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セクハラ・パワハラの社内調査と、顧問弁護士に調査を依頼すべき理由

セクハラ、パワハラの相談窓口や相談室を設けている会社は、最近徐々に増加してきたように思います。

しかし、苦情申出に対する対応が、そのすべての会社で適切に行われているかというと、疑問であると言わざるを得ません。

折角相談窓口を設置しても、いざセクハラ、パワハラ問題が顕在化した際に、対応を適切に行わなければ、結局会社が重い責任を負う結果ともなりかねません。

会社は、労働者を健康で安全な職場で働かせるという、「安全配慮義務」、「職場環境配慮義務」を負っていますから、セクハラ、パワハラ問題を放置して深刻化すれば、それは会社の責任です。

被害申告の申出を受けたら、スピードと正確性を意識し、事実の調査と再発防止に尽力することが、会社としては最重要です。

今回は、セクハラ・パワハラ問題が実際に起こった際に、会社が行うべき事実調査の適切な方法と、調査の段階から弁護士に依頼すべき理由を、企業法務を得意とする弁護士が解説します。

目次(クリックで移動)

1. セクハラ・パワハラ問題を会社が対応する際の大原則!

「セクハラ」、「パワハラ」は近年社会問題化して久しく、「セクハラ」、「パワハラ」という単語に、会社が踊らされている感すらあります。

適切に対応しなければ会社に重い責任が課されらるのは当然ですが、用語に踊らされ、過剰反応となるケースも少なくありません。

労働法上「セクハラ」、「パワハラ」は法律には規定されていないことから、「ハラスメントに該当するのかどうか。」という点を慎重に検討して対応しなければなりません。

実際にセクハラ、パワハラ被害の申出を会社が受け取った場合には、原則的な対応は、次の通りです。

  • 事前に、いざというとき即座に対応できるようマニュアルを作成しておくこと
  • 被害申告を受けたら、即座に事情の聴取を行うこと
  • 懲戒処分とする場合には、就業規則に従って、適切な手続きで行うこと
  • 再発防止、教育を周知徹底すること
  • 問題行為が認定できない場合であっても、再発防止、二次被害防止の努力をすること
  • 被害申告を行ったことで被害者を不利には取り扱わないこと

以上の大原則をしっかりと遵守し、早急に対応を行うようにします。

2. セクハラ・パワハラ対応のマニュアル、就業規則を事前に準備

労働問題は何より未然に防止することが一番です。

セクハラ、パワハラが実際に顕在化する前に、いざ起こった際の迅速な対応をできるようにしておくため、マニュアルと就業規則の作成は必須といっても過言ではありません。

御社に>ハラスメント対応マニュアル、就業規則がない場合や、就業規則はあるけれどもセクハラ、パワハラに関する規定がない場合、お気軽にご相談ください。

ハラスメント対応マニュアルは、実際に問題が起こるたびに、御社に合わせて適切に調整、修正していく必要があります。

3. ハラスメントの被害申告に対する事情聴取

セクハラ・パワハラの被害申告があった場合、まずはその被害申告が真実であるかどうか、会社として事情聴取、調査を行わなければなりません。

中には、「気に入らない従業員を排除したい。」といった不当な目的や、権利意識の過剰な高まりによって、嘘の申告を行ったり、過剰な申出をしたりするケースもあるため、中立的な調査が重要です。

3.1. パワハラ調査は「業務上の指導」との区別が重要

被害申告があったパワハラ行為について、パワハラと認定できるかどうかという点でいうと、「業務上の指導」、特に、厳しい上司からの指導とパワハラとの区別が重要となります。

この調査を誤って、厳しい指導をすべてパワハラと認定してしまうと、上司が指導を委縮し、労務管理が十分に行えなくなり、企業の秩序が崩壊します。

特に、会社がどのような行為であってもパワハラとして処罰するということとなると、上司の命令を拒否する理由として「パワハラだ!」と申告する従業員を助長することとなりかねません。

「厳しい注意指導」と「パワハラ」との区別は、次の事実を調査することによって、区別が可能となります。

  • パワハラ被害者と加害者との関係
  • パワハラが継続的な行為であるかどうか
  • 注意指導の方法が必要かつ相当なものであるかどうか
  • パワハラ行為の動機、理由
  • 原因行為が会社に与える影響と注意指導とのバランス
  • 注意指導に対するパワハラ被害者の対応、反省の度合い

したがって、企業秩序に与える影響が非常に大きい行為に対して、または、反省の態度を見せずにミスを繰り返す社員に対して、ある程度厳しく注意指導することは、「パワハラ」ではありません。

