ネットやSNSの普及で、根拠のない悪評や噂も、拡散されやすい時代となりました。
風評被害は、名誉や信用を損なうだけでなく、精神的苦痛や経済的損失にも繋がりかねない深刻な問題です。誤った情報の拡散に苦しめられた場合、万一の備えとして「どのように訴えたらよいか」を知っておくのが有益です。
風評被害を受けた場合、それによって受けた被害を回復しなければなりません。そのためには、投稿者を特定して、慰謝料や損害賠償を請求する方法が一般的です。これらの手段は、相手が任意に支払いに応じないならば、裁判所に訴訟を提起して行います。
今回は、風評被害を訴える方法と、損害賠償請求について解説します。
- 風評被害を訴えるときは、早期対応によって被害拡大を防ぐべき
- 風評被害を訴えるのに必要となる証拠保全は、迅速に行っておく
- 匿名投稿の場合は、発信者情報開示請求によって個人を特定する
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風評被害とは
風評被害とは、根拠のない噂や虚偽の情報が広まった結果として、個人や法人の社会的評価(信用・名誉・評判など)が低下し、実害が生じることを指します。風評被害は、以下のような民法・刑法に違反する可能性のある問題行為です。
- 名誉毀損(刑法230条、民法709条)
事実を摘示して他人の社会的評価を低下させた場合に成立する。民事では慰謝料請求の対象となり、刑事では処罰の対象になる。ただし、「公共性・公益性・真実性」を満たす場合は免責される。 - 信用毀損・業務妨害罪(刑法233条)
虚偽の風説を流布し、他人の信用を害したり、業務を妨害したりした場合に成立する。特に企業を対象とする風評被害で該当しやすい。 - 不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)
故意・過失により他人に損害を与えた場合、損害賠償請求が可能。
例えば、SNSや匿名掲示板で「あの製品は危険だ」「社長がパワハラだ」など、真偽不明の投稿をしたり、飲食店やサービス業に虚偽の口コミを掲載したり、ブログやまとめサイトで名指しで批判したりといったケースが該当します。
風評被害は、単なる「悪口」に留まらず、信用を下げるだけでなく、精神的苦痛を与えたり、経済的損失を生じさせたりといった重大な効果があります。ウェブ上の発信が加害行為となる現代、誰しもが加害者にも被害者にもなり得るので、正しい知識が不可欠です。
「インターネット上の風評被害対策」の解説

風評被害を訴える方法
次に、風評被害を訴える方法について解説します。
風評被害に遭ってしまった場合、法的に取り得る手段は、民事・刑事の両面から複数存在します。それぞれの法的な枠組みごとに、注意すべきポイントを把握しておきましょう。
損害賠償請求
風評被害は、不法行為(民法709条)に該当します。
そのため、故意または過失によって被害者の名誉を毀損したり、業務を妨害したりした場合には、これによって生じた損害について賠償請求をすることができます。風評被害を訴えることで請求できる主な損害には、次のような種類があります。
- 慰謝料(精神的苦痛)
誹謗中傷などで精神的苦痛を被った場合に請求可能。金額の相場は、投稿の悪質性・拡散範囲・社会的地位などにより変動するが、数十万円〜100万円前後が目安(企業や著名人の場合、被害が大きければ100万円を超えるケースもある)。 - 逸失利益
信用低下による失注や売上減など、営業損失が発生した場合、その分の請求が可能。請求する際は、被害前後の業績の比較や、特定の契約が破談になった事情などを証拠によって証明する。 - 弁護士費用
原則として自己負担だが、不法行為に基づく請求の場合、損害額の1割程度が損害として認められるのが通例。 - 調査費用
発信者情報開示請求による特定にかかった費用(弁護士費用や裁判費用)は、損害として請求できるのが通例。 - 訂正記事や謝罪文の掲載請求
実務上、風評被害の損害賠償を請求するには、証拠が欠かせません。つまり、どの投稿により被害を受け、損失が生じたのかを立証する必要があります。この点で、まずは投稿の証拠保全(スクリーンショット、URL、投稿日時)が極めて重要です。また、拡散された範囲やアクセス数、その社会的影響の大きさなども、損害額の多寡に影響します。
