバイト、パート、契約社員などの、いわゆる「非正規社員」を正社員化する会社も多くなっています。良質な労働者であれば、長く雇いたいという気持ちは、会社の側にもあるようです。

「無期転換ルール」が導入される中で、有期雇用、無期雇用の特色を理解し、有期契約社員も、無期転換ルールによって無期雇用となった社員も、いずれも有効に活用することが、企業にとっては重要な課題となります。

そこで、「無期転換ルール」の詳細を説明する前に、まずは、有期契約社員の特徴と活用法について、人事労務を得意とする弁護士が解説します。

1.1. 有期契約社員が活躍する理由は?

近年、パートタイマー、アルバイト、派遣社員、契約社員など、いわゆる「非正規社員」と呼ばれる有期契約労働者が増加しています。

これまで、労働力の中心は無期雇用の正社員であり、企業は正社員の雇用を維持し、解雇をしてはいけない代わりに、業績悪化などの際に雇止めをして人件費を調整するために非正規社員を雇ってきました。

このことから、非正規社員は「雇用の調整弁」ともいわれ、非正規社員はあくまでも正社員の補助的な存在であり、景気が悪化したり仕事が減ったりすればいつでも削減でき、あまり注目されてきませんでした。

しかし、リーマンショックなどをはじめとする景気の悪化、先行きの不安から、多くの会社では、解雇しづらい正社員の雇用をひかえ、契約期間の満了によって雇用を終了できる有期契約社員、非正規社員を労働力として採用するようになりました。

一方で、労働者側としても、育児、介護などの家庭事情や、夫が多くの収入を得ているなどの理由から、非正規社員として、限られた時間、地域で労働したいという需要が生まれ、「非正規社員」が活躍するようになりました。

ただ、やはり非正規労働者が増えすぎてしまうと、このように望んで非正規労働者となる方だけでなく、正社員となりたいけれども働き口がなく、やむを得ず有期契約社員として雇用される労働者も多く出てきて、生活が不安定となってしまいます。

更には、正社員と非正規社員との間で、雇用の格差が拡大していったことから、有期契約社員の活躍は、労働者の生活の不安定化にもつながりかねない状況ともなりました。そこで、「働き方改革」の一環として登場したのが「無期転換ルール」というわけです。

1.2. 「正規」と「非正規」の違い

「正規社員」と「非正規社員」に、労働法における法律上の明確な定義があるわけではありません。

また、「正規社員」とは主に「正社員」と同じ意味と考えて頂ければ構いませんが、後ほど解説するとおり、「正社員」にも「限定正社員」という考え方もありますから、決して1通りではありません。

一般的に「正規労働者」といった場合には、次の3つの要件を満たす労働者のことを意味するとされています。正規労働者の方が、会社への帰属意識が高く、柔軟性の高い働き方をするものと考えられています。

 「正規雇用」の3要件 
  • 「無期雇用」
    :この要件を満たさない「非正規労働者」に、有期契約社員があります。
  • 「フルタイム」
    :この要件を満たさない「非正規労働者」に、パートタイマーがあります。
  • 「直接雇用」
    :この要件を満たさない「非正規労働者」に、派遣社員があります。

これら3つの要件「無期雇用」、「フルタイム」、「直接雇用」を満たす労働者が「正規社員」であり、いわゆる「正社員」です。

そして、正社員は、長期雇用を約束され、解雇が制限されている代わりに、企業に対する帰属意識の強い中心的な労働力であり、仕事が終わらなければ残業代をもらって長時間労働をする、厳しい勤務が予想されます。

これに対して、「非正規労働者」は、正社員だけでは行うことのできない業務量の変動を、いわば「調整弁」として対応するだけであったり、正社員よりも難易度の低い業務を受け持ったりします。

 「非正規雇用」の例 
  • パートタイマー
    :パートタイム労働法において定義される、通常の労働者よりも労働時間の短い労働者をパートタイマーといいます。
  • 契約社員
    :有期契約労働者を、一般的には契約社員と呼びます。フルタイムですが、契約期間に定めのある労働者のことです。
  • 嘱託社員
    :定年後に再雇用され、正社員の頃よりも責任や業務の負担を減らした上で、契約期間に定めのある労働者のことをいいます。
  • アルバイト
    :アルバイトの中にも、本業は学生の「学生アルバイト」から、本業がアルバイトの「フリーター」、主婦でもあるアルバイトまで多様なケースがあります。

最近では、「正規労働者」と「非正規労働者」の境界は、ますます曖昧になっています。また、「無期転換ルール」によって無期雇用となった場合にも、「正社員」と同等の条件となるかどうかは、会社のルールの定め方によります。

そのため、会社が「無期転換ルール」を有効活用するためには、「正規」と「非正規」の違いをきちんと理解した上で、無期転換した後の労働者について、どのように活用し、労働条件を処遇していくかを判断することがポイントとなります。

1.3. 有期契約社員の雇止めも制限される

無期雇用の場合、特に、中心的な労働力である「正社員」の場合には、解雇は「解雇権濫用法理」というルールによって厳しく制限されています。

すなわち、合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は無効となることが、労働契約法16条に定められています。

これに対し、有期労働契約の場合には、雇用期間の定めがあることから簡単に辞めてもらうことができるかというと、そうではありません。

期間内の解雇については、やむを得ない事由がある場合でなければ、契約期間が満了するまでの間に解雇することはできないとされ、この「やむを得ない事由」は、無期契約の労働者を解雇する場合の要件より厳しいものとされています。

では、契約期間の満了によって辞めてもらうことは可能であるので、契約期間を短くすればよいのかというと、これだけでは解決しません。

契約期間の短さについては、派遣労働者の場合には「日雇派遣(30日以内の派遣)の原則禁止」ルールがありますが、これ以外には、契約期間を短くすることは可能です。しかし、「雇止めルール」によって、有期契約を更新し続けたり、無期契約と同視できる状態であったりする場合には、「雇止め(更新拒絶)」もまた制限されるのです。

