人事労務

履歴書が真っ赤な嘘だった新入社員を解雇できますか?【弁護士解説】

履歴書は、採用選考の一番はじめに、応募者の情報を端的につたえるための重要な書類です。

新しい社員の採用選考をおこない、内定を出して入社してもらうときには、履歴書・職務経歴書などの書類を提出してもらうのが通常です。しかし、その内容が真っ赤な嘘だったとしたら、その社員は会社には合わないおそれがあります。

採用選考のとき、「少しでも自分をよく見せたい」「より良い給料で採用されたい」といった誘惑にかられる応募者の中には、履歴書に虚偽の記載をする人もいます。「隠したい過去」のある人の中には、履歴書に嘘の経歴を書き、会社にとって不利益な経歴を隠して入社する人もいます。

このようなとき、社員を解雇することは可能なのでしょうか。

今回は、新しい社員が入社したあとで、履歴書にまったくの嘘(虚偽)があったことが判明したとき、どのような対応をしたらよいかについて、企業の人事労務に詳しい弁護士が解説します。

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入社時に履歴書をもらう理由

新しい社員を採用するときに、会社が履歴書をもらっておくべき理由は、「採用のマッチング」にあります。つまり、会社が求めている人材と、その社員とが合致しているかどうかを履歴書を見ることで判断をして、適切な人材を採用するためです。

そのため、事実と反する履歴書を書いて提出することは、この目的と反することとなり、意味がなくなってしまいます。

中途採用者の転職のときには、履歴書とともに職務経歴書を取得することが一般的です。

履歴書・職務経歴書は、多くの求職者の中から内定者を選ぶときにとても重要な考慮要素となります。この2つの書類に書かれた情報が「実は嘘だった」となれば、会社としては大問題です。

そこでさらに、このような新入社員による重大な違反行為に対して、「解雇」という厳しい処分をもってあたることができるのかが問題となります。この点について、弁護士が順に解説していきます。

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履歴書に嘘を書いた社員を解雇できますか?

以上のとおり、履歴書・職務経歴書の重要性からすれば、会社側(企業側)からすれば、履歴書に書かれた嘘がささいなものであったとしても「もはやそのような社員には入社してほしくない」という本音は十分理解できます。

「解雇も辞さない」という厳しい対応をしたいと考えるのは、無理もないことです。

しかし一方で、「解雇」は、労働者にとってその身分を失わせ、生活の糧を失わせるとても重大な処分です。労働者に与える不利益が大きいため、慎重におこなわなければ「不当解雇」と評価される危険があります。

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解雇の3つの種類

「解雇」とひとことでいっても、その性質と解雇理由によって、解雇はおおまかに三種類に分類することができます。

三種類の解雇は、次のとおりです。

  • 普通解雇
    :労働者側の事情を解雇理由とする解雇のうち、会社の従業員として適切ではないことを理由とする解雇のこと。
  • 整理解雇
    :会社側の事情を解雇理由とする解雇のこと、例えば、経営状況の悪化、担当事業の廃止など。
  • 懲戒解雇・諭旨解雇
    :労働者側の事情を解雇理由とする解雇のうち、強度のセクハラ、業務上横領などの企業秩序順守義務違反を理由とする解雇のこと

「履歴書に嘘の事実を書いた」という解雇理由は、労働者側の事情ですから、この解雇の三分類のうち、普通解雇、もしくは、懲戒解雇が適切ということになります。

「履歴書に嘘の事実を書いた」という問題行為をとらえて、企業秩序違反と考えるのであれば、「懲戒解雇」がもっとも合っています。しかし、懲戒解雇のほうが普通解雇よりも厳しい処分とされ、会社に課される制約も大きいため、「普通解雇」とすることも可能です。

「履歴書の嘘」は解雇理由になるか

懲戒解雇をはじめとした解雇をするときには、会社の就業規則に記載された解雇理由にあてはまる行為を労働者が行っている必要があります。つまり、「履歴書に嘘(虚偽)を書いた」ことが、就業規則の解雇李湯に該当する必要があります。