なお、投稿者が不明な場合は、「発信者情報開示請求」を先行させる必要があります。
刑事告訴
悪質な風評被害は、刑法に違反する犯罪行為となります(名誉毀損罪、信用毀損罪、業務妨害罪など)。そのため、犯罪行為の処罰を求めることで、風評被害を訴えることも可能です。
告訴は、告訴状や被害届を捜査機関(警察・検察など)に提出して行います。ただし、警察や検察は、必ずしも被害者のためにすぐ動くとは限らず、必ずしも加害者が処罰されるとは限りません。捜査を開始させるには、悪質さについて証拠を示して説明することが重要です。
なお、刑事の手続きを、民事手続きと平行して行うことで、交渉力が強化され、相手が金銭和解(示談)に応じやすくなるメリットがあります。
発信者情報開示請求
インターネット上の風評被害の多くは、匿名で行われます。加害者を特定しなければ損害賠償も告訴もできないため、ここで利用されるのが「発信者情報開示請求」です。
この手続きは、情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法)に基づいて行われるもので、投稿者の情報(IPアドレス、ログイン情報など)を、通信事業者やサイト運営者に請求することで、発信者を特定することができます。
具体的には、まずは任意で開示を求め、応じない場合は、裁判所に仮処分を申し立てます。
ただし、投稿から時間が経つとログが削除される可能性があるため、早期の対応が重要です(プロバイダのログの保存期間は3ヶ月〜6ヶ月が目安とされます)。
風評被害で損害賠償請求をする方法と流れ
次に、風評被害で損害賠償請求をする方法と流れを解説します。
風評被害に対して損害賠償を請求する際は、「何をどのように請求できるのか」「証拠は何が必要か」「どんな手続があるか」を理解しておくことが重要です。風評被害によって大きなダメージを受けてしまったとき、損害賠償請求は、被害回復の重要な手段となります。
証拠を収集する
風評被害に対して損害賠償を請求するには、「誰が、どのような違法行為を行い、それによりどのような損害が生じたのか」を被害者側で立証しなければなりません。
次のような資料を収集しておくことが役立ちます。
- 投稿や情報の保存
画面のスクリーンショットやキャプチャ、URL、投稿日時、発信者のアカウント情報などを記録すること。投稿内容が削除・変更される前に速やかに保存することが重要。 - アクセス解析やSNS分析
該当投稿の拡散状況(リポスト数、PV、検索順位など)によって、影響力を分析する。 - 損害を証明する資料
売上の推移、顧客離れ、キャンセル事例など、損害との因果関係を裏付ける資料を集める。精神的損害は、診断書などで証明する。関係者の証言や取引先からの通知も有用。 - 時系列の整理
被害発生から相談・対応・被害拡大までの流れを時系列でメモすると、主張の説得力が増す。
単に「被害を受けた」と主張するだけでは認めず、証拠による証明が必要です。
「SNS投稿監視サービス」の解説

任意交渉による損害賠償請求
損害賠償請求の方法は、任意交渉と訴訟の2つに分けられます。
内容証明で警告し、謝罪を要求したり、損害賠償の任意の支払いを促したりするのが、任意交渉の段階です。任意交渉なら、裁判より早期に解決でき、費用負担も少なく済むメリットがあります。一方、相手が不誠実だと交渉は難航し、解決が遠のきます。
この段階から弁護士に依頼しておけば、弁護士名義の内容証明を送付することで、投稿者に対して慰謝料などの支払いを強く請求することができます。
損害賠償請求訴訟
交渉で解決できない場合は、裁判所を通じて法的に損害賠償を請求します。これが「損害賠償請求訴訟」です。
裁判所を介して解決する方法には法的拘束力があり、勝訴して確定判決が得られれば、強制執行をして相手の財産を差し押さえることができます。ただし、訴訟で解決するには、数ヶ月〜1年以上の期間を要することもあります。公開の法廷で争われるため、話題になって報道されるなどのリスクもあり、企業イメージへの配慮も必要です。
