「黒字なのに倒産」というのは矛盾するように聞こえるかもしれません。
しかし、ビジネスの世界では、黒字倒産は珍しくありません。決算書に利益が計上され、経営は順調に見えても、手元の資金が枯渇すれば事業継続は不可能になってしまいます。黒字倒産は、資金繰りに疎い中小企業、急成長中のスタートアップでは、決して他人事ではありません。
黒字倒産の起こる理由は、キャッシュフローの悪化にあります。その原因を知れば、予想外の倒産を回避するための対策を立てることができます。
今回は、黒字倒産の意味と、その背景にある資金繰りの構造について、経営者が講じるべき具体的な対策も交えて、企業法務に強い弁護士が解説します。
- 黒字倒産は、キャッシュフローの悪化によって起こる
- 黒字倒産を回避するには、予兆に気付き、資金繰りを改善する必要がある
- 適切な決算をしていないとリスクを把握できず、黒字倒産のリスクが拡大する
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黒字倒産とは
黒字倒産とは、会計上は利益を計上しているのに倒産することです。
経営が順調に見えても、資金繰りに行き詰まると、事業の継続は困難となります。このような現象は、「利益」と「資金(キャッシュ)」の性質が異なるために起こります。日本国内でも、黒字倒産の件数は年々増えており、特に中小企業にとっては深刻な経営課題です。
企業の会計上の利益は、売上と費用の差額であり、主に発生主義(取引が発生したタイミングで計上する)に基づきます。一方で、キャッシュフローは、実際に手元にある現金の出入りを示しています。
例えば次のケースだと、黒字でも資金が不足してしまいます。
- 売上が計上されても、売掛金が未回収である。
- 大型設備を現金一括で購入し、キャッシュを圧迫している。
- 借入金の返済が重なり、手元資金が尽きてしまう。
したがって、会計上に記録される数字は、必ずしも現在会社の手元にある現預金を意味しません。全て前払い、現金と商品を交換、といったビジネスモデルなら黒字倒産は起こりづらいですが、実際の企業間取引では信用取引がよく行われます。
その結果、黒字だからといって資金が潤沢にある企業ばかりではありません。
黒字倒産は、赤字倒産とは違って見た目は業績好調なので、前兆を見極めづらい難点があります。わかりやすく、具体的な企業事例で説明します。
A社が、B社から1000万円の商品を受注したとします。
契約日が2025年5月30日、納品日が翌月15日で、代金支払いは、他の取引とまとめて7月末に支払う契約だったとします。
この取引でA社は1000万円を受注したので、その分の商品を用意しなければなりません。原材料費や外注工賃などは先払いする必要があります。しかし、実際に商品代金が入るのは2ヶ月後、それまでは自社の資金で耐え凌がなければならず、現預金が少ないとキャッシュフローが悪化し、黒字倒産になってしまいます。
黒字倒産は、一見すると財務状況が良好に見えるため、社内でも危機意識を持ちにくい傾向があります。特に、経営層が資金繰りの実務を担当していない企業では、売上増加を重視した経営判断の結果、知らないうちに資金不足に追い込まれるケースもあります。
「会社の破産手続きの流れ」の解説

黒字倒産の原因はキャッシュフローの悪化
次に、黒字倒産が起こる原因について解説します。
黒字倒産の主な原因は、資金繰りの失敗です。その背景には、日常の判断ミスの積み重ねや、外部要因などが複雑に絡み合います。特に、内部留保の少ない中小企業や、仕入れや設備投資に資金を要する製造業は、黒字倒産が起こりやすく、慎重な経営判断が求められます。
売掛金の回収遅延
資金繰り失敗の1つ目が、売掛金の回収遅延です。
商品やサービスを提供し、売上を計上しても、すぐに現金が入るケースばかりではありません。BtoBビジネスの多くは「信用取引」であり、後日支払う約束をして「売掛金」として扱います。売掛金が予定通りに回収できれば突然に手元資金が不足することはないでしょうが、次のような不測の事態が起こることがあります。
