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経歴詐称を見抜くために、採用面接のとき会社が注意すべきポイント

「経歴詐称」とは、採用応募者が、事実とはことなる経歴を会社に伝えたり、嘘をついて採用面接を受けたりすることをいいます。

「経歴詐称」があると、会社側としては希望どおりの人材を採用できなくなってしまいます。そのため、採用選考が進んでしまう前、遅くとも「採用面接」までには「経歴詐称」を見抜いて、入社を防がなければなりません

できれば、書類審査の段階で、「履歴書」「職務経歴書」などを見ただけで見抜き、対応コストを削減したいものです。

とはいえ、「経歴詐称」をする労働者側に悪意がある場合、嘘を見破ることは容易ではありません。

今回は、採用面接のときに「経歴詐称」を見抜くために、会社が注意すべきポイントを、企業法務を得意とする弁護士が解説します。

「採用内定・試用期間」の法律知識まとめ

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書面審査で経歴詐称を見抜く方法

採用面接をおこなう前に、まずは履歴書・職務経歴書などの提出書類によって書面審査を行うことが一般的です。

採用面接をおこなうには、会社にとって手間と費用がかかります。そのため、採用選考の初期の段階、すなわち、書面審査の段階で「経歴詐称」を見抜くポイントを理解しておきましょう。

履歴書・職務経歴書は応募者自身が作成する書面であり、そのまま信じてしまうと経歴詐称に引っかかってしまうおそれがあります。その他の資料を総合的に検討することがポイントとなります。

採用選考過程で提出される書類ごとに、弁護士が注意点を順に解説します

履歴書・職務経歴書

履歴書・職務経歴書などの応募者自身が作成する書面では、故意の「経歴詐称」は見破れません。悪意をもって入念に嘘を準備してきた場合には、だましきれてしまうことが多いからです。

しかし、履歴書・職務経歴書の記載から、経歴詐称の兆候を読み取ることができる場合があります。「経歴詐称をしている可能性がある」と感じる履歴書・職務経歴書の記載は、例えば次のとおりです。

  • 短い間隔で転職を繰り返しおこなっている
  • 職歴に空白期間がある
  • 一般的な履歴書の様式ではない

特に、履歴書の形式が一般的なものではない場合には、隠している項目がある場合があります。例えば、「前科・前歴」の欄のない様式の履歴書であった場合、「前科・前例があるのではないか」という疑いが生じます。

また、上記のような履歴書・職務経歴書の提出を受けた場合、故意に「経歴詐称」をしているのではなかったとしても、「問題社員」として採用すべきでない人材である可能性が高いと考えます。

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雇用保険被保険者証

雇用保険被保険者証には、前職の会社名や離職日が記載されています。

会社で雇用保険の手続を進めるためには「被保険者番号」だけあれば足ります。

しかし、雇用保険被保険者証の提出を求めたときに、「被保険者番号のみを伝える。」「会社名の記載された部分を切り取る。」といった行為に出る応募者の中には、経歴詐称を隠すために行っている人もいます。

年金手帳

年金手帳には、前職までの年金の加入歴が記載されています。

「経歴詐称」を隠すために、悪質な応募者の中には、年金手帳をなくしたことにして再発行をしている人もいます。

年金手帳に、前職までの年金の加入歴が記載されていないときは、その理由(年金手帳を再発行した理由)を詳しく問いただすようにします。

源泉徴収票

年をまたがずに転職をする場合には、前職の会社が発行する「源泉徴収票」を提出してもらうこととなります。年末調整のときに、前職の源泉徴収票が必要となるからです。

労働者が自分で確定申告をおこなえば、必ずしも源泉徴収票を提出する必要はありません。しかし、あえて源泉徴収票を提出しないことを目的として「自分で確定申告をする」と申し出てきた場合には、「経歴詐称」を疑ったほうがよいケースもあります。

