人事労務

テレワーク環境でも予防すべきパワハラ問題と、会社側の体制整備

労働法分野で注目されている「パワハラ防止法」が施行される2020年6月(中小企業では2020年4月施行)がいよいよ近づいています。正式名称を、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」といいます。

そのような中で、一方で、最近の会社では、働き方改革、感染症対策などの目的から、テレワークによる勤務形態が増加しています。実際にIT企業などでは、オフィスに出社しないリモートワークのほうが業務効率があがるなどのメリットが多くあります。

しかしながら、テレワークにより、メールやチャットなどのオンライン上のコミュニケーションがメインとなると、対面とはまた違った形でパワハラが発生すること懸念されています。

そこで今回は、テレワーク環境におけるパワハラを防止するため、会社側がおこなうべき労務管理のポイントについて、企業法務に詳しい弁護士が解説します。

「リモートワーク」の法律知識まとめ

テレワーク勤務とパワハラとの関係

パワハラ防止法上、パワハラの定義は、「職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える、または職場環境を悪化させる行為」と定められています。

具体的には、以下のような行為類型が想定されています。

パワハラの行為類型

パワハラには、以下のように大きく6つの行為類型が想定されています。

パワハラの下記の類型化は、かならずしもパワハラをこれだけに限定するものではありませんが、「ある行為がパワハラにあたるのかどうか」を判断する際に参考にする目安となります。

  • 身体的な攻撃
    (例)上司が部下に対して、殴打、足蹴りをする
  • 精神的な攻撃
    (例)上司が部下に対して、人格を否定するような発言をする
  • 人間関係からの切り離し
    (例)自身の意に沿わない社員に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりする
  • 過大な要求
    (例)上司が部下に対して、長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずる
  • 過小な要求
    (例)上司が管理職である部下を退職させるため、誰でも遂行可能な受付業務を行わせる
  • 個の侵害
    (例)思想・信条を理由とし、集団で同僚1人に対して、職場内外で継続的に監視したり、他の従業員に接触しないよう働きかけたり、私物の写真撮影をしたりする

テレワークを命じることがパワハラにあたるケース

テレワーク勤務でおこりやすいパワハラの中で注意しなければならないのは、そもそも会社としてテレワークを命じること自体がパワハラにあたる場合があるということです。

「オフィス勤務の方が効率よく仕事ができる」「オフィス勤務の方が他の同僚とも顔を合わせられモチベーションが上がる」と考える社員も少なくありません。テレワークを命じることは、その労働環境までしっかりと配慮が行き届いていない会社にとっては、その命令辞退が「職場環境を悪化させる行為」にあたりうることとなります。

会社は社員に対して、その生命・身体などの安全を確保しつつ労働することができるよう配慮する義務を負います。これを「安全配慮義務」といいます。

感染症予防や満員電車での通勤回避など、会社が安全配慮のために良かれとおもっておこなったテレワーク命令も、テレワークによる労働環境の整備が不足していては、元も子もありません。

テレワークを命じないことがパワハラにあたるケース

テレワークを命じないことがパワハラにあたるケースもあります。例えば、昨今の新型コロナウイルス禍のように、テレワークが強く推奨されており、テレワークを命じないことで社員の職場環境が悪化し、危険が生じてしまう場合がこれにあたります。

とくに、テレワークでも事業継続が可能な業種にもかかわらず、テレワークを命じないことは、パワハラにあたる可能性が高いといえます。社員から、テレワークにしてほしい旨の要望があったら、会社は積極的に検討し、その結果を説明して理解を求めるべきです。

社員が正当な目的をもってテレワークを要求したにもかかわらず、これに対して会社が何ら理由もなく拒否することは、不作為によって「職場環境を悪化させる」ことにつながりかねません。この場合は、従業員の要求をしっかり聴き取り、社内でも十分な協議を重ね、従業員に納得のできる説明ができるようにしておくことが大切です。

なお、飲食店や店舗販売業務のようにテレワークの実施が困難な業種では、社員の安全配慮を十分に果たせない場合、休業や営業中止を検討することとなります。

テレワーク環境下で想定されるパワハラとは?