そのものズバリが就業規則に記載されていなくても、「その他、前各号に準じる行為」、「その他、会社の社員として不適切な行為」などといった一般条項にあてはまると考えることができるケースもあります。

解雇理由、解雇の相当性を検討してからでないと、むやみやたらと解雇できないのは、解雇自体が、「解雇権濫用法理」によって制限されており、厳しい制限が加えられているからです。

「履歴書の嘘」で解雇は相当か

解雇理由に形式的にあてはまるような履歴書の詐称があったとしても、これによって即座に解雇できるわけではありません。

解雇理由にあてはまるとしても、その問題社員の行為が、解雇を相当とする重大なものである必要があります。つまり、「重要な経歴」についての嘘でなければ、履歴書に嘘を書いたとしても解雇できないのです。

裁判例で、重要な経歴と認められ、履歴書の嘘を理由とした解雇が有効と認められたものには、最終学歴、犯罪歴などがあります。

解雇が許される「履歴書の重要な嘘」とは?

さきほど解説したとおり、たとえ履歴書に嘘を書いてしまった新入社員がいたとしても、これをもって解雇という重大な不利益を与えるためには、乗り越えなければならない高いハードルがあるとご理解ください。

つまり、解雇権濫用法理という厳しいルールのもとで、解雇が許されるほどの重要な嘘が、履歴書に書かれていなければなりません。

解雇が許されるほどの重大な経歴についての嘘であるかどうかは、会社がなにを重要視し、採用面接時にしっかり説明しているかどうかによりますから、新入社員に、「重要な経歴である。」ことを理解してもらう必要があります。

履歴書に嘘を書くと解雇が許されるほどの重大な経歴には、たとえば次のようなものがあります。

  • 「四年生大学卒業」を採用・募集要件としていたが、「高卒」であるにもかかわらず「大卒」と履歴書に嘘を書いた。
  • 「犯罪歴」についての記載欄があり、逮捕・勾留され実刑を受けたことがあるにもかかわらず、履歴書を空欄とした。
  • 「経験者」の中途採用枠であったにもかかわらず、存在しない職歴を記載し、経験者であるように装った。

なお、これら裁判例においても「履歴書の重要な嘘」と認められた事情であっても、会社側の見落としがあったり、会社側の採用・募集に問題があったりするケースでは、解雇が認められないおそれがあります。

履歴書に嘘が書いてある可能性を十分に検討した上で、疑問点がある場合には、採用面接で徹底して「履歴書のこの記載に嘘はないか」という観点から聞き取りをしなければなりません。

採用面接のときにも、履歴書に書かれた嘘を上塗りしていた場合には、その新入社員の嘘が発覚すれば、解雇が有効となるケースが多いでしょう。

数年経過後に「履歴書の嘘」が発覚したときの対応

裁判例の中には、入社してから数年経過した後であっても、履歴書に嘘が書かれていたことが発覚したことで、懲戒解雇を有効としたケースもあります。

しかし、入社してから数年経過し、その間、問題なく働くことができており、評価も悪くない、といったケースでは、その嘘のもととなった経歴は「重要な経歴ではなかった」と判断されてしまうおそれがあります。

特に、新入社員であって、試用期間を設けているような社員のケースでは、試用期間を問題なく経過した後になって、会社に直接影響のないような履歴書の嘘を理由として解雇をすることは、「不当解雇」とされる可能性が高いといえます。

「企業法務」は、弁護士にお任せください!

今回は、履歴書・職務経歴書のなどに嘘の記載をした新入社員について、解雇をすることができるのか、それとも違法な「不当解雇」と判断されてしまうのかについて、その判断基準を弁護士が解説しました。

いざ、新入社員が履歴書に嘘を書いていたことが発覚したとき、すぐに解雇できるようしておくには、採用選考の段階からの準備が重要です。解雇を制限するルールである「解雇権濫用法理」について、日ごろから正しい理解をしておく必要があります。

入社直後の社員であっても、解雇が許されないわけではありません。

入社直後の社員が「問題社員」であることが発覚したときは、企業の人事労務を得意とする弁護士に、お早めにご相談ください。

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