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土地売買契約書を作成するとき知っておきたい8つのポイント

企業間における土地「売買」の需要が、今後ますます高まることが予想されます。

国土交通省の土地取引調査(平成28年9月時点)の統計によれば、平成27年度における全国の土地取引件数は148万件以上にものぼります。統計上の数字を見るだけで、実に多くの土地取引が日本全国各地で行われていることが分かります。

同じく「土地所有・利用状況に関する企業の意向調査」(平成27年度)の中でも、「今後、土地・建物の利用について、所有と借地・賃借ではどちらが有利になると思いますか」という質問に対し、45%の企業が「今後、所有が有利」と回答したというデータもあります。

今回は、土地売買契約書の作成とチェックの基本ポイントを、企業法務を得意とする弁護士が解説します。

目次(クリックで移動)

1. 土地売買契約書の作成・チェックが重要な理由

売買契約は「諾成契約」、すなわち、当事者間の合意だけで成立する契約です。これは、土地の売買契約でも同様です。

したがって、土地の売買をするにあたっては、土地売買契約書がなくても、口頭の合意だけで有効に売買契約が成立します。

ところが、土地は企業にとって重要な財産であることが多いし、高価なことが多いため、売買代金は高額となることが一般的です。

高額な分、契約がうまくいかなかった場合にトラブルや紛争に発展する可能性も高い、といってよいでしょう。

そこで、土地の売買契約を締結する際には、口頭だけで済まそうとせず、「土地売買契約書」を作成することが、事後的なトラブルを回避するために重要となります。

「土地売買契約」の締結の流れは、主に以下のようなスケジュールで行われます。

  1. 売主と買主双方が、宅地建物取引士から「重要事項説明書」の説明を受ける。
  2. 重要事項説明に引き続き、「土地売買契約書」に署名押印(記名押印)する。
  3. 売買契約締結後、買主が売主に手付金を支払う。

ここで重要になるのが、「土地売買契約書」の内容に関する事前の確認作業です。

売買契約締結当日は、上記の作業が形式的に行われますので、当日に「土地売買契約書」の内容を細かく確認することは容易なことではありません。法的知識が十分に備わっていなければなおさらです。

したがって、遅くとも契約締結当日を迎える数日前には、土地売買契約書を手に入れましょう。

入手しましたら、これから解説するポイントを参考に、契約書の内容をきちんと確認するようにしましょう。「土地売買契約書」の内容に不明点がある場合には、わからないままにしないことが大切です。

2. 土地売買契約書作成の際に注意しておきたい8つのポイント

土地の売買契約とは、「売主が土地の所有権を買主に移転し、買主が売買代金を売主に支払う」という契約ですので、以下の条項を規定し、内容を明確に定めることが重要です。

2.1. 物件の特定

土地の売買契約書に、売買対象となる土地の情報を正確に記載するようにしてください。

売買対象となる土地を特定するためには、以下の項目について、登記簿謄本と照らし合わせながら、細かい数字などにも十分注意して誤りがないかを確認しましょう。

  • 所在
  • 地番
  • 地目
  • 地積

仮に、上記だけでは特定できない場合や、そもそも登記をされていない土地を対象とする場合には、土地の図面を添付するなどの工夫をして、可能な限り特定するよう努めましょう。

2.2. 手付金の授受と手付解除

手付金とは、「売買契約の締結の際に、買主から売主に対して支払われる一定額の金銭」のことをいいます。

手付金をの授受がある場合には、土地の売買契約書において、次の点に注意しておいてください。

 条項例1 

第○条(手付)

1 乙は甲に対し、本契約締結と同時に手付金として金○万円を支払う。
2 前項の手付金は、利息を付さずに、売買残代金の支払いの際、売買残代金の一部に充当するものとする。
3 手付金は解約手付とし、相手方が本契約の履行に着手する前において、甲においては乙に対し手付金を倍返しにすることにより、乙においては手付金を放棄することにより、本契約を解除できる。

