★ お問い合わせはこちら

倒産するときの従業員への告知のタイミングと、解雇通知のポイント

倒産せざるをえないとき、株主や役員、金融機関や取引先など、多くの利害関係者に迷惑をかけますから、事前の説明は必須です。なかでも重要で、かつ、利害の程度も大きいのが従業員。そのため、倒産するときには必ず事前に、従業員に告知しなければなりません。

社員への説明が不十分で、不適切だと、倒産直前に労働トラブルが起こり、円滑な倒産の妨げになります。とはいえ、あまり早く伝えすぎると、回避可能だった倒産を助長してしまうリスクがあり、適切なタイミングを見計らって告知しなければなりません。

社員もまた倒産により生活の糧を失うから、完全に納得させるのは難しいでしょう。それでもなお、残念ながら倒産せざるを得ないと誠実に説明し、理解を得るべきです。破産手続きのなかで、一部の社員には引き続き協力を仰がなければならないこともあります。

今回は、倒産する会社の従業員への告知のタイミング、説明のポイントと、倒産による解雇を通知するときの注意点などについて、企業法務に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 倒産による混乱を避け、従業員を守るため、事前の告知、説明が重要
  • 倒産の直前に、一斉に説明するのが原則だが、重要な社員へ先に説明するケースもある
  • 倒産によって社員はその地位を失うが、未払の給料は立替払制度で保護される

\お気軽に問い合わせください/

目次(クリックで移動)

解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業法務・顧問弁護士サービスを得意とし、使用者側の人事労務の経験が豊富。

会社側の立場で、トラブル解決・リスク対策のサービスを提供。予防法務を中心に、会社側でスピーディに対応します。

\相談ご予約受付中です/

企業法務の相談を、弁護士が詳しくお聞きします。
ご相談の予約は、下記よりお問い合わせください。

倒産する前に従業員に告知すべき理由

まず、倒産前に、社員に告知、説明をすべき理由について解説します。

社員は、会社にとって重要な要素です。経営状況について全て説明するのは現実的でないとしても、勤務先のことについてできる限り知る権利があります。業績が悪化し、倒産せざるを得ないとき、経営者の一番の心配は社員の将来でしょう。従業員を大切に思うほどに、倒産することをいつ告知し、説明しようかと、不安が募るでしょう。

従業員の不利益を軽減できる

倒産が、社員に大きな負担をかけるのは事実です。仕方ないとしても少しでも不利益は小さくしたいところ。倒産について社員の同意は不要ですが、十分に説明しなければなりません。

適切なタイミングで告知し、説明すれば、労働者側でも事前に心構えができます。時間的な余裕があれば、転職活動するなどの準備も可能であり、倒産の不利益を軽減できます。

破産手続きに協力してもらう必要がなる

倒産をするための破産手続きには、社員の協力が必要となります。裁判所で行う法人破産の手続きは複雑で、その作業を経営者1人で進めるのは現実的でなく、人手が必要です。

弁護士に依頼し、破産申立てを代理してもらえば多くの手間を省けます。それでもなお、社内の経理作業、財務資料の取りまとめなど、すべき作業は多く存在します。少なくとも幹部社員や経理を担当した社員などには、倒産直前まで協力してもらわざるを得ず、納得いく説明が必須です。

破産の支障となる労働問題を避けられる

破産の直前で労働問題が起こると、清算を進める支障となってしまいます。

業績など経営状況を理由にした解雇を「整理解雇」といいます。有効に進めるには、整理解雇の4要件(ⅰ 解雇の必要性、ⅱ 解雇回避の努力義務、ⅲ 解雇対象者の人選の合理性、ⅳ 手続きの妥当性)を満たさなければならない制約があります。一方で、倒産すれば、社員全員を適法に解雇できます。

とはいえ、倒産の目前の解雇で、告知、説明が不十分だと従業員から訴えを起こされ、労働問題が顕在化します。このとき、破産管財人が引き継ぎ、訴訟を遂行しなければならず、破産を終了させる支障となります。当然ながら、説明がなされないと事実上も大きな混乱が生じます。社員間の混乱は、ネットやSNSの風評を通じて社会に拡散されます。すると、倒産するとなるのみならず、経営者の再出発の障害となる危険もあります。

会社が破産するデメリットと、リスク回避の方法は、次に解説します。

倒産を従業員に告知する適切なタイミングは?

