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従業員から顧客情報・機密情報などの営業秘密を守るための管理方法

顧客リスト、顧客名簿などの「顧客情報」や、特許・ノウハウなどの「技術情報」は、御社の貴重な資産です。

「不正競争防止法」という法律で保護される「営業秘密」にあたる場合はもちろん、そうでなくとも、流出・漏洩すれば、会社の将来の売上に大きな悪影響を及ぼします。

しかし、従業員が退職するとき、「技術情報」を持ち出され、類似の製品を開発されてしまったり、「顧客情報」を持ち出され、ライバル企業の営業活動に使用されてしまうおそれがあります。

流出による不利益から御社の「営業秘密」を守るためには、平常時の営業秘密の管理、いざ漏洩が発覚した場合の責任追及のそれぞれのタイミングで、法的に適切な対応をする必要があります。

今回は、元従業員による「顧客情報」の持ち出しから、御社の「営業秘密」を守るための対応を、企業法務を得意とする弁護士が解説します。

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1. 顧客情報は会社のもの?

「営業秘密」については、著作権法上の「職務著作」や、特許法上の「職務発明」のように、権利の帰属について明確にルールを示した法律がありません。

従業員が業務において知り得た顧客情報が、会社のものであるのか、従業員のものであるのかが問題となります。

会社の業務によって得られた情報であれば、会社のものであると考えられ、裁判例にもこれに沿うものがあります。

 東京地裁平成23年11月8日判決 

前記認定の事実によれば、原告ネクストから投資用マンションを購入して原告コミュニティに賃貸管理を委託した顧客の氏名、年齢、住所、電話番号、勤務先名・所在地、年収、所有物件、借入状況、賃貸状況等から構成される情報(以下「本件顧客情報」という。)は、いずれも原告ネクストの従業員や同コミュニティの従業員が業務上取得した情報であるから、これを従業員が自己の所有する携帯電話や記憶に残したか否かにかかわらず、勤務先の原告ネクストや同コミュニティに当然に帰属するというべきである。

この裁判例によれば、たとえ「顧客情報」が、従業員の携帯電話に記録されていたとしても、従業員が記憶していたとしても、業務上知り得た「顧客情報」は、すべて会社のものとなります。

2. 「営業秘密」が保護される要件

御社の秘密情報が、「不正競争防止法」上の「営業秘密」として法的に保護されるためには、「不正競争防止法」上の要件を満たす必要があります。

「不正競争防止法」における「営業秘密」にあたる秘密情報であれば、従業員などによるその秘密情報の侵害に対して、次のような責任追及を行うことができます。

 「不正競争防止法」による責任追及 
  • 損害賠償請求
  • 差止請求
  • 刑事罰

「不正競争防止法」上の「営業秘密」として法的に保護されるための要件は、次の3つです。

  • 秘密として管理されている(秘密管理性)
  • 事業活動に有用な技術上または営業上の情報で(有用性)
  • 公然と知られていないもの(非公知性)

特に重要であり、要件を満たすのが難しいのが、「秘密管理性」です。

平常時の秘密情報の管理を適切に行わなければ、「不正競争防止法」による責任追及が不可能となってしまいます。

次の項で説明するような様々な「顧客情報の適切な管理方法」を駆使して、「営業秘密」と判断されるような「秘密管理性」を備えなければなりません。

以下では、3要件について順番に、要件を満たすためのポイントを、弁護士が解説します。

2.1. 秘密管理性

最も争点となりやすく、要件を満たすのが困難である「秘密管理性」について最初に解説します。

「秘密管理性」が認められるためには、その情報が、その開示を受けた者等が「秘密である。」と認識し得る程度に管理されていることが必要です。

具体的には、次の2点を総合的に考慮して判断されます。

  • 情報にアクセスできる者が制限されていること(アクセス制限)
  • 情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることが認識できるようにされていること(認識可能性)

したがって、「秘密管理性」を満たすためには、次の項で解説するとおり、平常時から「顧客情報」を適切な方法で管理する必要があります。

2.2. 有用性

「秘密管理性」の要件が非常に争いとなりやすいのに対して、「有用性」は、大抵の場合、あまり大きな争いにはなりません。

というのも、実際に事業活動に使用されていなかったとしても、「一定の商業的な価値」があれば「有用性」は認められるとされているからです。

したがって、「秘密管理性」が認められるような秘密情報であれば、「有用性」もあることが通常です。

今回解説する「顧客情報」、「顧客名簿」に「有用性」があることは明らかです。

2.3. 非公知性

「非公知性」とは、「秘密情報」が、一般的に知られた状態になっていないことをいいます。

 例 

例えば、既に社外の第三者に公開していたり、メディアに公表していたりする場合には、「非公知性」が認められず、「営業秘密」としての法的保護を受けることはできません。

社外の第三者に公開している場合であっても、その第三者との間で、「秘密保持契約書」を締結している場合には、「非公知性」の要件はなお満たされていると考えます。

したがって、事業提携をするパートナーなどに「秘密情報」を公開する場合は、それ以外の第三者への漏洩、流出をストップできるよう、「秘密保持契約書」を必ず締結しておきましょう。

