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タバコ休憩の多い問題社員への対応と、喫煙者の賃金・残業代

タバコ休憩が「不公平だ」という不平不満の槍玉にあがることがあります。

古くは「喫煙室で重要なことが決まる」「喫煙者のほうが出世できる」という不公平感でしたが、現在は「タバコ休憩が長すぎるのに同じ賃金・残業代なのは不公平だ」という内容に変わってきました。

社員は、業務時間中は会社の業務に集中しなけらない一方、業務時間中でも食事やトイレに行くことがあります。しかし、食事やトイレは全員がおこなうのに対して、タバコ休憩をするのは喫煙者だけであるため、問題化しやすいです。

2020年4月1日より改正健康増進法が施行され、屋内原則禁煙となるため、タバコ休憩をとるために屋外や喫煙室にいくなど、ますます時間をとられるようになりました。

今回は、喫煙者と非喫煙者との間に「タバコ休憩」に関する不公平感をうまないために、「喫煙者の賃金・残業代を控除する」などの会社の対応について、企業法務を得意とする弁護士が解説します。

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タバコ休憩が「不公平」な理由

タバコ休憩が「不公平」の問題になるのは、喫煙者と非喫煙者との間で、タバコ休憩に対する考え方が大きく異なるからです。

非喫煙者にとって、タバコは嗜好品であり、個人の趣味です。タバコ休憩は、ただサボっているようにしか見えませんん。これに対して、喫煙者にとってタバコは必需品です。「タバコを吸わなければ仕事に集中できない」「タバコは食事やトイレと同じでしかたないもの」という考え方です。

タバコ休憩の不公平に対して、適切な対応を検討する前提として、タバコ休憩について労働法でどのように考えるべきか、弁護士が基礎知識を解説します。

職務専念義務と、その例外

「タバコ休憩は不公平だ」という非喫煙者の考え方、「タバコ休憩は必須でやむを得ないもの」という喫煙者の考え方のいずれが正しいのかを理解するためには、「職務専念義務」という労働法の専門的な考え方を理解していただく必要があります。

「職務専念義務」とは、業務時間中は、会社に雇用された労働者は、会社の仕事に集中しなければならないという義務のことです。したがって、業務時間外は、会社の業務に無関係なことをしてはいけません。

しかし、「職務専念義務」があるとはいえ、業務時間中、「常に仕事をする」のは無理です。人間の集中力はそれほど長く持ちませんし、仕事以外のことを全くおこなわないと、生活にも支障が生じます。

そのため、「職務専念義務」の例外として、業務に支障のない範囲であれば、トイレにいったりスマホを見たり、ストレッチをしたりなど、業務以外のことをおこなうことが許されています。

タバコ休憩についても、常識的な範囲内であれば、「職務専念義務」の例外の1つとして許されるべきものです。

タバコ休憩の不公平感

タバコ休憩が、「職務専念義務」の例外として許されるとしても、あまりにも頻繁にタバコ休憩をとる社員がいると、不公平感が増してしまいます。会社の業務にも支障が生じますから、「問題社員」と言わざるを得ません。

喫煙者ばかりがタバコ休憩をとって、その時間は仕事をしていないのに、非喫煙者と給与は同じというのでは、非喫煙者が不公平に感じ、全体の士気、モチベーションが低下するおそれが高いです。

喫煙は業務ではありませんから、あくまでも「職務専念義務」の例外として、常識的な範囲で認められるに過ぎません。

タバコ休憩が業務におよぼす支障・デメリット

タバコ休憩の多すぎる社員を放置すると、非喫煙者からの不公平感だけでなく、会社もまたデメリットを被ります。

タバコ休憩が業務におよぼす支障・デメリットの1つ目は「業務効率の低下による人件費の無駄」です。

「タバコを吸うと集中できる」と喫煙者はいうでしょうが、喫煙のために外出しなければならないと、業務を頻繁に中断することとなり、労働密度が低下します。2020年4月1日に施行された改正健康増進法により、オフィス内でタバコを吸うことはできなくなったため、この理由は特に顕著です。

