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ホームページ制作契約で、IT企業が注意すべき業務委託契約書のポイント

インターネットが普及した現代では、どのような業種、分野の会社であったとしても、ホームページを作っておくことは必須です。

ホームページで自社の商品・サービスを見つけてもらう場合のほか、名刺交換のときに、自社の情報を詳しく知ってもらおうとすれば、ホームページを用意するのが一番効果的です。

しかしウェブ制作業者の中には、契約書を作成しなかったり、法的に問題のある契約書を提示してきたりする会社もないわけではなく、注意が必要です。

ホームページ制作会社に発注する場合には、制作会社との間で「業務委託契約」を締結します。そして、「業務委託契約」を証明する書面が「業務委託契約書」です。

口頭で契約をし、後にホームページが出来上がってからトラブルとなった場合、契約書が存在しなければ、自社に有利な事情の証明が困難となります。

今回は、ホームページ制作契約をするとき、IT企業が注意すべき「業務委託契約書」の注意点を、IT法務を得意とする弁護士が解説します。

目次(クリックで移動)

1. ホームページ制作契約書を提示されたときの対応

まず、自社のホームページを、ホームページ制作会社やフリーランスに依頼するというケースでは、一般的に、制作会社側から、「業務委託契約書」の案が提案されることが多いです。

制作会社側は、同様のサービスを多くの顧客相手に行っていますから、「始めたばっかり」というのでなければ、一応の契約書案、覚書案を持っているのが通常だからです。

しかし、制作会社などが提案する契約書案は、受託者の立場から作成されたものであって、依頼者である会社の利益には必ずしもなっていないおそれがあります。

特に、受託者側に、顧問弁護士がついていて、法律の専門家によって作成されている場合には、特に慎重な注意が必要となります。

1.1. まずは一読する

受託者側から契約書を提示されたら、まずは「ホームページ制作業務委託契約書」を一読してみてください。

通常記載されているのが普通であるのに、記載されていないような条項がある場合には、「なぜ記載されていないのだろう?」と考え、修正要望を検討してください。

委託業務の内容にもよりますが、次のような条項が並んでいることが一般的です。

  • 目的
  • 定義
  • 業務内容
  • 契約期間
  • 報酬金額・支払方法
  • 納期・納品方法
  • 債務不履行責任
  • 瑕疵担保責任
  • 中途解約
  • 期限の利益喪失
  • 損害賠償
  • 知的財産権(著作権、特許権など)
  • 秘密保持義務
  • 個人情報保護義務
  • 再委託の有無
  • 免責条項
  • 禁止行為
  • 不可抗力
  • 協議条項
  • 裁判管轄

ただし、これらはごく一般的な例であって、ここに記載した条項が、提案された「ホームページ制作業務委託契約書」に存在しなかったとしても、そのことだけで「問題のある契約書」とは断定できません。

御社の依頼されるホームページ制作業務に不要な条項であれば記載する必要はないため、もし存在しない条項があれば、「なぜその条項が契約書に存在しないのか。」という観点で考えてみてください。

1.2. 疑問点を明らかにし、修正要望をする

ホームページ制作業務を依頼する場合、依頼する側の方が、制作を受託する側に比べて、ウェブ、ITに関する知識が少ないケースがほとんどです。

そのため、「業務委託契約書」上も、ITの専門用語がたくさん使われていると、どのような業務が行われ、どのような性質が保証されているのか、「業務委託契約書」を読んだだけではすぐにわからない場合があります。

定義や仕様書などがまとめられている場合には、特にそうでしょう。

更に、法律用語は非常に難解であり、わからない単語なども多く出てくるのではないでしょうか。

いずれの場合も、ホームページ制作業者に説明を求め、疑問点をすべてクリアにしてから修正要望を行うべきです。

2. ホームページ制作業務委託契約書の修正のポイント

「業務委託契約書」の一通りのチェック作業が終わったら、次に、具体的な条項ごとに、修正要望を出し、制作会社と話合いを行うこととなります。

ホームページ制作業務を依頼する会社の側が、修正要望を出すとき、特に注意しておきたい事項について、解説します。

2.1. 最初に要望をまとめる

具体的な条項をどのように修正するか、具体的な案を考える前に、まずは「どのような要望があるのか。」という率直な社内の意見を集約し、まとめておくことをオススメします。

