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債権回収の失敗とは?回収できないときの対処法と注意点

「取引先からの入金が滞ったまま、連絡がつかない」「破産するという連絡を受けた」。このような切迫した事態に直面したとき、どのように対応すべきでしょうか。

債権回収の失敗は、企業の資金繰りにダメージを与えるだけでなく、経営そのものを揺るがしかねません。特に中小企業や個人事業主にとって、1件の未回収が命取りになることもあります。実際、全く資力に余裕のなくなった状況では、他社への支払いも滞っており、もはや債権の回収は現実的に不可能なケースもあります。

今回は、債権回収が失敗する主な原因や、回収できなかったときの具体的な対処法について、企業法務に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 債権回収に失敗しないためには、契約書整備などの事前準備が欠かせない
  • 事前に与信管理を行い、担保を取得するなどして、回収不能のリスクを回避
  • 回収できないことが明らかになる前に、弁護士に相談して早期に対応する

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債権回収の失敗とは

はじめに、債権回収の失敗とはどのようなケースを言うのか、解説します。

債権回収の失敗の意味と具体例

債権回収の失敗とは、本来受け取るべき債権が、支払い期日を過ぎても回収できない状態、そして、最終的に、その全部または一部が回収不能となった状態のことです。一回きりの入金漏れとは異なり、債務者の資産や経営状況からして、決定的に回収不能なら「失敗」と言えるでしょう。

債権回収がうまくいかず、最終的に「失敗」となる事例には、次の例があります。

  • 取引先が夜逃げして行方不明になった。
  • 担当者と突然連絡が取れなくなり、所在地も不明。
  • 相手企業(債務者)が倒産した。
  • 催促を繰り返しても全く支払いがなくなった。
  • 口約束のみで契約書がなく、相手が債務を否定している。

いずれも、初期対応や予防策を講じれば避けられた可能性が高い失敗事例であり、経営判断の誤りとも言えます。債権回収の失敗は、自社のキャッシュフローを悪化させ、信用を低下させるなど、二次被害も生じがちです。特に、中小企業にとっては深刻な経営リスクです。

全額回収できない場合(回収不能)が「失敗」なのは当然ですが、話し合いや強制執行の結果として債権の一部は取り戻せたが、満額には至らなかったケース(一部回収)もまた、「予定していた収入が得られない」という経済的損失があるため、「失敗」と言ってよいでしょう。

よくある債権回収失敗の原因

債権回収が失敗に終わる背景には、債権者側の基本的なリスク管理の甘さがあります。よくある債権回収失敗の原因は、次の通りです。

  • 契約書の不備・未締結
    • 口頭の約束のみで、契約書を交わしていなかった。
    • 契約内容が不明確で、支払条件が曖昧である。
    • 適切な担保設定を怠っていた。
  • 与信管理の甘さ
    • 取引先の信用調査をしていない。
    • 既に支払い遅延のある相手と継続取引をしていた。
    • 破産の兆候があるのに気づかず取引していた。
    • 取引金額の上限を設定していない。
  • 初動対応の遅れ
    • 入金が遅れているのに催促が後回しになっていた。
    • 内容証明や督促状を送付していなかった。
    • 返済されるものと高をくくって様子見していた。

これらは全て、予防と迅速な対応によって、防げる可能性が高い原因です。

債権回収は「時間との勝負」です。未払いの可能性があるならスピーディに対応すべきです。放置すれば、債務者の財産は減少する一方ですし、財産隠しや夜逃げ、最悪は破産の危険もあります。債権回収で失敗したくないなら、平常時の備えと素早い判断が必須となります。

債権回収に失敗したときの対処法

次に、債権回収に失敗してしまったときの対処法を解説します。

債権が回収できなかったとしても、すぐあきらめる必要はありません。状況に応じた適切な対応を取ることで一部でも回収したり、経営へのダメージを軽減したりする方法は存在します。

