職場におけるセクハラに、企業はどのように対応したらよいのでしょうか。
セクハラ(セクシュアルハラスメント)は、被害者の尊厳を傷つけるのはもちろんですが、放置すれば企業にとっても重大な法的リスクがあります。適切な対応を怠れば、加害者だけでなく、防止しなかった会社も責任追及されたり、企業イメージを毀損されたりなど、深刻な影響が及びます。
会社は、労働者に対する安全配慮義務を負うので、セクハラを未然に、かつ迅速に防止する義務があります。この義務を果たすため、実施すべきセクハラ対策を理解しなければなりません。
今回は、企業が行うべきセクハラへの対応と、再発防止のために講じるべき対策について、企業法務に強い弁護士が解説します。
- 企業には、セクハラを防止する義務があり、対策が不十分だと責任あり
- セクハラ事案の発生時は、迅速かつ公平に事実を調査し、記録する
- 最善の策は、セクハラを未然に防止することであり、管理職の教育が不可欠
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企業にはセクハラに対応する義務がある
企業は、セクハラを防止する措置を講じる法的義務を負っています。
セクハラ(セクシュアルハラスメント)とは、職場における性的な言動により、相手に不快感や苦痛を与えたり、就業環境を害したりする行為です。業務に関連して起こる以上「個人間のトラブル」ではなく、職場の秩序や企業の信用にかかわる重大な問題です。だからこそ、企業はセクハラを予防し、起きた場合は速やかに対処する責任があります。このことは男女雇用機会均等法11条に明記されるほか、会社が労働者に負う安全配慮義務の一貫でもあります。
厚生労働省の「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(いわゆる「セクハラ指針」)には、次の措置が義務付けられています。
- 社内における方針の明確化と周知・啓発(就業規則等への明記)
- 相談・苦情処理の体制整備(窓口の設置、担当者の明示)
- 被害申告があった際の迅速かつ適切な対応(事実確認、加害者への措置、被害者のケア)
- 再発防止策の策定と実施
これらの措置が不十分だと、加害者から慰謝料をはじめとした損害賠償を請求される危険があります。「恋愛関係に過ぎない」「女性側の同意があった」といった甘い認識では、高額な賠償金や企業イメージの失墜といった大きなリスクに繋がります。
セクハラが発生した際の正しい企業対応
次に、セクハラが発生した際の企業の対応について解説します。
セクハラが疑われる事案が発生したら、企業には迅速な対応が求められます。対応が不適切だと、被害者から責任を追及されたり、二次被害が発生したりして、ひいては、企業の信頼低下を招くおそれもあります。
事実関係の調査
セクハラ被害の申し出があったら、まずは事実確認を行いましょう。
被害者・加害者の双方の言い分を公平に聞き取るのが基本で、中立性・公平性を意識すべきです。ヒアリングした内容は必ず記録化し、証拠に残しましょう。必要に応じて、目撃者や直属の上司など、関係者に事実確認を行うケースもあります。
聞くべき項目は主に、「セクハラ行為があったか」「どの程度のセクハラ行為だったか」「当事者の対応はどのようなものか」といった点です。正確な事実の把握は、対策の選択にも役立ちます。
なお、調査にあたっては、被害者のプライバシーに配慮が必要です。無用な詮索はせず、加害者に知られることも含め、セクハラ被害に関する情報が広がらないよう注意してください。
「ハラスメントの調査方法」の解説

被害者への配慮
セクハラ被害の事実の有無を問わず、被害を訴えた従業員への配慮は不可欠です。
状況に応じて、被害者との距離を離すための職場環境の変更(席替え、シフト調整、フロア変更など)、産業医やカウンセラーの紹介、勤務時間についての柔軟な対応などを検討してください。まして被害申告が事実だと分かったら、スピーディに対処しないと二次被害に発展します。
セクハラ被害が事実の場合には、加害者側を自宅待機させることも検討されます。
なお、被害申告や通報をしたからといって不利益に扱うのは違法です。例えば、セクハラ被害者に対する不当な人事評価や異動、退職勧奨といった行為をしてはいけません。また、被害申告が適切に行われるよう、企業は日頃から「報告しても不利益はない」と全社に周知すべきです。
加害者への措置
調査の結果、セクハラ行為が確認された場合、加害者には相応の処分を下すべきです。
