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業務中の「私用メール」・「LINE」を完全禁止することは可能?

業務時間中であるにもかかわらず、私用のメールやLINEが多すぎる社員(従業員)はいませんでしょうか。「気付くとスマフォばかりいじっている。」という問題社員は、「私用メール」の可能性があります。

営業マンなど、取引先や関係会社の社員と仲良くしているケースでは、私用のメール、LINEと、業務連絡との線引きが難しいケースもあります。

あまりに厳しく私用メールやLINE、スマフォいじりを禁止しすぎると、従業員のやる気が減退するおそれもあります。

今回は、問題となる仕事中のスマフォいじり、特に私用メール・LINEについて、企業の労働問題(人事労務)を得意とする弁護士が解説します。

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1. 業務時間中の「職務専念義務」

会社に雇われている労働者には、業務時間中、「職務専念義務」という義務が課されています。

会社が労働者に対して賃金を支払う義務を負っているのと同様、労働者もまた、会社に対する義務をきちんと守らなければなりません。

1.1. 職務専念義務とは?

「職務専念義務」とはつまり、業務時間中は、会社の職務に専念し、職務以外の私的な活動(プライベート)はひかえなければならない、という義務です。

私用メールやLINEの利用は、冒頭で解説したとおり判断が微妙なケースもありますが、ゲームをしていたり、スマフォアプリに夢中になっていたりする社員が問題社員であることは明らかに理解していただけるでしょう。

1.2. 就業規則により義務を負うケース

一般的に、会社の就業規則で、「職務専念義務」について次のようなルールの定めがあるケースが多いです。

 第○条(職務専念義務) 

従業員は、その職務遂行に専念しなければならない。

就業規則は、すべての社員に対して適用されるルールを定めるもので、適切に周知されている場合には、労働契約の内容となります。

つまり、雇用契約書に書いてあるルールと同様、労働者に守らせることのできるルールというわけです。

1.3. 就業規則がないケース

そもそも就業規則がない会社もあります。また、就業規則が準備されていても適法な周知がされておらず「無効」と判断されてしまう場合もあります。

しかし、就業規則がなくても「職務専念義務」を労働者に守らせることができます。

労働契約を結んでいる場合、契約内容として「誠実に働く。」という義務(誠実義務)があり、その1つとして、「職務専念義務」を、労働者は当然に負うからです。

 参考 

雇用契約上、労働者が当然に負う「誠実義務」の内容には、ここで解説した「職務専念義務」以外に、「会社の信用を保持する義務(信用保持義務)」、「会社の秘密を守る義務(守秘義務)」、「競業避止義務」などが含まれます。

また、会社もまた、雇用契約上当然に、労働者を安全にはたらかせる義務(安全配慮義務)を負います。

2. 「私用メール禁止」を明文化!

以上で解説しました「職務専念義務」から当然に、業務時間中の私用メール、私用LINEは、原則として禁止です。

とはいえ、労働者の中で、「職務専念義務」について正しい法律知識を持っている方が少ないでしょうから、私用メール、私用LINEが禁止であることを、明文化して労働者を指導しなければなりません。

私用メールや私用LINEを業務時間に行ってはならない旨を、就業規則に記載し、従業員(社員)に対して周知、教育を進めてください。就業規則の記載例は次のようなものです。

 第○条(私用の禁止) 

会社のPC、携帯電話、スマートフォン、電話、ファックスを、私的に使用することは禁止する。

特に、会社の所有物であるパソコン(PC)、貸与している携帯、スマフォ、FAXや電話は、会社がお金を出して利用できるものですから、私用はしないよう厳しく伝えましょう。

