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M&Aのマネジメントインタビューとは?質問事項と注意点を解説

M&Aにおけるデューデリジェンスを進めるにあたって資料が開示されても、書面のみでは判明しないリスクもあります。このような潜在的リスクを明確化するには、企業経営に関する重要事項を知る人物に質問しなければなりません。そのために実施すべきなのが、マネジメントインタビューです。

マネジメントインタビューは、開示された書面を補完するための質疑応答。そのため、法務デューデリジェンスの最終局面で実施されます。対象は経営陣を中心としますが、役員や重要な幹部社員にインタビューする例もあります。

ビジネスモデルによっては書面化されている資料が少ないこともあります。経営者個人の才覚への依存度が高い会社ほど、マネジメントインタビューの重要性は増します。その反面、インタビューが適切でないと、M&Aに付随するリスクを見逃し、目的を達成できないおそれがあります。質問事項や対象の選定など、事前準備には相当な時間を要します。

今回は、M&Aにおけるマネジメントインタビューの実施方法について、質問事項や注意点もあわせて、企業法務に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • マネジメントインタビューはデューデリジェンスの最終局面で行うプロセス
  • マネジメントインタビューを実施することで、書面上では判明しないリスクを把握できる
  • マネジメントインタビューの前の準備、質問事項の作成とリハーサルが大切

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目次(クリックで移動)

マネジメントインタビューとは

マネジメントインタビューとは、デューデリジェンスの一環として、M&Aの対象会社の経営層に対してする質疑応答のことです。「マネジメント」、つまり、経営層へのインタビューが中心とはなりますが、ケースによっては幹部社員や一般社員に広くインタビューする例もあります。

マネジメントインタビューの目的

マネジメントインタビューを行う主な目的は、開示された資料だけでは判断できないリスクを調査すること。マネジメントインタビューのプロセスは、次のように細分化できます。

  • 資料を検討して生じた疑問点について質問し、回答を求める
  • 開示された資料の内容について、口頭で補完させる
  • 書面によるデューデリジェンスで適切な回答のなかった事項を掘り下げる

付随する目的として、対象会社の経営者の人となりを知ったり、信頼関係を構築したりといった効果もあります。

ロックアップがあり、買収後も社長が続投するケースでは特に、M&Aの手続きにおいても経営層と買い手との信頼関係を維持する必要性は高まります。

この目的から、マネジメントインタビューは、M&Aのデューデリジェンスの最終段階に近いタイミングで行います。

マネジメントインタビューで新たなリスクが明らかになると、追加の資料を要求して再検討したり、発覚した問題点について再度のデューデリジェンスを実施したりする必要があります。これらは、クロージングまでに完了させなければなりません

最悪は、インタビューで予想外のリスクが顕在化し、M&Aそのものを中止せざるを得ないこともあります。

マネジメントインタビューをする際の基本方針

マネジメントインタビューは、デューデリジェンスのなかでも、疑問点を直接問いただすことのできる非常に貴重な機会。なので、この機会をいかに有効活用するかが、M&Aの成否に大きく関わります。そこでまず、インタビューする側においては、基本的な方針を理解しなければなりません。

マネジメントインタビューで、正確な情報を聴取するために、インタビュアーの質問のしかたが重要です。

質問のしかたが悪いと、入手したい情報をピンポイントで獲得できません。また、横柄な態度だったり、高圧的だったりすると、インタビュー対象者に不信感や敵対心を抱かれせ、スムーズに進まなくなります。

このような弊害は、M&Aの支障であるのはもちろん、悪感情を持たれれば、M&A後のビジネス目標の達成にも影響します。インタビュー対象者の多くは、M&A後も当面は対象会社に残り続けることもあるのです。

ビジネスの利益が絡む場面では、目的を優先するあまり、感情的な配慮を忘れがちです。ドライ過ぎる対応は、ビジネスの円滑な進行を妨げます。一方で、円満で和やかに進めることを重視し過ぎると、質問の鋭さが失われるデメリットもあります。

聴取すべき質問がおろそかになったり、遠慮して不十分なインタビューになったりしては、マネジメントインタビューの役を果たせません。インタビューで隠れた問題を発見できないと、その後にリスクが顕在化したとき買い手側が損します。このときに、買い手のインタビューの不十分さによって見逃したリスクは、責任追及もできません。

マネジメントインタビューの進め方

次に、マネジメントインタビューの進め方について、具体的な流れを解説します。

事前準備する

インタビューを有効活用するには、事前準備が非常に重要です。

事前準備が周到であるほど、インタビューの質は向上し、有意義な時間にできます。忙しい経営層に、それほど長時間のインタビューをできるケースばかりではなく、事前準備をし、短時間で効率的に進める必要があります。

マネジメントインタビューは、開示された書類から読み取れない情報を取得する場。資料から明白な事実を質問していては時間を無駄にします。事前準備として資料を読み込み、資料から明らかでない事実を特定し、どこにリスクがあるか検討しなければなりません。そして、資料への疑問点を、具体的な質問に落とし込みます。インタビューが曖昧だと、回答も抽象的で漠然としたものになり、必要な情報が得られなくなってしまいます。