セクハラ加害者に講じるべき措置には、次の例があります。
- 口頭による注意指導
- 書面による注意指導(警告書、改善指導書など)
- 配置転換
- 懲戒処分・解雇
どれほど厳しい処分とするかは、セクハラの悪質性によって判断すべきです。懲戒処分や解雇といった厳しい措置を講じるときは、就業規則の規定と整合性が取れている必要があり、過去の同種事案と比較しても公平でなければなりません。
セクハラ行為の程度に比して制裁が重すぎる場合、加害者から逆に、不当処分・不当解雇であるとして争われるリスクがあります。
再発防止措置
セクハラ事案が起こってしまった場合、再発防止策は不可欠です。
セクハラが起こってしまったことは残念ですが、今後、同様の問題が起こらないよう、企業はより一層監督を徹底する必要があります。再発防止措置の例は、次の通りです。
- 全社員に向けた注意喚起
- 研修(全社的なセクハラ防止研修、管理職研修など)
- 相談体制の見直し
- 管理職への追加教育
軽度のセクハラの中には、加害者の無知や無意識を原因とするものもあります。そのため、どのような行為がセクハラとして問題視されるかを教育することも大切です。
セクハラ事案の記録は社内で保管し、再発防止だけでなく、万が一被害者から労働審判や訴訟を起こされた場合の証拠として保存しておいてください。
弁護士への法律相談
以上のようなセクハラが起こったときの対応には、法律知識が必要となります。
セクハラ事案への対応は、判断を誤ると、被害者から損害賠償請求を受けたり、企業の信用が低下したり、懲戒処分や解雇をしても無効となってしまったりなど、重大なリスクに繋がります。そのため、判断に迷う場合は速やかに弁護士に相談してから進めるべきです。
弁護士への法律相談について、適切なタイミングは特になく、判断に迷ったらできるだけ早めにアドバイスを求めるのがよいでしょう。顧問弁護士を付けていれば、トラブルが小さいうちから相談し、悪化を防ぐことができます。
「人事労務を弁護士に依頼するメリット」の解説

セクハラを未然に防ぐための企業の対応
次に、セクハラを未然に防ぐための企業の対応を解説します。
セクハラ対応の最善策は「起こらないようにすること」です。問題発覚後の初動は重要ですが、それ以上に、組織として未然に防ぐために、制度設計と企業文化の形成を徹底してください。
セクハラ方針の明確化
まず、セクハラに関する企業の方針を明確化してください。
「何がセクハラに当たるか」の判断基準を明確にし、「セクハラを許さない」という基本と共に、従業員に周知を徹底することです。
加害者が「セクハラではない」と勘違いしているケースもあるので、被害者の受け止め方によってはセクハラになり得ることをしっかり伝えなければなりません。セクハラ発言や身体的接触のほか、最近は、メールやSNSによるセクハラも問題になりがちです。
企業側から方針が示されることで、社員一人ひとりが自らの言動を見直すきっかけになり、潜在的なセクハラ加害を抑止できます。あわせて、万が一許されないセクハラ行為を行った場合には厳しく罰せられることも伝えておきましょう。
就業規則・社内規程の整備
セクハラに関するルールを明示するため、明文の規定が必要です。具体的には、就業規則に、次のことを定めてください。
- セクハラが懲戒事由に該当すること
- セクハラ行為の類型化(性的発言、身体的接触、執拗なメールやSNSなど)
- セクハラが起きたときの相談窓口
- 目撃者の報告義務や調査への協力義務
就業規則などの根拠がないと懲戒処分が無効となるおそれがあるため、セクハラが懲戒事由に該当することを定めるのは特に重要です。一度定めただけで満足せず、時代の変化や法改正などに応じて定期的に見直してください。
企業として厳しい態度を明らかにするため、就業規則の本則とは別に、セクハラ防止規程などの作成も検討しましょう。
研修・教育による意識改革
セクハラ防止の基本は、教育と啓発にあります。
というのも、潜在的な加害者となる社員が「セクハラとはどのようなものか」を理解しないと、セクハラを意識すらできないからです。具体的には、年1回など定期的に、全社員を対象としたセクハラ防止研修を実施し、基本的な知識を啓発してください。繰り返し伝えることで、「知らなかった」とは言わせない企業文化を作ることができます。
ハラスメント相談窓口の担当者や管理職など、セクハラ相談を受ける役割の人には、より専門的な教育を行うことが望ましいです。