というのも、具体的な条項の修正に着手すると、ITの専門用語、法律の専門用語が入り乱れ、どの部分をどう変更すれば自社に有利であるかが、よくわからなくなって技巧に走るケースが少なくないからです。

先に要望をまとめておけば、目的が明確になりますから、細かい修正にまどわされることを回避できます。

例えば、社内意見のとりまとめの内容の例は、次の通りです。

  • WordPressでホームページを制作し、その後も会社内でページ数を増やしていけるように設定してほしい。
  • 合意した仕様に達しなかったことによって負った損害は賠償してほしい。
  • 月に一定時間、社内のWordpress担当者に対して運用のアドバイスをしてほしい。
  • アクセス解析のアカウントを取得し、サイト運用の方向性をアドバイスしてほしい。
  • 月に一定時間、サイトの修正、保守業務を行ってほしい。
  • 制作、保守いずれも、第三者への委託をしてほしくない。

2.2. 発注者側によくある要望

ホームページの制作を依頼する場合、よくある修正要望が次のようなものです。

  • 更新作業など、手間のかかる業務をできる限り代行してほしい。
  • 作成したホームページ経由で発生する売上を保証してほしい。
  • アクセス解析とアクセス数増加を保証して欲しい。
  • 検索エンジン上位表示(SEO)を約束して欲しい。

これらの要望について、すべて受託者側(ホームページ制作会社側)が受け入れてくれるわけではありません。

とはいえ、ホームページ制作会社側の「うわべだけの営業トーク」にまどわされず、営業段階で発言したことは、できる限り「業務委託契約書」に盛り込み、債務の内容とするよう要望しておきましょう。

2.3. 条項の修正案を検討する

大まかな方針が決まったら、次は、具体的な条項について、修正案を検討することとなります。

この段階となると、社内で集約した意見を伝えてくれる顧問弁護士などに依頼することもあります。

会社様自身で契約書の具体的な条項を修正する交渉を行う場合には、次の観点から変更を検討してください。

契約書の一部を変更すると、発生する結果がどのように変わるかは、法的に非常に難しい問題ですので、弁護士に相談しながら進めることをオススメしています。

3. 契約条項修正の4つの考え方

具体的に条項を修正する場合には、契約書の一部だけを自社の考え通りに変更した結果、思わぬ不都合が生じることもあり得ます。

そのため、法律の専門家である弁護士による助力を借りるのがよいでしょう。

契約書の条項を修正する場合の、基本的な考え方を4つ紹介しておきます。

3.1. 主語を変更する

変更を検討する1つ目は、「主語の変更」です。

例えば、「甲(委託者)は、」とあるところを、「甲(委託者)及び乙(受託者)は、」というように、双方向的にする修正です。

 例 

例えば、「ホームページ業務委託契約書」では、契約当事者の一方だけが秘密保持義務を負うようになっていたなど、一方のみが主語になっていることによって不利な結果となるおそれのある場合には、相手方も主語に加えて双方向的な内容にしましょう。

また、判断者を変更するのも、同様の考え方です。

 例 

例えば、契約の解除をする権利が、委託者側にのみある場合には、これを上記と同様に変更して双方向的な内容にしましょう。

3.2. 要件を変更する

変更を検討する2つ目は、「要件の変更」です。

法律的には、「要件」と「効果」を重視し、ある「要件」がそろった場合には、一定の「効果」が発生するという考え方をもとに契約書を作成します。

この「要件」の部分を変更することによって、「効果」が発生するケースを広げたり、狭めたりすることができます。

例えば、「ホームページ制作業務委託契約書」では、「効果」を定める条項の前に、次のような用語を挿入する修正を行うケースが典型例です。

  • 「事前の乙による承諾がない限り」
  • 「事前の乙の書面による同意がある限り」
  • 「修正要求を文書によって通知した場合には」

3.3. 効果を変更する

変更を検討する3つ目は、「効果の変更」です。

先程解説しましたとおり、法的な文書は、「要件」と「効果」によってルールが決められているところ、発生する「効果」を大きくしたり、小さくしたりする変更をいいます。

 例 

例えば、「ホームページ業務委託契約書」では、委託者側の債務不履行によって損害を被った場合の損害賠償の範囲、金額を限定するといった例です。

3.4. 例外を作る

以上の主語、要件、効果が大きく問題があるわけではないものの、どうしも「こういったケースだけは除外したい。」と考える条項がある場合、「例外を作る」ことによって対処をしましょう。

