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「子連れ出勤」を認めるとき、会社が注意すべきポイント4つ

政府(宮腰光寛少子化担当大臣)が、2019年1月、子連れ出勤を推奨するという方針が話題になっています。

子連れ出勤をしやすくするための支援策として、コワーキングスペースや授乳施設の設置など、先進的な取り組みをする自治体に対して、地域少子化対策重点推進交付金の補助率を、2分の1から3分の2に引き上げる、と発表しました。

しかし、労使双方から、子連れ出勤については賛否両論があがっています。

このことからもわかるとおり、子連れ出勤を会社が制度として導入するときには、注意すべきポイントが多くありますので、今回は、弁護士が順番に解説していきます。

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「子連れ出勤」とは?注目されている理由は?

「子連れ出勤」とは、子どもをオフィス(職場)に連れてきて仕事をすることをいいます。

特に、乳幼児など手が離せない年齢の子どもを持っている女性従業員の支援のため、「少子高齢化」、「人手不足」などの社会問題を解決する策になるのではないかとして、注目されています。

内閣府の統計データ「『第1子出産前後の女性の継続就業率』及び出産・育児と女性の就業率」(内閣府男女共同参画局)によれば、第1子出産後の就業を継続する女性が53.1%いる一方、退職する女性もまた46.9%います。

育児介護休業法の改正など、育児への支援は拡充していますが、それでもなお、育児を理由として離職してしまう女性従業員が多くいるのです。

「少子高齢化」を理由とする「人手不足」を解消する手段の1つとして、活用できていないシニア層・女性といった従業員の活躍が期待されるため、「子連れ出勤」を認めることが問題解決となることが期待されています。

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「子連れ出勤」のメリット・デメリット

育児を行う女性従業員を支援し、離職防止の効果が期待できる「子連れ出勤」ですが、メリットもあれば、デメリットも当然あります。

「子連れ出勤」を社内で制度化することを検討している会社は、その長所と短所を比較し、自社にとって「子連れ出勤」が適切かどうか、ご判断いただく必要があります。

メリット

「子連れ出勤」制度を導入する最大のメリットは、これまで、育児を理由として退職せざるを得なかった優秀な女性従業員に、仕事を続けてもらえる点にあります。

「子連れ出勤」ができれば、短期の産休(産前産後休暇)・育休(育児休業)の後、すぐに復職することも可能です。

子を保育園に入れられないことが理由で育児の負担が上がり、続けたくても仕事を続けられない人も少なくありません。

会社内に保育所、授乳施設などを設置することで、女性従業員に対して優しい、先進的な取り組みをする企業であることをアピールすることができ、採用力の強化にもつながります。

デメリット

他方で、「子連れ出勤」のデメリットも多くあります。政府による「子連れ出勤」の推進策に批判的な意見に、次のようなものがあります。

  • 「子連れ出勤」では、子どもが気になって仕事に集中できない。
  • 「子連れ出勤」が、周囲の社員の迷惑になる。
  • 連れてこられた子自身にとっても、職場は環境が良くない。

会社(企業)にとっては、「子連れ出勤」を、安全かつ健康に行うための施設整備など、予算面の課題もまたデメリットとして考えておかなければなりません。

特に、会社側の不手際によって、「子連れ出勤」をした母子の安全、健康が害されることとなれば、「安全配慮義務違反」の責任を問われ、慰謝料請求を受けるおそれもあります。

なお、会社(企業)による「子連れ出勤制度」の導入、という面とは異なる課題として、国・地方公共団体として、保育所、幼稚園の拡充など、他の施策を打つべきという意見もあります。

「子連れ出勤」制度を導入する会社側(企業側)の注意点

「子連れ出勤」のデメリットを理解していただくと、社内体制が十分に整っていなかったり、費用の余裕がなかったりする中小企業、ベンチャー企業、スタートアップ企業には難しい面もあるかもしれません。

保育所を社内に設置している企業も増えていますが、設備やスタッフがいない会社では、子の面倒を見ながら仕事をすることはなかなか難しく、「子連れ出勤」の欠点が際立ちかねません。

制度として導入することを検討する際には、次の注意点の解説を踏まえて、慎重にご判断ください。

事業所内保育所、その他の設備

「子連れ出勤」を制度として導入している企業の中には、事業所内保育所を設置している会社も増えてきました。

例えば、次のように、ローソン、ヤクルト、みずほFGなどの有名企業は、自社の名前を関した事業所内保育所を運営していることで、注目を集めています。

事業所内保育所を設置することで、「子連れ出勤」をしても、子の育児にわずらわされることなく仕事に集中し、かつ、同僚に迷惑をかけることもありません。

保育所に入れることができずに悩んでいる保育所難民にとって、企業の福利厚生として強いアピール力を持ちます。

参考サイト

性差別(男女差別)しない

「子連れ出勤」を希望する従業員は、特に、常に世話をしなければならない乳幼児をもつ母親が多いです。しかし、男性だからといって「子連れ出勤」を希望しないとは限りません。

むしろ、離婚をして親権をもった父親ほど、育児と仕事の両立が大きなハードルとなってしまうこともあります。

職場における男女差別は、男女雇用機会均等法などの法律(労働法)で固く禁止されていますが、「女性差別」だけでなく「男性差別」も当然に許されません。

「子連れ出勤」を制度化するにあたり、男女の性別によらず、差別のない制度をルール化する必要があります。

始業・終業時刻の変更

「子連れ出勤」を認めながら、その他の部分のルールを厳格なままにしておくことは、お勧めできません。

例えば、「子連れ出勤」が必要となるような幼い子どもを持つ母親、父親の場合、「始業時刻が少し遅めだとありがたい」という希望があることが多いのではないでしょうか。

また、夫婦、パートナー、両親など、子どもの育児に協力してもらえる人の予定の都合上、「終業時刻が少し早めだとありがたい」という希望もあります。時短勤務を認めることもまた、「子連れ出勤」と並行して進めましょう。

一部在宅勤務を認めることも、一策ですが、在宅勤務の場合、会社がきちんと労働時間を把握できる仕組みをつくらなければ、残業代請求などにつながるリスクもあります。

他社員によるフォロー体制

「子連れ出勤」の制度をしっかりルール化することにより、子どもをつれてきても周囲の社員に迷惑をかけないようにすることが、会社の重要なポイントとなります。

しかし、周囲の社員が無関心では、「子連れ出勤」がうまくいくはずもありません。他の社員によるフォロー体制や配慮があってはじめて、育児をする社員が活躍できる会社といえるでしょう。

乳幼児は頻繁に病気になったり、体調を崩したりします。そのような非常事態に、「親と一緒にいること」が、子どもにとって何よりも大切です。

子どもが病気になったら休むことができる環境づくり、体制づくりもまた、「子連れ出勤」と並行して進めていくことが、会社の義務といってよいでしょう。

「人事労務」は、弁護士にお任せください!

今回は、普及が進みつつあり、政府も推進している「子連れ出勤」の最新動向と、企業側の留意点について、弁護士が解説しました。

「子連れ出勤」は、出産と育児を理由とする離職の防止にとても役立ちますが、保育のための設備やスタッフを持たない中小企業にとっては、制度として導入することのデメリットもあります。

「子連れ出勤」を制度化するにしても、ルールを明確にして、デメリットを解消するための準備が必要であり、他社の事例などを参考に、就業規則などでのルール化が必須となります。

「子連れ出勤」制度を導入することによる女性従業員の活用、定着化を検討している会社は、ぜひ一度、企業法務、顧問弁護士の経験豊富な弁護士に法律相談ください。

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