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人手不足倒産とは?原因と、人手不足で倒産しないための対策を解説

深刻な人手不足が、少子高齢化などを原因として長く続いています。人手不足は企業規模によらず、大企業はもちろん、ベンチャー、中小企業やスタートアップでは、優秀な人材が集まりづらい状態となっています。

人手不足は、入口の「採用難」と、出口の「離職率の増加」により発生。そして、社員の減少は、ひいては売上が減少、採用コストが掛けられず将来の人手不足を生むという負のスパイラルを形成します。東京商工リサーチの統計によれば、2018年度の人手不足倒産は400件と過去最多件数を更新しました(前年度比28.6%増)。

十分な顧客と仕事があっても、労働者がいなければ仕事は進みません。人手不足で仕事が進まないと、既存の顧客も離れてしまいます。その結果、人手不足を理由として倒産に追い込まれる会社は多く存在しています。その企業ごとの人手不足の原因を特定し、解消することが、人手不足倒産を回避する対策となります。

今回は、人手不足倒産の理由、原因と、その対策について、企業法務に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 人手不足倒産の原因は、社内・社外いずれもあるが、最終的には経営者の責任
  • 人手不足倒産の対策は、社内環境を整え、人手が減らないようにするのが大切
  • 人手不足倒産の対策は全社的に進め、根本的な課題を解決する必要がある

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人手不足倒産とは

人手不足倒産とは、会社の仕事を進めるのに必要な社員を確保できずに、企業が倒産してしまうことです。

倒産というと、売上が下がり、業績が低迷し、赤字で会社が潰れてしまうことをイメージするでしょう。しかし、黒字だったとしても事業をうまく進められなければ倒産する危険があります。人手不足倒産も、そのような黒字倒産の1つです。

企業の経営には、オフィスの賃料をはじめ、必須の出費、つまり固定費がかかります。固定費は必ずかかるので、企業経営を円滑に進めるには、常時一定の仕事を回して、キャッシュフローを安定させなければなりません。ビジネスモデルにもよりますが、そのためには一定数の社員を雇うことは必要不可欠です。現場の業務を行うのに必要な社員数が不足していると、たとえ顧客や仕事が十分にあっても、人手不足で仕事が回らなくなってしまいます。

人手不足倒産は、冒頭の解説のとおり、負のスパイラルで起こります。

  1. 採用難により、人出が不足する
  2. 業務を進められず、売上が下がる
  3. 採用コストを掛けられず、ますます採用難
  4. 労働条件が悪化し、離職率が上昇する
  5. 業務が進まず、顧客離れが進む

このようなプロセスを繰り返すことによって、最初は「人手不足だから忙しい」という程度だったのが、気付かないうちに深刻な事態となり、倒産を余儀なくされるのです。

人手不足による多忙さを、長時間の残業や、管理職へのしわ寄せによって無理やり乗り切っても、長くは続きません。初期のうちに気付いて、人手不足倒産の対策を打つのは、会社経営者の役目です。

人手不足倒産の原因

人手不足倒産の理由は、わかりやすくいうと2つに分類されます。つまり、入口の問題として、新しく入ってくる社員の雇用が減少してしまうこと、そして、出口の問題として、会社を去っていく社員が増加してしまうことです。

入社が減ること、退社が増えることはいずれも、様々な原因が複合的に関わります。それらの原因ごとに分けると、人手不足倒産は、次の4つのタイプに区分できます。人手不足倒産の主な原因について、類型的に理解すれば、改善策が明らかになり、倒産する前に対策を立てやすくなります。

後継者難型の人手不足倒産

後継者難型の人手不足倒産とは、代表者や幹部役員が高齢な会社でよく起こります。少子高齢化によって、労働者として働ける人口は減少、地方の中小企業などを中心に、経営者の高齢化によって会社を存続できない例は相次いでいます。経営者が高齢になり、死亡したり、病気によって一線を退いて引退してしまったりすると、会社の業務を続けられなくなります。

適切な後継者にバトンタッチして、円滑に事業承継できればよいでしょう。子供が跡継ぎになるケースばかりではなく、社内に後継者が育っているケースもあります。しかし、ふさわしい後継者が見つからないと、後継者難による人手不足倒産の大きな原因となってしまいます。

求人難型の人手不足倒産

次に、求人難型の人手不足倒産。これは、求人に失敗し、採用できる社員が減ってしまって起こる人手不足倒産です。

少子高齢化による労働力人口の減少は、ひいては採用難につながります。特に、建設業など体力的にきついとされる仕事や、介護職などの労働集約的なビジネスモデルでは、仕事が大変な割に給料が低いというイメージが付いており、求人の人気が低い傾向にあります。仕事が獲得できても、その業務を遂行する労働力が十分に確保できなければ、事業継続は不可能です。

人件費高騰型の人手不足倒産

人件費高騰型の人手不足倒産とは、給料などの人件費が上がることで起こるもの。コストアップによって、業績が好調で売上が増加しても、収益が減少してしまえば倒産につながります。