法人破産の手続きでは、倒産までに全社員を解雇することとなります。遅くとも、倒産に至るまでには、従業員に必ず告知、説明をするのが大切です。とはいえ、直前になって知らされても困るでしょう。そのため、倒産時にいつ説明するのか、そのタイミングが重要となります。

倒産時の告知のタイミングは、解雇通知の時期とも関係します。この際、解雇予告についての労働基準法のルールも理解しておかなければなりません。

倒産の直前に告知するのが原則

倒産の事実が、相当前から広まれば、大きな混乱の原因となります。中途半端な説明や噂は、誤解を生みやすく、社員に不安を与えかねません。大企業ほど社会的に大きなインパクトを与えますから、倒産が迫っている事実が早く知られすぎると不利益も大きいもの。事実無根の噂によって混乱を招けば、倒産そのものの支障となる危険もあります。

したがって、倒産の直前に告知するのが原則となります。つまり、倒産の事実は、直前まで秘匿しておき、破産の申立てをする直前に従業員への説明を実施するようにします。

重要な社員のみ先に説明する

一方で、倒産の手続きには社員の協力を要します。なので、重要な社員に限っては、早めに説明し、理解を得る必要があるケースもあります。重要な社員への説明を怠り、理解が得られないまま退職を誘発すると、破産手続きを担う社員すらおらず、業務に支障が出てしまいます。

このような事態を避けるには、少なくとも、破産手続きの終了するまで会社に残ってほしい重要な社員や役員には、従業員全体への告知に先立って、しっかり説明しておくのが大切です。このとき、事前に説明を受けた社員が秘密を漏らさないよう、情報管理を徹底するのは必須です。

予告なく解雇を通知するなら、解雇予告手当を払う

社員の解雇では、解雇予告についての労働基準法のルールを守らなければなりません。具体的には、解雇の30日前に予告するか、不足する日数分の平均賃金に相当する解雇予告手当を払う必要があります。このルールは、倒産の場面でも適用されます。すると、倒産によって解雇する日に通知し、即日解雇とするならば、30日分の解雇予告手当を要します。

前章のとおり、倒産の混乱を避けて円滑に進めるために、倒産直前まで秘匿せざるを得ないケースは多いです。なので、解雇予告を30日前にするのは現実的でないケースもあります。この場合、実務的には、30日に不足する日数分の解雇予告手当を払う義務を甘受してでも、直前の告知とせざるを得ません。

なお、解雇予告手当を払わずにした解雇も、直ちに無効となるわけではありません。

裁判例(最高裁昭和35年3月11日判決)は、「予告期間もおかず、予告手当の支払いもしないで、労働者に解雇の通知をした場合は、使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り、通知後30日を経過した時か、または通知後本条の解雇予告手当の支払いをした時のいずれか早いときから効力を生じる」とし、必要な期間が経過した後に有効となると判断しました。

解雇通知の方法、解雇通知書の書き方は、次の解説をご覧ください。

倒産を従業員に説明する方法と、注意点

倒産すれば、社員は会社を辞めざるを得ず、将来の給料を失いますから、混乱は必至です。タイミングはもちろんですが、十分な説明と質疑応答をして、社員の不安をできる限り解消する努力をしてください。

社員に告知するにせよ、「破産する」という重大な事実について、どのように伝えるかが、倒産を円滑に進めるにあたって重要なポイントです。社員への説明の方法と、その際の注意点を解説します。

