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アルバイトへのボーナス(賞与)不支給を違法とした裁判例

ボーナス(賞与)と聞くと、「正社員が頑張ったときのご褒美」、というイメージを抱くことが多いと思います。

しかし、アルバイトや契約社員、嘱託社員など、正社員以外の雇用形態だからといって、ボーナス(賞与)を支給してはいけないわけではありません。

むしろ、近時、アルバイトにボーナス(賞与)を支給しなかったことが、裁判所において違法であると判断された裁判例(大阪高裁平成31年2月15日判決)が出て、話題を呼んでいます。

今回は、大阪高裁の裁判例の紹介と、どのような場合にアルバイトなどの非正規社員に対してもボーナス(賞与)を支給しなければならないのかについて、企業の労働問題に強い弁護士が解説します。

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アルバイトへのボーナス不支給を違法とした裁判例

今回ご紹介する裁判例(大阪高裁平成31年2月15日判決)は、アルバイトへのボーナスを不支給としたことについて、大阪医科大学のアルバイト職員が、正職員がボーナスを支給されていることと比較して不合理な格差があるとして争ったケースです。

この裁判例において、大阪高裁では、「非正規社員であるアルバイトにもボーナス(賞与)を支給しないことは不合理である」と判断し、請求額の一部の支払を命じる判決を出しました。

この裁判例では、ボーナス(賞与)の不支給以外にも、夏期特別有給休暇(年間5日)、私傷病による欠勤中の賃金についても、正職員とアルバイト社員との労働条件の相違が不合理であるという判断をしました。

裁判例(大阪高裁平成31年2月15日判決)の争点は?

裁判例(大阪高裁平成31年2月15日判決)では、アルバイト職員として時給制で働いていた職員が、正職員と同様の業務を行っていたにもかかわらず、賞与をはじめとした労働条件に差異があることが違法であるとして、賞与の支払1270万円を求めました。

いわゆる「同一労働同一賃金」という考え方に基づいた主張です。

「同一労働同一賃金」とは、同種同様の業務をしている社員は、正規社員(正社員)であれ非正規社員(契約社員、アルバイトなど)であれ、同一の賃金を支給されるべきである、という考え方です。

上記裁判例では、「賞与」の金額が基本給だけに連動しており、年齢や成績に連動するものではないことなどを踏まえて、賞与算定期間に就労していたことの対価であり、一律の功労の趣旨が含まれると判断しました。

ボーナス(賞与)の趣旨についてこのように判断をすると、「賞与算定期間に就労していた」ということについては正職員であろうとアルバイト職員であろうと変わりないわけですから、「アルバイトであってもボーナス(賞与)が支払われるべき」、という判断となります。

実際、上記裁判例でもこのように判断されました。

ただし、長期就労への誘因などボーナス(賞与)にはその他の意味もあることや、契約社員に対して正職員の80%のボーナス(賞与)を支払っていることなどの事情から、60%を下回る支給しかしないのであれば不合理である、と判断しました。

アルバイトのボーナス(賞与)の注意点

アルバイトへのボーナス(賞与)不支給を違法であると判断した裁判例の内容をご理解いただいたところで、会社側(使用者側)の立場で、アルバイトのボーナス(賞与)を考えるときの注意点について、弁護士が解説します。

「アルバイトだから」という理由でボーナス(賞与)不支給は違法

今回紹介した裁判例でも示されたとおり、正社員ではない契約社員やアルバイト社員であっても、ボーナス(賞与)を支給しなければならない場合があります。これは「同一賃金同一労働」の考え方からも裏付けられます。

そのため、「アルバイトだから」という理由だけで、一律にボーナス(賞与)を支給しないと決めることは、違法の可能性が高いと言わざるを得ません。

ボーナス(賞与)をある社員に対して支払わないことを決める場合には、「アルバイトだから」という雇用形態を理由とするのではなく、他の理由を考えなければならないというわけです。

賞与の支給基準を明確にする

ボーナス(賞与)をどのような場合に支給するか、また、支給する場合にいくらの金額になるかといったボーナス(賞与)に関するルールは、労働基準法(労基法)をはじめとした労働法には書いてありません。

