建設会社の仕事の特徴は、1つの建設工事に、複数の会社や個人事業主がかかわり、「重層的な請負契約」を締結することにあります。
いわゆる、「元請・下請の関係」です。
「請負契約」とは、自社以外の個人、法人に仕事をしてもらうことをいいますが、これと似て非なるものとして「雇用契約」があります。
「雇用契約」の方が、「労働者に対する保護が手厚い」ことから、「請負契約」であると思って取引をしていたのに、いざ「雇用契約」であると主張されてしまうと、会社側は、残業代など、思わぬリスクを負うこととなります。
これを「雇用責任」といいます。
特に、建設会社ではたらく「一人親方」や「職人」の場合には、法人間の取引とは異なり、「請負」であるか「雇用」であるかの境目はとても曖昧になります。
今回は、建設会社が一人親方・職人に依頼するとき、雇用責任を負わないための「請負契約」のポイントを、企業法務を得意とする弁護士が解説します。
1. 建設業と「請負契約」
建設業を営む会社(建設会社)にとって、「請負契約」は必須であるといえます。
というのも、工事現場ではたらく人の大半は、「請負契約」を締結しているか、もしくは「請負契約」を締結している会社の社員であるからです。
「請負契約」と「雇用契約」とでは、「人の労働力を利用する。」という意味では同じですが、法的な性質はまったく異なります。
「請負契約」となると、独立した事業者同士の関係であり、働いている人は、いわゆる「個人事業主」となります。
したがって、時間については裁量があり、期限までに仕事を完成すればよいのであって、仕事の仕方については原則として自己責任、その分、会社の責任も軽くて済むわけです。
2. 「請負」の特徴と、「雇用」との違い
建設業を営む場合、「請負契約」でなければ、その性質に合わず、「雇用責任を負う。」という判断となると不都合なことが非常に多いのではないでしょうか。
今回は、「請負契約」と判断してもらうためのポイントを、弁護士が順に解説していきます。
自社の社員となっている者、他社の社員となっている者以外は、「職人」、「一人親方」はみな「個人事業主」です。
独立した「個人事業主」であると取り扱うことによって、建設会社側が「雇用責任」(残業代、不当解雇など)を負うといったトラブルを避けることができます。
2.1. 直接の指示は禁止
「請負契約」の最も重要なポイントは、「直接、細かい業務指示をすることができない。」という点です。
同じ建設工事現場で働いている場合には、つい指示をしてしまいがちですが、仕事のしかたを細かく指示することは、「請負契約」では禁止されています。
現場の監督が、「請負契約」をしている者にも具体的な指示・命令を行ってしまうと、後にその請負者が争いを起こした場合に、会社に対して「雇用責任」が認められてしまうおそれがあります。
したがって、「請負と雇用の区別」については、会社の社長だけが理解していればよいのではなく、現場の担当者への指導、教育も必要です。
2.2. 仕事の完成が目的
「請負契約」の場合には、仕事の完成が「請負契約」の目的となります。
これに対して、「雇用契約」の場合には、決められた時間の間、労働力を提供することが「雇用契約」の目的です。
この「雇用契約」とは異なるという意味は、「請負契約」の場合には、必ずしも決められた時間の間働いていることは必須ではないということです。
「請負契約」の場合には、請負った者は結果に対して責任を持つのであって、そのプロセスを約束するわけではなく、したがって、直接指示をしなくても完成に対して責任を持つし、むしろ直接の指示をしてはならないのです。
3. 「請負」と判断されるための職人の取り扱い
以上の「請負契約」の特徴を踏まえ、「個人事業主」である「職人」や「一人親方」が、御社の意に反して「雇用責任」を主張しないためには、「請負契約」として適切な取り扱いをしなければなりません。
請負契約とみなされるための要件は、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準を定める告示」(労働省告示37号)によって、次の2つの要素によって判断されるものとされています。
- 労務管理の独立性
- 事業経営上の独立性
この「告示」のルールにしたがって、「請負契約」であると判断されるための「職人」に対する適切な取扱を、弁護士が解説していきます。
3.1. 労務管理の独立性とは?