テレワーク環境では、社員間で直接対面することなく就労をすることとなります。チャットやテレビ会議など、コミュニケーションの代替手段はあるものの、直接対面で話すのとは異なる特殊な状態であることを理解しなければなりません。

しかし、パワハラはオフィス勤務の場合だけでなく、非対面でも十分に起こり得ます。

会社側(企業側)としては、テレワーク環境でどのような行為がパワハラにあてはまるのかを具体的にイメージしておかなければ、未然に予防することができません。定義に当てはまるのか、イメージが湧きにくいかもしれません。

メールによるパワハラ

もっとも懸念されるテレワーク環境におけるパワハラは、上司とのメールのやり取りで発生することが想定されます。

会社が考えるテレワークにおけるデメリットは、従業員の業務が視認できず、適切に業務を行っているかが不透明な点です。そのため、上司としては、かかる従業員の業務を把握するため、メールのやり取りにおいてこれを逐一確認する必要が出てきます。

業務上のメールでパワハラが行われる場合には、監督者を「CC」に入れて共有されることによって発見することができますが、業務に関係ないメールやLINEが送られることによるパワハラは、このような方法で防ぐことはできません。

電話によるパワハラ

テレワークにおいては電話による連絡がなされることもあります。しかし、テレワークの場合、業務に不要な雑談が取り除かれがちとなり、多くの場合、電話による連絡は「上司から部下への指示」という上下関係が顕在化しがちです。

テレワークによって他人の目の届かない状況下でおこなわれる電話での指示が頻発することは、パワハラの起こりやすい環境といえます。他人の目が届いていれば抑制的におこなわれていた業務上の指導が、度を越えた精神的攻撃につながるおそれもあります。

また、電話連絡は手軽であるがゆえに、記録化されないデメリットもあります。

オンライン会議などにおけるパワハラ

現代のテレワークでよく利用されるのが、パソコンなどを同時接続することによりビデオカメラやマイクを活用しておこなわれるテレビ会議です。Zoomなど専用のアプリも多く開発され、オフィス外でも対面しているの同様に会議が可能です。

しかし、オンライン会議の発達は、あらたなパワハラ問題を生んでいます。

自宅作業をしている社員にとって、専用アプリなどの環境の整わないテレビ会議は、自宅の部屋が映し出されるなどの個の侵害につながることがあります。頻繁にテレビ会議を設定され、参加を強要されることも、不当な拘束となりパワハラと評価されるおそれがあります。

仲間外しによるパワハラ

オフィスに出社しないと、社員間のコミュニケーションが希薄になりがちです。これまではオフィスで一緒に働いていたから会話や雑談、ランチなどをともにしていたものの、在宅勤務となるとそういった付き合いが一切なくなることもあります。

好きな人としか付き合わなくなった結果、一部の同僚、気の合う上司・部下としか連絡をとらない関係が行き過ぎて、仲間外しによるパワハラにつながるおそれがあります。

会社として、業務効率を図るあまりに、このようなテレワークの弊害を見過ごしてはならず、定期的にZoom飲み会などオンラインの交流を推奨するなどの工夫が必要となります。

プライベートの侵害行為

在宅勤務、テレワークなどのリモートワークでは、業務時間とプライベートの時間との区別が難しく、交じり合ってしまうことが多くあります。

コミュニケーション手段にいつもより配慮をしなければ、精神的な攻撃や個の侵害などのパワハラにつながりやすくなります。社員の希望を聞き、コミュニケーション方法や時間などを制限するルールをつくることが、会社組織として求められています。

また、会議に参加できない従業員のためにも、情報格差が生じないよう、議事録については音声や映像で記録しておくシステムを整えておくと確実です。

テレワーク環境下でのパワハラを防止するポイント

最後に、テレワーク環境下でのパワハラを未然に防止するために、会社としては構築すべき社内のしくみについて、弁護士が解説します。

上記に例をあげて解説したとおり、テレワーク環境下で、社員が直接対面で会ったり、話したりしなくても、パワハラ問題は発生します。そして、見えづらい環境だからこそ、会社のパワハラ防止策はより重要となるのです。

社員間の接触を見える化する

さきほど解説したとおり、テレワーク環境下でのパワハラ問題への対策が打ちづらい理由は、パワハラの加害者と被害者の接触が、会社に把握しづらいことです。

会社側としては、上司と部下の間でおこなわれるメールやチャットのやり取りを見える化することがパワハラ防止につながります。例えば、メールであれば必ず上司や同僚、役職者などを「CC」に入れて共有する、チャットであれば必ず複数名のグループ内で発言をするルールとするなど、パワハラ行為を発見しやすくする工夫が大切です。

テレビ会議をおこなう場合には、その開催の日にちや時間帯、参加者を決め、スケジュールに記載させるようにします。「ちょっとのことだから」という感覚でテレビ会議を頻繁に強制してしまうと、長時間労働の強要につながるおそれがあるため注意が必要です。