タバコ休憩が業務におよぼす支障・デメリットの2つ目は、「業務を遂行する時間の減少」です。

業務時間中にタバコ休憩をとることで、業務を遂行する時間が減少します。タバコ休憩とともに同僚との雑談も多くなり、その結果、ダラダラ残業を助長し、長時間労働となります。

タバコ休憩の多い社員への、会社の適切な対応

ここまで解説したとおり、タバコ休憩が多い社員に対しては、会社として適切な対応をしなければ、企業経営に大きな悪影響を与えかねません。「喫煙をする権利」は、憲法13条の人格権として保障されていますが、他人に迷惑をかける場合などには一定程度の制限が当然許されています。

そこで次に、タバコ休憩の回数、頻度が非常に多い「問題社員」が要る場合に、会社として措るべき適切な対応について、弁護士が解説します。

タバコ休憩時間の賃金を控除する

労働法の基本的な考え方に「ノーワーク・ノーペイ」という原則があります。これは、「働いていない時間は、賃金を支払わなくてもよい」という考え方です。

「ノーワーク・ノーペイ」の原則にしたがえば、タバコ休憩中の時間は業務をおこなっていないわけですから、「タバコ休憩時間に相当する賃金を控除する」という対応が検討できます。給与に差をつけることで、「タバコ休憩ばかりしていて、給与が同額では納得がいかない」という非喫煙者の不公平感をなくすこともできます。

ただし、賃金を支払うべき「労働時間」とは、会社の「指揮命令下」におかれた時間のことをいうものと考えられており、タバコ休憩中であっても、緊急事態であったり、命令・指示があったりすればいつでも仕事に戻らなければならないとすると、「労働時間」と評価されるおそれがあります。

この考え方からして、タバコ休憩時間の賃金を控除するには、その時間は、完全に労働から解放されているようにしなければなりません。

タバコ休憩の多い喫煙者の賞与を減額する

基本給などの毎月支払う賃金を減らすためには、「タバコ休憩は『労働時間』か、『休憩時間』か」というとても難しい問題を検討しなければなりません。そこで、タバコ休憩の多い喫煙者への対応の2つ目として「賞与を減額する」という対応策が検討できます。

「賞与」は、会社の評価や業績、能力などを総合的に考慮して決定することが一般的だからです。

「喫煙者は全員賞与なし」というような一律の対応では、不合理な区別として違法となるおそれがあります。しかし一方で、あまりにタバコ休憩が多く、業務効率の悪い「問題社員」について、一定の賞与減額をおこなうことは適法です。

タバコ休憩の多い喫煙者を懲戒処分とする

タバコ休憩を制限するために、タバコ休憩に対して制裁(ペナルティ)を与える方法があります。そこで、タバコ休憩の多い喫煙者への対応の3つ目として「懲戒処分を下す」という対応策があります。

懲戒処分とは、社員の問題行為に対して、会社が与える制裁(ペナルティ)のことです。

懲戒処分は、厳しい処分であるため、有効におこなうためには「合理性」「相当性」が必要とされています。タバコ休憩が、懲戒処分をおこなうに適したものであると判断するためには、次の事情を考慮する必要があります。

  • 1日のタバコ休憩の回数・程度頻度
  • 1回のタバコ休憩の時間
  • タバコ休憩をとるタイミング
  • タバコ休憩の動機・目的
  • タバコ休憩時、非喫煙者や会社の業務への配慮があったかどうか
  • タバコ休憩後の態度

あまりに悪質なタバコ休憩をとる社員が企業秩序を乱すことは明らかです。その場合には、制裁として「懲戒処分を下す」という対応策を検討してください。ただし、「懲戒解雇」はもっとも厳しい処分であり、よほどのケースでなければ違法な「不当解雇」となる可能性が高いです。