上記の条項例を参考に、次の3点に注意して記載をしておいてください。

2.2.1. 手付金の趣旨を明記する

手付には以下の3種類がありますので、手付を定める場合には、どの趣旨の手付なのか、土地売買契約書上、明記しておくことが大切です。

  • 証約手付:売買契約を締結した証拠となる手付のこと
  • 解約手付:買主が手付金を放棄するか、売主が手付金の倍額を払うかすることにより、売買契約を解除できるという内容の手付のこと
  • 違約手付:債務不履行が発生した場合に、手付が没収されるという内容の手付のこと

なお、明記しない場合であっても、すべての手付は「解約手付」であるものとみなされます。

2.2.2. 手付の金額を妥当なものとする

手付けの金額は、一般的には売買代金の10%前後とされるケースが多いですが、売買代金の20%までの範囲内で合意されることが多くみられます。

なお、宅建業者は、宅建業法39条により、売買代金の20%を超える手付を受領することはできません。

2.2.3. 解約手付の場合、解約時期に注意

解約手付の場合、解約手付を放棄、もしくは倍額の支払をもって、土地の売買契約を解約できるのは、契約の相手方が履行に着手する前とされています。

2.3. 売買代金の支払日と支払方法

土地の売買代金は高額になるケースが多いため、買主が売主に対して売買代金を現金一括で支払う、というのはむしろ稀です。

そこで、買主側で土地売買の交渉をする場合には、「手付金、頭金を一定額支払、その後、残代金を一括して支払う。」、という方法を選択するよう交渉を進めます。

この場合には以下のような条項を明記します。

条項例2
 条項例2 

第○条(売買代金の支払)

乙は甲に対し、代金を次の通り支払う。
(1)平成○年○月○日限り、中間金として金○○万円
(2)平成○年○月○日限り、売買残代金として金○○万円(内金○○万円は交付された手付金を充当する。)

2.4. 危険の移転時期

所有権移転と引渡し時期を決めておく必要があります。

そして、これに伴い、危険の移転時期を定めておきましょう。

「危険の移転」とは、引渡前に、対象となった土地が滅失・毀損した場合に、どちらがそのリスクを負担するのか、ということです。

「買主が危険を負担する。」ということの意味は、「土地が無くなったとしても、代金を支払わなければならない。」ということです。

したがって、買主としては、できる限り危険の移転時期を先延ばしし、売主としては、できる限り前倒しするよう交渉を進めます。

2.4.1. 所有権移転と引渡し時期

所有権の移転と物件引渡しの時期を明記します。

一般的には、売買代金を全額支払った日に、所有権の移転と物件の引渡しを同時に行います。

これは、売主が売買代金を回収し損ねないようにするためです。

 条項例3 

第○条(所有権移転)

本件土地の所有権は、乙の売買代金支払が全て完了した時に、甲から乙に移転する。

第○条(引渡)

1 甲は乙に対し、売買残代金の支払と引き換えに、本件土地を現状のまま引渡す。
2 甲及び乙は、本件土地の引渡しに際し、引渡しを完了した日を記載した書面を作成する。

第○条(所有権移転登記)

1 甲は乙に対し、売買残代金の支払と引き換えに、本件土地の所有権移転登記申請手続きに必要な一切の書類又は情報を提供する。
2 所有権移転登記に要する登記費用は乙の負担とする。但し、登記原因情報を作成する場合の作成費用、本件土地に関する所有権の登記名義人の住所、氏名の変更登記を要する場合の費用は甲の負担とする。

2.4.2. 危険の移転時期

土地売買契約が成立したものの、売買の目的であった土地が災害などにより損壊してしまい、売主が当該土地を買主に引き渡せなくなってしまった、という具体的事例を思い浮かべてください。

このケースの場合、買主は土地売買契約に基づいて、代金を支払わなければならないのか、というのがいわゆる「危険負担」の問題です。

民法によれば、買主は代金を支払わなければならない、というのが原則(いわゆる「債権者主義」といいます。)です。

しかし、これでは土地はもらえないが、代金は支払わなければならない、と、買主にとってあまりに酷な結論となります。

そこで、危険の移転時期について土地の所有権移転時期と同じ時期にする旨を明記します。

 条項例4 

第○条 (引渡し完了前の滅失・毀損)