まず、「請負契約」とされるためには、「労務管理の独立性」がなければいけません。
つまり、次の要素を総合的に判断し、「労務管理の独立性」ありと判断される必要があります。
- 請負者への具体的な作業指示があるかどうか
- 請負者への労働時間の指示や管理があるかどうか
- 服務規律や配置に関する指示や決定があるかどうか
- 業務の評価を誰が行っているか
この「独立性」の基準は、「個人事業主」として現場ではたらく「職人」、「一人親方」はもちろんのこと、請負先の会社の社員についても同様です。
したがって、請負先の会社の社員に対しても、直接具体的な作業指示をしてはなりません。
3.2. 事業経営上の独立性とは?
次に、「請負契約」とされるためには「事業経営上の独立性」がなければいけません。
これは、「職人」、「一人親方」が、自己責任で資金を調達し、事業者としての責任を自ら負っている必要があるということです。
逆にいうと、職人などに対して仕事をお願いする立場からすれば、「職人」、「一人親方」の、事業経営上の独立性を奪ってはならないということです。
4. 一人親方に仕事を発注するときの注意点
最後に、「職人」、「一人親方」に対して、建設会社が業務の一部をお願いする際の注意点について解説します。
建設会社が「職人」、「一人親方」に対して仕事をお願いすることは、下請契約によって行うこととなります。
4.1. 丸投げ(一括下請け」は禁止
「建設業法」によって、「一括下請け(丸投げ)」は禁止されています。
この「一括下請けの禁止」は、建設会社が、「職人」、「一人親方」に仕事をお願いするときにもあてはまります。
ただし、公共工事を除いて、発注者が書面で承諾した場合に限っては、例外的に「一括下請け」が可能となります。
4.2. 建設業許可が必要か確認
「職人」、「一人親方」の場合には、建設業許可がなければ請け負うことのできない工事の場合、発注をひかえなければならないケースがあります。
すなわち、1件の請負代金が「500万円以上の建築一式工事」以外の工事の場合には、建設業許可がない「職人」、「一人親方」に発注することはできません。
したがって、「職人」、「一人親方」に対して仕事をお願いするときには、工事金額について注意が必要です。
4.3. 労災保険の加入を確認
「職人」、「一人親方」の場合、通常の労災保険に加入することはできません。
通常の労災保険は、会社との間で「雇用」されている「労働者」を対象としているのであり、「職人」、「一人親方」などの「個人事業主」を対象とはしていないからです。
万が一の労災事故にそなえて、「職人」、「一人親方」は、労災の特別加入制度を利用できます。
したがって、「職人」、「一人親方」に対して仕事をお願いするときには、労災の特別加入制度に加入しているかどうかを事前に確認しておいてください。
4.4. 建設工事請負契約書を作成すること
「建設工事請負契約書」を作成することは、わかりやすく「請負契約」であることを示すために非常に大きな効果があります。
とはいえ、「請負契約」という題名の契約を締結したとしても、裁判での争いになった場合、契約の性質は「契約書の題名」ではなく、「内容」と「実質」で判断されますから、油断は禁物です。
「建設業法」において、一定の規模以上の建設工事の場合には、「請負契約書」を作成しなければならず、必要記載事項にもルールがあります。
少なくとも、請負契約書すら締結しておらずに具体的指示を逐一行っているようでは、「雇用契約」であると評価されて責任を負わされても仕方ありません。
5. まとめ
建設会社の経営者にとって、「職人」、「一人親方」などは、取引先にあたります。
しかし、「職人」、「一人親方」の中には、独立した「個人事業主」だという感覚はあまりなく、会社に「雇用」されているのだと考えている人も少なくありません。
特に、特定の「職人」、「一人親方」と、常に仕事を継続しているような場合には、このような意識を生み出しかねないので、注意が必要です。
「職人」、「一人親方」との間で、労働問題、人事労務トラブルに発展しそうな場合には、早め早めの対処が必須です。