深刻な人手不足が続いており、大企業はもちろん、中小企業、ベンチャー企業、スタートアップ企業でも、「優秀な人材がほしい」というご相談をよくお聞きします。
人手不足は、更に「採用難」や「売上減少」につながり、更なる人手不足を生む「負のスパイラル」に繋がります。
東京商工リサーチの調査結果によれば、2018年度(2018年4月~2019年3月)の人手不足倒産の件数は400件と過去最多件数を更新しています(前年度比28.6%増)。
営業先、取引先もあり、十分な顧客と仕事があるにもかかわらず、「人手が足りない」「労働者が不足している」という理由で、倒産に追い込まれてしまう会社は、年々増加しているのです。
今回は、「人手不足」に関連する倒産の危機に瀕する会社経営者の方に向けて、人手不足倒産の理由、原因と、その対策を、弁護士が解説します。
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目次
「人手不足倒産」の主な原因とは?
売上がしっかりとあがっていて、黒字であっても、倒産してしまう会社があります。「人手不足倒産」もまた、その1つです。
人手不足倒産の大きな原因の1つに、近年社会問題となっている「少子高齢化」があります。「少子高齢化」によって、労働者として働ける人口(労働力人口)が減ってしまい、会社が労働者を採用できない、ということです。
人手不足倒産には、大きく分けて、次の4つのタイプがあります。人手不足倒産の主な原因について、類型的に理解することにより、その対策を立てやすくなります。
「後継者難」型
「後継者難」型の「人手不足倒産」とは、代表者や幹部役員が高齢によって死亡してしまったり、病気や入院などにより一線を退いて引退してしまったりしたことによって起こる「人手不足倒産」です。
「少子高齢化」により、会社経営者(社長)の平均年齢は年々上昇しています。
うまく事業承継をすることで、ふさわしい後継者にバトンタッチできるケースはよいですが、適切な経営者が見つからないケースでは、後継者がいないことが倒産の大きな原因となります。
「求人難」型
「求人難」型の「人手不足倒産」とは、うまく求人を成功させて採用ができなかったことを理由として起こる「人手不足倒産」です。
営業に成功し、仕事を多く獲得しても、その仕事を遂行してくれる労働力が十分に確保できなければ、事業を継続していくことは困難です。
特に、「建設業」、「運送業」、「介護職」といった業務では、求人の人気が低く、人手不足倒産に陥りやすい傾向にあります。
「人件費高騰」型
「人件費高騰」型の「人手不足倒産」とは、賃金などの人件費がコストアップし、売上は上がっていても収益が減少してしまうことによって起こる「人手不足倒産」です。
労働者に最低限支払わなければならない給与額を決める「最低賃金」が年々上昇していることからもわかる通り、必要となる人件費は上昇する一方であり、IT技術やAIによる業務効率化が、今後は必須の課題となります。
特に優秀な人材ほど人件費が高いのは当然ですから、人件費を安く買いたたくことで利益を上げていた事業モデルは、「人手不足倒産」の危機に陥りやすくなります。
「従業員退職」型
「従業員退職」型の「人手不足倒産」とは、中核社員の独立や、幹部社員の転職など、重要な労働力が外部に流出してしまったことによって起こる「人手不足倒産」です。
優秀な一部の人材に頼り切りになっていた会社の場合に起こりやすい「人手不足倒産」です。
「長期雇用」が当然であり、新卒から定年まで1つの会社で働き続ける、という時代は終わりました。優秀な人材ほど独立・転職をしやすい現在において、一部の人材のみに頼り切りになる事業モデルは、危険と言わざるを得ません。
会社側が行っておくべき「人手不足倒産」の対策は?
