「黒字倒産」という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。
「黒字」だと、会社経営は非常にうまくいっていると思いがちで、「黒字」と「倒産」は結び付かないと思うかもしれませんが、実際にはそうではありません。
「黒字」でも倒産してしまう会社がよくニュースになっていますし、反対に、「赤字」であっても倒産しない企業も多くあります。
今回は、予想外の「黒字倒産」の危機におちいってしまわないために、なぜ「黒字倒産」が起こるのかについて、企業法務を得意とする弁護士が解説します。
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目次
「黒字倒産」とは?
そもそも「黒字倒産」とは、どのような意味であるかについて、弁護士が説明します。
黒字倒産の意味
「黒字倒産」とは、バランスシート上の数字は黒字であっても、短期的に運転資金が不足してしまうことによって起こる、会社の倒産のことをいいます。
会計上の数字は、現在会社が手元に持っている現金自体をあらわすものではないことから、運転資金が不足すると、会社に資産価値があっても、取引先への支払ができなかったり、銀行などの金融機関の融資が返済できなくなったりすることが原因です。
会社のビジネスが、すべて前払であったり、すべて現金と商品を同時に交換するという場合には「黒字倒産」は起こりづらいですが、そのような場合ばかりではありません。
むしろ、企業間の取引は、支払いが数か月後など、長期スパンとなることが一般的です。
黒字倒産の例
では、実際の数字から、どのようなケースで「黒字倒産」が起こるのかについて、解説します。次の例をご覧下さい。
例
A社が、B社から1000万円の商品を受注を受けたとします。
商品の受注を受けたのが平成29年5月30日、商品の納入日が、6月15日で、商品代金の支払いは、他の取引などとまとめて翌月の7月末に支払うという契約内容であったとします。
この取引では、A社は、1000万円の受注を受けたため、1000万円分の商品を用意しなければならないため、5月末時点で、その原価を先に支払わなければなりません。
しかし、実際にA社に対して、B社から商品代金が支払われるのは、その2か月後となりますから、その間は自分の資金だけで堪えしのがなければなりません。
上の例は、わかりやすいように、1つの取引だけを取り出して解説していますが、実際には、A社とB社の間に複数の取引があったり、更に多くの当事者が関わったりして、話はより複雑となります。
A社がたくさんの現金を持っていて、余裕で支払ができるという場合には「黒字倒産」にはなりませんが、そのような場合ばかりではありません。
好調なときほど注意!
さきほどの例でもわかっていただけるとおり、「黒字倒産」は、運転資金に余裕のない会社に発生します。
そして、「黒字倒産」が発生しやすいのは、特に大きな、もしくは、多くの受注を受けたときです。
たくさんの受注を受けると、その分の商品を先に用意しなければならず、余裕がないと「黒字倒産」となりやすくなります。好調なときほど要注意なのです。
黒字倒産の原因は「キャッシュフロー」
黒字倒産の原因は、「キャッシュフロー」の悪化です。「キャッシュ(現金)」の「フロー(流れ)」ということです。
つまり、さきほどの例でいえば、商品を用意するために、先に「キャッシュ(現金)」を支払わなければならず、手元に「キャッシュ(現金)」がなくなってしまった結果、取引先への債務や金融機関への融資の返済などに必要な「キャッシュ(現金)」を準備できなくなってしまうわけです。
このとき、将来の売上が予想されていることから、バランスシート上は売上が計上されて「黒字」になります。
黒字倒産しないよう経営者が注意すべきポイント
ここまでお読みいただければ、「黒字倒産」がどのようなものかを、十分ご理解いただけたのではないでしょうか。
次に、気付かないうちに「黒字倒産」してしまわないために、経営者が注意しておくべきポイントを、弁護士が解説していきます。
「キャッシュフロー経営」という言葉があるように、貸借対照表、損益計算書だけでなく、キャッシュフローについても注意を払うようにしましょう。
【対策①】入金サイクルを早める
将来予定されている売上が、早めに入金されれば、それほど「キャッシュ(現金)」に余裕がない会社であっても、「黒字倒産」してしまうリスクは格段に減少します。
現金の収支に注意を払うことが重要なポイントです。
【対策②】前払い制とする
必ず商品と交換に現金をもらうか、先に現金をもらうようにすれば、「黒字倒産」のリスクは無くなります。つまり、前払い制を採用するということです。
前払いで現金を支払ってもらえるビジネスを増やすことが、対策の1つとなります。
【対策③】支払を後ろ倒しにする
入金を早めるだけでなく、自社の支払を後ろ倒しにしても、「黒字倒産」の危険を回避することができます。
売上が立つ可能性が高いなど、自社の信用が高ければ、仕入先もある程度支払の交渉に応じてくれる可能性があります。
【対策④】無駄な在庫を減らす
売れそうだと予測して、先にたくさんの在庫を仕入れてしまうと、いざ売上が予想を下回ったときには、「黒字倒産」となる危険があります。
過剰に投資をするというケースも同様です。
在庫や投資のかからないビジネスを増やすことも、良い対策となります。オンライン上のみで完結するインターネットビジネスなどは、在庫や投資のかからないビジネスの典型です。
「粉飾決算」による「黒字倒産」
以上の「黒字倒産」の説明は、会計上、バランスシート上は「黒字」なのに、キャッシュフローが悪化して運転資金がなくなることによって倒産してしまうケースです。
これに対して、そもそも「黒字」でないにもかかわらず、黒字に見せかけており、結果、倒産してしまうというケースがあります。それが、「粉飾決算」をしていた場合です。
粉飾決算とは、会計上の数字を不正に操作することによって、実際は赤字なのに黒字に見せかけることをいいます。その目的は、黒字に見せかけて好調をアピールすることによって、金融機関からの融資、投資家からの出資を受けることにあるケースが多くあります。
「粉飾決算」によって黒字のふりをしていただけですから、経営が悪化すれば、倒産し、見た目では「黒字倒産」となります。
赤字でも倒産しないケース
「黒字倒産」とは逆に、赤字であっても倒産しないケースもあります。
赤字でも倒産をしない会社のケースは、次の2つがあります。
- 過去の蓄えが多くあり、内部留保で食いつなぐことで経営を存続している会社のケース
- 将来性を見込まれて、金融機関からの多くの資金調達に成功しているケース
上記2つのケースでは、バランスシート上は赤字であっても、「キャッシュ(現金)」が手元に潤沢にあり、経営を存続させることが可能です。
とはいえ、前者であれば過去の蓄えが底を尽きれば倒産しますし、後者であっても、金融機関からの継続的な資金調達が止まれば倒産する危険があります。
倒産しないからといって、いつまでも赤字のままでいることもまた、オススメできません。
「企業法務」は、弁護士にお任せください!
今回は、会社の経営者が気になるワードである「黒字倒産」について、弁護士が解説しました。
会社の資金繰り、キャッシュフローに不安がある経営者の方は、企業法務を得意とする弁護士に、お気軽にご相談ください。
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