「ライセンス」とは、「使用許諾」のことをいいます。
主に、技術やノウハウなどの「使用許諾」のとき、「ライセンス契約書」という書類を作成する必要があります。
例えば、自社が保有している技術やノウハウを、他の企業に提供したり、逆に、他の企業の保有している技術やノウハウの提供を受けて自社で活用したりといった場合には、特許に関する使用許諾のルールを、「ライセンス契約書」に定める必要があります。
また、企業や製品を表すマークは、「商標権」という権利で守られていて、他社が自由に使えないようになっています。フ
この「商標権」の「使用許諾」のときにも、「ライセンス契約書」によって、あらかじめルールを決めておかなければなりません。
フランチャイズに加盟したり、代理店契約、営業代行の契約などをしたりするとき、他の企業のマークを使いたいというときは、商標権に関する「使用許諾」のルールを、「ライセンス契約書」に定める必要があります。
今回は、企業が技術、設計、ノウハウなどを、「ライセンス契約書」を締結することで提供するとき、契約書のリーガルチェックで注意するポイントを、企業法務を得意とする弁護士が解説します
1. 立場を明確に!「ライセンサー」と「ライセンシー」
「ライセンス契約書」を締結するときは、「ライセンサー」「ライセンシー」という、似た2つの用語について理解をして進めてください。
それぞれ、次のとおり、契約書にかかわるときの立場が大きく違いますので、自社がどちら側かを理解して進めるようにしてください。
- ライセンサー
:使用許諾を行う側の立場にある会社 - ライセンシー
:使用許諾を受ける側の立場にある会社
「ライセンス契約書」の条項について交渉をするとき、自社がライセンサーの立場にあるのか、ライセンシーの立場にあるのか、立場を明らかにした上で、自社に有利になるよう条項の修正、交渉を行わなければなりません。
2. 対象物と行為の特定
まず、「ライセンス契約書」のリーガルチェックを行うときに、一番最初にチェックしなければならないポイントは、「契約書の対象」についてです。
「ライセンス契約書」を読んでみて、次の点が、明確に特定されているかどうか、検討してみてください。
- 「何」に関する(対象物)
- 「どのような権利」について(対象となる権利)
- 「どのような利用行為」が許諾されているのか(対象となる行為)
「ライセンス契約書」が、特定性を欠く(以上の3点について契約書からは読み取れない、もしくは、曖昧である。)という場合、そもそも「ライセンス契約書」を作成する意味がありません。
後に紛争、トラブルとなった場合に、「ライセンス契約書」に記載されたルールを適用して裁判所に判断してもらうためにも、どのような物、権利、行為を対象にしているのか、誰の目から見ても一義的に明らかであるよう、修正を交渉しましょう。
2.1. 対象物・権利の特定
まず、「対象物」、「対象となる権利」の特定についてです。
権利については、特許権、商標権など、「知的財産権」と呼ばれる権利のうちのいずれの権利が対象となるかについて明記します。
「対象となる権利」が著作権のときは、著作権法の条文ごとに、複製権、翻案権などと権利が細分化されていますから、どの権利を許諾するかの特定が必要です。
対象物について、利用許諾後、改良して利用されることが想定されている場合には、改良物についても「ライセンス契約」における「利用許諾の対象」かどうかをチェックしておく必要があります。
2.2. 利用行為の特定
次に、「利用行為の特定」です。
利用行為については、「ライセンス契約書」を締結したからといって、どのような行為をも行ってもよいわけではありません。
特に、ライセンサー、すなわち、「利用許諾」を行う側の立場の場合には、できる限り利用行為を特定し、限定したい、という方向で修正の交渉をすべきでしょう。
利用行為の限定のしかたには、次のようなやり方があります。
- 利用目的による特定
- 利用態様による特定
- 利用可能な地域による特定
利用行為の特定について、重要なのは、「再許諾」の可否についての記載です。
再許諾権があるかどうかは、非常に重要な問題であり、特に、ライセンスの対象となる技術を組み込んだ製品を他社に製造させたり、販売させたりする場合には、再許諾権がどのような場合に与えられるかが重要となります。
3. 独占的な利用が可能か?
