最近、IT業界の契約で、「レベニューシェア方式」で報酬を定めることが増えています。
発生した収益に応じて、経費や費用を決める、という内容の契約書です。「レベニューシェア方式」は、契約書の中でも、特に報酬の定め方に注意が必要な決め方です。
IT業界、特に、サイトの運営代行、システム開発など、サービスとしてローンチされることを予定されている成果物がある契約に多く利用されます。
「レベニューシェア方式」で報酬を定める契約書は、次のような需要会社、特にベンチャー企業では非常に有益です。
- 「魅力的なアイディアがあるが、実行するため初期投資が十分に準備できない。」
- 「チャレンジしたいが、自社ですべてのリスクを負いきれない。」
今回は、「レベニューシェア」の報酬の定め方と、契約書のリーガルチェックのポイントを、書式雛形を示しながら、企業法務を得意とする弁護士が解説します。
目次
1. 「レベニューシェア」を活用すべきケース
「レベニューシェア」方式が用いられるケースとは、業務委託・請負などの契約の結果、その成果物から顧客が収益を見込んでいるケースに多いといえます。
特に、最近では、IT企業間の契約に多く見られます。
成果物をビジネスに活用し、そこから収益を期待できる場合には、「その収益の何割か。」という方式で、成果物の制作費用を決めることができるため、リスクが少なくて済みます。
「レベニューシェア」をよく理解していただくため、発注側、受注側のそれぞれから、「レベニューシェア」による契約書のメリットをまとめました。
1.1. 発注側のメリット
- 初期費用がなくても、成功の見込めるビジネスであれば発注がしやすくなる。
- 万が一ビジネスが失敗した場合に、負担するリスクが少なくて済む。
発注する側にとって、「レベニューシェア」で報酬を定めるの最大のメリットは、「初期費用が少なくて済むこと」です。
魅力的なアイディアを思いついたけれども、実行するだけの資金力がないベンチャー企業では、外注をするときに「レベニューシェア」方式の報酬とすることを積極的に検討、提案しましょう。
また、後に解説するとおり、「レベニューシェア」契約の当事者は、最終的な売上に対して「リスクとリターンを共有する。」関係にあることから、発注側としては、受注側の最大限のコミットを得ることが期待できます。
メリットも多い「レベニューシェア」ですが、受注側のメリットの裏返しとして、発注側にとって、最終的なコストが高くなる可能性があるというデメリットがあります。
初期費用が安い分、「レベニューシェア」契約の結果として得られた成果物で大きな利益を得た場合、報酬も多額になるというわけです。
1.2. 受注側のメリット
- ビジネスが成功した場合、固定報酬よりも多くの報酬を得ることができる。
- 初期費用を用意できない会社であっても発注をしてもらいやすくなる。
- 将来性の高いビジネスに絞って発注を受けることができる。
受注する側にとっては、「レベニューシェア」方式の報酬の定め方は、初期費用を支払ってもらえない代わりに、ある程度長期間にわたって報酬を回収することとなります。
つまり、「成果物を使ったビジネスがうまくいかず、収益があがらなかった。」という、本来であれば発注側が負うべきリスクを、一部「肩代わり」する意味をもちます。
負ったリスクの分だけ、長期間にわたって回収可能な報酬は、最初に一括でもらうよりも高額になることが一般的です。受注側としては、報酬が大きく跳ね上がる可能性があるというメリットがあります。
成果物を使ったビジネスが大成功すれば、初期費用としてもらうより何倍もの報酬をもらうことが可能なケースもあります。
受注側にとってもメリットの多い「レベニューシェア」ですが、当然ながらデメリットもあります。
受注側のデメリットは、「レベニューシェア」で関わったビジネスが失敗に終わったときに、結局報酬が得られない可能性があるという点です。
つまり、「レベニューシェア」の場合、初期費用として一括でもらうよりも、制作側の負担が大きくなりますから、最初に将来予測を、より慎重に行っておくことが重要です。
1.3. レベニューシェアの特徴
以上で解説したメリット、デメリットから、「レベニューシェア」の契約当事者とは、「リスクとリターンを共有する関係」といえます。
「レベニューシェア」報酬の割合によっては、もはや単なる契約相手というよりは、共同経営者・パートナーのようなイメージに近付きます。
「レベニューシェア」の契約当事者は、2社間に限定されているわけではありません。
複数の会社が、それぞれ自社の担当分野の業務を行い、あがった収益の中から割合的に「レベニューシェア」報酬を受け取るという契約書もあり得ます。
こうなってくると、「レベニューシェア」契約が、共同経営者の関係と似ていることがよく理解できるでしょう。
2. 【書式】レベニューシェア契約書の例
では、具体的に、「レベニューシェア」で報酬を定める際の、契約書の条項例(文例)を、弁護士が解説していきます。
なお、報酬の定め方以外についての書式雛形は、業務委託契約書についての解説を参考にしてみてください。
「レベニューシェア」方式で報酬を定める場合の、報酬と費用の定め方は、次のような条項で記載しましょう。
- 甲は、乙に対し、本業務の成果物によって得た利益(消費税を含まない。)に○%の報酬割合を乗じた金額を報酬として支払う。