基本給とは異なり、ボーナス(賞与)を支払うかどうかは、会社側(使用者側)の裁量にある程度任されているからです。

そのため、アルバイト社員との間で、ボーナス(賞与)についての争いを起こされないためには、まず、会社におけるボーナス(賞与)の支給基準を明確にしておくべきです。

具体的には、賃金規程、賞与規程などに、支給要件、支給額を明示しておいてください。

賞与の支給基準に不合理な格差を設けない

ボーナス(賞与)の支給基準が明確に定められている場合であっても、その基準が違法なものであった場合には、争いの火種となってしまうことがあります。

今回紹介した裁判例で示されているとおり、「同一労働同一賃金」の考え方をもとにしながら、正職員と同一の労働をしているアルバイト職員に対して、正職員と同一の基準でボーナス(賞与)を支払うのであれば同額となるよう注意しなければなりません。

アルバイトと正社員との間で、賞与の支給基準、支給額に、「不合理な格差」がある場合には、後に裁判などで争いになると、アルバイトに対しても、正社員を基準とした賞与を支払わなければならなくなるリスクがあります。

アルバイトと正社員の賞与の格差をつける方法

とはいえ、正社員のほうが責任が重かったり、転勤が必要であったり、残業が必要であったりなど、アルバイトよりも多くの賞与をもらうべき正当な理由がある場合もあります。

アルバイト職員に対して、「アルバイト職員だから」という理由ではなく、責任の重さや長期勤続への誘因などを基準に、正職員とは異なるボーナス(賞与)の支払い方をすることは、この裁判例をもとにも可能です。

ただし、正職員とアルバイト職員とで支給額に差異を設ける場合、その差異があまりにも大きいと、やはり不合理な相違として違法と判断されるリスクがあります。

アルバイトへの、適切なボーナスの払い方は?

アルバイトにもボーナス(賞与)を支払うべき場合があることを理解していただけたでしょうか。

しかし一方で、法律は、アルバイトに支払うべきボーナス(賞与)について、支払方法、支払時期、支払額などのルールを全く定めていません。そのため、会社ごとに、適切なボーナスの払い方を判断しなければならないのです。

そこで最後に、アルバイトにボーナス(賞与)を支払う場合の、適切な支払い方について、弁護士が解説します。

アルバイトへのボーナスの支払時期は?

アルバイトへのボーナス(賞与)の支払時期は、正社員と同じ時期に合わせる形で構いません。正社員と同時期の支給としたほうが、ボーナス(賞与)の計算や振込などの手間が一度で済みます。

通常の場合、夏季賞与が6月~7月頃、冬季賞与が11月~12月頃というのが一般的です。

繁忙期や決算期など、会社の税務・会計処理に都合のよいタイミングにあわせてボーナス(賞与)を支給することもできます。

また、短期のアルバイト社員にボーナス(賞与)を支給する場合には、単月ごとの売上に応じて、インセンティブ給、達成報酬などを支給してもよいです。

アルバイトへのボーナスの支払い方は?

アルバイトへのボーナス(賞与)の支払い方は、会社ごとに定めている賃金規程、賞与規程などの定めにしたがって行います。

一般的には、各月の給与と同様に、銀行振込などの方法によって支払いますが、短期のアルバイト社員のボーナス(賞与)などの場合には、現金支給でも問題ありません。

給与明細や源泉徴収票にも、ボーナス(賞与)を支払った旨の記載を残しておきましょう。

アルバイトのボーナス額の相場は?

アルバイトのボーナス額(賞与額)について、相場は明確には決まっていません。というのも、アルバイトの勤続年数や貢献度などに応じて、支払うべきボーナス(賞与)の金額も様々だからです。

「月額基本給の○か月分(○%)」といった形で、ボーナス(賞与)の支給基準を決定している会社が多いです。評価の程度によって、乗率が増減することもあります。

なお、アルバイト社員の中には、「扶養の範囲で働きたい」と考えている社員もいるため、「年収103万円」を超える高額なボーナス(賞与)を支給するときには、社員の意向も聞いておきましょう。

「人事労務」は、弁護士にお任せください!

今回は、裁判例(大阪高裁平成31年2月15日判決)を紹介しながら、アルバイト社員をはじめとした非正規社員に対するボーナス(賞与)支給の注意点について、弁護士が解説しました。

アルバイト職員のほうが正職員よりも業績への貢献が少なく、出勤日数も少なく、責任も軽いことが多いのではないでしょうか。

それでもなお、「アルバイトだから」という理由だけで、ボーナス(賞与)を不支給とすることは違法と判断される可能性が高いといえます。

いまいちど、御社のボーナス(賞与)や賃金の支給基準を見直し、裁判例に照らしても違法と判断される可能性がないかどうか、企業の労働問題に詳しい弁護士にご相談ください。

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