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就業規則を作成する時の「過半数代表」のポイント!選出・意見聴取など

「就業規則」は、会社内で、複数の社員(従業員)に対して適用されるルールを定めるためのものです。

雇用契約書で個別に定めるよりも、より分かりやすく、また、場合によっては会社が一方的に変更できるメリットがあります。10人以上の社員がいる事業場では作成義務がありますが、それ以下であっても作成しておく方がよいでしょう。

「就業規則」を作成したり、変更したりするときには、会社は従業員の「過半数代表」を選出し、意見を聴取する必要があります。

今回は、就業規則を作成するときの、「過半数代表」の選出、意見聴取について、企業の労働問題(人事労務)を得意とする弁護士が解説します。

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1. 就業規則の作成に必要な「過半数代表者」とは?

「常時10人以上」の労働者を使用している事業場では、「就業規則」を作成し、労働者に周知する必要があります。会社内で共通のルールを、雇用契約書とは別に定めておくということです。

そして、この就業規則の作成の際には、次のとおり多くの注意事項を会社は守らなければなりません。そのうちの1つが、過半数代表者からの意見聴取です。

  • 作成、変更した就業規則を、労働基準監督署に届け出る義務があります。
  • 作成、変更する就業規則について、事業場の過半数代表の意見を聴取しなければなりません。
  • 作成、変更した就業規則を、労働者に対して周知する必要があります。

1.1. 過半数代表者とは?

就業規則の作成、変更のときに求められる「過半数代表者」とは、民主的な方法によって選出された、事業場の労働者の代表のことをいいます。

なお、事業場の労働者の過半数が組合員となっている労働組合がある場合には、その労働組合の意見を聴くことになります。

労働基準法における「過半数代表者」についての条文は、次のとおりです。

 労働基準法90条 
  1. 使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。
  2. 使用者は、前条の規定により届出をなすについて、前項の意見を記した書面を添付しなければならない。

1.2. 特定の労働者を対象とする就業規則の場合

「過半数代表」を選出して作成、変更する就業規則が、特定の種類の労働者だけを対象とする場合であっても、過半数代表は「全労働者の過半数代表」である必要があります。

 例 

例えば、「パートタイム労働者」を対象とする就業規則を、正社員の就業規則とは別に作成する場合であっても、意見聴取は、正社員を含めた全労働者の「過半数代表」に対して行います。

ただし、「パートタイム労働法」では、パートタイマーを対象とする就業規則を作成、変更するときには、「全労働者の過半数代表」に対する意見聴取とは別に、「パートタイマーの過半数代表者」の意見を聞くことを「努力義務」としています。

パートタイム労働法における条文は、次のとおりです。

 パートタイム労働法7条 

事業主は、短時間労働者に係る事項について就業規則を作成し、又は変更しようとするときは、当該事業所において雇用する短時間労働者の過半数を代表すると認められるものの意見を聴くように努めるものとする。

 事業主が講ずべき短時間労働者の雇用管理の改善等のための措置に関する指針 

事業主は、短時間労働者に係る事項について就業規則を作成し、又は変更しようとするときは、当該事業所に、短時間労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、短時間労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては短時間労働者の過半数を代表する者の意見を聴くように努めるものとする。

2. 過半数代表者の選出方法

就業規則の作成、変更に必要な、「過半数代表者」の選出方法は、労働基準法などの労働法にも決まったルールは定められていません。

具体的な選出方法は、会社が決めてよいわけですが、最低限、労基法規則に定められた次の要件を満たす選出方法で行う必要があります。

  • 就業規則の作成、変更のための意見聴取をする者の選出であることを明らかにすること
  • 使用者の意向によって選出されたものではないこと
  • 民主的な方法であること

2.1. 選出事項を明らかにする

まず、過半数代表者を選出する前に、「何のために選出するのか。」を明らかにしておく必要があります。

今回のケースでいえば、就業規則の作成、変更のための選出であることを、あらかじめ選出の際の書面などに明記しておきます。

なお、実務的には、選出事項が、就業規則のほかに労使協定の締結など、複数列挙されることが一般的です。

就業規則を複数回変更する場合には、変更のたびごとに過半数代表者を選任する必要があります。

2.2. 使用者の意向ではない

過半数代表者を、使用者の意向によって選出する例とは、例えば、民主的な選出方法を一切行わずに会社が指名した労働者を「過半数代表者」とするケースをいいます。

また、自動的に特定の役職にある労働者が「過半数代表者」となるようルールを定めることや、特定の範囲内からしか選出できないようにすることも、使用者の意向が反映されているため不適切な選出方法です。

 参考 

使用者の意向によってある一定の者しか過半数代表者になれないというケースだけでなく、過半数代表者になると事実上のプレッシャーがあるというケースも違法です。

例えば、過半数代表者になると、労働条件について不利益な取り扱いがされるといったケースです。

2.3. 民主的な選出方法

民主的な選出方法の例としては、「挙手」、「投票」のほか、「持ち回り決議」でもよいとされています。

過半数代表者の選出に少しでも問題がないよう、極力、干渉しないように、労働者の話し合いに任せるべきです。

3. 選出方法に問題があった場合は?