1.4. 有期契約社員の雇止めも予告義務がある

以上のとおり、有期契約労働者であっても簡単に辞めてもらうことができるわけではなく、何度も契約更新をしていると、「次回も更新してもらえるだろう。」という有期契約社員の期待を、会社は保護しなければならなくなります。

厚生労働省の告示では、次のいずれかの場合には、正社員に対する解雇予告と同様に、少なくとも「雇止め」の30日前に予告をしなければならないことが定められています。

  • 有期労働契約を3回以上更新している場合
  • 有期契約を更新し、1年を超えて継続勤務した場合

※ただし、あらかじめ更新しない旨を明示している場合を除きます。

この雇止めの予告は、解雇予告手当とは異なり、労働基準法(労基法)で定められたものではないことから、解雇予告手当を支払った日数分だけ予告日数を減らすことはできません。

また、法律上の義務ではないではないため、予告を怠ったからといって有期労働契約の「雇止め」が無効となるわけではありませんが、重要な判断要素として考慮されます。

また、雇止めの予告をした場合には、労働者が雇止めの理由について証明書を請求したときは、会社は遅滞なく交付しなければなりません。このことは、「解雇理由証明書」と同様です。

記載する雇止めをしない理由には、例えば次のような記載が考えられます。

 「雇止めの理由」の記載例 
  • 事業の縮小のため
  • 業績の悪化のため
  • 担当していた業務が終了したため
  • 前回の契約更新時に、次回は更新しないとの合意がされていたため
  • 雇用契約当初から、契約回数、期間に上限が設定されていたため
  • 業務遂行能力、業務態度が会社の求める基準に達していなかったため
  • 企業秩序を乱す問題行為を行ったため

1.5. 有期契約を有効に雇止めするためには?

有期契約を更新せずに雇止めするとき、有期契約社員の労働者との間で、労働トラブルとならないためにも、有効に雇止めできるような準備を、会社は怠ってはなりません。

まず、雇用契約を締結するときに、「契約更新の有無」、「契約更新の判断基準」について、書面で明示しておきましょう。このことは、労働基準法施行規則にも定められています。

「契約更新の判断基準」は、有期労働契約を締結した労働者が、契約期間満了のときに、更新されるかどうかについて一定程度、予見できる程度のもものが明示されている必要があるものとされています。例えば、次のような記載をすることが考えられます。

 「更新の有無」の記載例 
  • 自動的に更新する。
  • 更新する場合がある。
  • 契約の更新はしない。
  • ○年を上限として更新する場合がある。
 「契約更新の判断基準」の記載例 
  • 契約期間満了時の業務量によって判断する。
  • 有期契約社員の能力、業務態度によって判断する。
  • 会社の業績、経営状況によって判断する。
  • 担当する業務の進捗状況によって判断する。

また、①契約を反復更新し、無期契約と同視すべき状態の場合や、②契約の更新を期待される場合には、無期契約の労働者と同様に、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められなければ、「雇止め(更新拒絶)」は無効となります。

これを、「雇止め法理」といい、労働契約法に定められています。

この「雇止めの法理」において、雇止めの有効性を判断する要素は、主に次のようなものです。

 「雇止め」の判断要素 
  • 業務の内容が臨時的であるかどうか
  • 契約上の地位が臨時的であるかどうか
  • 継続雇用を期待させる言動があったかどうか
  • 更新の回数が少ないか、手続が厳格か
  • 過去に同種の労働者が契約更新されているか
  • 勤続年数の上限が合意されているかどうか

なお、雇止めを有効とするために、更新回数や年数に上限を設けることについて、入社時(雇用契約当初)に上限を設定していればまだしも、その後の更新時に上限を設けたとしても、労働者の期待を失わせることができないおそれがあります。

1.6. 不合理な差別はできない

会社は、有期契約社員と無期契約社員との間で、期間の定めがあるかどうかによって、労働条件を不合理に差別することが、労働契約法で禁止されています。

例えば、正社員には通勤手当を支給し、食堂を利用させながら、契約社員には、通勤手当を支給せず、食堂を利用させないといったケースは、労働契約法違反となります。

差別が禁止されている不合理な労働条件には、労働契約の内容となるものであれば、賃金や労働時間などの重要なものだけでなく、一切の待遇が含まれます。

そして、不合理な差別であるかどうかは、次の要素を総合的に考慮して判断されます。

 「不合理な差別」の判断要素 
  • 職務の内容(業務の内容及びその業務に伴う責任の程度)
  • 配置の変更の範囲
  • その他の事情

ただし、有期契約と無期契約との間で、労働条件が異なることが一切許されないわけではありません。職務内容が異なっていたり、責任の範囲、異動の範囲が異なっていたりすれば、一定の差別は許される場合があります。

なお、不合理な労働条件が無効となった場合には、無効となった労働条件は、無期契約の労働者と同一のものとなるというのが、行政解釈です。

また、会社が故意又は過失によって差別を行い、権利侵害となってしまったときは、社員(従業員)から損害賠償請求をされるおそれもあります。

2. 無期転換ルールとは?

「無期転換ルール」とは、平成25年4月1日より、労働契約法改正によって導入された、有期労働契約を更新して通算4年を超えた場合に、その労働者が申し込めば、無期契約に転換されるルールのことをいいます。

冒頭でも解説しましたとおり、近年増えている有期労働契約(非正規労働者)は、契約が更新されるかどうか、それとも更新拒絶されて雇用契約が終了するかどうかがわからず、不安定な状態にあり、保護が必要となるためです。

長期に有期労働契約を更新された場合には、今後も更新されるだろうという期待を保護する以上に、無期雇用と同程度の保護が必要であるという考え方から、「無期転換ルール」が制定されました。

2.1. 無期転換ルールの対象となる労働者は?

