レベニューシェアで報酬を定める例が増えています。レベニューシェアは、発生した収益に応じて利益配分やコストの負担を決めます。ベンチャーやスタートアップなど、特に規模の小さい企業において、リスク少なく、小回りの効くビジネスの始め方として有効な戦略です。
レベニューシェア方式で報酬を決めるときに結ぶ契約が、レベニューシェア契約。その契約内容を記載するのが、レベニューシェア契約書です。レベニューシェア契約書では、特に、報酬の定め方に注意を要します。レベニューシェアは、よくある固定の業務委託料と比べて特殊な報酬の形式です。契約条件をよく合意しておかねばトラブルの元だからです。
レベニューシェアの契約書は、魅力的なアイディアや技術があっても実行する初期投資が用立てられない企業にとって有効です。自社だけではリスクを負いきれないほど大規模なビジネスも、レベニューシェアなら実現可能です。
今回は、レベニューシェア契約書のテンプレートをもとに、報酬の定め方など、契約書チェックのポイントについて、企業法務に強い弁護士が解説します。
レベニューシェア契約書とは
レベニューシェア契約書とは、事業から生じた収益に応じて、利益や費用の配分を決めるという契約書です。
ビジネスを協業する企業間で、互いの分配について定めるとても大切な契約書です。レベニューシェア方式を用いる契約は、委任、準委任、請負などの契約類型。業務委託された作業を遂行した結果、成果物が得られるなど、顧客からの収益が見込めるケースに多く見られます。
レベニューシェアの契約当事者となる企業同士は、リスクとリターンを共有し合う関係といえます。
レベニューシェアの契約をすれば、もはや単なる取引相手ではなく、ビジネスパートナーといったイメージに近付きます。両当事者の負うリスクやコストが大きいときには、共同経営者ともいえるほど親しい関係となります。
レベニューシェア契約書に定められる報酬の割合は、コストの負担割合にもつながります。内部的な問題だけではなく、そのレベニューシェアの契約関係の外部でも意味があります。つまり、その事業が第三者に及ぼす損害などについて、責任の分配にも影響します。レベニューシェアの割合をしくじれば、利益が得られないだけでなく損するおそれもあるのです。
また、レベニューシェア契約書の当事者は、2社間に限定されているわけではありません。複数の会社が、それぞれの得意とする事業領域で力を出し合い、上がった収益から割合的に報酬を受けとることも、レベニューシェアならば可能です。
このとき、自社の義務、業務の範囲に見合った報酬がシェアできないと、利益が得られません。つまり、割に合うか、採算がとれるかどうかは、ビジネスを始める前に、レベニューシェア契約書のチェックで明らかになります。
レベニューシェア契約書のメリット・デメリット
次に、レベニューシェア契約書を有効活用するため、そのメリット、デメリットを解説します。
2社間でレベニューシェア契約を交わすとき、発注者側のメリットは受注者側にとってデメリットに、逆に発注者側のデメリットは受注者側にとってメリットになります。したがって下記では、いずれの立場からもメリットとして活用できる点にポイントを絞って解説します。
発注者側のメリット
レベニューシェア契約では、期待できる収益を、割合的に分配するとともに、費用もまた同じ割合で分配します。そのため、発注者側にとって、費用少なく、より大きな規模のビジネスを遂行できるメリットがあります。成功の見込めるビジネスは、レベニューシェアなら、初期費用を準備できずとも、受注側にもリスクを負わせてスタートできます。
発注する側にとって、レベニューシェアで報酬を定めれば、初期費用が少なくて済みます。魅力的なアイディアはあれど実行する資金力のないベンチャーなどは、外注する際にレベニューシェアを積極的に検討しましょう。また、レベニューシェアでは、受注する側もまたリターンを共有できるため、最大限にコミットすると期待できます。
初期費用を抑えられる分、幸いにしてビジネスがうまくいった場合には、最終的にかかるコストが高くなるおそれがあります。
大きな利益が得られた場合には、結果的にはレベニューシェアより、固定の費用を支払ったほうが安く住むケースもあるからです。
受注者側のメリット
受注する側にも、レベニューシェアの契約はメリットがあります。一定のリスクを負う代わりに、固定の費用をもらって業務委託を受ける場合に比べて、ビジネスがうまくいった場合のリターンが多くなるからです。また、レベニューシェアの報酬の定め方によっては、利益の出ている限り長期に渡って報酬を回収することができます。