債務者と話し合う

まず、債務者が協力的に支払ってくれないか、試しておきましょう。

相手に支払いを促す手段として効果的なのが内容証明です。内容証明は、「いつ、どのような内容を送ったのか」を郵便局が証明してくれる郵便方式で、裁判でも重要な証拠となります。債務者に支払う余力があるのに、あなたの債権を軽視しているなら、弁護士名義で警告書を送ってプレッシャーをかければ、支払いが再開される可能性があります。

一括での支払いが難しい場合も、分割払いや支払い猶予といった条件を提案して和解するのも一つの手です。この場合、必ず示談書や合意書を作成し、証拠を残しましょう。不履行に備えて公正証書にしておけば、裁判を経ずに強制執行することができます。

弁護士に依頼する

未払いの債権額が高いほど、失敗した場合の影響も大きくなるでしょう。

そのため、債権額が高額になるほど、弁護士の専門的な支援が重要となります。法的手続きや交渉の経験が豊富な弁護士を介して連絡することで、相手に心理的なプレッシャーを与えられ、早期解決に結びつく可能性も高まります。

特に以下の場合は、「失敗」が近いと考え、速やかに弁護士に相談すべきです。

  • 相手が支払いの意思すら示さない。
  • 債権の存在や額に争いがある。
  • 話し合いが平行線で、誠意がない。
  • 相手の資産や住所が分からない。
  • 債権の時効が迫っている。

債権回収に強い弁護士なら、内容証明の作成・送付から裁判手続き、強制執行まで一貫して対応してくれるため、負担を軽減することができます。

裁判などの法的手続きを利用する

次に、弁護士から連絡してもなお未払いが続くとき、法的手続きを利用します。債権回収によく用いられる主な手段は、次の通りです。

  • 支払督促
    裁判所名義で支払いを命じる書面を送ってもらう方法。相手が異議を申し立てなければ、仮執行宣言付支払督促が得られ、確定判決と同様に強制執行が可能。
  • 少額訴訟・通常訴訟
    勝訴して判決を得られれば、相手が従わなくても強制執行が可能。債権額が60万円以下なら、簡易裁判所で原則1日の審理で終結する「少額訴訟」を利用できる。金額が大きい場合や争点が複雑な場合は、通常訴訟を選択する。
  • 強制執行の概要
    判決や支払督促をもとに、相手の財産に対して強制執行を行う。給与や預貯金、不動産などが差し押さえの対象となるが、相手の財産を事前に調査しておく必要がある。

債権回収の裁判の流れ」の解説

債権回収会社(サービサー)に依頼する

債権回収会社(サービサー)に依頼すれば、自社で対応する手間を省けます。特に、多数の債権をまとめて管理・回収したい場合に向いています。

交渉・回収を代行してもらい、専門的なノウハウを活用でき、債権管理を効率化できるメリットがある反面、回収額に応じた手数料が発生するデメリットがあります。また、裁判のような強制力はないので、回収不能となることがあり得ます。

債権回収を業として行うには、法務大臣から、債権管理回収業の許可を得る必要があります。無許可業者に依頼すると、違法な取立てのリスクがあるため、慎重に選定してください。

税務処理(貸倒損失の処理)

ここまでの手段でも回収が叶わないとき、税務処理により解決する方法を検討してください。

債権回収が不可能と判断された場合、会計上は「貸倒損失」として処理し、税務上も損金算入が認められる可能性があります。この処理をすれば、実質的に法人税の節税となり、債権回収の失敗が経営に与えるダメージを軽減できます。