無期転換ルールの対象となる労働者は、無期雇用と同等に保護しなければならない、一定の要件を満たした有期契約社員です。すなわち、次の要件を満たす必要があります。

  • 改正労働契約法の施行日(平成25年4月1日)以降に新たに締結または更新された有期労働契約
    :施行日に既に開始していた契約は通算されません。
  • 有期労働契約を1回以上更新していること
    :更新をしておらず、雇用契約が1度しかない場合、5年を超えていても無期転換しません。
  • 雇用契約期間が、通算して5年を超えていること

以上のルールをカウントすると、法律が施行された平成25年4月1日より「無期転換ルール」の対象である「通算5年」を経過した平成30年4月から、多くの無期転換が生じることとなり、「2018年問題」と呼ばれています。

会社側(企業側)としても、2018年4月までに、無期転換ルールへの社内対応を済ませておかなければなりません。労働者側もまた、2018年に向けて、無期転換を申し込むのかどうか、決断を迫られることとなります。

「無期転換ルール」の対象となる労働者は、パートタイマー、アルバイト、契約社員など、名称を問わず、すべての有期契約労働者です。また、会社内の呼び方によらず、「無期雇用」であるか「有期雇用」であるかで判断されます。

なお、派遣社員の雇用関係は、「派遣元」との間にあり、「派遣先」とは雇用関係がありません。そのため、「派遣元」との間で、「無期転換ルール」を適用されることとなります。

2.2. 無期転換は、いつ申し込むの?

「無期転換ルール」を活用するとき、会社側としても、いつ労働者が無期転換を申し込んできたら対応しなけれならないのかについて、理解しておく必要があります。

無期転換の申込みは、有期労働契約の満了日において雇用期間の通算が5年を超える場合に、その契約期間の初日から末日までの間に申し込むことができることとされています。

当然ながら、「申し込むことができる」だけであって、無期転換を申し込むかどうかは、労働者の自由に任せられています。そのため、後に、「無期転換の申込みを行ったかどうか。」が労働トラブルの火種とならないよう、「無期転換申込書」などの書類を会社側で準備しておくことをお勧めします。

また、ちょうど5年を超える有期契約の途中で申し込まないことを選んだとしても、その後に有期雇用を更新した後、更新された雇用期間中に申込をすることもできます。

なお、無期転換を申し込まないことを契約更新の条件としたり、あらかじめ無期転換の申込権を放棄させたりすることは、法律の趣旨を損なうこととなるため、行政解釈において「無効」とされています。

2.3. いつ無期転換されるの?

条件を満たした有期契約労働者が無期転換を申し込むと、会社はこれを承諾したものとみなされます。したがって、会社側が、無期転換を拒否することはできません。

無期転換を申し込んだとき、実際に無期転換されるタイミングは、申込をしたときの有期労働契約が終了した日の翌日からとされています。

つまり、無期転換を申し込んだ契約の雇用期間が終了したとき、その次の雇用期間から、無期雇用社員となるというわけです。

無期労働契約の労働条件は、別段の定めのない限り、直前の有期労働契約と同一の条件であるとされています。したがって、取り扱いを変更したいと会社が考える場合には、就業規則などの整備が必要です。

2.4. 無期転換を回避することはできる?

「非正規労働者」を、会社内で有効活用できている企業であれば問題ないものの、これまでどおり解雇しづらい正社員の「雇用の調整弁」としての非正規社員しかいない場合、「無期転換を回避することはできないか?」が、会社側にとっての大きな問題となるのではないでしょうか。

しかし、行政解釈によれば、有期契約の労働者に、あらかじめ無期転換申込権を放棄させることは、公序良俗に反して無効であるものとされています。

また、有期契約社員を採用し、入社させるときに、無期転換に関わる条件を設けるときは、無期転換ルールを阻害することが禁じられています。つまり、無期転換の申込みをした社員に不利になるような社内ルールは、違法、無効となるおそれの高いものといえます。

有期契約社員の、契約更新について、回数、年数などの上限を設けることは可能であるものの、合理的な理由がないのに、無期転換ルールの回避だけを目的として上限を設けることは、不適切であり、無効と判断される可能性があるものとされています。

3. 無期転換のクーリングとは?

有期契約の「無期転換ルール」は、有期契約が更新され、通算5年を超えるときに適用されますが、この「5年間」という期間は、必ずしも完全に連続している必要はないものとされています。

つまり、有期契約の労働者が雇用を継続していたけれども、退職して一定の期間が空いた後で、更に再雇用された後であっても、前後の有期労働契約の期間を通算して5年を超えれば、無期転換ルールが適用されることとなります。

とはいえ、あまりに期間が空いている場合にまで労働者を保護すべきではないことから、一定以上の期間が空けば、無期転換ルールの通算の対象とはならない「クーリング期間」となります。

そこで次に、どの程度の期間が空けば、「クーリング期間」として十分であり、無期転換ルールが適用されなくなるのかについて、弁護士が解説します。

3.1. クーリング期間は「6か月」

有期労働契約に、一定期間の空白があり、その前後の有期労働契約のない期間(空白期間)が「6か月以上」であるときは、無期転換ルールとの関係では、通算する契約期間はリセットされます。

つまり、空白期間よりも前の有期雇用の期間は、無期転換ルールが適用されるかどうかを決める「5年間」の中には通算されません。

この場合には、「6か月以上」のいわゆるクーリング期間を経過した後の、次の契約からあらためて、「5年間」のカウントを始めることとなります。通算期間がリセットされるというわけです。

3.2. 1年未満の短期契約の場合は?