一斉に説明する

倒産についての告知、説明は、一斉に進めるようにしてください。社員を一堂に集め、同時に説明するのが原則です。

社員間で説明にタイムラグがあったり、聞いた内容に差異があったりすると、不信感の原因となります。説明の後に、社員間で情報共有されるのは防げません。誤った情報や噂が広まれば、誤解や不安、無用な混乱を生むこととなります。大規模な会社や、複数の事業所が点在している場合などには、Web会議など、リモートでの説明を活用することもできます。

同時に説明するのが難しい場合も、説明する人によって内容が異ならないよう、告知の内容は書面にし、事前に統一しておかなければなりません。

不安を解消する努力をする

無用な混乱はできるだけ避けるべき。そうはいっても倒産により生活保障を失うのは社員にとって一大事です。不利益を最小限に抑えるには、可能な限り早めに、誠実に説明しましょう。隠し事をすれば、社内に不信感を生じさせます。十分な準備ができず、給料を失えば、社員の将来の計画が大きく狂うこともあります。

会社のほうが社員よりも法律知識を有しているのが通常なので、不安を解消する努力を怠ってはなりません。倒産時の給料や退職金の扱い、破産手続き前後の社員の処遇、利用できる公的制度などをしっかり説明してください。正確な説明に自信がないときは、弁護士のサポートを受けるのがお勧めです。

会社破産のデメリットと、リスク回避の方法は、次に解説します。

想定問答を作成し、リハーサルする

倒産について社員に説明するのは、とてもデリケートな問題です。労働者側も神経質になりますから、社長の不用意な発言1つでも、大きな誤解を生んでしまいます。アドリブで乗り切ろうとするのは危険であり、必ず想定問答を準備した上で、入念なリハーサルをして臨むようにしてください。

倒産が迫るタイミングでは、社員に説明すべき事情、よくある質問は、想定できるものも多くあります。十分に回答を検討し、社員との無用なトラブルを避けるよう努めてください。

会社が倒産したら会社都合の退職となる

倒産で、社員の生活に不安を与えない努力が重要と解説しました。
労働者にとって、最大の心配ごとは、退職した後の生活にあります。そのため、倒産時の従業員への告知、説明のなかで、大切なのが、失業保険について有利な取り扱いとしてあげることです。

この点、倒産に伴う退職は、すなわち解雇であり、失業保険においては会社都合退職となります。そのため、失業保険の手続きでは特定受給資格者として扱われ、7日間の待機期間の後、2ヶ月の給付制限期間をおくことなく手当を受給できます。また、受給できる日数ないし金額の上限も、自己都合退職の場合に比べて有利に取り扱われます。

このような取り扱いについて、社員に不安を感じさせてはなりません。倒産を告知する差異には必ず、「失業保険については会社都合退職として有利な取り扱いをすること」を伝えてください。

あわせて、離職票や資格喪失の手続きを速やかに進め、早期に受給できるよう努力するのも大切です。

倒産によって解雇される社員の給料の扱い

最後に、倒産の前後における社員の給料の扱いについて解説します。

倒産のタイミングで、社員の大きな不安は、払ってもらえるはずだった給料や退職金などの扱いです。会社に余剰の資金があればよいですが、倒産せざるを得ない事態になっては余裕もないケースばかりでしょう。給料や退職金などに未払いが生じてしまうとしても、労働者保護の観点から、他の債権者に優先して配当を受けられます。

労働債権の届出が必要

法人破産の手続きにおいて、未払い債権を有する債権者は、その債権の存在と金額を届け出る必要があります。これを法律用語で「債権届」といいます。

そもそも、破産手続きのなかで、期限内に債権届出書を提出しなければ、法人の財産から配当を受けられなくなってしまいます。そのため、従業員に倒産について説明をする際、未払いの労働債権が生じてしまう場合には債権届出書を提出する必要があることを、よく説明しておく必要があります。

優先的に配当を受けられる

破産手続きにおいては、届け出られた債権は、保護の必要性の度合いに応じて分類され、その分類に従った保護を受けることができます。未払いの給料や手当、退職金などは、一般に「労働債権」と呼び、「財団債権」と「優先的破産債権」のいずれかに該当します。