1 甲、乙は、本物件の引渡し完了前に天災地変、その他売甲、乙のいずれの責めにも帰すことのできない事由により、本物件が滅失又は毀損して本契約の履行が不可能となったとき、互いに書面により通知して、本契約を解除することができる。但し、修復が可能なとき、甲は、乙に対し、その責任と負担において修復して現状のまま引渡す。
2 前項により本契約が解除されたとき、甲は、乙に対し、受領済みの金員を無利息にてすみやかに返還する。

2.5. 瑕疵担保責任

「瑕疵担保責任」とは、売買された土地に数量不足、一部滅失、あるいは欠陥などがあった場合に、売主が負う責任のことを指します。

瑕疵があった場合には、買主は、売主に対して、一定の要件のもと、契約の解除、代金減額請求、損害賠償請求をすることができます。

瑕疵担保責任の期間については、買主が瑕疵を「知った」時から「1年」以内とする契約が通常です。

なお、売主が宅地建物取引業者の場合には注意が必要です。というのも、宅建業者は宅建業法40条により、瑕疵担保責任を負う期間を物件の「引渡し日」から「2年」より短くすることはできません。

2.6. 解除・損害賠償

契約違反による解除とは、買主または売主のいずれかが契約上の義務を果たさない(債務不履行)となった場合、その相手方が契約を解除するときの取り決めです。

一般的には、契約違反により解除した場合の損害賠償金(違約金)の金額は売買価格の「20%」までの範囲で設定される例が多くみられます。

2.7. 公租公課の負担

土地には、様々な公租公課が生じます。

したがって、以下のような公租公課などを売主と買主のどちらが負担するのか、事前によく話し合いましょう。

  • 土地から生ずる収益(賃料など)
  • 固定資産税
  • 都市計画税
  • ガス、水道光熱費

また、土地の売買の際には、登記費用、司法書士報酬などの諸費用が生じますが、これらの負担についても取り決めておいてください。

なお、売主から買主に上記公租公課などの負担を切り替える基準時は、土地の「引渡し完了日」とすることが、実務上よくみられます。

2.8. その他の特約事項

以上の重要な条項に加え、土地の境界明示特約、ローン特約など、その土地の売買契約に特有の条項についても記載しておきます。

2.8.1. 土地の境界明示特約

 
売買契約の対象となる土地の境界が不明確であるケースがあります。

そこで、売主に明示義務があること、そして、当該売買が実測売買であることを以下のように明記します。

 条項例5 

第○条(境界の明示及び売買代金の修正)

1 甲は、乙に対し、本契約の残代金支払日平成○年○月○日の○週間前の同月○日までに本件土地と隣地との境界を明示する。
2 甲は、前項の境界明示後、甲の費用負担にて、ただちに本件土地を実測する。
3 本件土地の面積は実測によるものとし、実測された面積が公簿面積と異なるときは、1平方メートル当たり金○○万円の割合により売買代金を修正する。

実測売買とすることによって、「購入した土地の面積が、思っていたよりも狭かった。」というトラブルを回避することができます。

2.8.2. ローン特約

 
土地の購入代金は高額にのぼることが一般的ですので、金融機関などから融資を受ける旨の特約、つまり、ローン特約を付した土地売買契約書を作成することを検討しましょう。

「ローン特約」とは、万が一、買主のローンの審査が通らなかった場合、無条件にて売買契約解除することができる、という特約です。

なお、売主保護のために、買主が解除することができる期間を定める、という方法もあります。

 条項例6 

第○条(融資利用の特約)  

1 甲は、売買代金に関して、○○株式会社の○○融資金を利用する場合には、本契約締結後すみやかにその融資の申込み手続をする。
2 平成○年○月○日までに、前項の融資の全部又は一部の金額につき承認が得られず、金銭消費貸借契約が締結できない場合には、甲は、乙に対し、平成○年○月○日までであれば、本契約を解除できる。
3 前項により本契約が解除されたとき、甲は、乙に対し、受領済みの金員を無利息にて速やかに返還する。

3. まとめ

今回は、土地売買契約書を作成する際に、チェックすべき注意点について解説しました。

契約締結の時には気づかなかったが、よくよく土地売買契約書の中身を確認してみたら、御社にとって不利な内容だった、というような事態にならないように、事前に顧問弁護士の意見を聞いてみることも有効な手です。

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