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介護事故が訴訟になる事例と、介護事故で弁護士に相談するメリット

少子高齢化が進み、介護サービスはますます需要が拡大するものと予想されます。しかし一方で、きつい介護労働は経営されており、介護人材は不足し、スキルの豊富なスタッフは高齢化するなど、先行きが明るいとは言えないのも事実。これらの問題によって介護の現場にしわ寄せが来れば、無理がたたって介護事故が起こりやすくなってしまいます。

介護事故は増加傾向にあり、介護施設側でもしっかり対策しておかなければ、責任は免れません。介護事故は、利用者の生命にも関わる重大な問題なので、いざ起こると訴訟に発展するケースは多くあります。介護事故が訴訟となる事例では、死亡事故によって遺族が慰謝料請求する場合など、感情的な対立も激しく、長期化は必至です。

介護施設として、介護事故を起こさぬよう、また、訴訟となったら責任を軽減できるよう、平時からの準備が大切なのは言うまでもありません。いざ介護事故を起こしてしまったら、速やかに弁護士に相談すべきです。

今回は、介護事故が訴訟となる事例と、弁護士に相談するメリットを、企業法務に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 介護事故が訴訟になるのは、死亡事故など被害が大きく、加害者に誠意のない事例
  • 介護事故が訴訟となった事例で、裁判例を知れば、事前の対策に活かすことができる
  • 介護事故を弁護士に相談し、事前の対策、事後対応のマニュアル化をサポートしてもらう

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目次(クリックで移動)

介護事故が訴訟になる場合とは

介護の現場では、日々多くのトラブルが起こります。介護事故といえる場面も多々ありますが、必ずしも全てのケースが訴訟となるわけではありません。なかには、まだ事故には至らない、ヒヤリハットの段階のものもあります。

訴訟にまでは発展しないケースは、例えば、施設利用者の物を紛失したり壊したり、設備を壊してしまったりといった軽度の事案があります(ただし、いずれも介護事故の一歩手前の前兆であり、訴訟にならなかったとしても甘く見てよいわけはありません)。また、利用者やその家族と、交渉で解決できれば、訴訟にまではもつれません。

これに対し、介護事故のなかでも、訴訟になるのは、施設利用者の生命、身体に関わる重大な事例です。最も深刻なのが、介護事故によって施設利用者が亡くなってしまう、死亡事故です。かけがえのない利用者の命が失われてしまっては、遺族としてもやりきれないことでしょう。その結果、裁判にしなければ解決しない、重大問題に発展します。介護を要する高齢者は、抵抗力が弱く、少しの力でも転倒して骨折したり、やけどしたり、感染症や食中毒にかかりやすい状態です。

介護事故の訴訟に対応するには、次のポイントが重要です。

  • 予見可能性
    介護事故を予見できたかどうか
  • 回避可能性
    介護事故を回避できたか
  • 事故によって利用者に生じた損害の程度
    軽度のケガか、死亡事故かなど
  • 利用者側の事情
    加齢・事故の原因となる病気やケガなど
  • 家族が注意することができたか
  • 医師による指示があったかどうか

重大な介護事故では、利用者やその家族が、介護施設を相手どって訴訟を起こす可能性があります。慰謝料請求がその典型例です。介護施設は、常に危険と隣合わせ。そして、介護施設を利用する人も、高齢であったり病弱であったりなど、事故にあうと被害が大きくなりやすい性質があるため、注意を要します。

介護事故が訴訟となった事例(裁判例)

次に、介護事故が実際に訴訟となった事例、すなわち、裁判例を紹介していきます。

転倒事故

福岡地裁小倉支部平成26年10月10日判決

96歳の利用者が、施設内を移動中、後ろ向きに転倒して死亡した事案。裁判所は介護施設責任を認めました。

本事案では、訪問看護計画書が作成され、利用者の足腰がかなり弱く、歩行状態の不安を指摘する記載があり、転倒可能性が高いことは予測できていました。こうした事情から、裁判所は、歩行中いつ転倒してもおかしくない状態だったと判断すべきだとし、480万円の損害賠償の支払いを命じました。