- 取引先の資金繰り悪化や倒産で不良債権化する。
- 大口取引先に依存し、倒産や不渡りによって連鎖倒産が起こる。
- 長過ぎる回収サイト(例:支払日が3ヶ月以上先)を押し付けられる。
売掛金は「資産」ですが、実際に回収するまでは「使えるお金」ではないため、現預金の流れが悪くなり、黒字倒産に陥ってしまいます。この問題は、多くの発注を受けたり、急激に売上が増加したりといった好調時ほど注意すべきです。
在庫過多や設備投資による資金圧迫
資金繰り失敗の2つ目が、在庫過多や設備投資による資金圧迫です。
売上を増やそうとするあまりに過剰在庫を抱えたり、先行投資として高額な設備を購入したりすると、資金が圧迫されてキャッシュフローが悪化します。在庫も「資産」ですが、売れるまでは資金化できません。設備投資についても、一度に多額のキャッシュアウトを伴うので、回収までには時間がかかります。
このように、利益率の向上や生産性アップを狙った経営判断が、結果的には資金難を招き、黒字倒産に繋がってしまうことがあります。
過度な借入返済の負担
資金繰り失敗の3つ目が、過剰な借入返済です。
黒字でも、キャッシュフローの大部分を借入金の返済に充てている場合、資金繰りは厳しくなってしまいます。例えば、次のようなケースです。
- 利益の大半が元本返済や利息の支払いに消えている。
- 借入金が支払いきれず、一括返済を迫られる。
- リスケ(返済条件変更)が受け入れられず、金融機関からの信用不安に陥る。
売上が順調に伸びていたとしても、金融機関との関係性が悪化すると、急激にキャッシュフローが悪化し、黒字倒産に陥るおそれがあります。信用不安に一度でも陥ると、追加の融資を得ることが難しくなって、立て直しにも支障が生じます。
急成長による資金繰りの管理不足
資金繰り失敗の4つ目が、急成長による資金繰りの管理不足です。
売上や取引先が急増する成長フェーズでは、同時に、仕入代金や人件費、外注費、税金などの支出も増加します。このとき、入金よりも支払いの方が早いと、資金回収が追いつかず、キャッシュフローが悪化してしまうことがあります。
本来なら、このような事態に陥らないよう管理体制を強化し、キャッシュの状況を把握して、事業拡大に応じて資金計画を見直したり、新たな資金調達をしたりといった対策を講じるべきです。しかし、急成長するベンチャーやスタートアップでは、管理部門の整備が追いつきません。
これらの要因が重なると、急成長しているにもかかわらず資金ショートし、黒字倒産に陥るといった事態が発生します。
黒字倒産の具体的な企業事例
次に、黒字倒産について具体的な企業事例で解説します。
株式会社アーバンコーポレイションは、広島県に本社を置く不動産開発企業で、都市型マンション開発などを主力事業とする上場企業でしたが、2008年に東京地裁へ民事再生法の適用を申請し、経営破綻しました。
主たる原因は、在庫の急増によってキャッシュが著しく滞留したことにあります。不動産の販売が鈍化している状況でも仕入れを継続したことで、在庫が増加し、資金ショートを起こしました。
不動産業など、棚卸資産の比重が大きい業界では、在庫と負債のバランスが致命的なリスクとなることを示しています。
江守グループホールディングスは、福井県に本社を置く専門商社で、東証1部上場の企業でしたが、2015年に民事再生法の適用を申請しました。直前の2014年3月期に過去最高益を更新しており、予想外の黒字倒産として注目されました。
主たる要因は、中国取引先からの売掛金の回収遅延でした。中国への依存度が非常に高い構造だったためキャッシュフローが悪化し、最終的に債務超過となりました。
国際展開を進める企業にとって、外部依存のリスクの高さを示す事例です。
黒字倒産を回避するための対策