専用のアプリを導入することで、テレビ会議はすべて録画し、スマホでかけた電話をすべて録音することは容易に可能です。

電話によるパワハラに特に注意する

メールやチャットの記録は証拠化しやすいですが、一方で、オフィスに出社せずに働く場合には、電話のやり取りなど、どうしても一対一の状況で対応せざるを得ず、パワハラを発見しづらいコミュニケーション手段もあります。

テレワークにおいて、電話は大きな弊害になります。パワハラが発覚しづらいことはもちろんですが、折角テレワークとしたのに頻繁に電話がかかってくると業務効率を阻害したり、社員のプライバシーを侵害したりすることにつながるためです。

そのため、緊急の要件以外は電話を極力しないよう指導し、チャットなどの代替手段を検討できないか、また、口頭でのやり取りのほうがスムーズな場合にはあらかじめ時間を決めてテレビ会議をすることができないか、といったルールづくりが必要となります。

コミュニケーションのルール化をおこなう

テレワークをはじめて導入する会社の場合、社員においても、どのような行為が行き過ぎであり、どうしたらパワハラになるのかの判断が難しいことがあります。気付かないうちに、人に不快感を与えているおそれもあります。

そのため、とくにコミュニケーション手段、時間、方法などについては、他の社員に迷惑をかけないためのルールを会社が整備すべきです。会社が、何が悪いことなのかを示すことで、ルールを順守すればパワハラの加害者になることなく安心して業務をおこなうことができます。

会社の定めるルールは、就業規則のなかでも、特にリモートワークに特化した「テレワーク規程」などの名称でまとめて定めておくことがお勧めです。また、就業規則にすることが適切でない細かなルールはマニュアルなどにまとめ、あわせて社員に周知してください。

監視のしすぎに注意する

テレワーク環境によって見えづらくなってしまうパワハラを発見したいからといって、過度に監視してしまうと、逆に会社による監視がパワハラとなってしまうおそれがあります。

業務に必要な限り、会社は社員の行動やパソコンなどを監視することができます。しかし、業務に必要な範囲を超えた過度な監視は、不当なプレッシャーを社員に与えるパワハラとなります。とくに、在宅勤務などのテレワーク中に、過度に関しをすることは、プライバシーに対する不当な干渉となるおそれもあります。

監視のしすぎの問題は、パワハラにあたるという問題点だけでなく、社員の余裕をなくし、追い詰めすぎることにより、業務効率を逆に低下させてしまったり、やる気やモチベーションを失わせてしまったりする弊害もあります。

相談窓口を整備する

やむを得ず、一対一の状況が作出された結果、発覚しづらい状況でパワハラが行われてしまう場合に、会社が対策をとりやすくするためには、被害者側が相談しやすい環境づくりが重要となります。

社内にパワハラ相談窓口を設置し、メールやチャットなどの方法で、テレワークをおこなっている社員にも周知するようにしてください。

なお、パワハラ防止法の施行後は、同法において「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」(労働施策総合推進法第30条の2第1項)と定められている通り、会社は、相談体制の整備などが義務付けられることとなりました。

厚生労働省から発出されているパワハラ指針、セクハラ指針、マタハラ指針にも同様の記載がなされ、ハラスメント全般について一元的に相談できる体制を整備することが望ましい旨が示されています。

相談窓口の担当者もテレワークとなる場合には、担当者が守秘義務を遵守し、セキュリティを徹底し、パワハラ相談者を不利益に取り扱わないなど、担当者の教育も重要となります。相談窓口を内部につくると相談しづらいことが予想される中小規模の会社では、弁護士など社外の専門家に相談窓口を依頼することも検討してください。

「弁護士法人浅野総合法律事務所」について

「企業法務」は、弁護士にお任せください!

働き方改革や、新型コロナウイルスの感染症拡大防止策として、テレワーク環境を導入する会社が非常に増えています。しかし、テレワーク環境の勤務形態は、一過性のものではなく、今後も継続することが予想されます。

今後も会社が持続的に成長するためにも、テレワーク環境における労働問題がおこらないよう未然に防止する体制をつくることが、強い会社に必須の条件となります。そのなかでも、テレワーク環境下のパワハラ問題は会社が優先的に取り組むべき重要課題です。

テレワーク環境下においては、オフィス勤務とは異なった「見えない」環境によって、パワハラがより密行しやすく発覚が遅れる可能性があります。そのため、パワハラを未然に防ぐためにも、相談窓口の設置、周知、メールや電話、オンラインセッションでのやり取りに関するルール作りが大切です。

テレワーク環境の推進に当たって、今後想定されるパワハラへの予防策、対処法にお困りの会社は、その対策についてぜひ一度、企業法務に詳しい弁護士のアドバイスをお聞きください。

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