さきほどの解説のとおり、クーリング期間は原則として「6か月以上」であり、6か月未満の空白であれば、前後の有期契約の期間を通算して、5年を超えたところから「無期転換ルール」が適用されることとなります。

しかし、空白期間以前の雇用期間が短期間の場合には、6か月もの空白期間がなければ、その短期契約の期間まで通算されてしまうこととなり、妥当ではありません。

そこで、通算対象の契約期間が1年未満の場合には、6か月の空白期間がなくても、空白期間より前の契約期間の「2分の1以上」の空白期間があれば、クーリングとして十分であり、通算機関はリセットされることとなっています。

3.3. 1月未満の期間は切り上げ

無期転換ルールが適用されるかどうかを判断するときに、雇用契約の期間が5年を超えるかどうか判断する際、有期労働契約の期間や空白期間が、1ヶ月未満の端数がある場合、1ヶ月に切り上げることとされています。

したがって、どの程度のクーリング期間が必要となるかどうかを判断することは、専門的な知識が必要となることから、もしお悩みの場合には、人事労務を得意とする弁護士に法律相談ください。

通算期間と、必要となるクーリング期間(空白期間)は、複雑な計算となりますが、おおむね次のとおりとなります。

契約期間の通算 空白期間(クーリング期間)
2か月以下 1ヶ月以上
2か月から4か月以下 2か月以上
4か月から6か月以下 3か月以上
6か月から8か月以下 4か月以上
8か月から10か月以下 5か月以上
10か月~ 6か月以上

3.4. 通算とクーリングは「法人単位」

契約更新の通算は、「法人単位」となっており、「事業所単位」ではありません。したがって、他の事業所から異動、配転されてきた場合であっても、前の事業所で雇用されていた期間も通算されることとなります。

全国支店を持つ大きな法人などでは、有期契約社員を雇用するときには必ず履歴書をチェックし、通算されてしまうような契約期間がないかどうか、事前に確認が必要となります。

確認を怠って、過去に同じ会社の別支店で有期雇用されていた場合には、クーリング期間をおかずに雇用してしまうと、思いがけずに「無期転換ルール」の対象となってしまうおそれがあります。

地方の採用担当者に、必ず履歴書を確認させるか、すべて本社で一括してチェックするといった対応が、「無期転換ルール」の思わぬ適用を避けるために必須です。

4. 無期転換ルールの特例とは?

労働者の種類、雇用形態によっては、「無期転換ルール」を一律に適用することができないケースがあり、このような場合に備えて、法律は「無期転換ルールの特例」を定めています。

「無期転換ルールの特例」にあてはまる労働者は、その特例の内容ごとに、無期転換の申込みができなくなるなど、特別の取り扱いが定められています。

そこで次に、無期転換ルールを適用しなくてもよい、「無期転換ルールの特例」について、弁護士が解説します。

 注意! 

有期雇用特別措置法による特例、すなわち、後で説明する「高度専門職」の特例と、「継続雇用の高齢者」の特例のケースでは、特例を適用するにあたって、労働契約の締結、後進の際に、特例の対象となる労働者に対して、一定の事項を書面で明示することが義務付けられています。

無期転換できるかどうか、という点についての労働トラブルを回避し、労働者の理解を求めることが目的です。

すなわち、無期転換申込権が発生しない期間を書面で明示することが求められており、また、「高度専門職」の特例の場合、特例の対象となるプロジェクトの具体的な範囲を明示することが義務付けられています。

4.1. 特例を定める2つの法律

無期転換ルールの特例は、無期転換ルール自体を定める労働契約法とは別の、関連する2つの法律に定められています。特例の種類と、その特例を定める2つの法律は、次のとおりです。

  • 有期雇用特別措置法
    ・・・高度専門職の特例、継続雇用の高齢者の特例
  • 大学教員等の任期に関する法律等
    ・・・大学の研究者・教員等の特例

1つ目は、「有期雇用特別措置法」です。この法律は、平成26年11月28日に交付され、平成27年4月1日に施行されました。

この有期雇用特別措置法には、専門的知識を有する有期契約社員に関する「高度専門職」の特例と、定年後に引続き雇用される有期契約社員に関する「継続雇用の高齢者」の特例が定められています。

それぞれ、特例の適用を受けるために必要となる条件と、その特例によって無期転換申込権発生が延期される期間が異なりますので、後ほど解説します。なお、一定の計画を作成し、都道府県労働局長の認定を受ける必要があります。

2つ目は、「大学教員等の任期に関する法律等」で、平成25年12月13日に改正法が交付され、平成26年4月1日に施行されました。

研究開発能力の強化、教育研究の活性化などの目的で、大学等の研究者、教員等の無期転換申込権の発生までの期間を、10年に延ばすという特例です。

4.2. 計画の認定を受ける必要がある

「高度専門職」の特例と、「継続雇用の高齢者」の特例の場合には、計画を作成し、徒労府県労働局長の認定を受ける必要があります。

この認定は、「高度専門職」の特例については、特例の適用を受けたいプロジェクトが複数ある場合にはプロジェクトごとに必要とされ、「継続雇用の高齢者」の特例の場合には、1事業主につき1つの申請でよいこととされています。

計画の認定を受ける流れについて、弁護士が解説します。

4.2.1. 都道府県労働局へ申請

会社が、無期転換ルールの特例のために計画認定を申請する場合には、本社を管轄する都道府県労働局に申請を提出する必要があります。

会社として認定を受けることとなりますので、複数の事業場がある場合であっても、本社を管轄する労働局に提出すればよく、事業場ごとに提出する必要はありません。

4.2.2. 必要書類の提出

申請のときには、雇用管理措置の計画認定の申請書を作成し、添付書類とともに、それぞれ原本、写しの2部ずつ作成して提出する必要があります。

添付書類などは、事前に、管轄の労働局に確認しておくことがお勧めです。

4.2.3. 計画認定がおりる

申請を受けた都道府県労働局は、計画が適切であれば、認定を行います。会社は、認定を受けた時から、無期転換ルールの特例の適用を受けることができます。

また、計画認定は、認定を受けると、それ以前の期間についても特例の対象とすることができます。

例えば、「高度専門職」の特例の場合、計画の認定を、プロジェクトの開始後に受けた場合であっても、プロジェクトの開始時点から、無期転換ルールの特例の恩恵を受けることができます。

ただし、認定がおりるよりも前に、従業員が無期転換申込みを行っていた場合には、事後に計画の認定を受けても、無期転換ルールの特例を適用することはできず、無期転換されることになります。

