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不動産の強制競売の申立を、債権回収に強い弁護士が解説

取引先に対する未払い債権を回収するため、訴訟で勝訴判決を得た、あるいは自社に有利な和解をまとめることに成功した、まずは「債務名義」を獲得した経営者が次に考えるのは、相手方のどの財産に対して執行をかけていくか、ということではないでしょうか。

ひとくちに「強制執行」といってもさまざまな方法があります。どの方法が最も有効な債権回収方法なのか、実は一概には言えません。

「そういえば取引先の本社は自社ビルだったよな。」「土地や建物を多く所有しているようだ。」・・・このようなケースの場合には、不動産執行のうちのひとつである「強制競売」での債権回収を検討してみましょう。

なお、不動産執行には他に、「強制管理」という方法もありますが、利用ケースが限定されるため、慎重な判断が必要です。

今回は、不動産を強制競売にかける際のポイントについて、企業法務を得意とする弁護士が解説します。

目次(クリックで移動)

1. 不動産強制競売による債権回収の特徴

不動産強制競売とは、債権回収を強制的に行うための1つの手段です。

しかし、債務者の土地や建物などの不動産それ自体を、自社の所有にできるわけではありません。そうではなく、不動産を強制的に売却し、その売却代金から債権を回収する、という制度です。

購入希望者から申し出があった価額の中で最も高額の金額を競売価格とし、その金額から、自社の債権を回収することができます。

債権者は、支払われた代金から配当を受けることにより、債権の回収を行うのです。

不動産は、存在場所さえ分かっていれば差し押さえることができる可能性が高いという性質を持つ財産です。

すぐに消滅してしまったり、場所が移動したりする動産や債権などを差し押さえるよりも、確実性が高いといえます。

また、 登記簿謄本等を見れば権利関係も明らかであり、固定資産税評価や抵当権が設定されているかどうかなどの公開されている情報を事前に調査することによって、配当金がいくらぐらいになるのか、予想がたてやすいものです。

2. 不動産強制競売のメリット・デメリット

以上のように、確実性が高く、「逃げない」不動産という財産を差し押さえる不動産強制競売は、メリットばかりのようにも思えます。

しかし、不動産強制競売にも、使いにくい部分が存在し、適切な債権回収の手段を選択する際の、1つの選択肢として考慮しなければなりません。

そのため、不動産強制競売の方法による債権回収を選択するにあたっては、そのメリット、デメリットをきちんと理解し、適切な場面で使わなければなりません。

2.1. 不動産強制競売のメリット

不動産強制競売のメリットは、次の2点です。

2.1.1. 不動産は、高い資産価値を有する

土地・建物・マンションなどの不動産は、高額で取引されることが多い、資産価値の高い財産です。

実務上は、強制競売にかけてしまいますと、不動産の競売価格が「市場価格」よりは安くなってしまいます。

そのため、任意売却のチャンスがあるのであれば、積極的に検討すべきですし、債務者にも働きかけてみるべきです。

競売価格がいくら市場価格より安いとはいえ、やはり金額としては大きいですので、自社の債権額を一括で債権回収できる可能性が高い、有効な債権回収方法であるといえます。

2.1.2. 不動産は、隠匿しにくい

不動産は、動産や債権などとは違い、容易に隠すことができないので、比較的財産の調査がしやすいという利点もあります。

存在自体が目に見えて明らかであるばかりか、不動産を物理的に移動させて隠してしまうことはできません。

その上、登記簿謄本、固定資産税評価証明書など、公開されている情報を調査するだけで、不動産の状況や権利関係、おおよその評価額など不動産の情報を確認することができ、強制競売の対象にするのにふさわしいか、判断しやすいのです。

2.2. 不動産強制競売のデメリット

不動産強制競売のデメリットは、次の2点です。

2.2.1. 不動産に既に担保権が設定されている場合がある

御社の債権に未払があるような会社の場合、他の会社の債権も支払を行っていないケースが少なくありません。

そのような会社が債務者の場合には、債務者の不動産に、既に抵当権などの担保権が設定されてしまっており、担保余力がないという場合もあります。

「担保余力がない。」というのは、抵当権などの元となる被担保債権額が、不動産の評価額を越えているために、これ以上この不動産の売却価格からは債権回収をすることができない、という意味です。

このような場合、自社がいざ不動産を強制競売にかけたとしても、先にその不動産に担保権を設定している他の企業に優先されて債権回収されてしまい、自社の債権回収が困難となってしまいます。

2.2.2. 手間と時間・コストがかかる

不動産強制競売の最大の欠点は、裁判所の調査や鑑定評価の費用として納める「予納金」や「登記費用」が高額であることです。

そのため、ある程度の金額の債権回収でない場合には、不動産強制競売を行うことは、かえって出費が多くなるという結果になりかねません。

また、申立てから配当に至るまで、長い場合ですと、数年の時間を要するケースもあります。

3. 不動産強制競売の流れ

次に、以上の点を理解していただいた上で、不動産を強制競売すべきであると考えた場合にそなえ、不動産強制競売の申立てから競売に至るまでの流れを解説します。

具体的な手続きは弁護士に依頼するとしても、おおまかなスケジュールを知っておくことによって、いざというときの債権回収を、慌てずに落ち着いて行うことができます。

3.1. 競売申立て

不動産強制競売の申立ては、不動産の所在地の地方裁判所が管轄します。したがって、不動産所在地を管轄する地方裁判所を調べ、そこに申立を行うようにします。

裁判所に対して不動産競売の申立てをする際には、以下の必要書類を事前に準備する必要があります。

誤字・脱字や、資料の漏れがありますと、債権回収に遅れが生じてしまい、回収が困難となるおそれがありますので、慎重にご準備ください。

  • 申立書
  • 執行力のある債務名義の正本
  • 送達証明書
  • 不動産登記簿謄本(全部事項証明書)
  • 固定資産税評価証明書
  • 資格証明書
  • 地図等
  • 申立手数料(請求する債権1つにつき4000円分の収入印紙が必要です。)
  • 予納切手
  • 予納金(東京地裁の場合には請求債権額が2000万円未満であっても60万円の予納金がかかります。)
  • 登録免許税(請求債権額の1000分の4の印紙代が必要です。)