例えば、パワハラ被害を主張する労働者の問題行為が大きく、注意指導はパワハラではないとした次の裁判例を参考にしてください。

 医療法人財団健和会事件(東京地判平成21年10月15日) 

「原告の事務処理上のミスや事務の不手際は、いずれも、正確性を要請される医療機関においては見過ごせないものであり・・・注意指導は、必要かつ的確なものというほかない。」「時には厳しい指摘、指導や物言いをしたことが窺われるが、それは生命・健康を預かる職場の管理職が医療現場において当然なすべき業務上の指示の範囲内にとどまるものであり、到底違法ということはできない。」

これに対し、いかなる原因行為に対しても、人格否定的な発言、暴力といったものは「注意指導」とは認められず「パワハラ」であると判断すべきです。

例えば、次のように、注意指導をすべきケースであっても、その方法、程度が不適切な場合には不法行為となるとして名誉棄損に基づく損害賠償を認めた裁判例があります。

 A保険会社上司(損害賠償)事件(東京高判平成17年4月20日) 

「それ自体は正鵠を得ている面がないではないにしても、人の気持ちを逆撫でする侮辱的言辞と受け取られても仕方のない記載などの他の部分とあいまって、控訴人の名誉感情をいたずらに毀損するものであることは明らかであり、上記送信目的が正当であったとしても、その表現において許容限度を超え、著しく相当性を欠くものであって、控訴人に対する不法行為を構成するというべきである。」

3.2. セクハラ調査はプライバシーに配慮

セクハラの事実調査の場合には、会社は、セクハラの被害者のプライバシーへ適切な配慮して進めなければなりません。

「セクハラの事実調査を迅速に進めなければならない。」という焦る気持ちから、会社が強引な事情調査を進めてしまうと、逆に被害者の精神的ダメージを広げてしまい、二次被害に繋がりかねません。

会社がセクハラの事実調査によって二次被害を拡大させた場合、「安全配慮義務違反」として、被害者から多額の慰謝料を請求されるおそれもあります。

特に、実際に「セクハラ行為があった。」という認定を会社が行い、セクハラ加害者に対して懲戒処分などの制裁を下す場合であっても、被害者や実際にあったセクハラ行為が特定されたり、他の従業員に拡散されたりしないよう十分な配慮が必要です。

3.3. 事実調査の際参考としてよい証拠、してはいけない証拠

事実調査の場合に重要となるのは、書面による資料の精査と、関係者への事情聴取の2つです。

会社としては、「セクハラ、パワハラ行為が存在した。」という認定判断を確定するまでは、あくまでも中立的な立場で調査を進めなければなりません。

例えば、次の通り、パワハラ被害を主張する労働者側の提出した証拠の価値が否定され、パワハラ行為の認定がされなかった裁判例もありますから、ハラスメントの被害申告だけを闇雲に信じることは不適切です。

 ウェストロー・ジャパン事件(東京地判平成22年7月14日) 

「『当時の手帳参照』『当時の手帳より』『追記』などの記載が随所にあり、これらの記載は、上記記録が後に紛争が顕在化してからまとめられ、修正されたものであることを窺わせる。」「記載内容には、記憶が再構成された部分が含まれていると解され、そのまま採用することはできない。」

3.4. 事実調査の報告は整理して行う

事実調査の結果、ともすると、妙にハラスメント対応に張り切ってしまい、被害者への擁護の感情、加害者への制裁の感情が出過ぎてしまう会社も少なくありません。

このような問題は、事実調査の報告が冗長であったり、感情的であったりすることによってますます加速します。

ハラスメントに対する迅速かつ適切な対応は、会社として必須ではありますが、無駄な混乱を招くことは会費しなければなりません。

あくまでも、事実関係を中心に、時系列に沿って整理して報告をすべきです。これは、就業規則にしたがってセクハラ・パワハラに対して懲戒処分を下すという場合、より慎重な報告が必要となります。

4. 懲戒処分する際に注意すべきこと

セクハラ、パワハラの加害者に対して懲戒処分を行うときは、労働者側から労働審判、団体交渉、裁判などで懲戒処分の有効性を争われた場合、裁判所が懲戒処分を無効と判断することのないよう準備しなければなりません。

適切な事実の調査を行うことが重要であるのは、既に解説したことからも理解していただけるでしょうが、この調査した事実を基に、懲戒処分が有効であるかを検討してから懲戒処分をすることが必要です。