示談で解決するか、それとも裁判に進めるかは、それぞれのメリット・デメリットを比較し、証拠の有無など、状況に応じた対応が必要となります。そのため、早めに弁護士に相談して、サポートを受けるのがお勧めです。
風評被害を訴えた裁判例
次に、実際に、風評被害を訴えた裁判例について紹介します。
ダイオキシンの風評被害の賠償を認めた事例
横浜地裁平成18年7月27日判決は、被告の工場が、ダイオキシンを排出し続けた事実が、「基準の8100倍検出」といったショッキングな内容で全国報道された結果、河口付近で漁業などを営む原告ら4名が風評被害を被ったとして、損害賠償を求めた事案です。
裁判所は、被告の行為と営業損害の相当因果関係を認め、ショッキングな報道内容によって、海産物の購入や、観光地引き網への参加を見合わせる蓋然性は高いと判断しました。
損害額は、報道の影響が顕著だった時期(主に平成12年4〜6月)の売上減少を中心に算定されましたが、営業損害が補填されたことを考慮して慰謝料は認めませんでした。
誤報で農家が風評被害を受けた事例
最高裁平成15年10月16日判決は、テレビのニュース番組が所沢産野菜のダイオキシン汚染を特集したことに対し、農家が、名誉毀損による謝罪広告と損害賠償を請求した事案です。放送では、フリップを用い、所沢産野菜のダイオキシン濃度が全国平均に比べて突出していると示し、ほうれん草などの葉物野菜の危険性を強調しました。
裁判の焦点は、報道された事実の重要な部分が真実であることの証明があったか、名誉毀損の違法性が阻却されるかという点でした。最高裁は、「せん茶」の測定値が含まれていたこと、採取場所不明のわずか1検体の白菜の結果をもって放送したことなどを理由に、重要な事実の真実性が証明できないと結論付けました。
元従業員の書き込みによる風評被害の事例
東京地裁平成14年9月2日判決は、運送会社の元従業員が、インターネット掲示板「2ちゃんねる」に虚偽の事実を書き込み、名誉を毀損したとして損害賠償を請求した事案です。被告は、原告会社を解雇された後、「不当解雇」というスレッドを作り、「業務は多忙で休日もほとんどなく、朝7時から夜中の2時3時もざらであった」「懲戒解雇にすると恫喝された」「2代目ボンボン」「従業員は奴隷だと思っているふしがある」といった投稿をしました。
裁判所は、本件書き込みが「原告らの名誉、信用等について社会から受ける客観的評価が低下したことは明らか」であるとして不法行為に当たると判断しました。そして、本件書き込みが、不特定多数の閲覧するインターネット掲示板で行われ、情報の伝播力が大きいことを考慮し、原告会社の損害を100万円、役員2名の損害をそれぞれ30万円と認定しました。
風評被害を弁護士に相談する際の注意点
次に、風評被害について弁護士に相談する場合のポイントを解説します。
風評被害は、初動対応を誤ると被害が拡大したり、名誉回復が遅れたりする危険があります。だからこそ、適切なタイミングで弁護士に相談し、依頼することが重要です。
弁護士費用の相場
弁護士に風評被害について相談・依頼する際の費用は、次の通りです。
相談料
「30分5,500円」「1時間11,000円」などの例が多いです。法律相談料は、初回無料としている法律事務所もあるので、まずは相談から始めることをお勧めします。
着手金
着手金は、事件を受任した際に支払う費用で、結果にかかわらず発生します。風評被害を訴える場合、相場は20万円〜50万円程度が目安となります。なお、請求額や事件の難易度によって増減します。
報酬金
報酬金は、依頼事項の終了時に支払う弁護士費用です。
風評被害を訴える場合、損害賠償を請求するなら、その獲得額に応じて発生します。報酬金の相場は、回収額の16%〜30%が目安となります。
その他の費用(実費・日当など)
裁判所に訴訟を提起する場合には、申立手数料(収入印紙代)や郵券代がかかります。また、弁護士が裁判所に出廷する際の交通費も、依頼者負担となるのが通例です。出廷が必要となる場合には、その都度、日当が発生するケースもあります。
実績や専門性を確認する
風評被害の案件は、IT分野に関する知見が求められる、特殊な法分野です。そのため、依頼する弁護士を選ぶときは、実績や専門性について慎重に確認しなければなりません。