「ライセンス契約書」のリーガルチェックを行うとき、重要な交渉ポイントとなるのが、「独占的権利であるかどうか?」、という点です。
ただし、「独占」とだけ記載されていたとしても、「一義的かつ明確である」とはいえません。
「独占」の意味についてはいろいろな考え方がありますから、どのような意味に解釈されるのか、ライセンサーとライセンシーとの間で、理解を共有しておかなければなりません。
「独占」的な権利であると「ライセンス契約書」に定められている場合でも、次のいずれの意味であるかによって、解釈は異なります。
- ライセンシー以外の第三者が、ライセンスの対象物・権利を利用できない。
- ライセンシー以外の第三者に加え、ライセンサーもライセンスの対象物・権利を利用できない。
特許法や商標法には、「専用実施権」、「専用使用権」という権利がありますが、「ライセンサーも対象となる権利を利用することができない。」という、上記の2の意味で使われます。
したがって、上記の2の意味であることが当事者間で確認された場合には、「独占」ではなく、法律の規定にしたがって「専用」と記載すべきです。
なお、独占的な利用が可能であると定められていても、場所、利用目的などに制限がある場合もあります。
自社が「利用許諾」を受けるライセンシー側の場合には、自社が行おうと考えている行為が独占的に保証されているかどうか、よく確認しておきましょう。
4. ライセンス料が妥当か?
「ライセンス契約書」において、ライセンスの対価として支払うのが「ライセンス料」です。
ビジネスのために「ライセンス契約書」を締結するわけですから、金銭的に有利であるかは大きな関心事となります。
「ライセンス契約書」におけるライセンス料の定め方には、次のようなものがあります。自社の立場に応じて、リーガルチェック段階での修正を交渉しましょう。
- 契約締結時に一括支払いをする定額ライセンス料のケース
- 月ごとに一定の金銭を支払う定額ライセンス料のケース
- ライセンスを利用して得た利益に応じて支払うレベニューシェアのケース
- ライセンスを利用して行う事業の段階に応じて支払うマイルストーン支払のケース
「2. 独占的に利用が可能か?」の項目でも解説しましたが、ライセンシー以外の第三者もライセンサー自身も利用することができないとなれば、もはやライセンサーにとって、利益はライセンス料のみとなります。
独占的な利用を認める程度に応じてライセンス料を設定しなければならず、独占的な利用を強く保証すれば、その分ライセンス料は高額となります。
したがって、独占的な利用が保証される「ライセンス契約書」では、「ミニマムロイヤルティ」(ライセンス料の下限)を定めるケースが少なくありません。
5. 利用行為を監督する方法
ライセンサーにとって、ライセンス料の支払を確保することが、この技術、ノウハウを利用した経営の根幹を支えるわけですから、ライセンシーによる次のような事項を、しっかり監督しなければなりません。
- ライセンシーによる利用行為の態様
- 製造された製品の数
- 技術、ノウハウを利用して得た売上
- 契約違反行為の有無
そこで、ライセンサーがライセンシーの利用行為や収益を確認するために、「ライセンス契約書」に、次のような監督方法が定められていることがあります。
- 報告義務
- 帳簿提出義務
- 立入検査権
ライセンシーにとっては、いずれも大きな負担となりますし、営業秘密、企業秘密の漏洩にもつながりかねません。
ライセンサーの希望する監督方法を受け入れることが可能であるのかどうか、検討し、不可能な場合には、代替案を提案する必要があります。
6. ライセンス期間と契約終了後の取り扱い
「ライセンス契約書」には、「ライセンス期間」が設定されることが通常です。
ライセンサーとしては、あまりに長期間のライセンス期間は、権利を制限しすぎるため、認めることが難しく、もし認める場合でも、ライセンス料を増額し、ミニマムロイヤルティを設けることを求めるでしょう。
一方、ライセンシーとしても、あまりに短期間のライセンス期間では、投下資本の回収が困難となるため、「ライセンス契約書」を締結することができず、両者の調整が必須となります。
