御社ではパートタイムの労働者を活用していますでしょうか?労働力人口が少なくなる中、フルタイムでは働けない労働者を活用するためにも、ぜひパートタイム労働者の活用事例を検討しましょう。
パートタイム労働者を、会社内でうまく活用するためには、「パートタイム就業規則」がある方がよいといえます。
「就業規則」というのは、複数の労働者に対して統一的なルールを適用するために作成するものであるところ、「パートタイム労働者」は、正社員とは別のルールを適用すべきだからです。
正社員の就業規則を、より分かりやすくするためにも、パートタイム労働者に自分の処遇を理解してもらうためにも、ぜひ「パートタイム就業規則」の作成を検討してください。
今回は、企業の労働問題を得意とする弁護士が、「パートタイム就業規則」の必要性とメリットについて、パートを雇用している経営者に向けて解説します。
1. パートタイム就業規則は、必ず作らなければいけない?
「就業規則」は、10人以上の労働者を雇っている事業所には、必ず作成しなければなりません。
そのため、ある程度以上の規模の会社であれば、「就業規則」が備え置かれているのは当然です。
これに対して、パートタイム労働者だけに適用される、「パートタイム就業規則」は、必ず作成しなければならないとは義務付けられていません。
厚生労働省では、「パートタイム就業規則」の規程例が公開されていますが、パートタイム労働者を雇っていなかったり、雇っていたとしても少人数の場合には、パートタイム労働者専用の「パートタイム就業規則」を作成する必要性は高くないといえるでしょう。
労働基準法で定められた「就業規則」は、作成をするだけでは意味がありません。
作成をした就業規則は、労働基準監督署に届出をした上で、労働者に「周知」をしなければ、労働基準法上の義務を果たしたとはいえません。
なお、就業規則を作成すべき義務が生じる「常時10人以上の労働者」には、パートタイム労働者も含まれます。したがって、パートを含めて10人以上雇えば、就業規則が必要です。
2. パートタイム就業規則のメリット
冒頭から、「パートタイム就業規則は絶対作成しなければならないわけではない。」と解説しました。
それでもなお、パートタイム労働者を雇っている会社であれば、パートタイム就業規則を作成すると大きなメリットがあります。
2.1. 労働条件を正社員と区別できる
パートタイム労働者を雇っている会社では、当然ながら、パート以外に、正社員、契約社員など、さまざまな類型の従業員がいるのではないでしょうか。
このとき、パートタイム就業規則を作成しておくことで、労働条件が、パートタイムと正社員とで異なることを、明確に示すことができます。
特に、正社員とは待遇を分けていることが普通な労働条件は、次のようなものです。
- 正社員には賞与(ボーナス)があるが、パートタイム労働者にはない。
- 正社員には退職金があるが、パートタイム労働者にはない。
- 正社員は転勤が必須だが、パートタイム労働者は1つの事業所でしか働かない。
- 正社員には昇給があるが、パートタイム労働者の給与は固定である。
- 正社員には休職制度があるが、パートタイム労働者にはない。
- 正社員とパートタイム労働者の負うべき責任、役職、地位などが異なる。
一般的には、雇用契約書には、「就業規則で別に定める。」とされている場合が多くあります。
この場合、パートタイム労働者の就業規則を作成しておかなければ、正社員の就業規則が適用される結果、以上のような区別された労働条件について、誤解が生じるおそれがあります。
ここで解説したように、規定の内容として、正社員と明確に区別することはもちろん大切なことですが、これを越えて、パートタイム就業規則には、会社の態度を示す意味もあります。
というのも、パートタイム労働者に、「パートタイム就業規則と正社員の就業規則は別である。」ということをきちんと説明することで、正社員とは保護の度合い、労働条件の程度が異なることを理解させることができるからです。
2.2. 統一的なルールを作れる
他の類型の労働者との区別、というメリットを越えて、パートタイム就業規則を作成するメリットの2つ目は、パートタイムの統一的なルール作りにあります。
パートタイム労働者を大勢雇っている会社では、パートタイム労働者のルールについて、1人ずつ雇用契約書ですべて定めることには限界があります。
雇用契約書が大部になれば、その分、パートタイム労働者の労働条件についての理解も不十分となりかねません。
