飲食店やコンビニなどの店員が、TwitterやYoutubeに不適切な動画を投稿したことで、その会社の業績が著しく低下した、というニュースが報道され、「バイトテロ」と話題になっています。
このことからもわかるとおり、会社の従業員がインターネットやSNSを不適切に利用することによる会社のリスクはとても大きいものです。このリスクが、「ソーシャルリスク」です。
企業が売上を上げるためには、社会的評判を適切に管理することが重要ですが、ソーシャルリスクは、インターネットが一般化して起こった「新しい問題」です。
今回は、企業が知っておくべき、ソーシャルリスク対策のポイントについて、企業法務を得意とする弁護士が解説します。
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ソーシャルリスクとは?
「ソーシャルリスク(Social risk)」とは、インターネット上でSNSを利用することによって起こる、企業リスクのことをいいます。
ソーシャルリスクの原因となるソーシャルメディア・SNSには、Facebook、Twitter、インスタグラム、Youtubeなど多くの種類があり、日々新しいサービスが増えています。
たかが個人のSNS投稿と甘く見ていると、インターネット上の情報はすごいスピードでコピーされて拡散していきます。いわゆる「炎上状態」になると、ソーシャルリスクの大きさは計り知れず、取り返しがつきません。
ひとたび拡散されると、元の投稿を削除してもインターネット上にコピー、キャッシュが残り続け、長い期間にわたって、会社の社会的評判に悪影響を及ぼします。
ソーシャルリスクには、例えば次のような種類があります。
- 従業員による内部情報・企業秘密の漏洩
- 従業員による倫理・道徳に反する不適切投稿
- 顧客・利用者による悪質なクレーム
- 公式アカウントによる社会常識に反した不適切な意見表明
- 会社、サービスのブランドイメージを損なう情報開示
過去の投稿が、突然発見されて話題になり、マスコミに取り上げられるなどしてソーシャルリスクが顕在化することもあるため、「今が大丈夫だから安心」というわけではありません。
会社経営をするにあたって、「ソーシャルリスク」の顕在化による「炎上」問題が起こらないようチェック体制を設け、予防することは必須といえます。
ソーシャルリスク対策の5つのポイント
個人によるSNS利用が広がっていることはもちろんのこと、会社によっては、企業経営・宣伝広告のためにSNSアカウントを活用することも増えています。
ひとたび「炎上」状態となり、企業に対するネガティブな風評が吹き荒れると、事後対策は、事前の予防よりも多くのコストと時間がかかります。一度起こってしまえば、完全に「なかったこと」にするのは不可能です。
ソーシャルリスクの「リスクマネジメント(リスク管理)」、すなわち、「ソーシャルリスクマネジメント」が重要です。
いつ巻き込まれてしまうかわからないソーシャルリスクに備えて、その対策のポイントを、企業法務に詳しい弁護士が解説します。
多くの社員(特にアルバイト)を雇用する必要のある、飲食店などの店舗型ビジネスでは、特にソーシャルリスク対策が必要です。
入社時の誓約書の作成
ソーシャルリスクが社員によって引き起こされるうちの多くは、社員のSNSに関する「無知」が原因です。
特に、まだ社会人としての自覚に乏しい、入社間もない新入社員やアルバイト社員こそ、無知によってソーシャルリスクを引き起こしてしまいかねない存在と考えるべきです。
まずは入社時に、誓約書を作成し、ソーシャルリスクを起こさないよう注意すべきであること、ソーシャルリスクが会社に及ぼす被害の大きさをしっかり理解させなければなりません。
ソーシャルリスクを防ぐための誓約書に記載するポイントは、次の点です。
- ソーシャルリスクの内容と会社に与える被害の大きさを理解していること
- ソーシャルリスクを故意・過失で引き起こしたときは損害賠償請求を受けること
- 損害賠償請求の内容に、店舗の原状回復費(片付け、清掃、消毒、商品の廃棄・交換など)のほか、休業補償などが含まれること