- 前項の「利益」は、注文が確定した時点で計上するものとし、その後に返品・交換などが生じた場合であっても控除を行わないものとする。
- 甲は、乙に足し、第1項の報酬から次条に定める費用を差し引いた金額を、当月末日までの分につき、翌月10日までに乙の指定する金融機関の口座に振込送金して支払う。
なお、この際、報酬金額が明確になるように、次のような細かい点について、ルールを定めておくことをオススメします。
- 報酬割合を乗じる対象は、「売上」か「利益」か
- 消費税を含むかどうか
- 端数が生じた場合の処理
- 「売上」「収益」の判断時点は、注文が確定した時点か、実際に収入があった時点か
- 返品、交換があった場合、「売上」「収益」から控除できるか
さらに、費用負担についてルールがある場合には、どのような費用を、いずれの当事者が負担するかを定めておきます。
次の費用は、甲の負担とし、前条で定めた報酬より差引いて支払うことができる。ただし、費用を支出する際には、事前の乙の書面による承諾を得なければならない。
⑴ ・・・・
⑵ ・・・・
⑶ ・・・・
・
3. 契約書で回避できるリスク
「レベニューシェア」の条項例を解説しましたが、では、「レベニューシェア」の契約をするとき、なぜ契約書を作成しなければいけないのでしょうか?
「レベニューシェア」契約書を結ばなければならない理由は、契約から発生する「リスク」を最小におさえるためです。
「レベニューシェア」契約書を作成しておくことによって、事後に発生するおそれのあるトラブルを予測し、リスクを回避することができるのです。
レベニューシェア契約では、固定報酬に比べて、特に受注側(制作会社側)が大きなリスクを負うことになりますので、受注側に立つときは特に、リスクに十分配慮して契約書を作成しなければなりません。
- 発注側のビジネスが失敗に終わり、十分な報酬を回収することができないリスク
- ビジネスの成功のためという名目で、不要なサービスを強要されて負担が増大するリスク
- 発注側のビジネスが成功に終わった場合に、短期間で契約を打ち切られるリスク
4. レベニューシェア契約書のチェックのポイント
「レベニューシェア」契約書を作成することによって「回避すべきリスク」を、確実に回避できるようにするためには、レベニューシェア契約書をリーガルチェックする際のポイントを理解しておく必要があります。
「レベニューシェア」契約書をチェックするときのポイントについて、契約書チェックを得意とする弁護士がまとめます。
4.1. 業務の範囲を明確にする
「業務委託契約書」についての一般的な注意事項にも解説しましたとおり、「業務の範囲を明確にする。」ことは非常に重要です。
特に「レベニューシェア」で報酬を定めた場合、ビジネスが成功するようにと、「発注側が過大な要求を強制する。」といった事態になることが少なくありません。
そのため、どこまでの業務を行うのかを、契約書で明確にしておかなければ、受注側の負担が過大となることも容易に予想できます。
4.2. 報酬割合と費用を明確にする
次に、レベニューシェア方式で報酬を定める場合には、「報酬割合と費用を明確にする。」ことが重要です。
少なくとも、報酬の計算方法がわからなければ、成果があがった場合の報酬についてトラブルとなります。
特に、「思った以上に成功した。」という場合には、報酬が予想外に高額となってトラブルの火種となるおそれがあります。
「成功の度合いに応じて報酬割合を変化させる。」、といった、柔軟な契約書条項としておくことを検討してみてもよいでしょう。
また、「レベニューシェア」の場合、当事者がパートナーのような関係になることから、受注側も費用を一部負担するという契約書条項も考えられます。
4.3. 報酬割合の対象は「売上」?「収益」?
報酬割合を決めるにあたって非常に重要なのが、「売上に対する○%」とするのか「利益に対する○%」とするのかを明確にすることです。
特に、売上をあげるにあたって費用が多くかかるビジネスモデルの場合、「売上」と「利益」のいずれを報酬割合の対象として計算するのかによって、レベニューシェア報酬の金額が大きく変わります。
例えば、次のようなビジネスモデルを考えてみるとよくわかるでしょう。
- 販促のためにリスティング広告費用を多く支出することを予定しているケース
- 労働集約モデルで人件費が大きな割合を占めるケース
なお、「レベニューシェア」で報酬を定める場合、対象期間についても明確にしておきましょう。
発注側としてはできる限り短く、受注側としてはできる限り長くすることを要望するでしょうから、契約書で明確に定めておかなければなりません。
4.4. 役割分担を明確にする
「レベニューシェア」で報酬を定める場合、契約当事者の役割分担には、決まったルールがあるわけではありません。
したがって、「常識」や「一般的な考え」で決めることはできず、当事者間のルールを契約書に定めておかなければなりません。
「レベニューシェア」の場合、ビジネスを行うことで何らかの売上を上げることを予定しているわけですが、そこに至るためには、制作、営業、広告、販売といった複数の行為が存在します。
これらの行為について、それぞれ、契約当事者のいずれが行う義務があるのかを明確にしておきましょう。
例えば、次のような業務について、いずれの会社が担当するか、契約書上明確でしょうか?
