会社破産

倒産するときの社員への説明のタイミングと、解雇・賃金のポイント

倒産をせざるをえないとき、社長以外の株主、役員、従業員、金融機関、取引先など、多くの利害関係人が存在しますが、中でも重要で、かつ、利害の程度も大きいのが「従業員」です。

社員への説明が不十分であったり、不適切であったりすると、倒産直前に労働トラブルとなり、円滑な倒産の妨げになることがあります。

社員としても生活の糧を失いますから、倒産を完全に納得してもらい、同意してもらうことは難しいでしょうが、残念ながら会社破産・法人破産せざるをえない場合でも社員への説明を十分におこない、理解を得ることが重要なポイントです。

そこで今回は、倒産をする会社の、社員への説明方法、説明のタイミングや、解雇など退職前後の労働問題について、企業法務に詳しい弁護士が解説します。

「会社破産と経営者の対応」の法律知識まとめ

なぜ倒産前に社員に説明をしなければならないのか

会社の業績が悪化し、やむを得ず倒産せざるをえなくなったとき、経営者がもっとも心配になるのが社員のことではないでしょうか。「社員に、倒産をどう説明しようか」と不安が募ることでしょう。

まず原則として、倒産は社員に大きな負担をかけることとはなりますが、倒産について社員の同意・承諾は不要です。

しかし、それでもなお、倒産前には社員に十分説明をしなければなりません。その理由について順に解説します。

倒産には社員の協力が必要

理由の1つ目は、倒産をするには社員の協力が必要だということです。

会社破産・法人破産の手続きを進めたり、倒産まではしなくても会社を解散・清算したりする場合には、その業務を進めるための人手が必要となります。

弁護士に破産申立ての代理を依頼すれば、多くの手続きの手間を省くことはできますが、会社の経理・財務資料の取りまとめなどは社内でおこなう必要があります。

労働問題が破産・清算の支障となる

理由の2つ目は、労働問題が破産・清算の支障となることです。

経営状況を理由とする整理解雇・リストラには「整理解雇の4要件」(①解雇の必要性、②解雇回避の努力、③解雇対象者の人選の合理性、④妥当な手続き)による制約があります。

しかし、倒産すれば社員全員を適法に解雇することができます。倒産であれば法人格はなくなり、社員との雇用契約は終了します。倒産後に経営者が社員に対する責任を負うこともありません。

それでもなお、倒産の説明をきちんと社員にしなければならないのは、倒産前に社員から訴えられるなどの労働問題が顕在化すると、破産管財人、清算人などが引き継いで訴訟をおこなうこととなり、破産・清算の支障となります。

事実上の混乱が生じる

理由の3つ目は、きちんと説明しなければ事実上の混乱が大きくなってしまうことです。

さきほど解説したとおり、倒産するのであれば適法に解雇することが可能です。しかし、説明なく解雇されたり突然倒産してしまったりすれば、社員の間で大きな混乱が生じることとなります。

社員の間で生じた混乱は、インターネット上の風評や顧客への噂などによって、社内だけでなく社外にも伝染していきます。その結果、倒産手続きを円滑に進められなくなったり、経営者個人の再出発の障害となってしまったりする危険があります。

倒産を社員に説明し、解雇するタイミング・時期

会社破産・法人破産をするとき、この破産手続きが終了するまでには、全社員を解雇することとなります。この際、社員に対する説明が重要であることを解説しました。

そのため、倒産時に社員を解雇するときには、そのタイミングが重要となります。解雇のタイミングを決定する方法、判断基準などを弁護士が解説します。

倒産の事実を直前まで秘匿すべき

倒産の事実が、倒産よりも相当前に広まってしまうと、大きな混乱が生じることがあります。中途半端な説明は、社員に誤解や不安を与えてしまいます。

とくに、有名な会社、大規模な会社、社会に与えるインパクトの大きい倒産ほど、その事実が早く知られ過ぎてしまうと、大きな混乱を招き、事実無根の噂がひろがるなど、倒産の支障となるおそれがあり、慎重にならなければなりません。

したがって、倒産の事実を直前まで秘匿するケースでは、社員への説明は会社破産・法人破産の申立てをおこなう直前に実施することが適切です。

倒産をしてしまえば、社員は会社をやめざるをえず、将来の給与を得ることができないという被害を負うことになるわけですから、混乱するのは必至です。なお、後述するとおり、社員に説明するタイミングを計るだけでなく、十分な説明や質疑応答をおこない、社員の不安をできる限り解消する努力をしてください。

解雇予告手当を支払う

社員を解雇する場合、「解雇予告」に関する労働基準法(労基法)のルールが、倒産の場面でも適用されます。つまり、30日前に解雇の予告をおこなうか、不足する日数分の平均賃金に相当する解雇予告手当を支払う必要があります。