誓約書の一例をサンプルとして載せておきますが、ソーシャルリスクに対する社員の理解を深めるために、社員に自筆で作成させることも有効です。
株式会社○○○○
代表取締役 〇〇〇〇 殿
私は、SNS(Facebook、Twitter、Instagram、YouTubeなど)その他のインターネットを利用した情報発信を行うにあたって、次のとおり誓約します。
1 私は、本誓約書、及び、貴社就業規則、ガイドラインその他の会社規程、業務命令を遵守します。
2 私は、勤務時間中は貴社業務に専念する義務があることを理解し、勤務時間中にSNSその他のインターネットの私的利用、閲覧、書込み、投稿行為を行いません。
3 私は、SNSその他のインターネットを利用した情報発信を行うにあたって、以下の内容を投稿しません。
⑴ 営業上の秘密
⑵ 顧客、取引先に関する情報
⑶ 他の役員・従業員の個人情報及びプライバシーに関する情報
⑷ 会社の公式見解と誤解される投稿
⑸ 会社の名誉及び信用を毀損する情報
⑹ 法令違反となる情報及びこれを助長する情報
⑺ 差別的情報、他者が不快に感じる情報
⑻ その他、前各号に準ずる会社が不適切と判断する情報
4 私は、前各号に該当する情報を発信した場合、会社の指示に従い直ちに削除、修正します。
5 私は、前各号に該当する情報を発信したことを理由に、損害賠償請求、懲戒処分、刑事告発等の法的責任追及を受けることを理解しました。
○○年○月○日
以上の内容を理解し、誓約いたします。
氏名 ㊞
ソーシャルリスク研修の実施
ソーシャルリスクが起こってしまう大きな原因の1つが、「社員のSNS・インターネットに関する認識の甘さ」です。
ソーシャルリスクがいかに怖いかを知ってもらうためには、従業員に対する教育・指導を、会社が行わなければなりません。ソーシャルリスクのための研修を、専門家である弁護士にお任せいただけます。
特にソーシャルリスク対策の必要となる店舗ビジネスの場合、研修のために「全店休業」、「研修日の時短勤務」などの特別処遇をしてでも、全社員にソーシャルリスク研修を受けさせる必要性が高いといえます。
研修を効果的に実施するためには、万が一ソーシャルリスクが起こってしまった場合に生じる損害に比べれば必要コスト、という割り切り、経営判断が必要となります。
ソーシャルリスクガイドラインの作成
ソーシャルリスクを引き起こすような不適切な行動は、社員がスマートフォン1台持てば簡単に可能です。簡単に可能なわりに、その被害は甚大です。
ソーシャルリスク研修が終わったら、その内容を全社的に周知し、ルール化するために、ソーシャルリスクガイドラインを作成して、周知することがお勧めです。
周知の方法は、就業規則、賃金規程などと同様に、社内に回覧し、所定の場所、もしくは、共有フォルダなどに備え置く方法がお勧めです。
ソーシャルリスク対応マニュアルの作成
万が一、社員の不注意などでソーシャルリスクが起こってしまったときでも、冷静に対応することによって事態を鎮静化できることも少なくありません。
大切なのは、被害を拡大させないように対応することであり、平常時から、ソーシャルリスク対応マニュアルを作成しておく必要があります。
会社にとってネガティブな情報に対して過剰に反応したり、偽造、ねつ造、隠蔽しようと工作してますます炎上してしまったりといった過去のケースを参考にしなければなりません。
正しいマニュアルを作成するサポートは、弁護士にお任せください。
会社が貸与する端末の管理
会社が、業務の都合上、スマートフォンやタブレット、ノートパソコンなどを社員に貸与することも多くあります。
会社から貸与されたこれらの端末は、いずれの会社の業務に利用する目的であって、私的に利用する目的ではないわけですが、会社端末の私的利用が、ソーシャルリスクの原因の1つとなることがあります。
そのため、会社が従業員にモバイル端末などを貸し与える場合には、別途利用規定やガイドラインを作成したり、定期的にチェックしたりするなど、管理体制を整備することがソーシャルリスクの予防になります。
ソーシャルリスクが顕在化したらどうする?