「ライセンス契約書」が終了した際に注意したいのが、ライセンスに基づいて製造された製品の在庫の取り扱いについてです。
「ライセンス契約書」の終了後は、この製品にいくら在庫があっても、ライセンシーとしては売却することは必ずできるわけではありません。
しかし、全く売却できないとすれば、ライセンシーとしても、在庫を抱えないように抑止的にビジネスを進めるしかなくなってしまいます。
そのため、ライセンスに基づいた製品の製造が予定されている場合、在庫を売却してよい期間ないし数などを、あらかじめ定めておくとよいでしょう。
7. その他、特別な条項が入っているか
以上の解説は、「ライセンス契約書」に一般的によく見られる規定についての、リーガルチェックにおける修正のポイントです。
「ライセンス契約書」には、これ以外にも、多くの条項が記載されていることが少なくありません。
一般的でない特別な条項が記載されている場合、ほとんどの場合、契約書の雛形・書式を提案してきた側に有利な内容となっています。
そのため、見慣れない条項が記載されているときは、特に注意してリーガルチェックを進めなければなりません。
7.1. 競業避止義務
独占的な利用を強く保証すればするほど、利用を許諾される側のライセンシーにとって厳しい制限が加わりがちであることは既に解説しました。
ライセンシーに加えられる制限の最も厳しいものとして、「競業避止義務」があります。すなわち、ライセンサーの商品以外の商品を取り扱ってはならないというルールです。
ライセンサーとしても、独占的にライセンスする以上は、ライセンス料を多くとりたいことから、他のライセンスに対して力を割くことを禁止したい、という要望があります。
ライセンシーとしては、受け入れ可能であるかを検討し、「競業避止義務」条項を全くなしにする交渉をすることが一番ですが、これが不可能であった場合であっても、除外規定を設けるなど、できる限り競業避止の範囲を狭めることが重要です。
7.2. 保証、免責
ライセンサーが、利用許諾をする物・権利について、そもそも違法性があったり、他人の権利を侵害していたりしては、ライセンシーは、「ライセンス契約書」を結んだ目的が達成できなくなります。
そこで、保証条項を設け、次のような事項について保証をすることがよくあります。
- ライセンスの対象となる権利が適法に成立していること
- ライセンスの対象となる権利をライセンサーが有していること
- 第三者の権利を侵害していないこと
これに対して、利用許諾をする側の立場であるライセンサーとしても、万が一上記のようなことがあった場合に、すべて自社の責任とされては、思わぬリスクを負うこととなります。
そのため「○社の知る限りにおいて」などと限定的な文言を保証条項に追加したり、免責条項を付け加えることがあります。
「ライセンス契約書」のリーガルチェックをするとき、よく起こりがちなトラブルを想定して、「どのような場合に責任追及をすることができるのか?」、という点を慎重に検討してください。
8. 交渉を有利に進めるには?
「ライセンス契約書」の記載について交渉を行うとき、冒頭でも説明しましたとおり、「ライセンサー」「ライセンシー」という立場の違いによって、修正をすべきポイントが異なります。
「利用許諾」をする側の立場であるライセンサーの場合、できる限り「利用許諾」の範囲は狭く限定し、ライセンス料は高く設定したいと考えるでしょうが、ライセンシーは全く逆とです。
そのため、契約交渉を進めるにあたっては、妥協点を見出さなければならず、自社にだけ有利な規定の契約書を結ぼうとすれば、「ライセンス契約」は結べず、破談するでしょう。
自社にとって有利であり、相手方の会社にとっても受け入れることが可能な契約書の文言を模索するには、リーガルチェックの段階で、提案できる修正案、代替案の文言を、多く有していることが重要です。
「ライセンス契約書面」の交渉を有利に進めるためには、リーガルチェックを担当する顧問弁護士が、「ライセンス契約書」の作成、修正についての知識、経験を豊富に有している必要があります。