「源泉徴収票をなくしてしまった」「前職に源泉徴収票を再発行してもらえない」という理由で提出されない場合にも、経歴詐称を疑い、その信用性をよく吟味してください。

なお、前職に再発行を求めることができないというケースの中には、「経歴詐称」だけでなく、前職との労働トラブルを疑うべき場合もあります。

退職証明書

労働者は、退職をするとき、労働基準法に基づいて「退職証明書」を会社に要求できます。労働基準法の条文は、次のとおりです。

労働基準法22条1項(退職時等の証明)

労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。

退職証明書の提出を求めたとき、「前職に退職証明書を発行してもらえなかった」という説明をした場合には、前職は労働基準法に違反していることになります。この場合、経歴詐称の可能性を考えたほうがよいでしょう。

退職証明書は、その記載事項を労働者側で選ぶことができますので、必ず「在職期間」「賃金」「退職理由」の記載があるものを提出するように求めると、「経歴詐称」防止に効果的です。

採用面接で経歴詐称を見抜く方法

採用選考のうち、書類審査はあくまでも書面上の情報しか見ることができません。悪意をもって経歴詐称をしてくる応募者を見抜くことは、書面上の情報だけでは相当困難です。

そのため、「採用面接」こそが経歴詐称を見抜くうえでもっとも重要なプロセスとなります。書面上で嘘をつかれた場合、入念な準備と隠蔽工作によって乗り切られてしまうかもしれませんが、採用面接の段階では、応募者の言動を観察することができるからです。

そこで、採用面接で経歴詐称を見抜く方法について、弁護士が解説します。

質問に回答させる

採用面接においては、応募者は、会社の質問に誠実な回答をおこなう義務があります。

これは、会社が「入社をさせるかどうか」を自由に決めることができる「採用の自由」を有しており、そのための「調査の自由」を認められているためです。

一方で、経歴詐称のように嘘をつくことは許されないものの、会社が質問をしなかった事項については応募者があえて伝えなくてもかまいません。つまり「聞かれなかったから答えなかった」ということが、応募者にも認められています。

そのため、採用面接における会社側の注意点として、会社が重要だと考える「経歴」については、入念に質問をし、応募者に回答する義務を負わせるようにします。

会社によって重要だと考える「経歴」「能力」「資格」などは異なるのが当然ですから、採用面接で聞くことによってその重要性を伝えるのです。

経歴の重要性を説明する

入社後に「経歴詐称」が発覚した場合には、「『経歴詐称』がなければ採用しなかった。」という重要な「経歴詐称」でなければ、後から問題視することが困難なケースもあります。

そのため、採用面接のときに質問することで、会社が求める「経歴」がどれほど重要であるかということと、そして、その理由について、応募者に説明をして理解を求めます。求める「経歴」の重要性は、業務に関わる理由である必要があります。

書面審査と異なる切り口で質問する

故意に経歴詐称をする応募者であれば、履歴書・職務経歴書などの提出書類に自分が書いた嘘をすべて記憶していることでしょう。

そのため、履歴書・職務経歴書に記載されていることをそのまま聞くような採用面接では、うまく嘘をつかれてしまい、経歴詐称を見抜くことが困難です。

そこで、採用面接において経歴詐称を見破るためには、できるだけ書面とは違う切り口の質問をし、回答に矛盾がある場合には、さらに掘り下げて聞くようにします。

採用面接を記録する

最後に、ここまで解説したように適切に採用面接を進めることができた場合には、採用面接の過程を記録に残しておくことも重要なポイントです。

採用面接で会社がどのような質問をおこない、これに対して応募者がどのような経歴詐称をおこなったかが記録に残されていないと、のちに争いとなったとき証拠がなく「言った言わない」の水掛け論となってしまうおそれがあるからです。

採用面接における質問で矛盾点をあらいだして経歴詐称を明らかにしたいとき、一度の面接ではできなくても何度も面接をすることで可能となる場合があります。このとき、次の面接官に記録を引き継ぎ、応募者の経歴詐称の矛盾をつかなければなりません。

