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飲食店を閉店する手続きは?廃業届の提出先と期限も解説

飲食店の閉店を決意したとき悩むのが、その手続きについてでしょう。

飲食店を閉店する手続きには、廃業届の提出をはじめ、飲食店営業許可証の返納、税務署への届出、従業員がいる場合には労働契約関係の清算など、様々なプロセスがあります。生活に密接に関わる飲食店ビジネスは外的な影響を受けやすく、閉店を余儀なくされることもあります。

今回は、飲食店の閉店をスムーズに進めるための、手続きの流れ、廃業届の提出先・期限について、企業法務に強い弁護士が解説します。閉店後のトラブルを避け、再起を図るためにも、ダメージを軽減しながら撤退する際の参考にしてください。

この解説のポイント
  • 飲食店の閉店時は、廃業届の提出、許可証の返納などの手続きが必要
  • 閉店の2ヶ月〜3ヶ月前から、計画的に準備することでトラブルを回避できる
  • 法人経営の飲食店では、法人の解散・清算手続きが必要となる

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飲食店を閉店する際に必要な手続き

飲食店を閉店する際、行政機関に対する様々な手続きが必要です。

飲食店の閉店手続きには、提出先と提出期限があるので、スケジュールを立てて着実に進めましょう。特に、従業員を雇用していた場合や法人経営の場合は手続きが煩雑なので、専門家の助けを借りるのがお勧めです。

以下の手続きは、自営業で店をたたむ場合でも、法人運営の飲食店を閉店する場合でも、いずれにもあてはまります。

税務署・税事務所

税務署・税事務所において、国税、地方税についての手続きを行います。

個人事業の開業・廃業等届出書(廃業届)

飲食店経営者が個人事業主の場合は、廃業届の提出が必要です。

廃業届とは、個人事業をやめたことを税務署に届け出るための書類であり、これにより、所得税や源泉所得税、消費税の事業主としての登録を終了させることができます。

所轄の税務署に、廃業日から1ヶ月以内に提出します。飲食店の開業時の「開業届」と同じく、廃業についても届出を行わなければなりません。

給与支払事務所等の廃止届出書

従業員を雇用していたり、青色専従者がいたりする場合は、廃業日から1ヶ月以内に、給与支払事務所等の廃止届出書を提出する必要があります。

青色申告の取りやめ届出書

飲食店経営者が、個人事業主として青色申告をしていた場合、青色申告の取りやめ届出書を提出する必要があります。青色申告をやめた年の翌年3月15日までに提出します。

消費税の事業廃止届出書

消費税課税事業者の場合には、事業廃止届出書を提出します。

保健所

所轄の保健所に、飲食店営業許可の廃止届を提出した上で、許可証を返納します。

提出期限は一般に、廃業日から10日以内が多いようです。許可証は記念に保管しておくことはできず、必ず返納しなければなりません。

警察署・消防署

深夜営業(深夜酒類提供飲食店営業)・風俗営業の届出をしていた場合、警察署に対し、それぞれ廃止届を提出し、許可証を返納します。提出期限は、閉店から10日以内が通常です。

消防署に対しては、防火管理者解任届出書を提出します。

年金事務所(日本年金機構)

年金事務所では、社会保険に関する手続きを行います。健康保険、厚生年金保険の適用事業所の廃止の届出を、廃業日から5日以内に行う必要があります。

公共職業安定所(ハローワーク)

公共職業安定所(ハローワーク)では、雇用保険に関する手続きを行います。雇用保険適用事業所に関する廃止届を、廃業日から10日以内に提出します。

労働基準監督署

所轄の労働基準監督署に対し、労災保険に関する廃止の届出を、廃業日から50日以内に行います。

法人経営の飲食店を閉店する際のポイント

次に、法人経営の飲食店に特有のポイントを解説します。

法人が運営している飲食店では、単に営業を止めるだけでなく、会社としての法人格を消滅させる手続きが必要となります。大規模に展開していたビジネスほど、撤退時にトラブルが起きやすいので慎重に進めなければなりません。

閉店までのスケジュールを立てる

飲食店の閉店には多くの手続きがあります。

  1. 閉店予定日を決定する。
  2. 従業員に解雇の通知をする。
  3. 取引先に通知する。
  4. 賃貸借契約の解約を通知する。
  5. 造作の解体、明渡しの準備をする。
  6. リース契約を解約する
  7. お客様へ告知する。
  8. 備品や在庫を処分する。
  9. 電気・水道・ガスを解約する。
  10. 清算手続きを行う。

閉店はすぐにできるわけではなく、事前の準備が不可欠です。やるべきことも多く、スケジュールを立てて計画的に進めなければなりません。

契約関係を清算する

飲食店の経営は、全て契約によって成り立っています。以下の契約関係については、閉店に先立ち、順次解約していきましょう。

  • テナントの賃貸借契約(店舗の退去通知と原状回復)
  • 資金の借入契約
  • 機材や備品のリース・レンタル(厨房機器、POSなど)
  • クレジットカード決済会社との契約
  • 電気・ガス・水道などのライフライン
  • インターネットや有線放送の契約
  • 食材仕入れ業者・取引先
  • ホームページやSNS、Googleマップの情報削除

飲食店だと、テナントの賃料と人件費が大きな割合を占めます。したがって、まずは賃貸借契約の解約と社員の解雇を優先的に進める必要があります。賃貸借契約書で、解約予告期間を確認しておきましょう(テナント規模によりますが、3ヶ月〜6ヶ月程度であることが多いです)。