人件費の上昇は、最低賃金が年々増額されていることからも明らかです。労働集約のビジネスモデルだと、人件費は、支出の大きな割合を占めます。IT技術やAIなどを用いた業務効率化の波に乗り遅れ、社員の努力頼みのビジネスモデルを継続していくと、人件費が、業績に如実に跳ね返り、人手不足倒産になるおそれがあります。

優秀な人材ほど人件費が高いのは当然。サービス残業を強要して利益率を上げる方法は、労働基準法違反です。

人件費を安く買い叩いて利益をあげようとしても、労働者から未払い残業代請求を受け、窮地に陥ってしまいます。法律を遵守して、適正な経営をしなければ、継続は望めません。

従業員退職型の人手不足倒産

従業員退職型の人手不足倒産とは、大切な労働力が、外部に流出してしまったことによって起こる倒産です。社員は、いずれは退職するものであり、永遠に会社に残ってくれるとは期待できません。社員を大切にせず、労働環境の悪化を放置すれば、価値の高い社員ほど、速やかに離職してしまうでしょう。

中核社員の独立、幹部社員の転職などは特に深刻。優秀な一部の人材に頼り切りだった会社ほど、人手不足倒産になってしまいやすいです。長期雇用は既に崩壊したといわれています。新卒から定年まで、1つの会社で働き続けるのが美徳とされた時代は終わりました。

転職が一般化した現代において、一部の優秀な社員に頼るビジネスモデルは、改めるべきです。

人手不足倒産しないための対策

次に、人手不足倒産を回避するための対策について解説します。人手不足倒産の対策は、前章に挙げた理由をよく理解し、企業ごとの特性に合わせて講じる必要があります。

人手不足に悩むとき、ただ漫然と求人を続けても解消しません。新規採用によって人材を補充しようと躍起になる前に、そもそも、社内に潜在する構造的な課題を解決しなければなりません。目先の応急措置にとどまることなく、根本的な問題解決をするためには、法的な側面からのアドバイスが重要であり、弁護士への相談が役立ちます。

多様な人材を活用する

まず、人手不足ならば、現在活用していない人材を、社内で活躍させる機会がないか、ご検討ください。つまり、多様な人材の活用により人手不足を乗り切るという対策です。政府も、働き方改革以来、様々な労働力の柔軟な活用を推奨しています。

長期雇用を前提とした労働慣行のなか、その中心は「男性の正社員」でした。しかし、そのような時代は終焉を迎え、下記のとおり、女性、高齢者、外国人、非正規社員の活用は、人手不足解消のために急務となっています。

女性の活用

男性しか活躍していない会社は、女性の働きやすい環境を作ることで人手不足を解消できる可能性があります。女性の社会進出が増加しました。性別の差は、業務遂行能力には影響しないのが基本。女性社員の比率が少ないなら、改善を要します。

一方で、女性は、結婚、妊娠や出産を機に退職したり、少なくともフルタイムで就労できなかったりするケースもあります。しかし、これらの理由で女性人材を嫌悪するのは不適切です。優秀な能力を持つ女性が働きやすい環境を作り、積極的に活用すれば、人手不足倒産を免れることができます。

高齢者の活用

長期雇用の慣行のもとでは、正社員は定年まで働いた後は、地位の保障が薄れる傾向にあります。定年まで、継続的に給料が上がり続けて人件費が高騰する分、定年後は再雇用し、非正規社員として限定的にしか活躍させないというわけです。

しかし、人手不足を解消する対策として、優秀な高齢者は積極的に活用すべきです。一般的な定年年齢とされる60歳なら、まだ元気に働ける人も多いでしょう。一律に退職させるのでなく、能力とやる気のある高齢者なら、積極的に仕事を任せるべきです。定年延長や定年後再雇用などの活用により、人手不足倒産を回避することができます。

外国人の活用

業種によっては、外国人を活用することもできます。経済のグローバル化が進行し、外国人を活用してインバウンド需要を獲得する手も有効です。また、中小企業やベンチャーでも、海外進出の機会が多くある時代となりました。なお、外国人の活用のためには、在留資格(ビザ)の知識が必須です。

非正規社員の活用

正社員だけでなく、契約社員やアルバイト、派遣など、非正規社員を活躍しやすい職場づくりを進めるのが、人手不足倒産を回避する策となります。同一労働同一賃金の観点から、正社員と全く同じ仕事、同じ責任とするのは問題がありますが、区別して扱えば、正社員よりも人件費を下げることもできます。

また、社内に雇用する余裕のない会社では、業務委託を活用し、外注化する方法もあります。労働者を理由なく一方的に解雇できないという解雇制限の法制の下では、社員雇用にはリスクもあります。業務委託のフリーランスなら、繁忙期に合わせて柔軟に仕事を発注できます。

働きやすい職場環境を整備する

以上のとおり、多様な社員を活用するには、活躍しやすい環境づくりが必要となります。労働集約型のビジネスモデルの会社ほど、長時間労働が評価されやすい職場環境となっていますが、それでは、女性や高齢者、非正規社員の活躍の幅は狭まってしまいます。