インタビュー対象者を選定する

マネジメントインタビューでは、事前に対象者を選定する必要があります。対象者の選定は、次の点を考慮します。

  • 開示された資料から想定されるリスクを回避できるか
  • デューデリジェンスで得たい情報を知っているか
  • 課題となっている点の知識があるか
  • M&Aについて情報開示をしてよいか

多くの場合、企業経営の重要事項を知る「社長(法人代表者)」へのインタビューが適切ですが、加えて、法務や人事、経理など、重要部署の担当役員を対象とすべきケースもあります。M&Aを秘密裏に進める場合だと、どうしても対象者を限定せざるを得ず、現場レベルの情報を得づらいこともあります。

M&Aの情報をオープンにしてよいケースなら、会社の雰囲気を知り、潜在的なリスクを発見するため、重要な社員をピックアップしてインタビューの対象とするケースもあります。

売り手にアンケートをとらせるなどしても、上司への気遣いから正しい情報が得られないおそれがあり、そのようなとき、直接のインタビューの機会は非常に有効です。

ヒアリングシートを作成する

マネジメントインタビューの当日に慌てぬよう、質問事項は事前にリスト化しておく必要があります。事前に開示された資料をもとにしたデューデリジェンスの後、それでもなお確認を要する点についてインタビューするのですから、ある程度質問内容は限定し、短時間で終わらせなければなりません。

想定される回答例も作成し、その切り返しや、追加質問を、図や表にまとめて整理しておくとよいでしょう。

質疑応答を効率化するため、一問一答形式のヒアリングシートを作成するのがお勧めです。

質問のしかたをリハーサルする

限られた時間の中で得られる情報の質は、質問のしかたにかかっているため、リハーサルは必須です。リハーサルは当日の余裕を生み、話しやすい雰囲気作りにも繋がります。

質問事項は、事前準備の段階で整理されていることを前提として、リハーサルでは「どのように聞いたら効果的か」という質問のしかたを中心に社内ですり合わせします。例えば、質問をオープンクエスチョンにするか、クローズドクエスチョンにするかにより、得られる回答は変わります。5W1Hのどの部分を聞いているのかにも注意しましょう。

回答者に判断を委ねる部分の少ないクローズドクエスチョンのほうが、質問の趣旨に沿った回答を得られるメリットがある一方、インタビューの導入部分では、オープンクエスチョンを活用し、幅広くリスクを把握すべきです。

インタビューの趣旨を説明する

マネジメントインタビューで、必要な情報を引き出すには、質問者による的確な質問とともに、回答者の心構えも大切になります。デューデリジェンスに協力的でなかったり、ふとしたトラブルで敵対的な態度を見せたりするインタビュー対象者から、リスク回避に役立つ情報を引き出すのは至難の業です。

そのため、マネジメントインタビューの開始時に、対象者に、インタビューの目的や意義を説明し、理解を求める必要があります。特に、インタビュー対象者にとって、不利益となる事実の申告を求めるとき、責任回避の気持ちが働いて嘘をつかれると、正しい情報が得られなくなってしまいます。

マネジメントインタビューの質問事項

マネジメントインタビューで質問すべき事項として、次のような点がポイントとなります。個別のリスク把握には、ケースバイケースの対応を要しますが、まずは下記の内容を押えられているか、チェックリストとしてご活用ください。

【一般的な質問事項】

  • 近年の市場動向、競合他社の強みと弱み
  • 対象会社の強み弱み
  • 懸念される経営上の最大のリスク
  • 対象会社の課題を克服するために必要な事項、それを障害する事項
  • 開示された書類に不備や不整合のある場合、その理由、原因
  • 対象会社と主要な取引先との関係や、これまでの取引状況
  • 今回のM&Aをするに至った背景
  • M&A後に期待すること

【設立・会社の運営・株式等に関する質問事項】

  • 実際の会社機関の運営状況が、開示書類と異ならないか
  • 事実上、慣習となっている運営がないか
  • 種類株式や新株予約権が発行された経緯、目的
  • 関係会社の具体的な事業内容、グループ会社間の役割

【契約等に関する質問事項】

  • 書面によらない口頭の契約があるか
  • 契約書の記載内容と異なる契約当事者間の取引慣行があるか
  • 契約上明らかではない業界の慣習
  • 書面から明らかにならない債務(簿外債務)があるか

【人事労務に関する質問事項】

  • 規程類と異なる雇用慣行があるか
  • 不適切な労働時間管理が行われていないか(残業代の未払いがないか)
  • 労使紛争や、訴訟が会社に与える影響がどの程度か
  • 重要な役割を持つキーマンがいるか、その退職可能性など

M&Aの事例は様々な種類があります。資料からどれほどの情報が判明しているかによってもインタビュー内容は異なります。まずは導入として一般的な質問から始め、徐々に、法律面のリスクの大きい部分を聞く質問へ移っていきます(いずれも、書面には表れない部分を聞くよう心掛けましょう)。