したがって、計画認定は、遅くとも、無期転換申込権が多く発生する平成30年4月よりも前に受けておかなければなりません。

4.2.4. 労働者に周知する

「無期転換ルール」は、非常にインパクトの強い改正であることから、特にアルバイトや契約社員など、有期雇用されている従業員の中には、知っている人も多いことでしょう。

「自分は無期転換ルールの適用を受けられるはず」と期待している労働者も多く、特例によって適用を受けることができないとわかると、会社に対して反発したり、意欲を失ったりするおそれがあります。

無期転換ルールの特例を適用する場合、特例が適用され、無期転換できない労働者に対しては、事前に周知し、理解を得るよう努めることが大切です。

4.3. 「高度専門職」の無期転換の特例

無期転換ルールの特例のうち、「高度専門職」の特例とは、一定の「高度専門職」について、都道府県労働局長の認定を受けた会社に雇用され、そのプロジェクトに従事している期間、無期転換権が発生しないというものです。

プロジェクトは、毎年行われるものや、恒常的にあるものではないものとされています。

無期転換申込権が発生しない期間の上限は10年とされています。プロジェクトの開始後に認定を受けた場合であっても、まだ申込権が行使されていなければ、プロジェクト開始時から無期転換ルールの特例の適用を受けることができます。

専門職として特例の対象となる職種は、次のいずれかに該当するもののみとされています。

 特例の対象となる「高度専門職」 
  • 博士の学位を有する者
  • 公認会計士、医師、歯科医師、獣医師、弁護士、一級建築士、税理士、薬剤師、社会保険労務士、不動産鑑定士、技術史または弁理士
  • ITストラテジスト、システムアナリスト、アクチュアリーの資格試験に合格している者
  • 特許発明の発明者、登録意匠の創作者、登録品種の育成者
  • 大学卒で5年、短大・高専卒で6年、高卒で7年以上の実務経験を有する農林水産業・鉱工業・機械・電気・建築・土木の技術者、システムエンジニアまたはデザイナー
  • システムエンジニアとしての実務経験5年以上を有するシステムコンサルタント
  • 国等によって知識等が優れたものであると認定され、上記に掲げる者に準ずるものとして厚生労働省労働基準局長が認める者

また、無期転換ルールの特例の対象となる「高度専門職」は、一定以上の年収のあることが条件となります。有期労働契約の契約期間に、会社から支払われると見込まれる賃金額が、1年間あたり1075万円以上であることが必要とされます。

この年収要件は、確実に支払われることが見込まれる金額のみが対象となり、具体的には、個別の雇用契約書や就業規則、賃金規程で支払が約束されている賃金のことをいいます。

残業代、賞与(固定額で決められていないもの)、業績給、歩合給など、支払われるかどうかが未確定なものは、年収要件を計算するときには含まないこととされています。

 重要 

「高度専門職」の無期転換申込権が発生しない期間は、プロジェクトの開始の日から完了の日までの期間とされています。

最初の有期契約から起算することとされており、従前から雇用していた労働者を途中からプロジェクトに従事させる場合や、プロジェクトの途中から雇用するような場合、必ずしもプロジェクトの終了と申込権の発生時期が同時でない場合があります。

無期転換申込権が発生する期限が分かりづらい場合もあるので、弁護士などの専門家にご相談ください。

 参考 

なお、次の場合には、「高度専門職」の特例の適用がなくなります。したがって、次の場合には、その後には無期転換をされることがあるということです。

  • 特例の対象プロジェクトに従事しなくなったとき
  • 年収要件(1075万円以上)を満たさなくなったとき
  • 計画の認定が取り消されたとき

4.4. 「継続雇用の高齢者」の無期転換の特例

定年後に継続雇用される有期契約社員についても、その期間は無期転換申込権を発生させないというのが、「継続雇用の高齢者」についての特例の内容です。

一定の雇用管理に関する計画を作成し、都道府県労働局長の認定を受けることで、この特例の適用を受けることができます。

高年齢者雇用安定法では、会社は労働者を、65歳になるまで雇用確保措置を講じる義務を負っていますが、「特殊関係事業主」(グループ会社など)において継続雇用することも、この義務を満たすこととされています。

そして、無期転換ルールの特例においても、認定を受ければ、定年後にグループ会社などで有期契約される労働者もまた、特例の対象とすることができます。

 特殊関係事業主とは? 

「特殊関係事業主」とは、具体的には、①元の事業主の子法人等、②元の事業主の親法人等、③元の事業主の親法人等の子法人等、④元の事業主の関連法人等、⑤元の事業主の親法人等の関連法人等とされています。

なお、この特例は、あくまでも同じ会社に継続雇用された高齢者についてのものであって、高齢者であるからといって、無期転換ルールの特例を受けられるわけではありません。

例えば、60歳定年の会社に、60歳を超えてから有期契約社員として雇用される場合には、無期転換ルールの特例を受けることはできず、「通算5年」を超えて雇用を継続すれば、無期転換申込権が発生します。

4.5. 「大学教員等」の無期転換の特例

平成26年4月に施行された法律によって、大学教員等についても、無期転換ルールの特例が適用されます。具体的には、無期転換申込の発生までの期間が、原則5年であるものが、10年に延長されます。

「高度専門職」や「継続雇用の高齢者」の特例とは異なり、「大学教員等」の特例では、計画の作成、認定は不要です。

なお、大学に在学中、アシスタントとして有期契約社員となっている学生など、「大学教員等」に含まれない期間の有期契約期間は、通算されません。

特例の対象となるのは、次の「大学の教員等」です。

 特例の対象となる「大学の教員等」 
  • 科学技術に関する研究所などであって大学等を設置する者または研究開発法人との間で有期労働契約を締結したもの
  • 研究開発等に係る企画立案、資金の確保、知的財産権の取得・活用、その他の研究開発等に係る運営・管理に係る業務(専門的な知識及び能力を必要とするものに限る)に従事する者であって大学等を設置するもの
  • 大学等、研究開発法人および試験研究機関等以外の者が大学等、研究開発法人または試験研究機関等との協定その他の契約によりこれらと協働して行う研究開発等(以下「共同研究開発等」という)の業務に専ら従事する科学技術に関する研究者などであって当該大学等、研究開発法人または試験研究機関等以外の者との間で有期労働契約を締結したもの
  • 共同研究開発等に係る運営管理に係る業務に専ら従事する者であって当該共同研究開発等を行う大学等、研究開発法人または試験研究機関等以外の者との間で有期労働契約を締結したもの
  • 大学の教員等の任期に関する法律(任期法)に基づく任期の定めがある労働契約を締結した教員等