残業の削減や時短勤務、休暇の推奨などが、未開拓だった優秀な人材の活躍しやすい環境につながります。法律で権利として認められている有給休暇、育児休暇、介護休暇などはもちろんで、取りづらい状況だとすれば問題です。それだけでなく、労働者に配慮する特別休暇など、会社ごとに様々な福利厚生の制度を設けることが考えられます。

離職を防止し、定着率を向上させる

社員が働きやすい職場となれば、離職を防止し、定着率を向上させられます。このことは、さらにプラスの循環を生み、ホワイトな会社として採用力を強化でき、人手不足を解消できます。採用を強化して人手を増やす努力と、現有の労働力を減らさない努力とは、表裏の関係にあるのです。

給料を上げるなど、目に見える労働条件を向上させるだけが対策ではありません。社内のコミュニケーションを活発化させてハラスメントを減らしたり、給与体系を納得感のあるものにするなどの対策も大切です。

社員への福利厚生に力を入れ、働き続けたい会社にすれば、人手不足に陥らないで済みます。

業務の効率化を進める

人手不足を解消するには、未開拓の人材を社内に留めるだけでなく、そもそも人手の必要ない体制を作ることも大切です。限られた人材で支障なく対応するために、業務効率化を進めるのが、人手不足倒産の対策としても有効です。

IT技術の進歩により、システムによる自動化、AIの活用、クラウドサービスの活用などで、業務をしくみ化するのが大切になりました。全てを労働力に頼るのでは限界があります。業務を標準化して、優秀な一部の社員に頼り切らないようにしましょう。マニュアル化し、省力化することもまた、人手不足を解消する手段となります。

業務の効率化は、リモートワークを可能にし、未開拓の人材の発掘にも役立ちます。

事業承継対策をする

最後に、後継者難で人手不足倒産に陥らないよう、現在の経営者が元気なうちに、事業承継対策をするようにしてください。事業承継とは、会社の事業を後継者に引き継ぐことをいいますが、その方法には、大きく分けて次の3つがあります。

  • 親族内承継
    息子など、血縁関係にある親族を後継者とする事業承継。相続のルールにしたがって進められるメリットがある反面、必ずしも経営者としての能力が保障されるわけではない点にデメリットがある。
  • 社内承継
    役員や幹部社員など、社内の重要人物を後継者とする事業承継。業務を遂行する能力が十分な人物を後継者にできるが、家族経営で、法人資産と個人の財産が混同していると、トラブルにつながるおそれがある。
  • M&A
    第三者に会社の株式や事業を売却することによる事業承継。

いずれの方法も一長一短で、メリットとデメリットがあります。会社の状況に会わせた事業承継が必要で、そのためには会社の経営者が死亡するなど切迫した状況になる前に、十分な準備期間を確保しなければなりません。

人手不足倒産は会社の責任だと理解する

人手不足倒産は、どのような企業でも起こり得る問題であり、他人事ではありません。ただし、人手不足倒産になりやすいのは、特に中小規模の企業であり、かつ、労働集約型のビジネスモデルであるケースです。そのような業種では、意識的に、人手不足が深刻にならないよう対策が必要となります。

人手不足倒産の対策は、労働者一人の努力ではできず、会社全体で、組織として対応しなければなりません。採用や離職の問題は、経営者でないと判断できない事項。つまり、人手不足倒産をしてしまう責任は、会社にあるといえます。

このことを見逃すと、採用難の社会の責任にしたり、仕事を速やかに進められない社員の責任にしたりする例もあります。しかし、責任転嫁をすればブラック企業のレッテルを貼られるおそれがあり、良い考え方とはいえません。

今いる社員を大切にして、働きやすい環境づくりをするのが、経営者の責任です。働きやすく、労働条件の良い会社なら、転職、退職、独立が起こりづらくなり、人手不足を解消できます。

倒産せざるを得ないときの従業員への告知についても参考にしてください。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、昨今急増し、社会問題化している人手不足倒産について、法律面の解説をしました。人手不足は、直ちに倒産の原因となるわけではないものの、放置しては業績が悪化してしまいます。人手不足に悩む会社は、倒産を余儀なくされる切迫した状況となる前に、早急な対策を要します。

人手不足は社会的な課題。政府も、働き方改革、外国人労働者の受け入れ拡大といった施策を実施しました。しかし、新規人材を闇雲に探すだけでは、人手不足は解消できません。企業ごとの原因を知り、工夫を凝らすことが、人手不足を乗り切るのには大切です。人材獲得競争に飲み込まれ、倒産の危機に瀕しないよう注意してください。

人手不足倒産に歯止めをかけるには、会社側の意識改革が必要です。原因を踏まえ、適切な対策を打つために、ぜひ一度弁護士に相談ください。

この解説のポイント
  • 人手不足倒産の原因は、社内・社外いずれもあるが、最終的には経営者の責任
  • 人手不足倒産の対策は、社内環境を整え、人手が減らないようにするのが大切
  • 人手不足倒産の対策は全社的に進め、根本的な課題を解決する必要がある

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