申立書は、複数の物件を差し押さえる場合であっても、物件単位に別の申立書を作成するのが原則的な対応です。

その他、細かい形式的なルールが多く、管轄する地方裁判所ごとに取扱いが異なる場合もありますので、申立前に必ず確認しておきましょう。

3.2. 裁判所による競売開始決定

裁判所が、債権者の提出した申立書や、既に解説しました必要書類を確認し、申立てが受理されますと、強制競売開始決定が出されます。

強制競売開始決定が出た時点で、当該不動産の登記簿に「差押え」の登記がなされます。もう少し詳しくいいますと、裁判所が、法務局に対して、差押えの登記をするよう依頼するという流れになります。

この差押えの登記が行われた以降、債務者は差し押さえられた不動産を勝手に処分したり、売却することはできなくなります。

登記簿謄本を見ることによって、差押えをされているかどうかは第三者にも明らかにわかります。

3.3. 現況調査・価格評価

強制競売開始決定が出たあと、次に、裁判所により、当該不動産の現在の状況がどうなっているのかに関する調査と、最低競売価額を定めるための不動産の評価が行われます。

すなわち、現況調査と、価格評価です。

具体的には、執行官が不動産の現在の状態や権利関係を調査し、不動産鑑定士が不動産の評価を行います。

調査結果は、公開されて売却の準備に入ります。

強制競売でよく登場する次の「3点セット」が特に重要な資料となりますので、その内容をきちんと理解しておいてください。

「3点セット」には、対象不動産の評価額や状況・状態など様々な情報が記載されますので、購入希望者にとっては貴重な情報といえます。

3.3.1. 現況調査報告書

裁判所から不動産の現況調査の命令を受けた執行官は、対象不動産の土地・建物の形状や、現在誰が「占有」しているのか等を調査した上で、この「現況調査報告書」を作成し、裁判所に提出します。

執行官は実際に現場に赴き、不動産を視察しているので、最も落札の際に参考とされる資料だといえます。

3.3.2. 評価書

裁判所から不動産評価の命令を受けた不動産鑑定士(評価人)は、近隣の同種の不動産の取引価格や収益等を踏まえた上で、この「評価書」を作成し、裁判所に提出します。

「評価書」に記載されている「評価額」が競売の「売却基準価額」となります。

3.3.3. 物件証明書

評価人は、上記の現況調査報告書や売却基準価額を参考にしながら「物件明細書」を作成・提出します。

「評価額」は市場価格とは異なり、あくまで、強制競売不動産の対象となっている物件独自の価格となっていることが記載されています。

3.4. 入札・売却

評価人である不動産鑑定士によって決められた「売却基準価額」を最低基準として、入札期間が公告され、購入希望者から、それぞれの買受予定金額を募ります。

1番高い金額を申し出た人に売却されます。代金は「現金一括払い」で、この代金納付により、その不動産の所有権は購入者に移転します。

ただし、民事執行法71条に定める一定の不許可事由がある場合には、売却はなされません。

3.5. 債権者への配当

売却が終わると、いよいよ債権回収の段階となります。つまり、債権者への配当手続きです。

債権者への配当手続きでは、債権者は、自己の有する債権額を届け出ます。

売却代金は、まず、競売にかかった費用や抵当権付債権、税金などの公租公課に対して優先的に分配されます。

そして、これらの優先的な債権を支払った後の残額を、他の債権者に対して、債権額に応じて分配します。

この分配によりはじめて債権が回収できた、といえるのです。債権者が複数いる場合には、配当順位にしたがった配当表を、裁判所が作成します。

なお、債権者が1名、あるいは債権者全員が全額の弁済を受けられる場合には、配当ではなく「弁済金の交付」といいます。

4. 不動産に抵当権等の担保権がついている場合のポイント

不動産に「売却価格以上」の抵当権が設定されていた場合、差し押さえは無意味になってしまいますので、とくに注意が必要です。

つまり、差押さえられた不動産の売却代金は、抵当権者などがまず優先的に受領しますので、その時点で配当できる金銭がなければ、抵当権者でない債権者には配当はゼロということになります。

したがって、不動産強制競売を行う際には、対象不動産に抵当権が設定されているか、被担保債権の額はいくらか、精査することが重要です。普段から取引先に関する情報収集を心がけましょう。

5. まとめ

これまでご説明してきましたように、不動産は、財産の発見が比較的容易で、ある程度高額な価格で売却できるケースが多いため、債権回収の実効性が高いといえます。

そのため、債権回収を行うとき、真っ先に不動産の強制競売の利用を考える企業経営者の方は多いのではないでしょうか。

しかし、他方で、不動産の強制競売は、時間も手間もコストもかなりかかりますし、抵当権などの担保権が付いている場合には、そもそも不動産強制競売による債権回収が適切であるのかどうか、専門的な調査、検討が必要となります。

必要な調査を怠ったために、強制競売の申立てが却下されてしまった、というような不測の事態を防止するためにも、企業法務に強い弁護士に早期の段階でご相談くださいませ。

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