時効や破産で債権が消滅してしまった場合のほか、経済的に回収が不能な場合にも損金計上することができますが、正しい処理のためには税理士への相談が不可欠です。

債権回収で失敗しないための予防策

債権回収のトラブルは、発生してから対処するよりも、事前に予防することが何より重要です。以下では、実務上有効な、債権回収の失敗を予防する策について解説します。

契約書を整備する

債権回収のトラブルの多くは、「契約書がなかった」「内容が不明確だった」ことに起因します。契約書は、債権の根拠を明確にすると共に、万一の裁判の際の証拠になります。

少なくとも、次の条項について、明確に契約書に盛り込んでおきましょう。

  • 債権額
  • 支払条件・支払期限
  • 遅延損害金
  • 準拠法・管轄裁判所の合意
  • 債権譲渡禁止特約

信用状況が悪化した場合に備えた契約解除の条項や、状況が変化した際の通知義務などを定めておくと、トラブルを未然に防ぐ役に立ちます。

与信管理を徹底する

債権が未払いとなってしまう前に、与信管理を徹底しましょう。つまり、債務者の信用調査を行い、その結果に応じた信用枠を設定して、リスクをコントロールするのです。

新規取引先の信用調査

新規に取引を行うときは、必ず信用調査を行いましょう。

信用調査の方法には、会社の登記簿謄本や決算書を確認するほか、帝国データバンクや東京商工リサーチなどの信用調査会社を活用したり、インターネットやSNS上の情報、口コミ、業界内評判を調査したりすることも有効です。

与信限度額の設定と管理

信用調査の結果を踏まえて、相手ごとに取引金額の上限を設定しましょう。

そして、取引先ごとに、債権債務の残高を把握して、支払期日を整理しておきます。仮に、期限を過ぎても支払いがないなら、直ちに催告を開始します。与信は、支払実績や経営状況に応じて、定期的に見直す必要があります。

債権回収の失敗の多くは、「相手を信用しすぎた」ことに起因します。正確な情報をもとに与信管理を徹底すれば、未回収のリスクは軽減できます。

なお、与信上限、取引上限額などもまた、契約書に明記するのが適切です。

担保や保証を適切に設定する

債務不履行に備えて、回収の「保険」となる手段を講じておくことも大切です。

万一の際にも被害を最小限に抑えるために、以下の通り、保証人の設定、担保権の取得、相殺権の確保といった策を講じましょう。

保証人の設定

保証人を設定することで、主債務者が未払いになった場合に保証人からの回収が可能です。特に、連帯保証であれば、主債務者と同等の請求が可能です。例えば、法人の債権について、代表者の連帯保証を取得するのが典型例です。

保証契約は原則書面(または電磁的方法)による合意が必要です(民法446条)。

担保権の取得

不動産担保を取得しておけば、債権回収が不能になったとき、その不動産を競売し、代金から回収を図れます。また、動産や売掛債権などに担保を設定することもでき、動産譲渡登記、債権譲渡登記などで第三者に対抗することができます。

債権額に見合った適切な担保を取得しておけば、確実な回収が可能です。

相殺権の確保

相殺とは、両当事者間に、履行期の到来している債権債務があるとき、一方当事者の意思によって対当額で消滅させることです。自社が取引先に売掛金などの債権を有する場合、自社も取引先に対して債務を作り、相殺できる状態にしておく方法があります。

なお、相殺権を行使するには、両債権の履行期の到来が必要なので、期限の利益喪失条項を契約書に記載しておきましょう。

時効を管理する

債権回収に着手せず放置すると、消滅時効が成立するおそれがあります。

消滅時効は、成立すると法的に債権が消滅し、今後は裁判などで権利を認めてもらうことができなくなります。そのため、債権回収に失敗しないよう、消滅時効を管理する必要があります。

債権の消滅時効は、「権利を行使することができることを知った時」から5年間、「権利を行使することができる時」から10年間(人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権は20年間)とされます(民法166条)。時効が完成しそうなときには、大至急、完成猶予または更新に該当する措置を講じる必要があり、実務的には、内容証明で催告した上で、6ヶ月以内に訴訟提起します。

早期対応を徹底する

債権回収に失敗しないためには、支払いの遅延や不審な兆候を発見したら、速やかに初動対応を行うことが大切です。例えば、入金の数日の遅れ、担当者のレスポンスの滞りや、経営不振の噂など、小さな事実も見逃さないことが重要です。