次に、黒字倒産しないための対策について解説します。
黒字倒産は、決して他人事ではなく、日々の経営管理の見落としから生じます。
資金繰り表を定期的に見直す
黒字倒産を防ぐのに最も重要なのが、キャッシュフローを「見える化」することです。
そのために、資金繰り表を作成し、将来の入出金の見通しを把握することが大切です。キャッシュフローを把握しておけば、資金ショートの兆候を早期に発見することができます。作成した資金繰り表は、実際の売上実績に合わせて定期的に見直す必要があります。
特に、税金や賞与、借入返済や設備投資など、高額の支出は事前に把握しておきましょう。資金繰り表は、単なる財務資料にとどまらず、経営判断の重要な基準となります。
与信管理を強化する
黒字倒産の原因となる売掛金の焦げ付き(不良債権化)を防ぐため、与信管理が重要です。
取引先の信用調査(商業登記簿、信用調査機関、過去の決算情報など)を徹底して行い、それに応じた与信限度額を設定して取引額が過大にならないように管理すべきです。そして、支払遅延や条件変更の申し出があった際は、与信の見直しも検討しなければなりません。
取引先の信用状態は常に変化するので、定期的なモニタリングが欠かせません。
「入金遅延」の解説

売掛金の回収を早める
資金回収スピードを改善することは、キャッシュフローの安定に繋がります。入金サイクルを早めるため、次の点に注意してください。
- 支払期日を短縮するよう交渉する。
- 現金決済や前払い制とするよう交渉する。
- 請求書の発行を早める。
- 期限までに入金がなければ速やかに督促する。
- 回収不能のリスクのある企業との取引を中止する。
- ファクタリングによる債権の資金化を活用する。
債権管理をしっかりと行い、未回収が生じないようにしてください。ファクタリングはコストがかかりますが、黒字倒産の回避という点では、短期的な資金確保の手段として有効です。
買掛金の支払いを後ろ倒しにする
資金繰りの改善において、支出のタイミングを後ろにずらすことも有効です。
入金がまだ確定していない段階で支払いだけ先行すると、資金が枯渇するリスクが高まります。仕入先などの協力を得て、材料費や外注工賃などの支払いを遅らせることができれば、一時的なキャッシュ不足は回避できます。
具体的には、次の手法を検討してください。
- 支払い条件の見直し交渉を行う(後払い・分割払い・手形払いなど)。
- 信用に基づいて支払い猶予を要請する(売上の見込みを丁寧に提示する)。
- クレジットカード決済などで支払いサイトを延長する。
ただし、社内の人件費について、給与遅配は違法なため、交渉の対象にはできません。交渉で後ろ倒しできるのは、あくまで社外の支払いに限定するのが原則です。
財務・資金管理の専門家を活用する
黒字倒産の起こりやすい中小企業では、財務の知識が不足しているケースもあります。
社内人材では不足なときは、外部の専門家の活用も検討してください。具体的には、次のような士業や専門家への依頼が考えられます。
- 弁護士
債権回収の対応、私的整理や事業再生の検討など - 税理士・公認会計士
資金繰りやキャッシュフローの管理、決算の改善など - 財務コンサルタント
資金調達、金融機関との交渉、経営改善策の実行など
知識のないまま放置している企業や、既に資金繰りが逼迫している企業では、相談の遅れが致命傷となることもあるので、早めに相談する必要があります。
「ベンチャー企業向けの顧問弁護士」の解説

無駄な在庫を減らす
在庫を増やしても、現金化できなければキャッシュフローに貢献しません。そのため、売上見込みを誤って過剰に仕入れると、資金が固定化され、他の支払いをする余力がなくなります。
在庫過多による黒字倒産の対策として、次の方法が有効です。
- 売れ筋や需要予測に基づき、在庫仕入れを精査する。
- 小ロットの発注やJust-in-time(ジャストインタイム)方式を活用する。