東京地裁平成28年3月23日判決

本事案は、認知症、かつ、高齢の利用者が、トイレに行こうとして足を滑らせ、転倒して骨折した介護事故が訴訟で争われたケース。利用者の家族から損害賠償の請求がされたが、介護施設の責任は認められていません。

意思疎通が取れていたこと、入所後も継続して歩行が安定していたことといった事情から、転倒は予測できず、予見可能性はないと判断されたためです。

東京高裁平成28年3月23日判決

日常生活に支障がでるほどの認知症の高齢者が、施設内の食堂の窓から雨樋伝いに地面に降りようとして落下。出血小生ショックによって死亡した介護事故が訴訟で争われたケースです。

裁判所は、窓の開放制限措置が不適切だったとして、介護施設の責任を認め、約980万円の損害賠償の支払を命じました。

転倒事故の責任と、裁判例は、次に解説します。

誤嚥事故

神戸地裁平成16年3月15日判決

食事介助中に、パンを誤嚥させ、窒息死した介護事故が訴訟で争われたケース。

本事案で、介護施設の責任は認められませんでした。利用者が普段から食事を全量摂取していた点、事故以前に誤嚥の兆候が認められなかった点を理由に、施設が誤嚥の発生を認識する可能性は乏しいと評価されたためです。

高松高裁平成30年9月13日判決

89歳の利用者が、白玉団子を喉につまらせて窒息状態に陥った介護事故が争われた訴訟で、裁判所は介護施設の責任を認め、820万円の損害賠償の支払を命じました。

喉に詰まる危険性の高い白玉団子を提供しているのに、他の職員が異常に気づくまで、利用者の行動に全く注意を払っていなかった点で、過失があると評価しました。

東京地裁平成30年1月31日判決

間食に提供されたスイートポテトを盗食し、誤嚥して窒息死した介護事故です。遺族は、介護施設の監視・盗食発見時やけいれん状態時の対処など、各種の注意義務違反の責任を追及し、訴訟になりました。

裁判所は、合計約4100万円の損害賠償の支払を命じました。この裁判例では、盗食を防止する義務までは認められなかったものの、盗食発見時に口の中から除去すべき義務に違反したと判断されました。

誤嚥事故の責任と、裁判例は、次に解説します。

入浴介助における事故

青森地裁弘前支部平成24年12月5日判決

本事案では、入浴介助中の骨折が、施設の転倒防止義務違反による介護事故だとして訴訟に発展しました。裁判所は、担当者に義務違反があるとして施設の責任を肯定、830万円の損害賠償の支払を命じました。

過去にもその利用者が骨折したことがあり、転倒可能性が高い事情を知っていました。浴場が滑りやすく危険な場所だと理解し、一時であっても目を離すならば、代わりに見守りを依頼するなどの措置を取るべきだったと評価しました。

東京地裁平成29年8月25日判決

本事案も、入浴の際に骨折の事故が起きた介護事故が、訴訟に発展しました。骨折の原因は、担当者が腕を挙げる形で衣服を着脱させたためとされました。

担当者の資格や利用者の性別、年齢、身体状況を踏まえれば、腕を挙げないで着脱するよう注意すべき義務があったとし、施設に責任を認め、120万円の支払を命じました。

入浴介助における事故の責任と、裁判例は、次に解説します。

感染症・食中毒

東京地裁令和元年11月7日判決

一時帰宅して外泊した際、肺炎によって死亡した介護事故が、訴訟に発展して争われました。

本件で遺族は、外泊の中止を促す義務があったと主張しましたが、介護施設の責任は否定されました。

さいたま地裁平成22年3月18日判決

認知症の利用者が、放置された生ゴミや食べ残しを食べ、腹痛や脱水、下痢を発症したという介護事故で、訴訟になったケースです。

台所は見通しがよく、常に職員が配置されていたことから、生ゴミを食べた可能性は低いと認定。施設の義務違反はなかったとして、責任を否定しました。

徘徊

福岡地裁平成28年9月9日判決

本事案は、認知症の利用者が施設を抜け出して凍死したという介護事故について、責任追及が訴訟に発展したケースです。

裁判所は、施設を抜け出さないよう利用者の動勢を注視する義務があるとしました。そして、利用者の徘徊癖を施設側が認識していたことなどから、義務違反を認め、約3000万円の損害賠償の支払を命じました。