5. 無期転換後の労務管理のポイント

ここまでお読みいただければ、「無期転換ルール」の基本はご理解いただけたのではないでしょうか。

「無期転換」というと、人件費が固定化してしまうため回避しなければならない、と考える会社経営者の方も多いと思います。ただ、必ずしもそうではなく、無期転換を有効に活用して、人材定着を図ることも可能です。

そこで、次に、無期転換をした場合に、無期転換後の労務管理のポイントについて、弁護士が解説します。

5.1. 「無期転換=正社員」ではない

無期転換をしてしまうと人件費が減らせないから、無期転換は避けるべき、という考えの背景には、「無期転換=正社員」であるという誤解があるように思われます。

しかし、無期転換ルールは、有期労働契約を無期労働契約にするというルールであって、正社員にしなければならない制度ではありません。そして、契約期間以外の労働条件は、別段の定めを設けないかぎり、有期雇用契約と同じ内容になるのが原則です。

この「別段の定め」とは、雇用契約や就業規則、労働協約によることが通例です。

例えば、「無期転換した場合には、時給を○○円アップする。」、「無期転換した場合には全国転勤するものとする。」といった取り決めが可能です。

ただし、基本的なルールは、無期転換をする労働者が複数いる場合、一律に適用されるように、就業規則に定めておくのがよいでしょう。

5.2. 事前に労働条件を定めるべき

無期転換後の労務管理というと、「無期転換した社員が出てきたときに考えればよい。」と考える会社経営者の方もいるのではないかと思いますが、検討は早めに進めた方がよいでしょう。

というのも、無期転換を申し込んだ社員が無期転換してしまうと、その後に「別段の定め」を定めて労働条件を変更しようとしても「手遅れ」だからです。

無期転換した後に、労働条件を、労働者にとって不利益に変更することは、「不利益変更」であり、個別の同意があるか、合理的な就業規則の変更によるのでなければ不可能となってしまいます。

また、このような不用意な無期転換を避けるために、「無期転換をしない。」という労働条件をあらかじめ合意しておくことは違法、無効です。

5.3. 転換後の多様な働き方

ここまで解説したとおり、無期転換したからといって正社員にしなければならないわけではなく、また、無期転換を強制的になくすことも違法となってしまします。

また、中小企業の人手不足が深刻かをしている中、有期契約社員を、積極的に無期転換してもらい、優秀な人材の定着を図るという囲い込みも、よい選択肢です。

そこで、有期契約社員が無期転換をした場合に、次のようにいくつかの選択肢を用意することで、多くの有期契約社員の、様々な要望に応え、働きやすい環境を実現することを検討しましょう。

最近では、昭和的な「1つの会社に一生尽くさなければならない。」「死ぬほど残業して働くべき。」という価値観だけでなく、「好きなことをしたい。」「家族を優先したい。」といった多様な価値観が許される時代となり、無期転換を希望する社員の考えにも、様々なパターンがあります。

例えば、次のようなパターンです。無期転換した後の社員に対してどのような労働条件を用意するかは、労使の要望を調整しなければならない部分でもあり、会社の状況にあわせて設計する細かい調整が可能です。

  • 雇用期間が無期となるのみで、その他は有期契約と同様とするケース
  • 正社員と同様の労働条件で、全く同一の責任を負うものとするケース
  • 労働時間、勤務地、職種のいずれか、もしくはすべてについて正社員よりも限定された労働条件とする「限定正社員」とするケース

まずは、無期転換ルールを会社にもメリットのあるように活用するためにも、無期転換の対象となりそうな労働者の要望を聞き、御社にとって有効な労務管理について検討するのがよいでしょう。

6. 無期転換と「限定正社員」の活用

政府が積極的に主導している「働き方改革」においても、「限定正社員」の活用がキーワードとしてあげられています。

「限定正社員」は、正社員ではあるものの、これまで考えられてきたような典型的な正社員とは、働き方が大きく異なるものです。労働者の希望が多様化し、様々な働き方を用意している会社ほど、良い人材を確保しやすい時代となりました。

そこで、無期転換後の社員の定着を図るため、「限定正社員」を活用することを検討するのがよいでしょう。「限定正社員」の基礎知識と、その活用方法について、弁護士が解説します。

6.1. 限定正社員とは?

「限定正社員」とは、無期、直接雇用の労働者であるものの、職種、勤務地、労働時間など、労働条件の一部を限定した社員のことをいいます。すべてが限定されていない、昔ながらの正社員とは、働き方が大きく異なります。

平成26年7月、厚生労働省の有識者懇談会がまとめた報告書において、「多様な正社員」という名称でもまとめられています。

「正社員」といえば、昔は新卒で入社し、勤続年数が長くなるにしたがって「年功序列」で賃金があがっていき、定年までの「終身雇用」が保証されている、というイメージでした。

しかし一方で、現在はこのような典型的な正社員以外にも無期雇用の労働者を活用する道を考えた方がよいのではないか、という問題提起から生まれたのが、「限定正社員」なのです。

今回の解説のテーマである「無期転換ルール」との関係では、無期転換した後の無期契約社員の受け皿として、「限定正社員」が注目を集めています。

6.2. 二極化から多様化へ

「正規労働者」と「非正規労働者」の区別について解説をしましたが、このような「正規・非正規」という二極化は、過去のものとなりました。

「非正規労働者」の中にも、正規労働者となることを希望しながら非正規労働者の働き口しかなかった方や、非正規労働者でありながら正社員と同程度の責任を負い、同程度の業務を行っているという方など、境目の曖昧な働き方をしている労働者が多く存在します。