ビジネスがうまくいかなかった場合に発注者が負うリスクを肩代わりするかわりに、成功すれば多くの報酬を得られます。将来性の高いビジネスに絞って発注を受ければ、レベニューシェアのメリットを最大限に活用できます。また、初期費用を用意できない会社からも、業務委託を受けやすくなります。
ただし、当然ながら、レベニューシェアで関わったビジネスが失敗に終われば、得られる利益も少なくなります。報酬の定め方によっては、全くのタダ働きに終わる危険もあります。
そのため、受注する側もその業界のビジネスをよく理解し、正確な将来予測をすることが、レベニューシェア契約を成功させるポイントとなります。
レベニューシェア契約書のテンプレート
次に、レベニューシェア契約を実際に交わす際の、具体的な契約書の例を解説します。レベニューシェアの契約をするとき、特に重要なのが、報酬の分配と、費用負担に関する条項ですが、業務の範囲が明確でないと、責任と負担の押し付け合いが生じてしまいます。
レベニューシェアといえど、多くのリスクがあります。契約条件を明確化し、契約にしたがって進めるビジネスから生じるリスクをできる限り軽減するのが、契約書の役割です。
ここで紹介するレベニューシェア契約書のテンプレートは、あくまでも雛形です。正しくリスクを軽減するには、具体的な状況に応じた契約書に修正する必要があります。
その他の条項は、一般的な業務委託契約書のポイントを参考にしてください。
業務の範囲に関する条項
まず、業務委託契約書と同じく、レベニューシェア契約書においても、冒頭で、業務の範囲についての条項を定めます。このとき、各当事者の業務の範囲、役割分担が明確になるよう特定すべきです。いずれかの当事者にコストに見合わない過大な負担が生じれば、レベニューシェアによる協力関係は崩壊するからです。
業務の範囲の定め方向は、次の条項を参考にしてください。
第XX条(業務の範囲)
甲及び乙は、本契約書に定める協業を進めるにあたり、それぞれ以下の業務を行う。
- 甲は、商品開発に関する業務全般を行うものとする。
- 乙は、完成した商品の販売に関する業務全般を行うものとする。
- その他の業務を行う必要が生じる場合、甲乙いずれの担当すべき業務か争いのある場合には、甲乙の協議によって決めるものとする。
なお、この条項例は両当事者とも一定の業務を行う(つまり、互いに委託し合う)ケースを想定しますが、片方のみが業務遂行し、他方は費用負担のみ行うケースもあります。
受注側は特に、契約書で明確に定めて過大な負担を避けねばなりません。レベニューシェアで将来に大きな利益を見込んでいても、成功の可能性が低いと分かれば損切りもやむを得ません。
報酬の分配に関する条項
報酬の分配のしかたこそ、レベニューシェア契約の本質です。そのため、報酬の分配について契約書にどう定めるかが、レベニューシェア契約書の作成、チェックにおいて非常に重要です。例えば、次の条項を参考にしてください。
第XX条(報酬)
- 本業務の成果物によって得た利益(消費税を含まない)にXX%の割合を乗じた金額を報酬とする。
- 前項の利益は、注文の確定時点で計上するものとし、後に返品、交換等が生じても控除しないものとする。
- 甲は乙に対し、第1項の報酬から次条に定める費用を控除した金額を、当月末日締め、翌月10日を期限とし、乙の指定する金融機関口座に振り込み送金する方法により支払う(振込手数料は甲の負担とする)。
なお、報酬の分配の定め方は、細かいルールの決め方によって増減します。そのため、レベニューシェア契約書の定め方においては、次の点が明確になるよう定めるのが、トラブルを回避するのに大切です。
- 報酬割合を乗じる対象
売上か、利益か - 消費税の処理
報酬の対象に、消費税を含むかどうか - 端数が生じた場合の処理
切り捨て、切り上げ、四捨五入など - 売上ないし利益の計上のタイミング
注文が確定した時点か、実際に収益が得られた時点か - 売上ないし利益が得られなくなった場合の処理
返品、交換、減額や割引、契約解除やクレームなどのケース
費用負担に関する条項
レベニューシェア契約書では、収益の分配に応じて、費用負担を決めるのが通例です。そのため、費用負担に関する条項についても、その定め方にご注意ください。いずれの当事者が、どの費用を支出するのか、明確に判断できなければなりません。
費用負担に関する条項の例は、次の通りです。
第XX条(費用負担)
- 販促に要する費用は、甲の負担とする。ただし、月に50万円を超える費用を支出する際には、事前に乙の書面による承諾を得なければならない。
