政府の「働き方改革」では「長時間労働の制限」がうたわれており、違法な長時間労働を監督する、労働基準監督署(労基署)の役割は、会社にとって無視できません。
特に、2015年(平成27年)に、長時間労働の問題を中心にあつかう特別組織として、東京、大阪の労働局に設置された「かとく」は、大手企業にとって重要な存在となります。
とはいえ、労基署も、監督官の人員を増やしてはいるものの「人出不足」状態が続いています。
今回は、会社が、労基署の監督対象とならないためにも、最低限注意しておくべきことを、弁護士がチェックリスト形式でまとめました。
1. 労基署は何を監督するの?
「労基署が会社にやってくる!」というと、非常に不吉な思いを抱く会社経営者の方も多いことでしょう。
「未払い残業代」や「不当解雇」などの問題が会社内にある場合はもちろん、クリーンに経営しているつもりであっても、痛くない腹を探られることは、決していい気持ちはしないものです。
そこで、まずは労基署の臨検(立ち入り調査)への対応の基本として、労基署が何を監督しているのかについて、きちんと理解しておいてください。
1.1. 労働者を守る法律
労働基準監督署(労基署)が、その監督の根拠とする法律の中で、最も重要な法律が、「労働基準法」です。
労働基準法は、労働者の労働条件について、最低基準を定めた法律で、憲法の規定にもとづいて、労働者の権利を保護し、労働者を守るための法律です。
そして、次の3つの法律が、「労働三法」といって、労基署の監督ポイントを理解するにあたって、非常に重要な法律です。
- 労働基準法
:雇用関係における労働者の最低限の労働条件を定めた法律 - 労働組合法
:労働組合の結成、労働組合の権利について定めた法律 - 労働関係調整法
:労使間の大利tンの予防と解決手続きを定めた法律
労働に関する法律(労働法)は、すべての会社、事業所に適用されます。「○○業界は例外。」「うちの慣習は違う。」といった理屈は通じないため、注意が必要です。
1.2. 逮捕、送検のリスクあり
労基署の扱う法律は、行政機関が、民間企業を取り締まるための法律です。
取り締まりの最たる例として、労基法などの法律には、違反した場合には罰則(罰金や懲役などの刑事罰)が用意されており、労基署の監督官には、逮捕、送検をするという、警察官と同様の権限が与えられています。
そのため、労基法に違反している会社が、労基署の監督官から調査、監督対象とされた場合には、最悪のケースでは、刑事罰を食らってしまうおそれがあるわけです。
1.3. 管理職も対象となる
労基署が、労働法の違反について制裁(ペナルティ)を与える場合には、会社自体と、社長(代表者)が対象となることが原則です。
しかし、役員(平取締役)や管理職もまた、労基署による逮捕、送検の対象となった例は、数多く存在しているため、油断はできません。
特に、違法な長時間労働が常態化し、改善の余地がないといったケースでは、残業の指示をしている直属の上司もまた、逮捕、送検の対象となるケースが少なくありません。
2. 【チェックリスト】是正勧告を受けやすいポイント
労基署が、会社に立ち入り調査(臨検)した結果、労働法に違反している事実が発覚した場合には、「是正勧告書」が交付されます。
是正勧告とは、労働法の違反を指摘し、定められた期限内に是正をするよう、労基署が会社に命令する行政指導をいいます。是正がされなかったり、違反が悪質であったりすると、刑事罰のリスクもあります。
そこで、今回は、是正勧告を受けやすいポイントについて、弁護士がまとめました。特に、会社(使用者)が、「気付いていなかった。」ということのないよう、労基署が来る前に準備しておきましょう。
2.1. 溜まった仕事を持ち帰らせる
労基署が、特に重点的な監督対象としているのが、「違法な長時間労働」です。
会社内で、長時間労働、たとえば、過労死ラインといわれる「月80時間以上の残業」をさせている場合はもちろんですが、そうでなくても、会社の気付かないところで残業時間が長時間となっているケースが、「持ち帰り残業」です。
溜まった仕事を持ち帰って、自宅で残業するよう、明示的、黙示的に指示、命令していないかどうか、会社内の業務命令を洗いなおすようにしてください。
2.2. 労働時間の把握が不十分
残業代を、法律にしたがって適切に支払うためには、会社が、労働者の「労働時間(残業時間)」を適切に把握しなければなりません。
タイムカードや日報が存在しないというケースは論外としても、これらの証拠が存在する場合であっても、「打刻方法が適切であるか。」という点まで注意が必要です。
決まった時間にタイムカードを押すことを強要するなど、タイムカードの打刻が不自然である場合には、労基署の監督官から是正勧告を受けやすくなります。
2.3. 固定残業代の運用が不適切
残業代を適切に払っていたとしても、度を越えた「長時間労働」は問題です。
しかし、残業代をできるだけ抑えようとして「固定残業代」の制度をとっている会社もまた、大きなリスクを抱えています。
「固定残業代」とは、残業代の全部または一部を、基本給や手当に含んで支払う方法ですが、有効に「残業代」の支払と認めてもらうためには、裁判例で、厳しい要件を課されているからです。
固定残業代の運用が不適切である場合には、「残業代未払い」として、労基署の監督官から、是正勧告を受けやすくなります。
2.4. 名ばかり管理職
残業代を支払わなくてもよいケースとして、労基法に定められているのが、「管理監督者(監督若しくは管理の地位にある者)」です。
しかし、会社内での扱いを「管理職」として残業代を支払っていないものの、実態は平社員と変わらないという「名ばかり管理職」は、社会的にも非常に問題視されています。
「名ばかり管理職」が常態化していると、残業代が未払いとなっていると評価される場合があることから、監督官からの是正勧告を受けやすくなります。
3. まとめ
今回は、労基署が、特に重点的な監督対象としている「違法な長時間残業」の問題について、是正勧告をされてしまうポイントを、弁護士がまとめました。
「働き方改革」で、長時間労働の抑制が叫ばれている中、今後、労基署の監督は、ますます強くなることが予想されます。
会社内の「長時間労働」や「残業代」の問題について、お悩みの会社経営者の方は、企業の労働問題(人事労務)を得意とする弁護士に、お早目にご相談ください。