これと同様に「正規労働者」であっても、「非正規」との中間的な位置づけである「限定正社員」という働き方が普及することで、ワークライフバランス、労働時間などについて、労働者ごとの希望に合わせた働き方を選ぶことができるようになります。

更に、「正規=無期」、「非正規=有期」という考え方も、無期転換ルールがはじまることによって、境界があいまいになります。

6.3. 限定正社員による人手不足の解消

会社内で「限定正社員」の制度を導入し、普及させることは、深刻な人手不足を解消することにつながります。

特に、多くの中小企業では、少子高齢化による労働力人口の低下にともない、採用難となり、賃金水準をあげたり多くの採用コストをかけたりといった経費を増大させてでも、人材採用に躍起になっている会社が少なくありません。

限定正社員の制度を導入し、労働者の働きやすい環境をつくることによって、良い人材が長く定着する文化を育てることができます。

また、限定正社員は、昔ながらの正社員よりも、労働条件の一部を限定されている分だけ、賃金水準が低い傾向によります。おおよそ、正社員に比べて「8割~9割程度」とされており、優秀な人材であれば無期転換しても十分採算が合うことでしょう。

6.4. 無期転換しても限定正社員なら解雇しやすい?

無期転換ルールと限定正社員の関係について、無期転換をした後、正社員と同等の処遇をするのではなく、「限定正社員」として労働者を有効活用する、という方法が注目されています。

しかし、このように解説すると、「無期転換しても、限定正社員にしておけばいつでも解雇できる。」と誤解される会社経営者の方も少なくないようですが、この考え方は誤りです。「限定正社員」は、決して解雇しやすい正社員ではありません。

「限定正社員」であっても、解雇をするときには「解雇権濫用法理」が適用され、合理的な理由がなく、社会的にも不相当な解雇は、「不当解雇」として違法、無効となるからです。

ただし、限定正社員の、限定された労働条件の種類によって、解雇が有効か無効かを判断するにあたって、次のような点が異なる可能性があります。

  • 「勤務地」を限定された限定正社員の解雇のケース
    :整理解雇など、事業所や部署が廃止されることによって整理解雇される場合に、他の勤務地で働かせることを検討すべき必要性は、通常の正社員よりも低いものと判断される可能性が高いといえます。
  • 「労働時間」を限定された限定正社員の解雇のケース
    :懲戒解雇など、労働者の問題行為を理由とする解雇をする場合に、残業をしていないことは、解雇の合理的な理由とはなりません。
  • 「職種」を限定された限定正社員の解雇のケース
    :普通解雇など、労働者の能力、適性を理由とする解雇をする場合に、その適正を判断するにあたっては、総合職正社員に比べて、その限定された「職種」への適正のみが判断対象となりやすいといえます。

6.5. 無期転換後の限定正社員と、同一労働同一賃金

政府が推進している「働き方改革」においては、「同一労働同一賃金」の実現が大きな課題とされ、準備が進められています。

同一労働同一賃金とは、同じ労働を行う社員のすべてに全く同じ賃金を払うことを意味するのではなく、「有期か無期か」「正規か非正規か」といった雇用形態の違いによる賃金格差を合理的なものにしよう、という意味です。

したがって、無期転換した「限定正社員」と通常の正社員との間で、賃金格差があること自体は許されますが、その格差が、限定された「勤務地」「労働時間」「職種」などの内容によって、合理的に説明のつく格差である必要があります。

7. 無期転換ルールへの会社の対応手順とスケジュール

無期転換ルールの適用対象となる労働者は、遅くとも平成30年4月にはかなりの数発生することが予想されており、ここまでの解説をお読みいただければ、それよりも前に行っておくべき準備があることは、十分ご理解いただけたことでしょう。

無期転換ルールについて、労働者が言い出してからはじめて対応するようでは、無期転換前に行わなければならない対策をしそこねてしまうばかりか、法改正に対応しない「ブラック企業」という悪評の対象となるおそれもあります。

そこで、無期転換ルールについて、会社が行っておくべき対応の手順とスケジュールについて、弁護士が解説します。

7.1. 無期転換した社員の活用イメージを考える

有期契約社員が「無期転換ルール」によって無期雇用社員になったとしても、その雇用の仕方は「正社員」1通りにしぼられるわけではありません。

例えば、無期転換した無期雇用社員の活躍方法、可能性は、次のように多様なものがあります。

  • 正社員
    :優秀な労働力を確保しやすくするためには、正社員登用を検討しましょう。この場合、有期契約期間の早い段階から、登用をすることも可能です。
  • 限定正社員(勤務地限定など)
    :短時間勤務、地域を限定した勤務を希望する有期契約社員が、長期間会社で働き続けられるよう、一定の限定をつけて配慮をすることも可能です。
  • 雇用期間のみ無期の社員
    :正社員との間で技術的な格差が非常に大きい場合や、無期転換する社員が少数にとどまるような場合には、雇用期間のみ無期とし、その他の労働条件を変更しない方法が考えられます。

7.2. 無期転換ルールの整備をする

有期契約社員が無期転換したときの活躍のイメージがわいたら、次にいよいよ、無期転換ルールを整備していきます。

無期転換した労働者を、さきほどの3つの選択肢のうち、すべて正社員とするのではない場合には、正社員の就業規則以外に、無期転換者のための就業規則を作成する必要があります。就業規則についての準備は、後ほど解説します。

また、無期転換ルールの特例(高度専門職、継続雇用の高齢者)を活用したい場合には、計画認定を受ける必要があります。

7.3. 無期転換ルールの周知、教育を行う

無期転換ルールを会社がきちんと導入していても、労働者、特に有期契約社員に対しての周知が不十分であると、折角の制度が有効に活用されないままとなってしまいます。

そこで、会社としては、有期契約社員に対して「無期転換ルール」の説明をしたり、資料配布を行ったりする必要があります。

また、無期転換した社員を管理する上司が、「無期転換ルール」を正しく理解していないのでは、不適切な取り扱いやパワハラの火種ともなりかねませんから、管理職研修などによる周知も徹底しましょう。