予告日に即日解雇するのであれば、30日分の解雇予告手当が必要になります。

さきほど解説したとおり、倒産にともなう混乱を避け倒産手続きを円滑に進めるために、倒産の事実を申立て直前まで秘匿せざるを得ない場合には、解雇予告30日を十分にとることができないことが巣kなくありません。この場合、30日に不足する日数分の解雇予告手当を支払う義務が会社に生じます。

参考

なお、実際には、解雇予告手当を支払わずにおこなった解雇はただちに無効となるわけではありません。

最高裁判例(最高裁昭和35年3月11日判決)では、「予告期間もおかず、予告手当の支払いもしないで、労働者に解雇の通知をした場合は、使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り、通知後30日を経過した時か、または通知後本条の解雇予告手当の支払いをした時のいずれか早いときから効力を生じる」とし、必要な期間経過後に有効となると判断しています。

ただし、倒産時における社員との無用なトラブルを回避するためにも、支払える場合には解雇予告手当を支払って解雇をおこなうべきですし、離職票の交付など、その他の離職手続きについても速やかに進め、社員に負担をかけないようにしてください。

参 考
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重要な社員には先に説明する

一方で、社員の納得を得ることがとても重要な倒産のケースでは、早めの説明で社員の理解を得ることが必要となる場合もあります。

社員への説明を直前まで怠り、一斉に退職されてしまった結果、清算業務を担う社員すらいなくなってしまい、破産管財業務に支障がでてしまうと倒産手続きがうまく進まなくなってしまいます。

このような事態を避けるために、少なくとも、倒産手続きの終了まで会社に残ってほしい重要な社員、役員、幹部社員などには、社員全体への一斉説明に先立って、先に倒産についての説明をおこなっておくことを検討してください。

なお、事前に説明した社員が秘密を守るよう、情報管理を徹底することが必須です。

社員に倒産を説明するときの注意点

社員に対して会社破産・法人破産せざるをえない事実をどのように伝えるかは、倒産手続きを円滑に進めるにあたって重要なポイントとなります。

倒産について一般の社員に説明をするときには、次の点に注意をするようにしてください。

社員を一堂に集めて説明する

社員に説明をするときには、社員を一堂に集めて、一斉に説明するようにしてください。

社員間で説明にタイムラグがあったり、聞いている説明内容に差異があったりすると、社員間の情報共有や噂話が、さらに誤解や不安、無用な混乱を生むこととなってしまうからです。

会社が大規模な場合や、事業所が複数ある場合など、一堂に会するのが難しい場合であっても、説明は同時期に、同内容のものをおこなうように統一する必要があります。

社員の不安を解消する努力をする

無用な混乱は避けるべきであるものの、そうはいっても社員にとっては倒産してしまうと生活保障を失うこととなります。社員の被害を最小限におさえるためには、できるだけ早めに、誠実に説明をしてください。

倒産することで生活の糧を失うこととなるため、直前にいわれて収入を失った上、賃金や退職金などが十分に支払い切れないことともなれば、社員の将来の計画が大きく狂うことともなります。

倒産時に、すべての給与・退職金を支払いきれないときには、社員もまた他の債権者と同様に倒産手続きの中で配当を受けることになりますので、労働債権を届け出る必要があることも、あわせて説明をしておいてください。

会社破産・法人破産に関する法的手続きや社員の給与などの取り扱い、社員が利用できる公的制度などの説明をしっかりおこなえるようにするため、弁護士のサポートを受けることがお勧めです。

参考

会社破産・法人破産後の社員の生活に不安を与えないようにするために、もっとも重要なことは、失業保険について有利な取り扱いをすることです。

倒産にともなう退職は「解雇」となり「会社都合対処kう」となります。そのため、失業保険において「特定受給資格者」として扱われ、7日間の待期期間のあと、給付制限期間(3か月)なしに失業保険を受給することができます。

また、受給できる日数、金額の上限は、自己都合退職の場合よりも高額となります。

社員の不安解消のためには、「会社都合退職として有利な取り扱いとすること」と、「離職票、資格喪失手続きを速やかにおこない、早期に受給できるよう努力すること」を必ず説明するようにしてください。

想定問答・リハーサルをおこなう

倒産について社員に説明をすることは、とてもデリケートな問題であり、社長の不用意な発言1つで大きな誤解や混乱が生じてしまうこともあります。

「その場のアドリブで乗り切ろう」という態度はとても危険であり、必ず想定問答を準備した上で、入念なリハーサルをおこなってから臨むことをお勧めしています。

あらかじめ、倒産についての社員に説明すべき項目、社員からのよくある質問は想定できるものが多いため、十分な回答を検討しておき、社員との無用なトラブルを避けるよう努めましょう。

倒産における社員の賃金・退職金の扱い

会社が倒産するとき、社員がもっとも心配するのが、会社から支払ってもらえるはずの賃金・退職金などの取り扱いについてです。

この点について、会社に十分な資金がある場合はよいですが、そうであれば倒産の憂き目にはあっていないはずです。社員に対する未払いの賃金、退職金などが残ってしまう場合、他の債権者と同様に、会社破産・法人破産の手続きの中で、社員に対して配当をおこなうこととなります。

