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【逆転勝訴!】定年後再雇用者の賃金減額をめぐる裁判の東京高裁判決

平成28年5月に、東京地方裁判所で、正社員としての定年後に、「嘱託社員」として再雇用された労働者(トラックドライバー)について、職務内容に変更がないにもかかわらず賃金を引き下げた点が違法であるとした判決が下しました。

会社側敗訴の内容となる東京地方裁判所の判決に対して、会社側が控訴して争っていましたが、この度、平成28年11月2日に、東京高等裁判所にて控訴審判決が下しました。

控訴審判決の内容は、会社側勝訴の内容であり、労働者側の請求を棄却するものでした。労働者側は上告の方針とのことであり、今後の行方が注目されます。

今回は、定年後再雇用者の賃金減額に関する裁判例を、企業法務を得意とする弁護士が解説します。

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1. 定年後再雇用の義務あり

正社員が定年年齢に達したとしても、「高年齢者雇用安定法」によって、次の3つのいずれかの方法によって、定年後の雇用を保障することが義務付けられています。

  • 定年制の廃止
  • 定年年齢の引上げ
  • 定年後の継続雇用制度

会社側の立場からすると、定年後の労働者に対する人件費を抑制するためにも、3つのうちでも「継続雇用」の中に含まれる「再雇用制度」を利用することが、一般的となっていました。

定年後の再雇用の場合には、「嘱託社員」といった形態によって、労働時間を減少させたり、責任を減少させたりすることによって、給与を引き下げることができたからです。

特に、「新卒一括採用」、「終身雇用」、「年功序列賃金」などの旧来の制度が残る大企業ほど、定年年齢に達した後の給与は、大幅に下がるケースが少なくないとされていました(50%以下となることが多いといえます。)。

2. 【第一審】定年後の賃金引下げは違法!

平成28年5月、東京地方裁判所で、非常に注目された判決が下されました。

定年前後で業務の内容が変わらないにもかかわらず、会社が賃金を3割引き下げたことについて、「労働契約法20条の趣旨に反して違法である。」と判断し、定年前の賃金との差額分を支払うように命じた判決です。

労働基準法20条は、期間の定めの有無を理由として差別することを禁止した条項であり、定年前後での差別は「期間の定めの有無」を理由としたわけではないと会社側は反論をします。

しかしながら、期間の定めの有無に関連し、職務の内容、配置転換の範囲が異ならない場合の賃金減額は違法であると裁判所は判断しました。

第一審の裁判例に基づけば、中小企業などで、定年前後であまり職務の内容などが変わらない企業の場合には、「定年後再雇用制度」によって人件費を抑制することはできないこととなります。

3. 【控訴審】会社勝訴の逆転判決!

第一審判決に対して、会社側が控訴しており、控訴審判決が、平成28年11月2日、東京高等裁判所で下されました。

控訴審判決では、「定年後再雇用での賃金減額は一般的であり、社会的にも容認されている」と判断した上で、定年後の再雇用が義務付けられている中で賃金減額をした契約を締結することも「不合理とはいえない」と判断しました。

加えて、次の要素も、会社側勝訴の控訴審判決を導くための重要な判断材料となりました。

  • 定年後再雇用の労働者に調整給を支払い、正社員との賃金格差を是正する努力をしていたこと
  • 定年退職者に対して退職金を支払っていたこと
  • 運輸業の収支が赤字であったこと
  • 定年前後の賃金減額の割合が、同規模の企業と比べて低いと考えられること

その結果、賃金の引き下げを違法だとして差額支払を命じた東京地裁判決を取り消し、労働者側の訴えを棄却しました。

4. 定年後再雇用者の賃金について、今後注意すべきポイント

控訴審で、会社側の逆転勝訴判決となったとはいえ、労働者側は上告する方針を明らかにしていますし、今後どのような結論となるかは、引続き注目していく必要があります。

したがって、定年後再雇用者の賃金を決定するにあたっては、慎重な配慮が必要となります。

定年後再雇用者の賃金について気を付けておくべきポイントは、次のようなものです。

  • 定年退職前後の、職務内容、責任の程度が異なるかどうか
  • 定年退職前後の、配置転換の範囲が異なるかどうか
  • 定年後の賃金が、新入社員の賃金水準を上回っているかどうか

これまで行ってきた賃金減額の水準を変更することができない場合には、その賃金減額に対して、「職務内容の変更の度合いや責任の軽減の度合いが適切かどうか?」という点を検討するとよいでしょう。

 参考 

適正な水準の賃金を提示したにもかかわらず、定年退職者の側から再雇用を拒絶された場合には、会社は、高年齢者雇用安定法における「再雇用義務」を果たしたものとされます。

5. 定年廃止、定年引上げは?

最後に、「定年後再雇用制度」による大幅な人件費の抑制ができないケースや、どうしても職務内容・責任の程度を同じにしておきたいという会社の需要をかなえるためには、定年廃止、定年引上げも検討してみてください。

厚生労働省の発表する平成28年「高年齢者の雇用状況」によれば、「定年制廃止」を導入している企業は、中小企業13万7213社中4064社(2.7%)、定年を65歳以上としている企業は、13万7213社中2万4477社(16%)という結果でした。

労働力の確保が困難な時代となり、高年齢者の活用のため、定年制を廃止したり、定年年齢を引き上げたりする会社は年々増加しています。

6. まとめ

定年後再雇用者について、一定程度の賃金減額があることは一般的であるとされており、これに対して疑問を投じた第一審判決は非常に注目されました。そして、今後の上告審にも注目が集まります。

いずれの結論になるとしても、定年後再雇用者、特に職務内容が定年前と変わりない者の処遇については、会社として慎重な対応をしなければなりません。

日常的な労務管理に疑問、お悩みがある場合には、人事労務に強い顧問弁護士を依頼することをご検討ください。

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