静岡地裁浜松支部平成13年9月25日判決

本事案は、認知症の利用者が施設から失踪して死亡したケース。裁判所は、死亡そのもの責任は認めず、しかしながら行方不明になったことによる精神的苦痛についての慰謝料を認め、300万円の支払を命じました。

裁判所は、失踪直前に靴を取ろうとして廊下でうろつくなどの事情から、施設を出ていくことが予見できたと判断。他の利用者の介護中だったとしても、失踪を回避できる可能性はあったとしています。

介護施設側から訴訟を起こすケースもある

以上はいずれも、施設利用者が訴訟を起こし、裁判になった事例。それとは逆に、介護施設が訴訟を起こした事例も、例外的にあります。認知症をはじめ、判断能力が低下すると、通常では考えられない行動をして介護施設やスタッフに危害を加えることがあります。例えば、次のケースです。

  • 施設スタッフに暴行を加えた
  • 暴れて施設の備品を壊した
  • 他の利用者の物を盗んだ
  • 施設の女性スタッフにセクハラをした
  • 利用者の家族がモンスタークレーマーになった

いずれも、通常なら暴行罪や窃盗罪、強制わいせつ罪などの犯罪であり、刑罰を科されるおそれある行為。しかし、介護施設で起こるとき、その責任を問えるかが問題となります。認知症などで責任能力のない高齢者が損害を与えた場合、監督義務者が責任を負います(民法714条)。ただ、裁判所は、認知症の高齢者に対する監督責任を限定する傾向にあります。

認知症の高齢者が、徘徊し、電車にはねられて死亡する事故が起こりました。この事故でJR東海は、遺族に対して損害賠償請求訴訟をしました。この訴訟に様々な意見が寄せられましたが、最高裁は平成28年3月1日、「家族の監督責任はない」と判断。

第一審、控訴審は損害賠償の支払を命じる判決だったので、逆転勝訴でした。

まずは話し合いで解決を目指すべきですが、被害が甚大で、見過ごせないケースは、介護施設側から利用者やその家族を訴え、訴訟にすべきです。ただ、慎重に対応しないと、ただ敗訴するにとどまらず、報道されて広まり、施設の社会的評価を低下させる危険もあります。対応に迷うとき、弁護士への相談が有益です。

介護事故を訴訟に発展させないための対策

次に、介護事故を訴訟にしてしまわないために、介護施設が理解すべき対策を解説します。

原因ごとの対策を講じる

介護事故を訴訟にしないために、その原因を分析し、対策を立てるべきです。故意に振るわれる暴力などは別として、不注意で起こった介護事故は、判断、予測、動作など、介助における様々なタイミングでのミスが積み重なって起こります。介護事故を減らすには、判断力を鍛え、予測されたトラブルに、機敏に対処しなければなりません。

そして、介護施設は、これらの訓練をスタッフの努力に任せるのでなく、組織として体制を整備するのが大切です。特に、介護の現場は重労働となりがちです。未払い残業代やパワハラなどの労働問題を起こせば、介助に向ける注意が散漫となり、重大な事故につながりかねません。離職率も上がり、優秀なスタッフほど退職してしまいます。

予見可能性を高める

介護事故の責任を決めるにあたり、重要な判断基準が「予見可能性があったかどうか」。予見できたにもかかわらず対策を講じず、事故を起こしたら不注意だといえます。一方で、そもそも予見すらできなかったなら、事故の責任は介護施設にありません。天災による事故などが典型例です。

ただし予見可能性は、実際に事故を予見できていたかどうかで判断されるわけではありません。通常のケースを基準に判断されるため、できる限り知見を蓄えて事故を予見し、未然に防ぐ努力をするのが大切です。

被害者との話し合いを重視する

交渉で解決できるなら、訴訟にはなりません。介護事故を起こしてしまっても、まずは話し合いを重視すべき。責任を負うのが明らかなケースにおいては、施設利用者やその遺族など、被害者側に誠意をもって謝罪し、責任を認めるのが話し合いによる解決の近道です。