よくある「経歴詐称」を理解する

応募者がおこなう「経歴詐称」を早期に見抜くためには、「労働者側がどのような過去を隠したいのか」を理解することが有益です。どのような場合に経歴詐称をされやすいかを理解することで、採用面接における注意点がわかりやすくなります。

そこで、労働者側で「経歴詐称」が行われやすい、「隠したい過去」にはどのようなものがあるのかを、弁護士が解説します。

試用期間で本採用拒否された

会社に「正社員」として雇用されると、最初の数か月(一般的には3か月から6か月程度)を「試用期間」とされることが通常です。

「試用期間」は、その名のとおり、採用過程だけではわからない能力・業務態度・勤怠などを評価する期間です。試用期間の評価が悪い場合には、試用期間満了をもって本採用を拒否されることとなります。

本採用拒否は、法的に「解雇」と同じであり、裁判例で厳しく制限されています。そのため、「本採用拒否された」という事実はかなりの「問題社員」であることを意味してしまうため、応募者にとっては「隠したい過去」となります。

「前職で本採用を拒否された」という事実を隠す経歴詐称を見抜くためには、在職期間の短い職歴、職歴の空白について、採用面接において念入りに聴取します。

短期間で転職を繰り返した

「短期間で転職を繰り返していること」もまた、「問題社員」というレッテルを貼られかねない行為であり「隠したい過去」の1つです。

終身雇用が崩壊し、転職をすることは一般的となりましたが、あまりにも短期間で転職を繰り返していたり、新卒社員など若いうちに短期間で会社を辞めていたりすることは、「我慢がない」「協調性がない」と評価されるおそれがあるからです。

短期間に転職を繰り返している職歴のほか、「実家の手伝い」「資格勉強」「アルバイト」といった記載で、しかもその内容が曖昧な場合には、経歴詐称を疑ったほうがよいでしょう。

懲戒解雇された

もっとも隠したい過去が「懲戒歴」です。特に、数ある懲戒処分のうち「懲戒解雇」は、問題行為のある社員に対して、会社ができる処分のうちでもっとも厳しい処分です。

労使関係において、「死刑」にも例えられるほど厳しいものであって、一度「懲戒解雇」となった労働者は、その後は「経歴詐称」をして隠さない限り、転職、再就職は困難です。

そのため、「懲戒解雇された。」という事実は、「隠したい過去」として最も重要であり、採用面接をする側でも、もっとも見抜かなければならない「経歴詐称」です。

入社後に経歴詐称が発覚したときの対応

今回の解説は、入社前に「経歴詐称」を見抜き、入社させないための会社側の注意点です。しかし、注意を尽くしても残念ながら予防できず、入社後にはじめて経歴詐称が発覚することがあります。

経歴詐称は、会社にとっては許しがたいことです。せっかく求人コストをかけて希望の人材を採用できたと思ったのに、実は会社の求めている能力、経歴、資格などをまったく有していなかったとなれば、会社の経営計画が大きく狂ってしまうからです。

しかし、「経歴詐称」が法的に「違法」かというと、グレーと言わざるを得ません。適切な採用選考の中でも、応募者が自身の経験、実績をよく見せようとして「飾る」ことと紙一重な場合があるからです。

入社後に経歴詐称が発覚したときの対応は、実務的には「その経歴詐称がなければ採用しなかった」といえるほど重大な経歴詐称の場合には、解雇をします。このような経歴詐称の重大性を示すためにも、採用面接における適切な対応が必要となります。

入社後に経歴詐称が発覚したときの対応については、次の解説も参考にしてください。

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経歴詐称を見逃してしまえば、会社にとっての損失はとても大きいです。経歴詐称は問題ですが、入社後に発覚したとしても、程度によっては「解雇」までは困難なケースもあります。

そのため、経歴詐称は、必ず入社前に見抜かなければなりません。今回の解説を参考にして、「書類審査」「採用面接」の段階で、経歴詐称を見抜く努力をしてください。

採用選考のついての労働問題にお困りの会社は、企業の労働問題(人事労務)を得意とする弁護士に、お気軽に法律相談ください。

「採用内定・試用期間」の法律知識まとめ

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