2019年4月より施行された「働き方改革関連法」による改正内容の1つに、「年次有給休暇管理簿」の作成の義務化があります。これは、上場企業、大企業から中小企業、ベンチャー企業まで、規模・業種を問わず適用されます。
「働き方改革関連法」により、年10日以上の有給休暇の法定付与を受ける労働者に対して、会社がそのうち5日を必ず取得させなければならないことが義務とされました(「使用者の時季指定義務」といいます。)。
会社側(使用者側)に課せられた、有給休暇の時季指定義務(取得させる義務)を適切に果たすために準備すべき資料が、今回解説する「年次有給休暇管理簿」です。
これまで有給休暇の消化率が低かったり、そもそも有給休暇の取得方法、ルールが決められていなかった会社では、早急な対応が必要です。
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「年次有給休暇管理簿」とは?
この度の働き方改革関連法で会社の義務となった「年次有給休暇管理簿」とは、労働者ごとに有給休暇の時季・日数・基準日を記載した書類のことです。
冒頭でも解説したとおり、年10日以上の法定付与日数のある労働者に対して、1年に5日以上の有給休暇を、時季を指定して取得させる義務を会社が負うことから、義務履行の有無を確認するため、必要となる書類です。
働き方改革によって改正された労働基準法施行規則(労基則)に、「年次有給休暇管理簿」について次のとおり定められています。
労基則24条の7
使用者は、法第三十九条第五項から第七項までの規定により有給休暇を与えたときは、時季、日数及び基準日(第一基準日及び第二基準日を含む。)を労働者ごとに明らかにした書類(第五十五条の二において「年次有給休暇管理簿」という。)を作成し、当該有給休暇を与えた期間中及び当該期間の満了後三年間保存しなければならない。
以上の通り、改正労働基準法施行規則24条の7では、会社(使用者)は、労働者ごとに、
- 時季(有給休暇を取得した日時)
- 日数(有給休暇を取得した日数・期間)
- 基準日(有給休暇の計算の基準日)
を明らかにした書類(年次有給休暇管理簿)の作成を義務付けるとともに、有給休暇を取得した期間と、その期間満了後の3年間の保管を義務付けました。
働き方改革によって会社に義務付けられた、有給休暇を取得させる義務(時季指定義務)については、次の解説をご覧ください。
「年次有給休暇管理簿」に記載すべき内容は?
働き方改革によって義務化された「年次有給休暇管理簿」による有給休暇の管理方法は、これまで会社内で一般的に行われていたものとは、大きく異なる場合があります。
特に、これまで特に有給休暇の日数について管理してこず、取得状況や消化率について詳しく知らないという会社は、意識改革が必要となります。
そこで次に、「年次有給休暇管理簿」の記載事項ごとに、作成のポイントを、弁護士が解説します。
有給休暇の「時季」
「年次有給休暇管理簿」に記載する、有給休暇の「時季」とは、有給休暇を労働者が実際に取得した日のことです。
時間単位年休を取得したときには、有給休暇を取得した「日」に加えて、「時間」についても記録しておく必要があります。
「○年○月○日」と記載する以外に、連続した日について有給休暇を取得したときは、「○年○月○日から○日まで」もしくは、「○年○月○日から○日間」と記載することもできます。
有給休暇の「日数」
「年次有給休暇管理簿」に記載する、有給休暇の「日数」とは、実際に労働者が取得をした有給休暇の日数のことです。
労働者が「申請した」日数ではなく、実際に取得した日数を記録し、管理します。
取得の方法によって記載を分ける必要はないため、労働者が時季指定した有給休暇、会社側(使用者側)が時季指定した有給休暇、計画付与によって取得した有給休暇の、すべての日数を含みます。
有給休暇の「基準日」
「年次有給休暇管理簿」に記載する、有給休暇の「基準日」とは、有給休暇が発生することとなる計算の基準日のことをいいます。
労働基準法において、有給休暇は、勤続年数「6か月」、「1年6か月」、「2年6か月」という単位で発生することとなっており、この最初の「6か月」を「第一基準日」、次の「1年6か月」を「第二基準日」と呼びます。
労働基準法における基準日よりも、有給休暇を前倒しして付与している場合には、前倒しして付与される日時を、「基準日」として記載します。
改正前との違いは?