例えば、初回相談などで次のようなポイントをチェックしましょう。
- 過去に削除請求・損害賠償請求の経験があるか。
- 発信者情報開示請求や仮処分の実績が豊富か。
- ITリテラシーに関する理解があるか。
- 最新の法改正(情報流通プラットフォーム法など)に精通しているか。
これらのポイントは、公式サイトで解決実績などを確認するほか、初回の法律相談で担当弁護士に質問することが可能です。また、弁護士選びは、スキルや実績だけでなく、相性も大切です。
弁護士に依頼するメリット
風評被害を訴えるにあたって、交渉なら自分ですることも可能です。しかし、弁護士に依頼することには、次のようなメリットがあります。
迅速な対応と専門的判断
風評被害は、スピード重視です。放置すれば拡散され、炎上に繋がりかねません。投稿の削除請求、発信者情報開示請求といった専門的な手段について、速やかに対応するには、弁護士を依頼するのが良いでしょう。
相手に心理的プレッシャーを与えられる
風評被害を訴えるにあたり、損害賠償請求をする場合、任意交渉で支払いに応じてもらえれば早期解決が可能です。内容証明で、弁護士名義の通知書を送れば、相手に大きなプレッシャーとなり、交渉に応じてもらいやすくなります。
また、被害者自身が行うと感情的になりがちな場面でも、弁護士なら、冷静かつ戦略的に進めることができます。
煩雑な手続の代行
発信者情報開示請求、仮処分申立、訴訟提起などといった裁判手続きは、非常に複雑です。専門的で複雑な手続きも、弁護士に依頼すれば、一括して代行してもらうことが可能です。裁判所やプロバイダとのやり取りにも慣れているので、進行もスムーズです。
風評被害を訴える際のよくある質問
最後に、風評被害を訴える際のよくある質問に回答しておきます。
ネット上の風評被害は違法?
インターネット上の発言や投稿が、他人の名誉や信用を害する場合、名誉毀損罪や信用毀損罪に該当し、違法と評価されます。特に、虚偽の情報や誤った噂を拡散した場合に法的責任を問われやすく、民事・刑事の両面での対応が可能です。
加害者が匿名でも、発信者情報開示請求を通じて投稿者のIPアドレスや契約情報を取得し、特定して損害賠償請求や告訴を行うことが可能です。
ネット上の風評被害を放置するリスクは?
風評被害を放置すると、信用の低下や顧客離れといった実害に繋がります。
拡散されたり、投稿が検索エンジンに残り続けたりすると、悪影響が長期化します。削除や開示請求といった対処が遅れると、ログの保存期限が切れて加害者の特定が難しくなってしまうリスクもあるので、できるだけ早期に法的対処を検討すべきです。
「ネットの削除依頼の方法」の解説

法的措置を取ることに問題やリスクはある?
法律に基づく正当な権利行使であれば、原則として問題ありません。
ただし、損害賠償を請求したことで相手が逆上して、SNSでの再攻撃をするといった危険は否定できないので、ケースに応じて対応方針やリスク評価は慎重に行うべきです。風評被害の対応経験が豊富ま弁護士に相談して、訴える手段を見極めてください。
まとめ

今回は、風評被害に毅然と立ち向かうために、訴える方法を解説しました。
風評被害は、放置すれば名誉や信用を大きく傷つけ、精神的・経済的なダメージをもたらします。そのため、被害を受けた側は、損害賠償請求などの手段を通じて、被害を回復に努めるべきです。名誉毀損や業務妨害といった侵害を受けたら、これを理由に損害賠償請求の手続きを進めることが可能です。その前提として、発信者情報の開示請求によって、投稿者を特定する必要があります。
風評被害に気づいたら、訴える準備として、早期の証拠保全が欠かせません。
法律知識に基づいて対応する必要があるので、一人で悩まず、弁護士のサポートを受けながら適切に対応していくことが、被害の拡大防止と権利回復への第一歩となります。
- 風評被害を訴えるときは、早期対応によって被害拡大を防ぐべき
- 風評被害を訴えるのに必要となる証拠保全は、迅速に行っておく
- 匿名投稿の場合は、発信者情報開示請求によって個人を特定する
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