ただし次のケースは、両者の意見が食い違い、話し合いでの合意は困難です。

  • 死亡事故など被害が甚大なケース
  • 介護施設が責任を争うべき事例
  • 責任を負わない事例
  • むしろ利用者側にも過失がある事例

交渉が平行線ならば、やはり訴訟にせざるを得ません。

介護事故を弁護士に相談するメリット

次に、介護事故を弁護士に相談するメリットについて解説します。介護事故を少しでも減少させたいなら、弁護士に相談するのが有益です。

介護施設の顧問弁護士の経験があり、介護事故に詳しい弁護士ならば、どのようなケースに危険が存在するかを知っており、訴訟問題にしてしまわないための対策をアドバイスしてくれます。

施設スタッフを教育できる

介護事故の予防は、施設の責任を免れるために重要。しかし、介護事故を減少させるには、施設スタッフの協力が欠かせません。というのも、介護の現場を担うのはスタッフであり、どれほど介護施設で事例を蓄積しようと、実際に介助を行うスタッフの意識が低いと、介護事故を未然に防止できないからです。

弁護士に依頼すれば、介護事故が起こらないよう、スタッフを教育できます。弁護士に研修してもらうことで、ミスの一歩手前、ヒヤリハットの段階でスタッフに報告させ、訴訟になる前に対処できます。労働者であるスタッフにとって、自分のミスを報告するのは怖いもの。懲戒処分などの制裁を受けたり、無能とのレッテルを貼られて不利益な扱いをされたりといった心配があると、介護事故を隠してしまい、対策を講じることができません。

弁護士が、介護事故の対策の重要性、報告しても不利益はないと教育するのが有効です。

介護事業に適した書式を整備できる

介護事故の予防には、スタッフからの報告の声が大切と解説しました。施設スタッフに積極的に関与してもらい、介護事故の原因を分析しやすくするには、介護事業に適した報告書式を準備しておかなければなりません。

また、介護事業でも、様々な場面で契約が発生し、契約書が必要となります。例えば、施設入所の際の利用者との契約、外注の取引先への委託契約、スタッフの雇用契約など。これらの場面で、定型的な雛形を流用していては、介護事故など、介護施設に特有のリスクを避けるのが困難になってしまう危険があります。

介護施設の顧問弁護士を担当するなど、知見の豊富な弁護士に相談すれば、介護事業に適した書式を提供してもらい、施設の状況を踏まえたアドバイスを受けることができます。

介護事故の対応をマニュアル化できる

介護事故の対応は、その原因を分析した上で、マニュアル化する必要があります。経験豊富な古株のスタッフのスキルに任せきりにしていると、その社員が退職した際に、引き継ぎに窮することとなります。個人に頼りすぎた施設運営は危険であり、介護事故の原因ともなりかねません。経験豊富なスタッフが休みのときほど、事故が起きやすくなってしまいます。

施設内から、介護事件のおそれのあったヒヤリハット事例を抽出し、原因を分析して、対応をマニュアル化することが大切。このような作業には、介護施設の法的な責任を知る、専門の弁護士によるサポートが不可欠です。確立された対応策は、介護事故対応マニュアルとして一般化し、すべての職員に指導を徹底しておきましょう。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、介護事故が訴訟になる事例について、その対応方法を解説しました。

介護施設を運営するときには、ヒヤリハットから始まる小さなミスを、訴訟になるほど重大な事例に発展させない努力が必要となります。そのためには、初期の段階で速やかに対応し、介護事故を避けなければなりません。事前対策・事後対応が徹底されていれば、介護事故を回避できるケースも多くあります。

介護事故が訴訟になった事例を知ることで、どのような対応が責任を軽減するのかを知ることができます。また、有事の際はもちろん、事前対策から顧問弁護士をつけ、日常的に弁護士のアドバイスを受けるのが有益です。

この解説のポイント
  • 介護事故が訴訟になるのは、死亡事故など被害が大きく、加害者に誠意のない事例
  • 介護事故が訴訟となった事例で、裁判例を知れば、事前の対策に活かすことができる
  • 介護事故を弁護士に相談し、事前の対策、事後対応のマニュアル化をサポートしてもらう

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