- 在庫リスクの少ないビジネスモデルに転換する(例:受注生産、無在庫EC)。
ネットビジネスやデジタル商品など、在庫や仕入れを要しない事業なら、黒字倒産を回避できる仕組みを作ることができます。在庫を抱えざるを得ない場合でも、回転率を常に意識し、「売れない在庫を持たない」体制を構築してください。
資金調達する
利益があっても、現金が足りなければ黒字倒産となってしまいます。そこで、資金の余裕をもたせるために、調達をする手が考えられます。
調達手段は、次の2種類に分けられます。
- 融資(借入)
銀行や政策金融公庫など、金融機関からの資金の借入。 - 出資
ベンチャーキャピタル(VC)やエンジェル投資家からの資本注入。
いずれの方法も、調達を成功させるには、事業の将来性や経営者の信用が問われます。将来性の高い事業であると評価されれば、必要な資金を外部から引き込んで、黒字倒産を回避できます。
ただし、過度な資金調達はかえって財務バランスを崩したり、経営権を失ったりする危険があるため注意を要します。
黒字倒産を防ぐために経営者が持つべき視点
最後に、黒字倒産を防ぐために経営者が持つべき視点を説明します。
黒字倒産は、表面的な経営によって引き起こされるミスです。経営者が心がけるべきは、会計上の数字だけを追わず、資金の流れ(キャッシュフロー)を重視した現実的な視点です。
多くの経営者は、売上の増加に集中しがちですが、倒産の主たる原因は「現金が尽きること」です。帳簿上は黒字でも、現金が不足すれば「支払不能」となってしまいます。そのため、経営者は、手元資金をキャッシュフローを意識して、資金繰り表などで現状を把握しなければなりません。
そして、経営判断を行う際には、資金計画とセットで検討すべきです。
「攻め」と「守り」を一体で考えるべきで、事業拡大や新規投資ばかりでなく、資金の裏付けをしっかりと確認しなければなりません。社内の人材では足りない場合、外部の税理士や財務アドバイザーへの依頼も検討してください。過剰な拡大は、持続することが難しい場合もあるので、「身の丈にあった拡大」を戦略的に進める視点が大切です。
なお、資金繰りが苦しくなると、「粉飾決算」に手を染めてしまうことがあります。
しかし、これは極めて危険であり、法的にも重大なリスクを伴います。
- 金融機関や投資家の信頼を損ない、資金調達が困難になる。
- 法的な責任(刑事責任・民事責任)を追及される。
- 税務調査での追徴課税・重加算税の対象になる。
- 経営判断そのものが誤った数字をもとに行われ、破綻に向かいやすい。
短期的には、見栄えを良くする有効な手段に見える粉飾ですが、長期的な目線では、企業の信頼を削るリスクの高い行為です。経営の透明性を保ち、早期に専門家に相談する勇気と誠実さこそが、企業の信頼と存続を守ります。
まとめ

今回は、黒字倒産について、その意味や原因、回避策について解説しました。
黒字倒産は、「利益が出ていれば安心」と油断している企業で起こります。会計上の利益と実際のキャッシュフローは必ずしも一致しないので、決算書上は好調に見えても、資金繰りが悪化すれば倒産するケースもあります。
黒字倒産の背景には、売掛金の未回収、設備投資の偏重、急成長による資金需要の増大など、日々の経営判断の失敗が潜んでいます。経営者が、定期的に資金繰りを見直し、与信管理を徹底し、早めに専門家に相談することで、これらのリスクは未然に防ぐことができます。
「黒字なら安全だ」という思い込みを捨て、キャッシュの動きを見つめ直すことが、持続可能な経営とするための第一歩です。
- 黒字倒産は、キャッシュフローの悪化によって起こる
- 黒字倒産を回避するには、予兆に気付き、資金繰りを改善する必要がある
- 適切な決算をしていないとリスクを把握できず、黒字倒産のリスクが拡大する
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