- 前項の費用の支払期限、支払方法は、第XX条(報酬)に準じるものとし、支払うべき報酬があるときには報酬から相殺控除することができる。
契約終了に関する条項
レベニューシェアの契約は、ビジネスが成功すれば相当長期間に渡って継続すると予想されます。互いにリスクを先払いしている分だけ、レベニューシェアをする期間も長期でなければ回収が困難になるからです。そのため、契約が終了する際のルールを明確に決めておかなければトラブルは不可避です。
特に、ビジネスが失敗したり、一方当事者が裏切ったりするケースなど、当事者の予想に反して短期間で終了するときは、契約終了時のルールをどう定めたかが、とても重要な意義を持ちます。例えば、次の条項を参考にしてください。
第XX条(契約終了)
- 本契約が終了した際は、終了事由の如何を問わず、両当事者は、相手方から預かった物品、資料について、相手方の指示に従い、返還または破棄しなければならない。
- 本契約終了後の製品の保守、修理、顧客の問い合わせに対する対応については、引き続き乙が自己の費用で負担するものとする。
- 契約終了にあたっての報酬及び費用については、第XX条(報酬)、第XX条(費用)に準じて精算する。未確定の費用については、乙が受領、負担したうえで、契約終了から○カ月以内に甲に対して請求、支払する。
- いずれかの当事者の契約違反により本契約が解除、終了した場合は、違反者は、相手方に対して、違約金としてXXX円を支払う。ただし、違約金を超える部分の損害賠償請求を妨げるものではない。
- 本契約終了後も3年間は、第XX条YY項の秘密保持義務は存続する。
- 乙は、甲の事前の承諾なき限り、本契約終了後3年間は、本業務の成果物と同種の製品の製造・販売を行ってはならない。
- 乙は、前項に関わらず、本契約終了後3年間に限り、本契約終了時に存在する本件成果物の完成品(本件成果物の中間完成品を利用して製造した完成品を含む。)を販売することができ、販売した製品の保守、修理のためにのみ、その部品(中間完成品を含む。)を保管、販売することができる。ただし、乙の契約違反により本契約が終了した場合を除く。
- 本件成果物に関する知的財産権のうち、甲のみが所有する知的財産権については、前項の製造、販売に必要な範囲に限り、乙は利用することができる。それ以外の一方のみが所有する知的財産権については、他方当事者は利用権を有しない。
- 本契約終了後、本業務遂行上の契約違反、不法行為、成果物の欠陥に基づき、第三者に損害を与えた場合、その責任は、第XX条(報酬)の報酬比に基づいて甲乙が負担する。ただし、契約違反や成果物の欠陥が一方当事者の行為のみによる場合は、当該当事者がこれを負担する。
- 第XX条(契約不適合責任)の保証は、本契約終了から6か月経過するまでに相手方に申し出たものに限られる。
レベニューシェア契約書に定めておくべき契約終了時のルールのうち、次の点がポイントとなります。
【契約終了時の手続き】
- 預かっている資料の返還、破棄
- 継続的な業務が生じる場合の引き継ぎ
【契約終了時の金銭の扱い】
- 報酬の一部請求と、その割合
- 費用の一部負担と、その割合
- 違約金
- 損害賠償請求
【契約終了後の責任】
- 契約終了後の秘密保持義務
- 契約終了後の競業避止義務
- 中途完成品の利用権
- 契約終了後の成果物に関する知的財産権
- 進行していたビジネスによって生じた責任の分配
- 瑕疵担保責任の継続する期間
レベニューシェア契約書のチェックするときの注意点
レベニューシェア契約書を作成するにせよ、その内容が適切でないと、リスクを確実に回避できません。そして、契約書は、自社で作成する場合だけでなく、相手の会社から送られてくるケースもあります。力関係に差があると、自社で一から契約書を作成できないこともあります。このときに重要なのが、契約書チェック、つまり、リーガルチェックです。
そこで次に、レベニューシェア契約書をチェックする際の注意点について解説します。
リスクとリターンのバランスをとる
レベニューシェア方式の報酬は、固定報酬の場合とは当事者の関係が異なります。ただ、リスクとリターンのバランスが合うよう調整する必要があります。自社がコストを負担するなど、通常より大きなリスクが生じるなら、見合ったバランスのとれたリターンが定められているか、契約書チェックの段階で確認しなければなりません。
一般の契約書チェックでも当然ですが、レベニューシェア契約書は特に、報酬の配分と費用負担に疑義のないよう、明確に定めるのが重要です。想定される成功ケース、失敗ケースごとに、得られる報酬が算出できなければ、トラブルを減らす契約書として十分とはいえません。