改正前の労働基準法(労基法)であっても、有給休暇を管理する必要があることは当然です。一定の勤続年数のある社員が有給休暇をとることは、労働者の権利だからです。
しかし、改正前は、年次有給休暇の「取得日数」を「書面によって」管理することは、会社の義務とはされていませんでした。
多くの会社では、有給休暇の管理は、「残日数」によってなされており、1年を経過しても未使用のまま繰り越された有給休暇と、本年発生した有給休暇は区別されずに管理されてきました。
従来の管理方法だと、「本年、何日の有給休暇を取得したのか。」(取得状況)をわかりやすく管理できておらず、「5日間の有給休暇の取得義務」が果たされているのか、一見して判明しません。
この不都合を回避するために、改正後の労働基準法(労基法)では、既に説明したとおり「年次有給休暇管理簿」の作成を義務付け、「取得日数」を記載して管理するよう義務付けたのです。
有給休暇の消滅時効は「2年間」とされており、1年間のうちに消化しきれなかった場合、2年間は繰り越されます。
「年次有給休暇管理簿」の対象となる労働者は?
「年次有給休暇管理簿」の対象となる労働者は、有給休暇を与えられている労働者です。
したがって、有給休暇をそもそも法律上有しない労働者(例えば、入社6か月未満の社員など)は、「年次有給休暇管理簿」の作成義務の対象とはなりません。
労働基準法(労基法)の条文からも「法第三十九条第五項から第七項までの規定により有給休暇を与えたとき」に管理簿を作成しますから、有給休暇を取得する「権利が発生した」だけでは足りず、実際に取得してはじめて、管理簿の作成が必要となります。
しかし、「有給休暇を取得した人から、順番に管理簿を作成する。」という対応は、現実的ではありません。
次項に解説するとおり、「労働者名簿」や「賃金台帳」とあわせて調製できることから、あらかじめ作成したすべての労働者の名簿に、有給休暇を取得するごとに、「年次有給休暇管理簿」の必要的記載事項を記入していく対応がお勧めです。
「労働者名簿」、「賃金台帳」と合わせて作成できる
「年次有給休暇管理簿」とともに、改正以前から、会社が法律上作成を義務付けられていた書類(いわゆる「法定帳簿」)に、「労働者名簿」(労基法107条)、「賃金台帳」(労基法108条)があります。
いずれも、労働者ごとに、必要となる情報を記載することが義務付けられた書類です。
そのため、各書類の必要的記載事項が網羅されていれば、別々に作成しなくても、あわせて作成することが認められています(改正労基則55条の2)
労働者名簿あるいは賃金台帳に、有給休暇を記録する方法は、次の厚生労働省の紹介している図が参考になります。
「年次有給休暇管理簿」の保存・管理のポイント
「年次有給休暇管理簿」は、作成後、その有給休暇を与えた期間と、その期間満了後の3年間、保存しておく義務があります。
保存の方法は、紙媒体による保存のほか、電子機器を用いて、磁気ディスク、磁気テープ、光ディスク等によって調製することもできます。つまり、データでの保存も可能です。
ただし、データで保存をする場合には、労働基準法(労基法)に定めた必要事項が全て記載してあり、事業場ごとにプリンターを備え付けるなど、印刷できる方法にしておくことがお勧めです。
また、労働基準監督官の臨検などがあったときには、賃金台帳の閲覧、提出などとともに、「年次有給休暇管理簿」の必要事項の記載もすぐ明らかになるように準備しておくことが、通達で定められています。
「人事労務」は、弁護士にお任せください!
今回は、働き方改革による労基法改正で導入された、「年次有給休暇管理簿」の作成・保管義務について、弁護士が解説しました。
「年次有給休暇管理簿」は、「賃金台帳」、「労働者名簿」などのいわゆる「法定帳簿」よりも軽視されがちです。
しかし、会社が負うこととなった「年5日間、有給休暇を取得させる義務(時季指定義務)」への違反は、刑事罰もある厳しい規定ですので、違反とならないよう、有給休暇の取得日数などを適切に管理する必要があります。
「働き方改革関連法」その他の法改正への対応に不安のある会社は、ぜひ一度、弁護士にご相談ください。
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