では、どのような規模、業種、サービスの会社であっても起こり得る「人手不足倒産」を回避するため、会社側(企業側)があらかじめ行っておくべき対策は、どのようなものでしょうか。
「人手不足に悩んでいる」という会社は多いのではないでしょうか。これまでのように漫然と求人を続けるだけでは、人手不足は解消しません。
「新規採用(人材の補充)」だけが、人手不足の対応策ではありません。
「人手不足倒産」を回避するための対策は、さきほど解説した4つの理由ごとに、様々な対策があります。企業法務を多く取り扱う弁護士が、順に解説していきます。
女性人材の活用
長期雇用を前提とした、「男性の正社員」が会社の中心である、という時代は終わりました。「女性は結婚をしてすぐにやめるから、雇わない」というのでは、「人手不足」を解消できません。
これまで女性従業員など、活用されてこなかった人材が未開拓なのであれば、これらの人材を活用することが、「人手不足倒産」を回避するための有効な対策となります。
女性人材の中には、育児・介護・体調などを理由に、フルタイムでは働けないものの、優秀な能力を持った人材が多くいます。
非正規社員(短時間勤務、パートタイム労働、契約社員など)を含めた多様な雇用形態を用意することで、これまで未開拓であった優秀な女性人材を、積極的に活用することができます。
採用市場がこれまで多くなかった人材の積極採用を行う必要があります。
高齢者(シニア)人材の活用
長期雇用慣行が残っているままだと、高齢者の人材ほど人件費が高い、という会社も少なくありません。
しかし、「人手不足」の解消のためにも、対策の一環として、優秀な高齢者(シニア)人材の活用は急務です。
定年延長、定年後再雇用などを活用し、定年後の責任や職種を変更することによって、人件費を抑制する手もありますが、「同一労働・同一賃金」の考え方から、「仕事が全く変わらないのに給与が安くなる」ことは許されません。
外国人人材の活用
業種によっては、外国人人材を活用することもまた、「人手不足倒産」の有効な回避策となります。
経済のグローバル化が進行し、日本だけで完結するビジネスであってすら、英語・中国語などの外国語を避けては通れないことがあります。ましてや、中小企業、ベンチャー企業であっても、海外進出の機会が多くある時代です。
日本に来ている外国人人材の中には、在留資格(ビザ)の関係上、一定の時間、業種でしか就労できない人もいるため、外国人人材を活用したいと考える会社は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
業務委託(外注)の活用
社内に正社員を多く雇用する余裕のない会社であっても、業務委託(外注)を活用することによって、「人手不足倒産」を回避する方法があります。
社員を雇用することは、会社側(使用者側)にとってもリスクとなります。日本において、労働者を理由なく一方的に解雇することは許されないからです。
業務委託(外注)のフリーランス(個人事業主)であれば、業務の繁忙期に合わせて、仕事を発注できます。クラウドワークス、ランサーズのように、フリーランスを探すことができるプラットフォームも充実しています。
業務の効率化
未開拓の人材を採用し、人手不足を解消することと並行して、「そもそも人手の必要ない体制を作る」こともまた、「人手不足倒産」しない会社となるための必須のポイントです。
IT技術が進歩し、システムやAI、クラウドサービスなどを活用して、業務を「しくみ化」することによって、全てを人間の労働力で補う必要のないケースも多くあります。
SNSやチャットサービス、クラウドサービスが充実することで、在宅ワーク、リモートワークによって時間と手間を節約することもできます。このことは、女性・シニアなど、労働時間に制約のある未開拓人材の発掘にも役立ちます。
ICT化、標準化、マニュアル化することで、より少ない人手でも業務を運営できます。これらの対策は、「省力」、「省人化」とも呼ばれます。
定着率の向上(離職の防止)
採用を強化して人手を増やすとともに、「現在、社内にいる労働力を、減らさない努力」も行わなければなりません。
社員の離職率を低下させて、定着率を向上する対策もまた、「人手不足倒産」への対策の1つとなります。社員への福利厚生に力を入れることで、社員がい続けてくれる会社を作ることができます。
今いる社員を大切にして、働きやすい環境づくりをすることは、会社経営者の責任です。働きやすく、労働条件の良い会社であれば、社員が転職、退職、独立しづらく、「人手不足」を解消できます。
職場環境を改善するために、社内コミュニケーションを活性化させたり、処遇制度を社員の納得感のあるものにするといった対策も重要です。
事業承継の対策
最後に、「後継者難」による「人手不足倒産」に陥らないために、現在の経営者が元気なうちに、事業承継対策を検討しておくことをお勧めします。
「事業承継」とは、会社の事業を後継者に引き継ぐことをいいますが、その方法は、大きく分けて、次の3つがあります。
- 親族内承継
:息子、娘など、血のつながった親族を後継者とする事業承継 - 社内承継
:役員、幹部社員など、社内の重要人物を後継者とする事業承継 - M&A
:第三者に事業を売却することによる事業承継
いずれの方法にもメリット、デメリットがあるため、会社の状況に合わせた事業承継を行わなければならず、そのためには、会社の経営者が死亡する前に、十分な準備期間が必要となります。
「企業法務」は、弁護士にお任せください!
今回は、急増して社会問題となっている「人手不足倒産」について、弁護士が解説しました。倒産するほどでなくても「人手不足」にお悩みの会社の経営者の方は、ぜひ参考にして対策を練ってみてください。
「人手不足倒産」の増加に伴い、政府も、働き方改革法の施行、外国人労働者の受け入れ拡大などの施策を行っています。
ただ単に新規人材を探すだけでなく、企業ごとに工夫を凝らすことによって「人手不足」を乗り切らなければ、人材獲得競争の荒波に飲み込まれ、倒産の危機もありえます。
しかし、「人手不足倒産」に歯止めをかけるためには、会社側(企業側)自身の、特に経営者の意識改革と、原因を踏まえた適切な対策が重要です。お悩みの会社は、ぜひ弁護士にご相談ください。
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