そこで最後に、倒産における社員の賃金・退職金の扱いについて弁護士が解説します。

労働債権の届出が必要

会社は差異・法人破産の手続きにおいては、債権者は、その債権の存在と金額を届け出る必要があります。

そして、届け出られた債権について、保護の必要性の度合いに応じて分類され、その分類にしたがった保護を受けることができます。

未払いの給与・退職金・手当など、未払いの労働債権が存在する場合には、倒産の手続き内において、期限内に債権届出書を提出しなければ、破産管財人からの弁済を受けることができなくなってしまいます。

そのため、社員に対しては倒産の説明をおこなう際にあらかじめ、未払いの労働債権が生じてしまうこと、その際には債権届出書を提出してほしいことを説明しておく必要があります。

「財団債権」として配当される金銭

会社破産・法人破産の手続きにおいては、保護の必要性の度合いに応じて債権が分類され、その分類にしたがった保護を受けることができます。そのうち「財団債権」とは、一般の破産債権についての配当手続きを待たずに配当を受けることのできる、保護の必要性の強い債権のことをいいます。

「財団債権」として、とくに強い保護を与えられているのは、未払いの賃金・退職金のうち、次のものです。

  • 未払い給与のうち、破産開始決定前3か月分の給与相当額
  • 未払い退職金のうち、退職前3か月分の給与に相当する金額

「優先的破産債権」として配当される金銭

未払いの給与、退職金の中でも、上記のように「財団債権」として強い保護を受けることのできないものについても、一般の破産債権よりは有利な取り扱いを受けることとなっています。

すなわち、次の債権については「優先的破産債権」として、財団債権の弁済後に配当を受けることができます。

  • 未払い給与のうち、破産開始決定前3か月を超える給与相当額
  • 未払い退職金:退職前3か月分の給与を超える金額

未払賃金の立替払制度による救済

社員の給与は、生活を支えるとても重要なものであるため、倒産によって未払いになってしまった場合には、行政機関による保護の制度が準備されています。それが、「未払賃金の立替払制度」です。

「未払賃金の立替払制度」は、倒産を理由として未払いとなった賃金のうちの一部を、独立行政法人労働者健康安全機構が、会社に代わって支払う制度です。

立替払いの対象となる社員は、次の要件を満たす社員です。

1. 労働者災害補償保険(労災保険)の適用事業で1年以上事業活動を行っていた事業主(法人、個人は問いません)に雇用され、企業倒産に伴い賃金が支払われないまま退職した労働者(労働基準法第9条の労働者に限る)であった方

2. 裁判所への破産手続開始等の申立日(法律上の倒産の場合)又は労働基準監督署長に対する事実上の倒産の認定申請日(事実上の倒産の場合)の6か月前の日から2年の間に当該企業を退職した方
(注)退職後6か月以内に破産手続開始の申立て又は労働基準監督署長への認定申請がなされなかった場合は、立替払の対象とはなりません。

3. 未払賃金額等について、破産管財人等の証明(法律上の倒産の場合)又は労働基準監督署長の確認(事実上の倒産の場合)を受けた方

立替払いの請求ができる期間は、倒産などの開始決定の翌日から起算して2年以内とされており、この期間を過ぎた場合には、立替払いを受けることができません。立替払いを受けることのできる金額は、退職日の6か月前の日から機構に対する立替払請求の日の前日までの間に支払期日が経過している賃金・退職金などです。

立替払いを受けることのできる金額は、次のとおりです。原則は、未払賃金総額の100分の80に相当する金額ですが、退職日の年齢による限度額が存在します(実際に支払われる金額は、限度額の100分の80の金額となります。)。

退職日の年齢 未払い賃金の総額 立替払いの限度額
45歳以上 370万円 296万円
30歳以上45歳未満 220万円 176万円
30歳未満 110万円 88万円

「会社破産」は、弁護士にお任せください!

今回は、会社を倒産せざるをえなくなったときに経営者に理解しておいていただきたい、破産前の社員への説明について弁護士が解説しました。

やむを得ず会社破産・法人破産に進まざるを得なくなってしまったことは、経営者にとっても不本意なことでしょう。しかし、社員にとっても倒産して会社を辞めざるを得なくなると、給与による生活保障を失うこととなり、大きな影響をこうむります。

そのため、経営者の身勝手な倒産ととらえられることのないよう、また、円滑な破産手続きの支障となることのないよう、適時適切なタイミングで、十分な内容の説明を社員に対しておこなうよう努めなければなりません。

会社破産・法人破産の準備や検討事項について、お迷いの会社は、ぜひ一度、会社破産を多く取り扱う企業法務に詳しい弁護士にご相談ください。

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