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副業・兼業の許可で残業代請求される?労働時間の計算方法は?

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政府の推進する「働き方改革」の中で、副業・兼業の許可の推進を図る方針が示されています。

しかし、「働き方改革」の流れにのって、会社側(使用者側)が副業・兼業を解禁しようとするとき、「残業代」に配慮が必要です。知らず知らずのうちに、高額な残業代請求を受けるリスクもあります。

以前より裁判例では、本業の会社の名誉・信用を傷つけるケースなど、本業に悪影響がある例外的な場合を除いて、副業・兼業を禁止することはできず、原則自由とされていました。

「働き方改革」による副業・兼業の解禁は、少子高齢化による労働力人口の減少、女性・高齢者など活用されてこなかった労働力の有効活用などを目的とし、今後ますます加速する可能性が高いです。

そこで今回は、副業・兼業を解禁しようとする会社に向けて、副業・兼業をしている社員の残業代計算の方法について、企業の労働問題を得意とする弁護士が解説します。

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副業・兼業の「労働時間」は合計される

労働基準法における残業代計算の基本ルールは、次の通りです。

  • 「1日8時間、1週40時間」(法定労働時間)を超えて労働する社員に対して、「1.25倍」以上の割増賃金を支払う。
  • 時間外労働時間が月60時間を超えた場合、「1.5倍」以上の割増賃金を支払う。
  • 「1週1日もしくは4週4日」(法定休日)に労働する社員に対しては、「1.35倍」以上の割増賃金を支払う。
  • 「午後10時から午前5時まで」の労働に対しては、「1.25倍」以上の割増賃金を支払う。

労働時間と残業代計算の基本的なルールを理解せず、未払残業代を支払わなかったり、長時間労働・サービス残業を強要したりすると、「ブラック企業」として企業の社会的イメージが低下します。

折角、副業・兼業を解禁して「ホワイト企業」のイメージづくりをしようとしても、残業代に未払があれば、元も子もありません。

大企業をはじめとして、副業・兼業が徐々に解禁されつつありますが、2つ以上の会社で労働をする社員の残業代の計算方法については、特別な考慮が必要です。

というのも、次の労働基準法(労基法)の条文のとおり、副業・兼業する社員の場合、残業が発生しうる「労働時間」は、すべての会社の合計で考えなければならないからです。

労働基準法38条(時間計算)

労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。

この規定にある通り、「自分の会社では8時間未満しか働かせていない。」という会社であっても、他の会社での労働時間を加算すると8時間を超える場合には、残業代が発生する可能性があります。

未払残業代を支払わないと、労働者側から、残業代請求の労働審判や訴訟を起こされるおそれがあります。

A社に入社し、1日6時間働かせていた従業員が、副業・兼業の解禁にともない、B社の終業時刻後にB社でも労働をしたという例で考えます。

この場合、A社における労働時間は6時間であり、残業代は発生しませんが、B社での労働時間が5時間だとすると、その社員は合計11時間働いていることになります。

そのため、A社の労働時間は「1日8時間」以下ですが、B社とあわせると8時間を超えるため、その社員は残業代を請求することができます。

労働時間を合計して「1日8時間」を超えると残業代が発生することは、正社員だけでなく、契約社員、アルバイト、パートなどの非正規雇用であってもあてはまります。

本業・副業いずれの会社が残業代を支払う?

ここまでお読みいただければ、副業・兼業を許可するときには、会社側(使用者側)が、他の会社で働く労働時間も把握し、「残業代請求」が起きないよう配慮しなければならないことをご理解いただけたでしょう。

では、副業・兼業を許可したことにより「1日8時間、1週40時間」を超えて労働することとなり、残業代が発生するとしても、本業・副業のいずれの会社が残業代を支払う義務を負うのでしょうか。

【原則】後から雇用契約を締結した会社が支払う

「どちらの会社が残業代を支払う義務を負うのか。」という問題は、言い換えると、「どちらの会社が、労働者の労働時間を把握する義務を負うのか。」ということもできます。

原則的なルールとして、その労働者と、時間的に後から雇用契約(労働契約)を締結した会社が、残業代を支払う義務を負うとされています。

この考え方によれば、大抵の場合は、「副業・兼業の会社」が残業代支払の義務を負います。

原則的なルールの理由は、後から雇用契約を締結した会社は、「元々働いていた会社で何時間労働をしているか。」を確認した上で、残業代リスクを加味して雇用契約を締結するかどうか、決めることができるからです。

