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離席を「許可制」にすることはできる?休憩の多い社員への制裁は?

会社ごとの「ローカルルール」というのは、業界ごと、会社ごとに多く存在するものですが、「慣習」として定着しているとすれば、「ブラック企業」といわれてしまいかねないものもあります。

というのも、たとえ会社内のルール、慣習といえども、労働法に違反していればもちろん認められませんし、違法でなくても、不適切なルールがあることは、風評被害、炎上トラブルの火種となるからです。

社員(従業員)を管理し、生産効率、業務効率を上げることは、会社経営において重要なことですが、行きすぎには注意が必要です。

今回は、社員の「離席」を「許可制」にできるかどうかについて、企業の労働問題(人事労務)を得意とする弁護士が解説します。

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1. 職務に専念する義務あり

社員(従業員)には、会社に雇われて、給与を受給している限り、会社の職務に専念する義務があります(専門用語で、「職務専念義務」といいます。)。

まずは、「離席の許可制」を理解するための前提として、労働法の基本的なルールである、「職務専念義務」について、弁護士が解説します。

1.1. 職務専念義務とは?

「職務専念義務」とは、決められた労働時間の間、会社の仕事以外のことをしてはいけないという、労働者に課せられた義務のことです。この対価として、会社は、賃金を支払う義務を負うわけです。

「会社の仕事以外のことをしてはいけない。」というのは、雇われた会社以外の会社や個人の仕事はもちろんのこと、プライベートな行為も、原則としては行ってはいけないことを意味しています。

社員(従業員)が、この「職務専念義務」を負うのは、賃金が払われている時間、すなわち、始業時刻から終業時刻までの間と、命令をされた場合には適切な残業時間の間の時間帯となります。

1.2. 離席の許可制とは?

今回のテーマである「離席の許可制」とは、特にオフィスでデスクワークを行う社員(従業員)について、席を離れる場合には、上司や社長の許可を必要とする制度をいいます。

会社としては、「職務専念義務」がある以上、常に仕事を行ってもらいたいと考え、また、常に上司の目の届くところで指導、監督したいと考えることから、いわば「暗黙のルール」となっている会社もあります。

「許可制」の中には、書面による許可の申出などだけではなく、たとえ口頭であっても、上司や社長の「許可」がなければ離席できない場合には、「離席の許可制」といってよいでしょう。

1.3. 職務専念義務の限界

「職務専念義務」は、賃金を受領することの対価であるため、労働者に守らせることのできる強いルールです。

しかしながら、この「職務専念義務」といえども、厳しすぎては、違法となるおそれもあります。特に、「トイレ休憩」など、生理的にやむを得ないものまで、「不許可」とすることのできるような「許可制」は、違法といってよいでしょう。

また、必ずしも労働法違反とはいえなくても、過度な管理体制は不適切であり、「ブラック企業」との評判を招き、企業イメージの態かにつながりかねません。

したがって、「職務専念義務」には、法律上、事実上、一定の限界があることを理解しましょう。

2. 離席理由別、「許可制」の違法性

ここまでお読み頂ければ、労働者の負わせることができる「職務専念義務」の程度と、しかしながら「職務専念義務」については常識的な限界があることについて、ご理解いただけたことでしょう。

「職務専念義務」の原則的なルールを強制することができるのか、それとも、その限界を超えた厳しさなのかは、社員(従業員)が「離席」せざるを得ない理由によっても異なります。

そこで次に、「離席理由」ごとに、「離席の許可制」というルールを採用することが、違法であるのか、不適切であるのかについて、弁護士が解説します。

2.1. トイレ休憩のための離席

「トイレ休憩」を理由として離席する社員(従業員)に対して、離席を「許可制」とすることはどうでしょうか。

「トイレ休憩」は、生理的なものであり、生活する上で必然的に発生する、やむを得ない生理現象です。そのため、「許可制」とすることで、「トイレ休憩は不許可」とすることは、違法性が強いといえます。

したがって、「トイレ休憩」のための離席を、上司や社長の「許可制」とするルールは、やめた方がよいといえます。

 注意! 

しかし、以上の解説もまた「トイレ休憩」の頻度、回数、時間が、常識的な範囲にとどまる場合であって、あまりにも頻繁に、長時間の「トイレ休憩」をとる従業員もまた問題です。

トイレ休憩が、常識外れに長時間であったり、多数回に及ぶ社員(従業員)がいる場合には、「トイレ休憩」というやむを得ない理由をつけて、職務をサボっている可能性があるからです。

この場合には、トイレ休憩を「許可制」とするという間接的な対策ではなく、注意指導をした上で、監督を徹底し、最悪のケースでは、「懲戒処分」、「解雇」など、問題社員への対応を行ってください。

ただし、「解雇」が有効となるためのハードルはかなり高いため、よほどの場合でない限り、「トイレ休憩が多い。」という理由で「解雇」することは思いとどまった方がよいといえます。