そのため、パートタイム労働者全員に適用されるような社内のルールについて、パートタイム就業規則で、統一的に作成しておくことに大きなメリットがあるのです。
2.3. パートタイマーが労働条件を理解しやすい
パートタイム就業規則を作成するメリットの3つ目は、パートタイム労働者に、自分の労働条件を理解してもらいやすいということです。
パートタイム労働者が少なければ、雇用契約書にすべての労働条件を定めておいてもよいのですが、雇用契約書が煩雑になり、自分の労働条件がわかりにくくなってしまうというデメリットがあります。
この点、パートタイム就業規則を、ルールブックとして作成しておけば、パートタイム労働者から見ても、自分の労働条件が一目瞭然です。
また、正社員との労働条件の差についても、きちんと理解してもらえます。
2.4. パートタイム労働法上の義務を果たす
パートタイム就業規則を作成する義務は、パートタイム労働法を含めた労働法のいずれにも定められていません。
ただし、パートタイム労働法では、パートタイマーにのみ、労働基準法に定められた事項に加えて、次の労働条件を、文書で通知しなければならないと定められています。
- 昇給の有無
- 賞与の有無
- 退職金の有無
- 相談窓口
これらの、パートタイマーにのみ通知が義務付けられている労働条件通知についても、パートタイム就業規則に定め、就業規則を見せることによって、簡単に通知することができます。
雇用契約書に記載することとしておくと、正社員のものに加えて追加で記載しなければならないため、忘れがちです。
3. パートタイム就業規則がないことによるリスクは?
パートタイム就業規則がないことのリスクは、メリットの裏返しにもなりますが、非常に重大です。
パートタイム就業規則がなく、会社に就業規則が1つしかない場合には、すべての労働者に、その就業規則が適用されることを意味しています。
そのため、パートタイム労働者の雇用契約書に「別に就業規則で定める。」という記載があるときはもちろん、そうでない場合であっても、労働審判や裁判で労働者から争われると、正社員用の就業規則に従わなければならないおそれがあります。
こうなってくると、会社として、経営者としては思いもよらない、正社員と同等の保護が、パートタイム労働者にまで与えられることとなりかねません。
「パートタイム就業規則」、「正社員就業規則」という名称の区別だけでは、対象となる労働者を区別するのに十分ではありません。
一般的に、就業規則のはじめの方の条項で、その就業規則の対象となる労働者を明記しているケースがほとんどです。
そのため、どの就業規則がどの労働者に適用されるのか、一義的に明確になっていなければなりません。
したがって、「パートタイム就業規則」を作成する場合、労働者から見て、自分がこの就業規則の対象となる「パートタイマー」にあたるのかどうか、定義を明確になるよう定めておくようにします。
逆に、パートタイマーには適用されない就業規則にも、明確に「パートタイマーには適用されない。」と明記しましょう。
4. 正社員の就業規則と同じで良い部分
ここまでお読みいただければ、正社員の就業規則とは別に、パートタイマーにだけ適用されるパートタイム就業規則を作成する理由は、十分ご理解いただけたでしょう。
しかし、パートタイム就業規則は、すべて一から作成しなおす必要はありません。というのも、パートタイム労働者であっても正社員であっても守るべき共通のルールを変更する必要はないからです。
例えば、企業秩序違反となる行為がどのような行為であるかといった事項は、パートタイマーであっても正社員であっても同様と考えられます。
したがって、正社員の就業規則を、法律にしたがってきちんと作成している会社では、パートタイム就業規則は、正社員の就業規則を修正しながら作成することが可能です。
逆に、正社員の就業規則すら整備されていない、もしくは、社内で雛形や書式をコピーしただけ、といった会社は、パートタイム就業規則の作成を機会に、就業規則の見直しをオススメしています。
5. まとめ
今回は、増加する「非正規労働者」のうち、パートタイマー(パートタイム労働者)を有効に活用するための、パートタイム就業規則について、弁護士が解説しました。
会社の経営者、人事担当の方で、会社内の就業規則に不安がある場合には、企業の労働問題を得意とする弁護士に、お気軽に法律相談ください。