判明した問題点への事後的な対処は、次の解説を参考にしてください。

マネジメントインタビュー実施時の注意点

次に、マネジメントインタビューを実施する際の注意点を、具体的に解説します。

弁護士に同席してもらう

マネジメントインタビューの実施時には弁護士に同席してもらうのが効果的です。

インタビューは、法務デューデリジェンスの補完であり、専門性の高い法律知識や経験が必要です。事前に質問を準備してもなお、回答の内容によってアドリブで追加の質問を検討すべきケースがあり、インタビューの場での速やかな判断を要します。弁護士が直接インタビューを担当すれば、問題点を速やかに把握し、リスクの見落としを防止できます。

M&Aに強い弁護士の選び方は、次に解説します。

合同インタビューを実施する

デューデリジェンスには、弁護士の担当する法務デューデリジェンスだけでなく、多くの専門家が関わります。マネジメントインタビューを様々な観点からする必要があるときは、合同インタビューを実施すべきケースもあります。合同インタビューとは、複数の専門家、複数のインタビュー対象者が一堂に介し、対話形式で進むマネジメントインタビューのことです。

合同インタビューは、インタビュー対象者のスケジュール負担を軽減できるほか、分野を横断した多角的な視点でリスクをチェックできるメリットがあります。そのため、スケジュールの許す限り、合同インタビューを実施するよう努めるべきです。しかし、対象者の人数が多い場合や、各分野固有の質疑が多くあるときは、効率よく分割してマネジメントインタビューを進めるべき場合もあります。

インタビューを録音し記録化する

マネジメントインタビューを行うとき、録音するなどして、記録化することが重要です。あわせて、議事録を作成し、デューデリジェンスの最終の報告書に反映します。録音では、次の点に注意してください。

  • 質問と回答を正確に記録する
  • 質問者と回答者の氏名を記載する
  • 日時、場所、同席者を記録する
  • 質問と回答とが被らず、聞きやすいように録音する

デューデリジェンスの目的は、想定されるリスクを洗い出し、M&Aの実施までに修正できるか検討するとともに、回避できないリスクは買収価格を減額するなど、交渉の材料とする点にあります。インタビューで得られた情報は非常に貴重ですが、口頭のやり取りのみで終えると記録に残りません。インタビュー記録は、質問と回答を正確に記録するよう心がけてください。

マネジメントインタビューを受ける側(売り手側)の注意点

以上は、マネジメントインタビューをする買い手側の視点からの解説でしたが、インタビューを受ける買い手側でも、注意すべきポイントがあります。

買い手にとってデューデリジェンスは、M&A後のリスクを明らかにする重要なプロセスですが、売り手にもリスクはあります。対応が不十分であり、将来にリスクが顕在化して買い手に損をさせれば、責任追及される危険があるからです。

受け身でなく、事前準備する

M&Aのデューデリジェスで、マネジメントインタビューを実施するケースとは、友好的な場面のはずです。このとき、買い手に任せきりにするのでなく、売り手側でも協力しなければなりません。デューデリジェンスに非協力的だと、リスクが高いM&Aだと判断され、交渉がスムーズに進まない危険があります。

売り手側では、マネジメントインタビューで想定される質問事項を予測し、回答を準備するのが大切です。弁護士に依頼している場合、質疑応答集、Q&Aリストを作成するのがお勧めです。担当者でないと回答が不明なら、出席を確保しなければなりません。

質問を理解し、的確に回答する

マネジメントインタビューを受ける売り手側として、的確な回答ができないと、インタビューが長引いたり、買い手側の目的を達成できずにM&Aが頓挫したりといったリスクがあります。そのため、売り手側で、インタビューに回答するときは、買い手側の質問の意図をよく理解し、噛み合った回答をする必要があります。

質問の趣旨がよく理解できないときは、そのまま曖昧な回答をするのでなく、再度の説明を求めた上で回答するのが適切です。その場で正確に回答できないときや、資料の検討や調査を要するときは、回答を留保することもできます。

売り手側も弁護士に同席してもらう

M&Aにおけるデューデリジェンスにおいて、買い手側は弁護士に依頼するケースがほとんどです。これに対し、売り手側でも、マネジメントインタビューにおいては弁護士を同席させるのが有効です。インタビュー時における弁護士の役割は、質問内容を精査し、法的な知識を提供することです。

弁護士が同席すれば、インタビューの不明確な点を、その場で確認して対応できます。

M&Aの売り手側が弁護士を依頼する理由は、次の解説をご覧ください。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、法務デューデリジェンスの最後に行われる、マネジメントインタビューについて解説しました。

マネジメントインタビューは、企業買収のリスクを評価するにあたり、重要な意義を持ちます。正しいやり方で進め、リスクを見逃さないためには、事前準備を欠かさず行う必要があります。

インタビューをはじめ、デューデリジェンスを効果的に実施するには、M&Aの経験豊富な弁護士のサポートを受けるのが有効です。

この解説のポイント
  • マネジメントインタビューはデューデリジェンスの最終局面で行うプロセス
  • マネジメントインタビューを実施することで、書面上では判明しないリスクを調査できる
  • マネジメントインタビューの前の準備、質問事項の作成とリハーサルが大切

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