- 制作したアプリをバージョンアップする業務
- 制作したウェブサイトを運用する業務
- 広告を行うにあたってマーケティング施策を考える業務
- リスティング広告を運用する業務
- 制作したウェブサイトを保守する業務
「事前に」定めておけば、契約書に定めた役割分担を、「レベニューシェア報酬の割合に反映する。」ことができますから、リスクとリターンのバランスをとることができます。
4.5. 契約終了時のルールを明確にする
「レベニューシェア」の報酬の場合、契約が相当期間にわたって継続することが予想されます。
そのため、契約が終了する際、特に、当事者の予定に反して短い期間で終了する場合には、その際のルールを明確にしておかなければトラブルの火種となりかねません。
契約によって委託される業務によりますが、例えば、次のような契約終了時のルールを、契約書に定めておくとよいでしょう。
- お預かりしている資料などの返還、破棄
- 秘密保持
- 契約終了後の競業行為が許されるかどうか
- 継続的な業務がある場合、その引継ぎ
- 違約金
- 報酬の一部請求とその割合
- 費用の一部負担とその割合
- 瑕疵担保責任などが継続する期間
- 契約終了後の成果物に関する権利関係(特に著作権・特許権などの知的財産権)
契約終了時のルールには、大きく分けて、「金銭面に関する問題」と、「契約終了後の問題」の2つが重要です。
「金銭面に関する問題」については、想定していた報酬が入らない場合に備えて、責任に応じて一部を請求したり、違約金を請求したりすることを検討してください。
「契約終了後の責任問題」についても同様に、契約終了となった責任がいずれにあるかによって、その後も継続的に負う義務を定めておく必要があります。
4.6. 収入印紙が必要
「レベニューシェア」で業務を委託する場合には、継続的な取引となることから、収入印紙が必要となる可能性があります。
つまり、「継続的取引の基本となる契約書(印紙税法7号文書)」となる場合には、一律4000円の収入印紙を貼付する必要があります。
なお、決められた収入印紙を貼らなくても、契約自体が無効となることはありませんが、印紙税法違反となり、3倍の金額(この場合1万2000円)の支払が必要となりますので注意が必要です。
5. レベニューシェアの活用例
ここまで解説してきました、レベニューシェアの特徴からもわかるとおり、ITベンチャーなどでは、レベニューシェア契約を活用できるケースが多くあります。
例えば、次のようなケースで、レベニューシェアの活用例を見てみましょう。
ビジネスを開始する際、セールスページを作成することを考えているけれども、初期費用が用意できないため、最初の製作費を無料とし、その代わり、そのセールスページからあがった売上の一定割合を、レベニューシェア報酬として設定する(ウェブ制作業務委託契約書)。
ヒットしそうなLINEスタンプを思い付いたけれど、ヒットしない可能性もあり、そのリスクを自社だけでは負いきれないため、最初の製作費を低額にし、その代わり、LINEスタンプが売れた分の収益の一定割合を、レベニューシェア報酬として設定する(LINEスタンプ制作業務委託契約書)。
売上を拡大するためにウェブ広告を行うことを検討しているが、広告効果がどれだけあるのかを予測することが難しい場合に、初期費用を低額とし、売上に応じた割合でレベニューシェア報酬を設定する(広告業務委託契約書)。
自社の商品を販売するため、オンラインの通販サイトを考えているが、経験がないため通販サイトの運営を代行してもらう代わりに、その通販サイトからあがった売上の一定割合を、レベニューシェア報酬として設定する(通販サイト運営代行業務委託契約書)。
6. まとめ
「レベニューシェア」で報酬を定めるとき、発注者側としては「儲かったら支払えばよい。」という軽い気持ちの場合もありますが、そこまで簡単なものではありません。
「レベニューシェア」であっても、契約書の慎重な検討が必須となります。特に、受注側で契約書のリーガルチェックをする場合、不利な内容となったり、将来の過大な負担とならないようにしましょう。
レベニューシェア方式で報酬を定めるときの特徴として、契約当事者が、長期的な関係となり、信頼関係を築くといったメリットがあります。
信頼関係の基礎となるのは、契約書に定められた当事者間のルールに他なりませんから、他の契約にもまして、より一層、契約書の作成、チェックが重要となります。