社員を解雇する(雇用契約の終了)

従業員を雇用している場合、廃業による解雇(整理解雇)となります。

解雇は、30日前に予告するか、不足する日数分の解雇予告手当を支払う必要があります(労働基準法20条)。そのため、急遽の閉店の場合には手当の出費を覚悟しなければなりません。

解雇権濫用法理によって、客観的に合理的な理由と、社会通念上の相当性が求められますが(労働契約法16条)、法人そのものがなくなるのであれば解雇は有効です。解雇理由は「会社都合による廃業」などと説明し、従業員の納得を得る努力をしてください。

解雇時の説明や対応を誤ると、労働トラブルに発展する危険があります。例えば、チェーン店で、他店舗への異動を打診せずに解雇したケースでは、不当解雇となるおそれがあります。

倒産するときの従業員への告知」の解説

法人を廃業する(解散・清算)

最後に、飲食店を運営していた法人を解散し、清算します。

解散と清算については、株主総会の決議を経て、清算人が、未払いの債務や資産の処分を行い、残った財産を出資者(株主)に分配します。清算が完了したら、法務局において清算結了登記を行い、法人格が消滅します。

なお、資産によって負債を支払いきれないときは、破産手続きを検討してください。

会社の破産手続きの流れ」の解説

飲食店を閉店するときの注意点

最後に、飲食店を閉店するときの注意点を解説しておきます。

店を閉める決断は、経営者にとって非常に残念なことでしょう。感情的な負担が大きいからこそ、冷静かつ計画的に進めなければなりません。

閉店が回避できないかを検討する

まずは、本当に閉店という選択が唯一の道なのかを再検討しましょう。

飲食店が閉店する最大の理由は、キャッシュフローの悪化です。「現金商売」とも言うように、売上が増えても、手元のキャッシュが足りなければ店舗を維持できません。

次のような回避策を取ることができないか、考えてみてください。

  • 業態変更で生き残れないか
    業務時間の変更やランチ営業、通販やEC、テイクアウト、デリバリーの活用など
  • 宣伝広告の工夫は可能か
    ブログ、Youtube動画などのコンテンツ制作
  • テナント賃料は交渉可能か
    賃料の減額、支払い猶予、敷金の一部を賃料に充当するなど
  • 経費を削減できないか
    宣伝広告費、ポータルサイトや口コミサイトの掲載料など
  • 人件費を削減できないか
    給与の減額、シフト調整、残業代の削減、リストラ(整理解雇)など

一時的な資金難や私生活上の事情が原因なら、休業して様子を見ることも可能です。また、既に経営者に意欲がないケースなどは、M&Aや事業譲渡で、店舗ごと売却する選択肢もあります。廃業すると、好立地を失ったり、営業許可がリセットされてしまったりといったデメリットがあるので、慎重に判断してください。

倒産を回避するための方法」「法人破産のデメリット」の解説

閉店するための費用を見積もる

飲食店を閉店するにも費用がかかるので、事前の計画は欠かせません。

閉店時にかかる主な費用は、次の通りです。

  • 造作や内装の解体費用
  • 原状回復工事費用
  • 厨房や冷蔵庫など、設備の取り外し費用
  • リース契約やサブスクの解約違約金
  • 解約予告期間中のテナント賃料
  • 閉店までの光熱費
  • 従業員への解雇予告手当や未払賃金
  • 未納の税金や社会保険料
  • 仕入先や取引先への未払金
  • 専門家(弁護士・税理士・社労士など)への報酬

資金が不足する場合、閉店直前の売上や資産売却などで確保する方法も検討してください。

外注費は、見積もりを確認し、減額できる項目がないか交渉しましょう。居抜きで次のテナントに借りてもらえるなら、明け渡しにかかる費用を大幅に減らせます。

閉店までの期間に余裕をもって準備する

飲食店の閉店は、期間に余裕を持って準備することが重要です。

閉店時は多くの届出や手続き、店舗の閉鎖作業などが発生するので、最低でも2ヶ月〜3ヶ月の準備期間を見込み、余裕をもって進めるのが理想です。特に、飲食店運営に必須となる賃貸借契約、労働契約などはいずれも継続的なもので、解約には予告を要することが多いです。

閉店までの期間に余裕がなく、急いで進めると、その分だけ違約金などの出費がかかってしまいます。また、労働者や取引先とのトラブルが生じる危険もあります。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、飲食店の閉店を決意した際に知っておくべき知識を解説しました。

飲食店を閉店する際には、廃業届の提出をはじめ、保健所での営業許可返納、従業員がいる場合の労務手続きなど、やるべきことが多くあります。飲食店の経営者は、店舗の閉鎖と並行して、廃業届の提出などを進めなければなりません。

飲食店の閉店の手続きをスムーズに進めるには、あらかじめ全体の流れを把握し、必要書類や提出先をリストアップしておくことが大切です。店舗内の作業もあると、一人で進めるのは苦労するでしょうから、弁護士や税理士といった専門家に相談するのがよいでしょう。

閉店後のトラブルや余計な負担を避けるためにも、最後まで丁寧に手続きを行い、きちんとお店の幕を閉じましょう。

この解説のポイント
  • 飲食店の閉店時は、廃業届の提出、許可証の返納などの手続きが必要
  • 閉店の2ヶ月〜3ヶ月前から、計画的に準備することでトラブルを回避できる
  • 法人経営の飲食店では、法人の解散・清算手続きが必要となる

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