「但書(ただしがき)」を付け加えるという修正をすることによって、契約書の条項に例外を作ることが可能となります。

 例 

例えば、「ホームページ業務委託契約書」では、「ただし、仕様書に定める機能が完備されていない場合にはこの限りではない。」、「ただし、故意重過失の場合はこの限りではない。」などと加え、ホームページ制作会社の責任制限に対して例外を加える修正が考えられます。

4. 具体的な条項修正のポイント

最後に、ホームページ制作業務を依頼する会社側として、特に契約書の修正に注意しなければならないポイントを解説します。

4.1. 定義条項を明確にすること

定義条項が記載されている契約書の場合には、契約書において複数回登場する単語について、その定義を定めることが一般的です。

契約書の定義条項に記載した定義は、あくまでもその契約書上の定義です。

そのため、もし意味がわからないIT専門用語などの定義が多く記載されている場合には、「その定義が世間一般の使い方として正しいか?」という観点ではなく、「契約当事者がその意味で合意できているか?」という観点でチェック、修正をするべきです。

契約書の定義条項で、契約当事者のお互いの解釈が異なると、契約書が意味をなさないため、しっかりと話し合っておくことが必要となります。

4.2. 業務の範囲と、権利の帰属を明確に

ウェブ制作業務をはじめ、「業務委託契約」では、「業務の範囲」が非常に重要です。

委託された業務の範囲について、当事者の間で認識が異なると、次のようなトラブルの火種となります。

 例 
  • 「まだ完成していない業務があるので報酬を支払いたくない。」
  • 「既に完成しているのに報酬を支払ってもらえない。」

そして、「業務の範囲」の中で、ウェブ制作業務の際に注意しなければならないのは、テキストを記載する業務を、どこまで制作会社が行うのか、という点です。

「お金を支払えば、ホームページはすぐに使える状態にしてもらえるのでは?」という考え方は、いつでもあてはまるわけではなく注意が必要です。

というのも、テキスト部分はホームページ制作を依頼する側がすべて作成するという契約内容もあり得るからです。

加えて、「業務の範囲」と関連して問題となるのがテキスト、素材(写真・動画など)の著作権や、ドメインの所有権を、ウェブ制作会社、発注者のいずれに帰属させるかという点です。

依頼した会社に不利な内容にしようとすれば、「保守費用を支払わない場合、著作権、ドメインの所有権はすべてウェブ制作会社に帰属する」という定め方もあり得るということです。

4.3. 免責条項と不可抗力

「業務委託契約書」を提案するウェブ制作会社の側からして、重要なのは、「どのような場合に責任を負うか。」という点です。

そのため、ウェブ制作会社から提案をされた「業務委託契約書」の内容は、免責条項と不可抗力の点において、ウェブ制作会社に有利なルールとなっているおそれがありますので、慎重に検討してください。

どのような場合にウェブ制作会社の責任を免責することとなっているのかを理解した上で、免責条項が広い場合には、既に解説した「要件を限定する」という方法で、免責の範囲を狭める修正を要望してください。

5. まとめ

ホームページを制作しようと考えた場合に、制作会社やフリーランス業者に、ウェブ制作を依頼することになりますが、この際に作成すべき「業務委託契約書」は、制作側から提案されることが一般的です。

制作側から提案された「業務委託契約書」を修正するとき、少しでも自社に有利にするためのコツをつかむため、今回の解説を参考にしてください。

なお、今回の解説は、あくまでも契約書の修正についての一般論であって、具体的な契約書の作成、リーガルチェック、修正のときは、企業法務に強い弁護士に、お気軽にご相談ください。

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