ここまで、「バイトテロ」などで社会問題となっている「ソーシャルリスク」の事前対策、予防について、弁護士が解説しました。
しかし、十分な対策をしても、ソーシャルリスクをゼロにすることはできません。万が一起こってしまったときに、会社の損失を軽減するためには、適切な事後対応を理解する必要があります。
従業員に対する懲戒処分
ソーシャルリスクを引き起こしてしまったことが、従業員の問題行為であるといえる場合には、社内の処分として、懲戒処分に処することを検討してください。
ただし、懲戒処分を下す場合には、適正な手続きにのっとって行う必要があります。
つまり、まずは就業規則に懲戒処分の理由が定められていることが必要であり、かつ、従業員自身の言い分を聞いて、相応の重さの処分を選択しなければなりません。
従業員に対する損害賠償請求(慰謝料請求)
ソーシャルリスクを、会社の従業員が故意または過失によって引き起こし、会社に損害を与えた場合には、従業員の会社に対する「不法行為」となります。
この場合には、不法行為について定める民法709条に基づいて、会社は従業員に対して、損害賠償請求をすることができます。
請求する損害額は、顕在化してしまったソーシャルリスクを鎮静化するために要した費用(清掃・片付け・原状回復費・商品の交換返品代など)、人件費、失った利益、休業補償などが含まれます。
商品への異物混入など、軽い気持ちのいたずらや面白半分の場合には、「再発防止」、「模倣犯の防止」のためにも、厳しい損害賠償請求を検討してください。
削除請求
SNSなど、インターネット上の情報発信によるソーシャルリスクをただちにストップするために、掲載メディアに対して、削除請求をする必要があります。
Twitter、Facebook、YoutubeなどのSNS上で、会社の権利を侵害する投稿がなされた場合には、権利侵害を理由とした削除請求が可能です。
インターネット上の情報や、容易にコピー可能であり、拡散スピードがとても速いため、早期の削除請求によってソーシャルリスクの被害を食い止めなければなりません。
発信者情報開示請求
SNSを含むインターネット上に、会社にとって不利益な情報が公開されているけれども、2ちゃんねる、5ちゃんねるなどの匿名掲示板に代表されるように、「誰が書いたかわからない」という場合があります。
投稿者が不明な場合でも、会社にとって権利侵害にあたる投稿であれば、プロバイダ責任制限法にもとづく「発信者情報開示請求」を行うことで、投稿者を明らかにすることができます。
発信者情報開示請求には、仮処分と訴訟が必要なケースが多いため、IT関連の法務を得意とする弁護士にご相談ください。
刑事告訴
ソーシャルリスクの程度が重い場合や、面白半分、冗談半分で「不適切動画」の投稿を行うなど、悪質なケースでは、刑事告訴を検討する場合があります。
従業員の不適切投稿によるソーシャルリスクは、刑法上の業務妨害罪、名誉棄損罪などの罪に該当する可能性があるからです。
会社側(使用者側)が、適切なソーシャルリスクマネジメントを行っていたのに起こってしまった事件は、従業員の悪質な故意によるケースと考えることもできます。
「企業法務」は、弁護士にお任せください!
今回は、会社にとって致命的なレピュテーションリスク、ブランド価値の低下につながりかねない「ソーシャルリスク」について、その対策と事後対応を、弁護士が解説しました。
SNS利用の何が問題か、どのような行為がソーシャルリスクを招くかを、会社経営者だけでなく、役員・従業員を含め、全社的に理解し、対応しなければソーシャルリスクは防げません。
ソーシャルリスクが起こる可能性を少しでも減らしたい会社は、ぜひ一度、企業法務を多く取り扱う弁護士にご相談ください。
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