財団債権は、一般の破産債権の配当を待たずに弁済を受けられる、保護の必要性の強い債権です。財団債権として特に強い保護を受けられる労働債権は、給料・退職金のうちの次のものです。

  • 未払い給与のうち、破産開始決定前3か月分の給与相当額
  • 未払い退職金のうち、退職前3か月分の給与に相当する金額

優先的破産債権は、財団債権ほどでないものの、一般の破産債権よりは有利な取り扱いを受けられるものです。労働債権のなかで、優先的破産債権となるのは、次のものです。

  • 未払い給与のうち、破産開始決定前3か月を超える給与相当額
  • 未払い退職金のうち、退職前3か月分の給与を超える金額

未払賃金立替払制度による救済

給料は、労働者の生活を支えるとても重要なものあり、倒産により未払いになったとき、国による保護の制度が準備されています。それが、独立行政法人労働者健康安全機構が運営する、未払賃金立替払制度です。

同制度で、立替払いの対象となる社員の要件は、次のとおりです。

1. 労働者災害補償保険(労災保険)の適用事業で1年以上事業活動を行っていた事業主(法人、個人は問いません)に雇用され、企業倒産に伴い賃金が支払われないまま退職した労働者(労働基準法第9条の労働者に限る)であった方

2. 裁判所への破産手続開始等の申立日(法律上の倒産の場合)又は労働基準監督署長に対する事実上の倒産の認定申請日(事実上の倒産の場合)の6か月前の日から2年の間に当該企業を退職した方
(注)退職後6か月以内に破産手続開始の申立て又は労働基準監督署長への認定申請がなされなかった場合は、立替払の対象とはなりません。

3. 未払賃金額等について、破産管財人等の証明(法律上の倒産の場合)又は労働基準監督署長の確認(事実上の倒産の場合)を受けた方

未払賃金の立替払制度の概要(独立行政法人労働者健康安全機構)

立替払いを請求できる期間は、倒産などの開始決定の翌日から起算して2年以内とされます。この期間を過ぎた場合、立替払いを受けることはできません。また、立替払いを受けられる金額は、退職日の6か月前の日から機構に対する立替払請求の日の前日までの間に支払期日が経過している賃金・退職金などです。

立替払いを受けることのできる金額は、次のとおり上限があります。
原則は、未払賃金総額の100分の80に相当する金額ですが、退職日の年齢によって限度額が存在します(実際に支払われる金額は、限度額の100分の80の金額となります)。

スクロールできます
退職日の年齢未払賃金の総額立替払の限度額
45歳以上370万円296万円
30歳以上45歳未満220万円176万円
30歳未満110万円88万円

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、倒産せざるを得なくなった会社が理解しておくべき、破産前の社員への説明のポイントを解説しました。破産を従業員に告知する際には、タイミングについて慎重な判断を要します。

やむを得ない会社の破産、法人の倒産は、経営者にとって不本意なことでしょう。隠してこっそり進めたい気持ちは理解できますが、直前すぎる説明は社員にとって大きな不利益を与えます。倒産すれば、社員は解雇されてしまい、給与による生活保障を失うなど悪影響があるからです。倒産は仕方ないにせよ、説明に納得し、余裕をもって準備してもらうべきです。経営者の身勝手な倒産と捉えられれば、円滑な破産手続きの支障となります。

適時のタイミングで、十分な説明を社員に行い、理解を得るよう努めてください。複雑な法人破産ほど、その進行には専門家の協力が必要です。破産までのスケジュール管理に疑問があるなら、ぜひ弁護士に相談ください。

この解説のポイント
  • 倒産による混乱を避け、従業員を守るため、事前の告知、説明が重要
  • 倒産の直前に、一斉に説明するのが原則だが、重要な社員へ先に説明するケースもある
  • 倒産によって社員はその地位を失うが、未払の給料は立替払制度で保護される

\お気軽に問い合わせください/

よかったらシェアしてください!
目次(クリックで移動)