セクハラ相談窓口の設置
セクハラの被害申告を受け付ける体制を設けることも大切です。
単に窓口を作るだけでなく、相談しやすい雰囲気づくり、同性に相談できる体制整備(男女両方の担当者を配置するなど)をすることで、被害を早期に発見することができます。従業員が安心して声を上げられるよう、匿名で通報できる仕組みとしておくのがお勧めです。
窓口担当者には、中立な立場で、被害者の申告をしっかりと傾聴するスキルが求められます。窓口対応が不適切だと二次被害を生みかねないので、担当者の教育は必須です。合わせて、実際に被害申告を受けた際の初動対応についても、マニュアルなどで定めておきましょう。
トップのコミットメント
以上の通り制度を作っても、実効的に運用するには経営者の本気度が必要です。
経営者や役員が積極的に「セクハラを許さない」というメッセージを発信し、自らも行動で示すことで社員の意識も変わっていきます。セクハラを防止するには、理念だけでなく、それが社内にしっかりと浸透していることが大切なのです。
率先垂範によってこそ、ハラスメントを許さない職場文化が根付きます。間違っても「社長がセクハラの加害者だから何も言えなかった」ということのないようにしてください。
セクハラへの企業の対応でよくある質問
最後に、セクハラへの企業の対応について、よくある質問に回答しておきます。
セクハラ調査はどこまですべき?
企業は、セクハラ被害の申告があったら、事実関係を徹底して調査すべきです。中立かつ公正な立場で判断を下すためにも、最低限、次の調査はしておきましょう。
- 被害申告者のヒアリング
- 加害行為を指摘された本人への聞き取り
- 必要に応じて、第三者(目撃者、直属の上司など)の聴取
- メール・SNS・録音などの客観証拠の確認
ただし、プライバシーへの配慮もあり、調査が「やり過ぎ」にならないよう注意が必要です。判断に迷う場合は、弁護士にヒアリングを依頼することも可能です。
セクハラの申告が虚偽だったときは?
セクハラ申告が虚偽だったとき、企業の対応はより慎重に決定すべきです。
仮に、申告が事実ではなかったとしても、申告したこと自体を理由に不利益に扱うことはできず、被害者に配慮すべきことは変わりません。ただし、意図的に虚偽の情報を申告していたときは、就業規則に基づいて懲戒処分などの制裁を下すべきケースもあります。
重要なのは、被害を申告した人に悪意があるかどうか、という点です。
社外(取引先など)からのセクハラへの対応は?
セクハラは社内だけでなく、社外でも起きます。
例えば、取引先や顧客、派遣元社員など、社外の人がセクハラ加害者となるケースも、企業としては対応しなければなりません。たとえ加害者が社外の人だとしても、労働者が安全に働けるよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を遵守すべきだからです。
社外の人からのセクハラについて、企業のすべき対応は次の通りです。
- 被害申告者からの事情聴取
- 取引先などへの抗議と是正の要求
- 被害者の職場環境の調整や保護、異動など
- 被害者に対するケアと継続的なフォロー
企業内の従業員でなくとも、職務上接触する相手による行為であれば、労働環境を害する要因とされ、企業は対応を求められます。
まとめ

今回は、セクハラ問題への適切な対応について解説しました。
セクハラに対処することは、企業にとってコンプライアンスの遵守だけでなく、従業員が安心できる労働環境にも繋がります。ひいては、組織の信頼を向上させ、企業イメージを守り、社員の定着を図るといった経営全体への重大な効果があります。
重要なのは、セクハラ問題が発覚してから慌てて対処するのでなく、日頃からの予防を心がけることです。研修や教育、制度の整備を通じて、セクハラが起きにくい状態にすることが大切です。厚生労働省の発するセクハラ指針でも、社内規程や相談窓口の整備などが挙げられています。
被害者となった労働者だけでなく、企業を守るためにも、セクハラ問題への誠実な対応は欠かせません。不安な会社は、専門家である弁護士に相談し、連携体制を築いておくことも大切です。
- 企業には、セクハラを防止する義務があり、対策が不十分だと責任あり
- セクハラ事案の発生時は、迅速かつ公平に事実を調査し、記録する
- 最善の策は、セクハラを未然に防止することであり、管理職の教育が不可欠
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