7.4. 無期転換の実施

ここまでの準備は、遅くとも、平成30年4月までには行っておかなければなりません。

8. 無期転換ルールに向けた就業規則の整備

会社内のルールのうち、複数の社員に対して統一的に適用されるルールは、就業規則に定めておくことで、会社のルールを明確にすることができます。

そして、無期転換ルールは、有期雇用契約をしている労働者のすべてに適用されるルールですから、就業規則に定めておくことが適切な事項の1つです。

就業規則に、無期転換ルールについて、また、無期転換後の人事労務管理についてわかりやすく定め、労働者の理解を求めておくことによって、無期転換ルールに伴う労働トラブル、労使紛争をできる限り回避することができます。

8.1. 無期転換より前に準備することが重要

まず、無期転換ルールに関係する就業規則の整備は、無期転換よりも前に準備しておくことが必要となります。

というのも、就業規則を整備するよりも前に、うっかり無期転換してしまう社員が発生し、申込権を行使されてしまったとき、その無期転換した社員の取り扱いについてトラブルとなることが予想されるからです。

無期転換後の労働者の活用法、労務管理については、それぞれの会社ごとに、また、無期転換する社員の希望などによってもケースバイケースの対応が必要となります。

無期転換ルールに対する充実した対応を行うためには、会社ごとの事情を反映した無期転換社員の活用方法を検討するところから、多くの時間が必要となります。

8.2. 不利益変更にならない?

無期転換ルールに向けた就業規則を整備すべき、という解説をしましたが、既に会社内に就業規則がある、という会社も少なくないことでしょう。

就業規則は、労働者の重要な労働条件を定めるものであることから、労働者にとって不利益な変更をすることは困難です。具体的には、不利益変更の場合には、合理的なものであることが必要となります。

既に存在する就業規則を変更し、無期転換ルールについての規定を定める場合には、不利益変更に十分な配慮が必要です。

「無期転換ルール」自体は、有期契約社員にとって、無期転換という、より安定した地位を獲得できるため、より有利な規定となりますが、無期転換後の労務管理について、労働者にとって不合理かつ不利益な内容とならないよう注意しましょう。

8.3. 就業規則の適用対象を明確にする

就業規則は、必ずしも「1つの会社に1つの就業規則」と決められているわけではなく、雇用形態によって複数の就業規則がある、というケースも少なくありません。

この点で、無期転換ルールとの関係で特に問題となるのが、無期転換後の無期雇用労働者に、どの就業規則が適用されるのか、ということです。

適用される就業規則が明らかになっていないと、労働者側から、最も有利な就業規則を適用してほしい、という主張をされる原因となり、会社が考えていた以上の労働条件を、無期雇用労働者に与えなければならないことともなりかねません。

就業規則は、一般的に、「正社員就業規則」、「パートタイマー就業規則」、「嘱託社員就業規則」といった形で分かれており、最初の方の条項で、適用範囲について明記されていることが通例です。

この部分に、今後は、無期転換した後の無期労働社員や、「限定正社員」などについても、どの就業規則が適用されるかを明記しておかなければなりません。

8.4. 「限定正社員」の取り扱いを規定する

就業規則を整備するにあたっては、無期転換した後の社員の中でも、特に「限定正社員」の取り扱いを詳しく規定しておく必要があります。

というのも、「限定正社員」は、これまでの典型的な正社員とは異なり、多様化することが予想されますから、会社によってさまざまな扱いが考えられるためです。

したがって、「限定正社員」用の就業規則を別に作成したり、正社員用就業規則の中に、「限定正社員」について、その限定される労働条件ごとに詳しい定義を設けたりするといった準備が必要となります。

特に、「勤務地」、「労働時間」、「職種」など、限定をすることができる労働条件ごとに、その詳しい内容を定めておいてください。

8.5. 契約更新の上限を定める

有期労働契約について、更新上限を設けることができます。

無期転換ルールが作られる前であっても、一定程度の更新を重ねると、更新への期待が生まれるため、「雇止め法理」によって雇止め(更新拒絶)が困難とされているため、更新上限を設けることがありました。

例えば、「有期労働契約の更新を行う場合であっても、原則として労働契約期間を通算して5年を超えないものとする。」といった定め方です。

しかし、無期転換申込権を事前に放棄したり、不合理な雇止めをしたりすることは違法であり、無効と判断される可能性が高いものといえます。

8.6. 無期転換の申込み方法を定める

無期転換ルールの詳細は労働契約法に定められていますが、労働者がこのルールをよく理解できるよう、どのような労働者が、どのような方法で無期転換を申し込むことができるかについても、定めておくべきでしょう。

無期転換ルールについての周知、啓発を行わなかったことで、労働者が理解せずに無期転換を怠っていた場合、労使トラブルの火種となることが予想されるからです。

8.7. 無期転換後の解雇について定める

無期転換をした後の「限定正社員」は、解雇しやすい社員というわけではないことを解説しました。しかし一方で、合理的な理由があれば、無期転換をした後であっても解雇することが可能です。

そこで、無期転換後の解雇理由についても、就業規則に明記し、労働者に周知するようにしましょう。」

また、解雇だけでなく、労働契約の終了について、特に「定年」についての定めをし忘れると、無期転換した後の社員が高齢になったときトラブルの原因となります。

9. まとめ

今回は、平成25年4月に、労働契約法の改正によって導入された無期転換ルールについて、会社側の立場でその活用、対応のポイントを、弁護士が詳しく解説しました。

平成25年4月の施行日から「通算5年間」を経過する平成30年4月1日には、無期転換申込権の発生する労働者がかなりの数出てくることが予想され、今後は、「無期転換ルールの対象であるかどうか。」、「無期転換後の労働条件が適切であるかどうか。」など、無期転換ルールの適用に伴う多くの労働問題、労働トラブルが発生することが予想されます。

無期転換ルールへの対応をしていない、もしくは、十分に活用するための方針が整備されていないという会社経営者の方は、人事労務を得意とする弁護士に、お早目に法律相談ください。

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