3. 顧客情報の適切な管理方法

顧客情報をはじめとした「営業秘密」を守るために、事前の対策が必須です。

いざ元従業員による顧客情報の流出が発覚した場合、「不正競争防止法」に基づく損害賠償請求をしたり、刑事告訴をしたりといった手があるわけですが、失った損害を完全に回復できるとは限りません。

実際、一度情報が拡散してしまえば、知られてしまった情報は利用価値を失ってしまいます。

実際に秘密情報が漏えいしたときに、「不正競争防止法」の責任追及ができるかどうかは、「秘密管理性」のある「営業秘密」であると認められる必要があります。

企業による日頃の情報管理が杜撰であったがために、「営業秘密」と認められず、救済が受けられなくなったケースも少なくありません。

3.1. 就業規則、機密管理規程

就業規則には、全社員に統一的に適用される、会社内のルールを記載してあります。

したがって、全社員が守るべき、顧客情報などの「秘密情報」の取り扱いに関するルールもまた、就業規則に規定しておくべきです。

まず、次のような行為が、「禁止行為」となることを規定した上で、「禁止行為」に違反した場合に、懲戒処分の対象<となることを記載します。 [su_note note_color="#DBE7ED"] [su_label] 「禁止行為」の例 [/su_label]

  • 顧客情報などの秘密情報を複製すること
  • 顧客情報などの秘密情報を社外の第三者に漏洩すること
  • 顧客情報などの秘密情報を記録媒体に記録して持ち出すこと
  • 退職後であっても、在職中の顧客情報を利用して営業すること
[/su_note]

就業規則に記載することによって、従業員に対して、これらの行為が禁止されていることを明らかにし、流出、漏洩行為を行った場合に、懲戒処分により厳しく処罰できます。

「機密管理規程」「秘密情報取扱規程」などといった名称で、就業規則とは別に、機密情報の取り扱いを定める例も少なくありません。

3.2. 誓約書、秘密保持契約書

入社時、退職時、それぞれのタイミングに、従業員に誓約書を書いてもらうか、もしくは、従業員と会社との間で「秘密保持契約書」を締結します。

この際、誓約書、秘密保持契約書の中で、「秘密情報の範囲」について、列挙して明確にしておきましょう。

また、入退社時だけでなく、個別のプロジェクトへの参加によって、特に秘密情報に触れる機会が多くなるような場合には、その際にも誓約書、秘密保持契約書を取得しておいた方が丁寧でしょう。

3.3. 秘密情報の管理方法

秘密情報をどのように管理すればよいかは、秘密情報の形態や性質、企業の規模によって異なります。

いずれにせよ、既に解説した「秘密管理性」の要件を満たし、「営業秘密」と判断してもらえるような管理方法をとる必要があります。

「秘密情報」が紙媒体の場合、管理方法の注意点は、次のようなものです。

  • 書類やファイルの表紙に「マル秘」マークを記載する。
  • 施錠可能なキャビネットや金庫で保管する。
  • セキュリティのかかった部屋で入室者を限定する。

秘密情報がデータの場合、管理方法の注意点は、次のようなものです。

  • ファイルに閲覧パスワードを付ける。
  • 一部の者のみアクセスできるようにする。
  • ファイル名に秘密であることを明記する。

以上の方法により、「秘密情報」を受けとった従業員などが、その「情報が秘密であること。」を理解できるようにしておく必要があります。

企業規模を考慮して、あまり厳しい管理方法は不要とし、「営業秘密」であると認めた裁判例もありますが、油断しないほうがよいでしょう。

3.4. 営業秘密の引上げ

実際には、これらの会社規程によってルールを作り上げたとしても、書面上のことだけではどうしても限界があります。

したがって、実際の労務管理において、従業員(特に退職直前の従業員)の言動に細心の注意を払い、情報漏えいの危険のある言動が見受けられたときは、即座に「営業秘密」を引き上げるという対応が必要です。

4. 責任追及

以上のように営業秘密を適切に管理していたとしても、内部にいる従業員や、退職する従業員が、悪意を持って情報漏えいを企てた場合には、完全に防ぐことは困難です。

顧客情報、顧客リストなどの「営業秘密」が漏えいした場合には、次の責任追及を行うことができます。

  • 損害賠償請求
  • 差止請求
  • 刑事告訴

そして、事案によっては、入社時に取得した身元保証人や、転職先の会社などに対する責任追及も検討すべきです。

5. まとめ

従業員、特に退職した従業員は、業務上知り得た秘密を、自分のものであると思いがちです。

「有利な条件で転職したい。」といった希望を叶えるために、顧客情報や機密情報など、会社の「営業秘密」にあたる情報であっても、持ち出し、流出・漏洩をさせてしまうケースが後を絶ちません。

しかし、いざ従業員による機密情報の持ち出しが発覚した後では、一度流出した情報の価値は失われ、責任追及をしたとしても損害の完全な回復は困難です。

「不正競争防止法」における「営業秘密」にあたり法的に保護されるための要件を満たさないような杜撰な管理をしていたことから、責任追及自体が困難となるケースも少なくありません。

顧客情報、機密情報などを従業員から保護するために、お気軽に顧問弁護士にご相談ください。

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