2.2. タバコ休憩のための離席

「タバコ休憩」を理由とした離席は、「トイレ休憩」に比べて、個人によって考え方が分かれるところです。

というのも、喫煙者にとっては、「タバコ」は、「トイレ」と同様、生活していく上でやむを得ないものですが、非喫煙者にとっては、趣味・嗜好に過ぎないと考えるからです。

そのため、「トイレ休憩」以上に、「タバコ休憩」の頻度、時間の管理は徹底しなければならず、あまりに「タバコ休憩」が多いと、社員間に不公平感が生まれ、非喫煙者のやる気を削ぐことになりかねません。

2.3. 私用電話のための離席

業務時間中の「私用電話」は、「職務専念義務」のルールからして、原則として許されません。

しかし、家族の不幸や急病、宅配便の受け取りなど、どうしても日中に対応することを要する緊急の「私用電話」もあり、一律に「私用電話」を禁止とすることは、不適切です。

とはいえ、上記のようなやむを得ない「私用電話」も、昼休憩中に済ませることができるものも多いですから、会社の考えによっては、「私用電話のための離席」を「許可制」としてもよいと考えます。

 参考 

ただし、労働法違反ではなく、違法性がなかったとしても、あまりに厳しいルールを課すことは、「ブラック企業」との風評の火種となり、インターネット上やSNS上での炎上トラブルの原因となります。

「業務時間中は、私用携帯を出してはならない。」など、厳しすぎるルールを社員(従業員)に課すことは、避けたほうがよいでしょう。

2.4. 飲み物の購入のための離席

水分を補給することは、生活する上で欠かせないことですから、飲み物を購入したいと思うことは、業務時間中でもあるのではないでしょうか。

しかし、飲み物の購入は、業務時間中にやむを得ず発生するものではなく、昼休憩中に買い足しておくことも可能です。また、会社によっては、社内に自販機やコーヒーメーカーなどが常備されているところもあるでしょう。

したがって、飲み物購入だけを理由とする離席であれば、会社によっては、「許可制」とすることが許されるケースもあります。

2.5. ランチのための離席

「ランチのための離席」について、弁護士が解説します。まず、昼休憩を適切に設定している会社では、ランチは、昼休憩にとるのが当然です。

したがって、ランチのための離席について「許可制」とするかどうかが問題となるのは、昼休憩すら自由にとることができず、業務を指示され続けているような「ブラック企業」といえるでしょう。

そして、次章で解説しますとおり、昼休憩を自由に取得できない状態であると、「残業時間」が発生しやすく、労働者から、思わぬ残業代請求を受けるおそれもあります。

3. 昼休憩に離席させないと「残業代」が怖い!

一般的に、オフィスでデスクワークをさせる社員(従業員)の場合、「9時~18時(1時間休憩)」、「10時~19時(1時間休憩)」など、休憩を加味して「8時間労働」としていることが一般的です。

というのも、労働基準法では、「1週40時間、1日8時間」以上労働させる場合には、残業代を支払う必要があるからです。

そのため、休憩にも業務を行うよう指示した場合には、「1日9時間」となる可能性があることから、残業代の支払が必要です。

昼休憩にも業務を指示した上、残業代を支払っていない場合には、労働審判や訴訟などで、思わぬ残業代請求を受けてしまうおそれもあるため、注意が必要です。

 注意! 

明示的に「昼休憩はとらないように。」、「昼の休憩はない。」と命令した場合だけでなく、昼休憩中にどうしても行わなければならない業務を指示する場合もまた、同様に残業代請求をされるおそれがあります。

例えば、「事実上、昼休憩をとることができない状態であった。」と労働者が主張する例としては、次のようなケースがあります。

  • 昼休憩中も来客が絶えず、接客を強要された。
  • 昼休憩中も電話番をし続けるよう命令された。

4. 「離席多すぎ」の「問題社員」対応

ここまでお読みいただければ、「離席の許可制」には、法律上も、事実上も、問題点が多いということをご理解いただけたのではないでしょうか。

しかし一方で、常識外れに離席が多すぎる社員、離席時間が長すぎる社員もまた、問題です。会社として、このような問題社員を放置しておけば、真剣に働いている社員のやる気を失わせるおそれすらあります。

そこで、離席が多すぎる社員へ対応する場合には、「離席の許可制」という手段を使うのではなく、次の順序で、「問題社員」としての対応を徹底するようにしましょう。

  1. 離席時間が長く、離席の頻度が多い場合には、離席理由を確認し、その回答を記録する。
  2. 回答した離席理由が虚偽であった場合には、注意指導、懲戒処分を行う。
  3. 離席時間、離席の頻度が、度を越えて悪質な場合にも、注意指導、懲戒処分を行う。
  4. 改善の余地がない場合には、退職勧奨を行い、普通解雇とする。

5. まとめ

今回は、会社の労務管理上、会社経営者の方が行ってしまいがちな、「離席の許可制」について、弁護士が解説しました。

労働法違反ではなくても、厳しすぎるルールは、労働者の反発を招き、やる気を失わせがちです。「休憩による離席が多すぎる。」という問題については、「許可制」とするのではなく、注意指導を徹底し、「問題社員」として対応すべき場合も少なくありません。

会社内の労務管理について、お悩みの会社経営者の方は、企業の労働問題(人事労務)を得意とする弁護士に、お気軽にご相談ください。

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