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「店長」の肩書をつければ残業代は必要ない?名ばかり管理職の残業代

飲食店や小売店など、店舗を経営する会社の経営者の方に向けた解説です。店舗を経営するためには、「店長」を雇う必要があります。

「店長」には、店舗運営の大きな責任がありますから、給与もそれなりに高額となりますし、責任感があって信頼できる人材を探さなければなりません。

このときに問題となるのが、「店長」の労働条件、特に、残業代についての問題です。

「店長には残業代を払わなくてもよい。」と聞いて、鵜呑みにしている会社、経営者の方は非常に危険と言わざるを得ません。将来、店長から未払残業代を請求されるリスクがあります。

今回は、「店長」の肩書をもった従業員に対する残業代の支払について、企業の労働問題を得意とする弁護士が解説します。

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1. 「管理職」とは?

よく、「管理職は残業代がいらない。」と言われているのを聞いたことがあるのではないでしょうか。

しかし、この「管理職」という言葉は、法律上の言葉ではありません。会社内で「管理職」という言葉を使いますが、労働基準法では、「監督若しくは管理の地位にある者」と書かれています。

そのため、会社内でいう「管理職」と、この「監督若しくは管理の地位にある者」は別物です。

労働基準法にいう「監督若しくは管理の地位にある者」にあたれば残業代を払わなくてもよいわけですが、会社内で「管理職」と呼ばれているからといって残業代を払わなくてもよいわけではありません。

1.1. 「店長」という肩書は管理職なの?

次に、「店長」という肩書について考えてみましょう。

「店長」というのは、店舗のトップであることを意味しており、店舗運営をしている会社にとって、とても責任の大きい、高い地位にある社員であることは間違いありません。

しかし、他の平社員よりも高い地位にあるからといって、残業代が不要な「監督若しくは管理の地位にある者」であるとはいえません。

残業代が不要となるためには、それだけ経営に近い権限と職責、労働時間についての自由裁量が必要であるとされています。

このことを理解いただければ、多くの「店長」が、「監督若しくは管理の地位にある者」とはいえず、残業代を支払わなければならない可能性が高いことが分かるのではないでしょうか。

1.2. そもそも肩書は関係ない!

そもそも、「店長であるかどうか。」に限らず、「管理監督者(監督若しくは管理の地位にある者)」にあたるかどうかは、役職や地位、資格には関係ないと、裁判例でも判断されています。

つまり、「店長」と呼ぼうが、「副社長」「リーダー」など別の名称を与えようが、残業代を払うかどうかについてはあまり関係がないということです。

残業代を払う必要があるかどうかという問題で、最も重要な考慮要素は、「働き方の実態」です。

「実態」が、経営者と同一とみられるほどの権限と裁量があれば、「店長」という肩書がなくても、管理監督者として残業代を支払う必要のない社員です。

2. 日本マクドナルド事件

ここまで解説したとおり、裁判例や通達で、労働基準法における「労働時間」の規制になじまない労働者には、残業代を払う必要がないこととされています。

「店長に残業代を払う必要があるかどうか?」というトラブルで、大きな問題となった事件に、「日本マクドナルド事件」があります。

全国的に有名なファーストフード店であるマクドナルドの店長について、東京地方裁判所は、管理監督者(監督若しくは管理の地位にある者)にあたらないと判断しましたが、ここでも、「店長の肩書」ではなく「実態」を重視した判断がされています。

したがって、裁判例を見ても、「店長」という肩書を付けただけで残業代を払わないことには、大きなリスクがあることがわかります。

3. 「店長」に残業代を払わないリスク

ここまで解説してきたとおり、「店長」の中にも、残業代を払わなければならない社員と、残業代を払わなくてもよい社員が存在します。

きちんと労働法を理解し、区別しておかなければ、残業代の未払いを放置することともなりかねません。

最後に、飲食店の経営者が、「店長」に残業代を払わない、という判断をした場合のリスクについてまとめておきます。

3.1. 労働審判・団体交渉

店長に残業代を払わなかったとき、その店長が管理監督者にあたらない場合には、後から未払い残業代を請求されるリスクがあります。

この場合、労働者側からの争い方には、労働審判、訴訟、団体交渉などが考えられます。

未払い残業代の時効は2年間のため、店長が退職した後であっても、2年間は残業代を請求されるおそれがあります。

3.2. 基本給(固定給)がそもそも高額

残業代を支払わないという前提で店長職の従業員を雇う場合、ある程度基本給(固定給)が高額なことがほとんどです。

というのも、平社員と違って残業代を支払わないわけですから、責任が重い分、平社員より給与が高くて当然だからです。

しかし、未払い残業代を請求されると、この高い基本給(固定給)が残業代計算の基礎となり、多額の残業代を請求されることともなりかねません。

3.3. メンタルヘルス、過労死などその他の労働問題

残業代を支払わない、いわゆる「サービス残業」は、未払い残業代以外にも、その他の労働トラブルの温床となります。

具体的には、からだを壊してしまうような働き方を放置することで、社員をメンタルヘルスや過労死に追いやってしまい、会社の責任を追及されるといった労働問題です。

3.4. ブラック企業のレッテル

店長の残業代を払わないことには、法的責任だけでなく、社会的な責任もつきまといます。

既に解説した「日本マクドナルド事件」以来、店長の残業代については、有名な問題となりました。

残業代を払うべき「店長」に対して、残業代を払わないことは、「ブラック企業」のレッテルを貼られることにつながります。

4. 店長に残業代を払わないためには?

以上のとおり、「店長」という肩書を持つ社員の中にも、残業代を払わなければならないケースと、払わなくてもよいケースがあることを理解していただいた上で、経営者としては、できるだけ払いたくないというのが本音でしょう。

管理監督者にあたらないにもかかわらず残業代を払わないことは違法ですので、「店長」に残業代を払わなくてもよいようにするためには、次のような対処が必要となります。

  • 「店長」に管理監督者としてふさわしい重要な権限を与える。
  • 「店長」に管理監督者と評価されるような時間の裁量を与える。
  • 「店長」を役員(取締役)とする。

御社の「店長」について、残業代を払わないときのリスクをできる限り減らすためには、企業の労働問題を得意とする弁護士に、お気軽に法律相談ください。

5. まとめ

今回は、店舗運営をしている会社、特に、飲食店経営者に向けて、「店長」の残業代について、弁護士が解説しました。

「店長が管理職にあたるか?」、「店長に残業代を支払わなくてもよいのか?」という問題を正しく理解し、支払うべき残業代を払っておかなければ、後日、労働審判や訴訟で、多額の未払い残業代を支払わされるおそれがあり、注意が必要です。

店長の残業代リスクについてご不安な飲食店経営者の方は、企業の労働問題を得意とする弁護士に、お気軽に法律相談ください。

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