役割分担を事前に明確化する
レベニューシェアで報酬を定めるにあたり、契約の当事者間に決まった役割分担があるわけではありません。契約する際に、当事者間の力関係や交渉力の差、業務の範囲、リスクの分担やコスト負担などによって、協議で決めることとなります。そこに、常識や一般的なルールなどはなく、互いに合意すれば、それが約束となります。
レベニューシェア契約書に基づくビジネスを遂行した際に、その後の行方は、必ずしも予想通りにはなりません。思っていたより多くの業務負担がかかったとき、役割分担が明確でないと、後から不満が生じることとなります。業務に着手するよりも「事前に」定めておかなければ、利害関係のある協業相手は、自社の言い分を受け入れてはくれません。
ビジネスモデルに合った契約書とする
一言でレベニューシェア契約といっても、様々なビジネスモデルがあります。レベニューシェアというのは報酬の配分のしかたを定めるだけで、その契約に基づいて進めるビジネスの規模や内容などを定義する概念ではないからです。
そのため、レベニューシェア契約書は、個別の事情を踏まえ、ビジネスモデルに合った内容にしなければなりません。
ビジネス特有のリスク、業界特有のルールなどに配慮せずに作った契約書は、役立たないおそれがあります。
例えば、ウェブ広告を多用して集客する形態なのか、労働集約モデルなのかといったビジネスモデルの違いは、どの程度の負担が当事者に及ぶか(リターンを期待するか)に大きく影響します。
収入印紙が必要となる
レベニューシェアで業務委託をする場合、継続的な取引となると収入印紙を要します。継続的取引の基本となる契約書(印紙税法の第7号文書)に該当すると、一律4000円の収入印紙を貼付する必要があるからです。
なお、収入印紙がなくても契約は無効とはならないものの、印紙税法違反となり3倍の金額の支払いが必要です。
レベニューシェア契約書を活用すべきケース
最後に、レベニューシェア契約書を活用すべきケースについて解説します。
次の悩みのあるビジネスを検討されるとき、その課題はレベニューシェアにより解決する可能性があります。まだレベニューシェア契約書を提案していないなら、一考の余地があります。
- ビジネス成功の可能性が高いが、初期コストが準備できない
- 自社のみでは完結できないビジネスモデル
- 協業関係のパートナーに責任感を持ってほしい
- 挑戦的なビジネスのリスクを少なくしたい
- 社会的に意義あるサービスを広く普及させたい
レベニューシェア契約書を作成することが、事後に発生するおそれあるトラブルを予測し、リスクを回避するのに役立ちます。レベニューシェアだと、固定報酬に比べて、特に実作業の伴う企業にとってのリスクが大きくなります。自社の負うリスクをよく理解し、十分配慮した契約書の作成が不可欠です。
例えば、次のケースで、レベニューシェア契約書の活用例を紹介します。
ビジネスを開始する際、セールスページの作成を検討しているが、設立直後のため初期費用を準備できない。
製作費を無料とし、代わりにそのページから生じる売上の一部を保守費用として、レベニューシェア契約にしたい。
ヒットしたアニメのLINEスタンプを作成するにあたり、著作権者、制作会社などの関連する当事者間で利益をはい分しなければならない。
制作費は生じず、利益の一定割合をレベニューシェア報酬として設定したい。
(参考:LINEスタンプ制作業務委託契約書)
売上を拡大するためにウェブ広告戦略を検討している。
広告効果の予測が難しい場合、初期費用を定額として、売上に応じたレベニューシェア報酬としたい。
(参考:広告業務委託契約書)
自社の商品を販売するため、通販サイトの立上げを委託したい。
経験がないため、立上げを代行してもらう代わりに、そのサイトから上がる売上の一部を分け与えたい。
(参考:通販サイト運営代行業務委託契約書)
まとめ
今回は、レベニューシェア契約について、契約書の作成、チェックのポイントを解説しました。
レベニューシェアで報酬を定めたとき、発注者側として「儲かったら支払えばよい」という程度の軽い気持ちのこともあります。しかし、それほど軽い気持ちでいてはならず、ビジネス上の契約である以上、契約書の定め方がとても重要です。発注側でも受注側でも、レベニューシェアには、他の報酬の定め方とは違った特別なリスクがあるからです。
レベニューシェア契約書をよく検討しなければ、自社にとって不利な義務を負ったり、将来の負担が過大になったりするおそれがあります。長期的に信頼関係を築くならば特に、契約書を結ぶ当初の検討がとても大切になります。