懲戒処分を有効に行うために、注意すべきポイントを順に解説します。

4.1. 就業規則に懲戒に関する規定をチェックする

懲戒処分は、就業規則に基づいて実施する必要があり、就業規則に懲戒処分に関する規定がない場合には懲戒処分を行うことはできないのが原則です。

懲戒解雇という重い処分とする場合には、更に慎重な検討が必要です。

また、懲戒解雇の際に退職金を不支給とするのであれば、退職金規程に根拠条文があるかどうかを確認する必要があります。

労働組合との間で、懲戒処分・懲戒解雇の場合には事前に協議をすることを義務付ける労働協約が存在する場合には、労働組合との団体交渉が必要となります。

4.2. 過去の懲戒の量定をチェックする

懲戒処分を行う場合、懲戒処分が、対象となる問題行為の性質、程度に対して重すぎる場合には、権利濫用として無効となります。

そのため、懲戒処分の量定をどの程度とするかが問題となります。

このとき、参考として必ず検討しておかなければならないのが、会社内における過去の懲戒の量定です。

過去に同程度のセクハラ、パワハラ行為を行った従業員がいる場合には、「公平性」の観点から、同程度の懲戒処分としなければならず、不当に重い処分は権利濫用として無効となります。

4.3. 適正な手続きを踏む必要がある

懲戒処分は、労働者にとって不利益の非常に大きい処分であるため、適正な手続きを踏むことが保証されなければなりません。

また、懲戒解雇の場合には、裁判例上も、「弁明の機会」を付与しなければ、これによって懲戒解雇が権利濫用として無効と判断されるリスクは飛躍的に高まります。

5. セクハラ・パワハラ調査の段階から弁護士を依頼すべき理由

セクハラ、パワハラの被害申告が労働者からなされた場合、会社として適切な対応は、直ちに事情の調査をし、対応すべきことであることは十分ご理解頂けたのではないでしょうか。

放置をしてしまえば、「安全配慮義務違反」、「職場環境配慮義務違反」として、多額の慰謝料を請求されることになるからです。

会社のみで事情調査を行うことも可能ですが、調査段階から早急に弁護士を依頼すべき3つの理由を説明します。

5.1. 【理由①】弁護士は事実認定の専門家である

セクハラ、パワハラの被害申告があっても、会社としては事実認定を中立的に行う必要があります。

すなわち、常に「本当にセクハラ行為があったのか?」「パワハラというが、厳しい指導というだけではないか?」という疑問は、常に持ちながら調査を行わなければなりません。

もちろん、明らかな証拠がある場合には、セクハラ、パワハラ行為の事実認定は容易に可能です。

しかし、ハラスメントの性質上、「陰でこっそり」という行為態様がほとんどであり、結果、「証拠は当事者の証言しかない。」というケースでは、事実認定は非常に難しいといえます。

弁護士は、訴訟の専門家、事実認定の専門家です。「どのような証拠があれば、どのような事実認定が裁判で可能となるか。」を最もよく理解している職業です。

そのため、セクハラ、パワハラの事実調査の場合も、事実認定は弁護士に依頼するのが適切です。

5.2. 【理由②】セクハラ・パワハラの判断に労働法、判例の知識が必要である

既に解説した通り、セクハラ、パワハラと評価できるかどうかは、法的に非常に難しい問題です。

理由①で解説したことから「ある一定の行為」が認定できたとしても、その行為が果たして、セクハラ、パワハラであるのかどうかを判断しなければなりません。

このためには、過去のセクハラ、パワハラに関する判例の知識、労働法の知識が必要不可欠です。

当事務所では、企業法務、人事労務を得意とし、セクハラ、パワハラ問題についても豊富な解決実績を有しています。

5.3. 【理由③】顧問弁護士として規程作成、予防を依頼できる

セクハラ、パワハラの事実調査の方法が、今回の解説の主題でしたが、そもそも、セクハラ、パワハラ問題が起こらないことが一番であることには異論がないのではないでしょうか。

事前の予防のため、また、一度起こってしまった場合には再発防止のため、ハラスメント防止マニュアル、就業規則などの規程を会社にきちんと準備し、従業員に対して教育を行う必要があります。

この予防、再発防止の活動は、一度行えばよいというものではなく、継続的に実践しなければなりません。

また、セクハラ防止のための会社規程も、一度作ればそれで終わりというわけではなく、社の状況、規模の変化、社会の情勢などに合わせて、変更、修正が必要です。

継続的に会社の状態をチェックし、適切な施策を実施するためには、顧問弁護士を依頼して活用することがオススメです。

6. まとめ

セクハラ、パワハラの被害申告があった場合に、安全配慮義務、職場環境配慮義務を負う会社としては、迅速に社内調査を行わなければなりません。

会社がハラスメント被害に関する社内調査を行う際に注意すべきポイントと、調査段階から弁護士に依頼すべき理由について解説しました。

会社内のセクハラ、パワハラへの対応にお悩みの経営者の方は、人事労務に詳しい弁護士に、お気軽に法律相談ください。

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