未払いとなる可能性を感じたら、次の初動を速やかに行ってください。

  • すぐに電話・メールで事実確認を行う。
  • 速やかに督促状を内容証明で送付する。
  • 分割払いや支払猶予の交渉を記録に残す。
  • 継続的に社内で経過を共有する。
  • 一定期間を定めて警告し、支払いがなければ法的措置を検討する。

「様子見」をしている間に相手が夜逃げしたり、倒産したりすれば、回収は不能になり、債権回収に失敗してしまいます。不安や疑念は絶えないでしょうが、迷ったら動くことを徹底してください。

弁護士に早めに相談する

債権回収の問題は、早期の段階で弁護士に相談することが大切です。

債権回収が失敗してしまいそうになったときも、弁護士に速やかに依頼すれば、残った財産を確保できたり、交渉で一部でも回収できたりなど、損害を軽減できます。債権回収の経験が豊富な弁護士なら、速やかに財産の保全や訴訟などといった手続きを講じてくれるでしょう。

弁護士のアドバイスは、状況に応じて多種多様です。

  • 契約書作成の段階から法的リスクを洗い出せる。
  • 債権の法的性質についてアドバイスがもらえる。
  • 債権回収の失敗につながりそうな落とし穴を教えてもらえる。
  • 相手の対応に応じた最適な手続をアドバイスしてもらえる。
  • いざというときの訴訟対応までスムーズに移行できる。

以上の通り、弁護士は決して「最後の手段」ではありません。むしろ、初動対応から伴走してもらうことが大切です。特に、法的リスクの高い取引や高額の債権、不安要素のある相手との契約の場合、事前の相談は必須といってよいでしょう。

日常的に相談しながら進めるには、顧問弁護士を付けることも検討してください。

債権回収の失敗のよくある質問

最後に、債権回収の失敗について、よくある質問に回答します。

内容証明を送っても無視されたらどうする?

内容証明は、債務者に「法的対応を視野に入れている」という意思を伝える手段としては有効ですが、強制力があるわけではありません。そのため、相手が無視を続ける場合、次のステップに移行する必要があります。

具体的には、簡易なケースは支払督促や少額訴訟、複雑な争いになりそうなときは通常訴訟に進みます。無視されたのに放置していると時効が進行するおそれがあるので、一定期間内には法的措置を講じる決断が必要です。

回収不能と判断する目安は?

債権回収の失敗の最たる例が、「回収不能」です。

「この債権はもう回収できない」と判断する明確な基準は、状況によって異なりますが、一般的には次のポイントを検討してください。

  • 相手が破産している(法人の場合)。
  • 相手が死亡している(個人の場合)。
  • 相手に差押え可能な資産が存在しない。
  • 長期間連絡がつかず、所在が不明である。

これに対して、繰り返しの催促や交渉をして、相手が支払いの意思を示していたり、額に争いがあったりするケースでは、あきらめるのではなく、裁判で決着を付けるべきです。なお、回収不能かどうか迷う場合には、弁護士と税理士の双方に確認するのが確実です。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、債権回収の失敗と、その際の対処法について解説しました。

債権回収の失敗は、どの企業や個人にも起こり得るリスクです。弁護士に依頼しても、残念ながら100%回収できるわけではありません。しかし、回収不能に至ったケースの多くは、契約書の不備や初動対応の遅れなど、本来なら事前に防げた理由が背景にあることもあります。

債権回収に行き詰まったら、早めに弁護士に相談し、法的手段を駆使することが大切です。平時からの準備が肝心ですが、まだ未払いが判明した直後なら、取るべき選択肢はあります。重要なのは、冷静かつ迅速に動くこと、そして、同じ失敗を繰り返さないための仕組み作りです。

債権回収の場面では、法律や契約の知識が不可欠です。いざというときに泣き寝入りせず、大切な資金を回収できるよう、日頃の備えと早めの行動を心がけてください。

この解説のポイント
  • 債権回収に失敗しないためには、契約書整備などの事前準備が欠かせない
  • 事前に与信管理を行い、担保を取得するなどして、回収不能のリスクを回避
  • 回収できないことが明らかになる前に、弁護士に相談して早期に対応する

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