本業の会社の注意点

本業の会社としては、さきほど解説した原則的なルールによれば、副業・兼業によって労働時間が長くなったとしても残業代を支払う必要がないケースも少なくありません。

しかし、残業代を支払う必要がないからといって、長時間労働が正当化されるわけではありません。本業と副業による長時間労働、疲れなどにより労働者が健康を害した場合には、本業の会社も責任を負う可能性があるからです。

また、副業・兼業を許可した後で、本業の労働時間が長くなりすぎると、「副業に影響が出てしまう」という非難を従業員から受けてしまうかもしれません。。

本業の会社としては、副業・兼業を完全に自由化するのではなく、許可制、届出制などの方法により、会社がコントロールできる余地を残しておくことが重要となります。

副業・兼業の会社の注意点

既に本業のある労働者を、副業・兼業として雇用する会社の側でも注意点があります。

副業・兼業として雇用する場合には、本業の労働時間を確認した上で、残業代の支払義務が生じるかどうかを確認する必要があります。

本業の労働時間と、兼業・副業の労働時間とを通算して「1日8時間、1週40時間」(法定労働時間)を越えないかどうか、雇用する前にしっかり検討しましょう。

これを超える場合、残業代の支払が必要です。法的な専門用語では「割増賃金」ということからもわかるとおり、御社が想定する以上に高額の賃金となるおそれがあります。

副業・兼業が「フリーランス(個人事業主)」の場合

以上の解説は、2つ以上の会社に「雇用」される労働者の残業代の考え方です。

これに対して、本業は雇用(サラリーマン)だが、副業・兼業は個人事業主(フリーランス)という人も増えています。

個人事業主(フリーランス)としての副業・兼業は「労働時間」ではないため、本業と副業の労働時間を加算して長時間労働となったとしても、残業代支払義務は発生しません。

ただし、依然として労働者の健康被害が生じた場合の会社の責任は回避することができません。

本業の会社としては、兼業・副業の許可をするときは、その業務の内容、雇用形態、労働時間についても聴取し、労働者が健康的に働ける労働時間に配慮が必要です。

残業代(割増賃金)の正しい計算方法を理解する

本業の会社、副業・兼業の会社のいずれの立場であっても、「残業代(割増賃金)の正しい計算方法」を理解していただくことが重要です。

残業代をきちんと支払っている気でいても、労働基準法(労基法)に定められた正しい計算方法を誤解していたことによって、労働者側から、多額の残業代請求を受けてしまうリスクもあるからです。

残業代は、労働者の生活を保障する重要な賃金であり、未払いに対しては、最悪の場合、逮捕・送検され、労働基準法(労基法)により「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」という刑事罰を科せられます。

前章の考え方のもとに、残業代を支払わなければならない会社は、次のとおり、正しい計算方法で残業代を支払いましょう。

step
1
兼業をしている会社での労働時間を把握する。

step
2
兼業をしている会社での労働時間と、御社での労働時間を合計し、「1日8時間、1週40時間」を越えた労働時間を算出する。

step
3
その時間に、通常の賃金を1.25倍した金額の残業代を支払う。

また、休日労働についても同様に、本業と副業をあわせて、1週に1日の法定休日がない場合には、休日労働割増賃金を支払わなければなりません。

「人事労務」は、弁護士にお任せください!

今回は、政府が推進する「働き方改革」の中で重要論点となっている、副業・兼業の解禁について、残業代請求の労使トラブルが起きないようにするための知識を、弁護士が解説しました。

副業・兼業を許可することには、メリットも多くあります。副業・兼業の解禁を検討する会社は、「副業・兼業と残業代」の問題について、正しい理解を身に着け、トラブルを未然に防ぐ努力が必要です。

会社内の残業代について、疑問、不安がある経営者の方は、企業の労働問題を得意とする弁護士に、お気軽に法律相談くださいませ。

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