過半数代表者の選出方法に問題があったり、そもそも過半数代表者を選出していなかったりといったケースでは、どのように対応したらよいのでしょうか。

しかし、過半数代表者を選出していなかった場合であっても、就業規則自体がそれだけで無効になるわけではないものとされています。このことは、次のとおり裁判例でも認められています。

 秋北バス事件(秋田地裁大舘支部昭和32年6月27日判決) 

「労働者の意見を聴かないで一方的に就業規則を変更したとしても、それが法令並に労働協約に違反しない限りそれ自体は有効であって、その変更の効力には少しも影響がない」

ただし、変更の合理性に疑問が生じ、結果として就業規則の作成、変更が無効であると判断されるリスクはなお存在します。

また、労働基準法における罰則が適用されます。

4. 過半数代表者が就業規則に反対したら?

ここまでお読み頂ければ、会社が就業規則の作成、変更をするときには、過半数代表者についての労働法の知識が重要であることが、ご理解いただけたのではないでしょうか。

しかし、会社側(使用者側)に有利な就業規則を作成、変更するときには、社員(従業員)側では「反対」の意見が生まれることもあります。

過半数代表者が、就業規則の作成、変更に反対した場合の、会社側の対応について、弁護士が解説します。

4.1. 「意見聴取」で足りる

就業規則を作成、変更するときの、「過半数代表者の意見聴取」は、あくまでも「意見聴取」で足ります。

したがって、意見を聞けばよいのであって、その意見が「反対」であっても就業規則を作成、変更することが可能です。

つまり、「意見聴取」とは、「同意を得る」、「許可を得る」という意味ではないということです。

4.2. 反対意見への対応

従業員(社員)の過半数代表が、「反対」の意見を示したとしても就業規則の作成、変更はできるとしても、その意見は書面に残しておく必要があります。

具体的には、労働基準監督署に、作成、変更した就業規則を届け出るとき、過半数代表者が「就業規則に反対である。」という意見を述べたことを記載した書面を添付します。

4.3. 変更の合理性に注意

就業規則は、社内の統一的なルールを、会社側で一方的に定めることができる点に意味があります。しかし、労働者保護のため、労働者に不利益に変更する場合、その変更には「合理性」が必要とされています。

そのため、就業規則を労働者に不利益に変更するときは、できる限り労働者の同意を得る努力をした方がよく、過半数代表が「反対」の意見を示す場合、特に「その変更が合理的かどうか。」を慎重に判断してください。

5. 意見書への署名押印を拒否されたら?

さきほど解説したとおり、過半数代表者への意見聴取の結果は、その意見を記載した書面を添付し、労働基準監督署に提出する必要があります。

この際、意見聴取を適切に行ったことを証明するため、過半数代表者に、意見書への署名押印を求めます。「反対」の意見を強くもつ場合、過半数代表者が、この意見書への署名押印を拒否するケースがあります。

過半数代表者が、就業規則の作成、変更に反対し、意見書への署名押印を拒否したときの対応を、弁護士が解説します。

5.1. 署名押印は必須ではない

選出された過半数代表者が、意見書への署名押印を拒否したとしても、就業規則を作成、変更することは可能です。

会社側(使用者側)としては、必ずしも過半数代表者の「署名押印」が必須ではなく、意見を聞いた事実さえ立証できれば足りるとされているからです。

5.2. 署名押印の拒否への対応

過半数代表者が、意見書への署名押印を拒否したとき、意見を聞いた事実を立証し、適切に就業規則の作成、変更を進める具体的な方法を解説します。

具体的な対応としては、署名押印を拒否された場合、一定の期限を設けて過半数代表者に対して書面で署名押印を求めます。

この書面による署名押印の請求に対し、過半数代表者がさらに拒否を続ける場合には、その旨を書面にまとめ、就業規則を労基署に届け出る際に添付します。

6. まとめ

今回は、就業規則の作成、変更のときに必要となる、労働者の「過半数代表者」について、その選出方法を中心に解説しました。

「過半数代表者」を適切に選任しなければ、労働基準法違反となります。また、その他の事情を合わせて考慮し、最悪の場合、就業規則の作成、変更が無効となってしまうおそれもあります。

就業規則の作成、変更をお考えの会社経営者の方は、企業の労働問題(人事労務)を得意とする弁護士に、お気軽にご相談ください。

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