私用の禁止に違反した場合に「懲戒処分」を予定している場合には、その旨も記載しなければいざというときに「懲戒処分」にすることはできません。

3. 私用メールの多い問題社員の懲戒のポイント

私用メール、私用LINEが業務時間中に多すぎる社員は「問題社員」であるといってよいでしょう。

業務時間中、常にスマフォをいじっているような社員を放置しておいては、会社の秩序が乱れますから、「懲戒処分」をはじめ、しかるべき処分をすべきです。

そこで次に、私用メール、私用LINEの多い問題社員に対する懲戒処分を下すときに、会社、経営者が注意しておくべきポイントを、弁護士が解説します。

3.1. 私用メール、LINEの頻度、回数

まず、私用メールや私用LINEを理由として「懲戒処分」という厳しい処分を課すためには、その処分に相当する程度の頻度、回数である必要があります。

特に頻度が多いときは、懲戒解雇など、厳しい処分が可能なケースもあります。

例えば、次の裁判例では、「出会い系サイト」に登録し、会社のパソコンで、約5年間の1640通のメールを受信、1330通のメールを送信したケースで、懲戒解雇が可能であると判断されています。

 専門学校私用メール事件(福岡高等裁判所平成17年9月14日判決) 

「連日のように複数回メールを送信し、その多くが勤務時間内に行われていたものであるなど、行っていた私用メールは、学校の含む規則に定める職責の遂行に専念すべき義務等に著しく反し、その程度も相当に重い」
「本件懲戒解雇は誠にやむを得ない」

3.2. 私用メール、LINEの内容

懲戒処分や懲戒解雇が適切な処分であるかどうかを判断するためには、行われた私用メール、私用LINEの内容も影響してきます。

例えば、先程の「出会い系サイト」の例のように、私用メールや私用LINEを行うことによって、会社の名誉、信用を傷つけるような内容のメール、LINEの場合には、会社としてもより厳しい処分が可能です。

また、業務時間中の私用メール、私用LINEによって、会社の企業秘密や個人情報、プライバシー情報の漏洩をしてしまうようなケースでも、懲戒解雇をはじめとした厳しい処分を検討すべきです。

3.3. 懲戒事由にあてはまるか

とはいえ、一般的に、懲戒処分とするためには、その懲戒処分の種類とともに、懲戒処分とすることのできる「懲戒事由」が、あらかじめ就業規則に定められてなければいけません。

禁止をされているかどうかが明らかでないのに処分をされたのでは、労働者にとって不公平だからです。

そのため、私用メール、私用LINEについて、従業員(社員)を厳しく罰するためには、事前に就業規則をリーガルチェックしておくことが必須です。

4. 私用は「完全禁止」ではない

業務時間中にプライベート行為をすることは、基本的には禁止なのですが、すべて「完全禁止」では厳しすぎます。

というのも、例えば、家族への緊急連絡、家族の不幸や、残業をするという連絡など、一定の連絡は、生活上いたしかたないことだからです。これらが職務専念義務に違反しないことは明らかです。

次の裁判例でも、一定の私的メール、私的電話は、業務時間中に行っても差し支えないと判断されています。

 広告会社私用メール事件(東京地方裁判所平成15年9月22日判決) 

「労働者といえども個人として社会生活を送っている以上、就業時間中に外部と連絡をとることが一切許されないわけではない」
「就業規則等に特段の定めがない限り、職務遂行の支障とならず、使用者に過度の経済的負担をかけないなど、社会通念上相当と認められる限度での私用メールを送受信しても、職務専念義務に違反するものではない」

この裁判例から、逆にいうと、業務の妨げとなったり、会社に過度の費用(コスト)を負担させるような私用メール、私用電話は、明確に禁止しておくことが必要です。

5. まとめ

今回は、業務時間中にスマフォばかりいじっているような、問題のある私用メール、私用LINEをする社員への対応方法について、弁護士が解説しました。

社内の秩序を乱す問題社員に対して適切に対応するためには、私用メール、私用LINEについての正しい労働法の知識を知るとともに、就業規則などの事前準備が重要です。

社内の労務管理、問題社員対応についてお悩みの会社経営者の方は、企業の労働問題(人事労務)を得意とする弁護士に、お気軽にご相談ください。

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