休憩ルール・喫煙マナーを文書化する

悪質なタバコ休憩をとる社員に注意指導をしたり、懲戒処分にしたりするためには、ルールの明確化が必要です。「どのようなタバコ休憩がいけないのか」「喫煙するとき守るべきルールは何か」を明確にしなければ、「タバコ休憩は当然」と考える喫煙者に適切な指導を与えることができません。

つまり、会社としてのタバコ休憩に対する方針を明示することで、それに違反した社員に注意指導や懲戒処分をしやすくなります。

例えば、タバコ休憩ルール・喫煙マナーを作る際に検討すべき案は、次のようなものです。

  • タバコ休憩の回数を常識的な範囲に制限する
  • タバコ休憩をするとき、上司に声をかけ、業務に配慮する

タバコ休憩のルールを作るときは、「暗黙のきまり」にするのではなく、きちんと明文化することがお勧めです。

雇用契約書(労働契約書)に定めておく方法もありますが、会社内に統一的に適用されるルールですから、就業規則に定めるか、マニュアルなどを作成し、掲示することがお勧めです。

非喫煙者にも休憩を与える

ここまでの対応策はいずれも「喫煙者にデメリットを与える」内容でした。一方で、非喫煙者の不公平感を解消するためには、「非喫煙者にもメリットを与える」ことを内容とした対策もあります。

それが、「非喫煙者にも、喫煙者のタバコ休憩に相当する休憩を与える」という方法です。

業務時間中の適度なタイミングでこまめな休憩をとることは、集中力低下を防ぎ、業務効率を上げます。このことは、非喫煙者でも喫煙者でも変わりません。そもそも、休憩は「自由利用」が原則ですから、タバコを吸っても、それ以外の休憩をしても構いませんし、評価にも賃金にも影響しません。

なお、労働基準法(労基法)では、休憩は「一斉に与える」ことが原則とされており、個別に休憩を与えるためには労使協定を作成する必要があります。

喫煙者を採用しない

そもそも喫煙者を採用しなければ、非喫煙者が不公平感を抱くことはありません。そのため、会社としての対応策として「喫煙者を採用しない」というものが考えられます。

喫煙者からは「差別だ」という批判もあるかもしれません。しかし、会社には「採用の自由」があり、誰を、どのような条件で採用するかは、法律違反とならない限り会社が自由に決めることができます。

「喫煙者は採用しない」という採用方針であれば、採用面接のときに「タバコを吸うかどうか」について質問することもまた、「調査の自由」として認められます。

タバコ休憩を理由とした解雇はNG

最後に、タバコ休憩に対して会社として対応するにあたっては、やってはいけない禁止行為、違法行為があります。それが、「タバコを吸う社員は解雇」というものです。

タバコ休憩に対して過敏に反応し、やりすぎてしまえば、逆に、喫煙者の労働者から、労働審判や訴訟などで、会社の責任を追及されてしまうおそれもあります。

喫煙行為は、非喫煙者にとっては不快な行為でしょうが、喫煙者にとっては、憲法上の「人格権」の内容として、つまり、「権利」として認められているものです。

また、タバコ休憩がそれほど多くなく、会社の業務にも支障を与えないのであれば、「タバコを吸ったら解雇」という対応は、「不当解雇」として会社が訴えられるリスクのある危険な対応です。

「企業法務」は、弁護士にお任せください!

今回は、喫煙者と非喫煙者との間で問題になりがちな、「タバコ休憩の不公平感」について、弁護士が解説しました。

職場の「タバコ」に関する問題は、対応せず放置しておくと、会社全体の士気が低下し、業務効率の低下につながります。更には、職場の喫煙問題は、会社の安全配慮義務・職場環境配慮義務の問題ともつながるため「受動喫煙対策」も必須です。

不公平感をなくすためには、タバコ休憩に対する適切な対応を理解し、会社としての方針を、経営者が積極的に明示する必要があります。

職場の喫煙ルール、タバコ休憩の多すぎる「問題社員」への対応についてお困りのときは、企業の労働問題を得意とする弁護士に、ぜひ一度ご相談ください。

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