M&Aのデューデリジェンスを進めていくにあたって、どうしても開示された資料だけで、 書面上だけでは判明しないリスクについても調査 しなければならない必要性が生じてきます。
この場合、対象会社の経営者、役員、従業員など、そのリスクが存在するかどうかを知っている人や、リスク判断にとって重要な事実を把握している人に対して、質問をすることが必要となります。
このとき行われるのが「インタビュー」です。
インタビューでは、 開示された資料を補完するための質疑応答 を行うと共に、 書面によっては明らかにならない事項の聴取 も行うこととなります。
インタビューが、M&Aの法務デューデリジェンスにおいて非常に重要な意義を持つケースも少なくありません。
インタビューの重要性の反面、インタビューが適切に行われないと、M&Aに付随するリスクが事前に十分に把握できず、M&Aの目的が達成できないことすらあり、インタビューの実施方法、目的、対象の選定には、十分な配慮が必要です。
今回は、M&Aの法務デューデリジェンスにおける、適切なインタビューの実施方法と注意点について、企業法務を得意とする弁護士が解説します。
目次
1. M&Aデューデリジェンスにおけるインタビューとは?
M&Aデューデリジェンスにおいてインタビューを行う目的は、次の通りです。
- 開示を求めた資料の内容から生まれた疑問点に対する回答を求めること
- 開示を求めた資料から想定される問題点を補完すること
- 書面上だけからはわからない問題点を調査すること
- 書面によるデューデリジェンスで回答のなかった事項の不存在を確認すること
インタビューは、M&Aデューデリジェンスの最終段階に近いタイミングで行われることが多く、当初の資料請求の対象を修正したり、新たに発覚した問題点について追加のデューデリジェンスを行う端緒となったりする場合もあります。
付随的に、売主側の経営者の人となりを知ったり、信頼関係を構築するといった効果もあります。
2. インタビューを行う基本的な姿勢
インタビューを行う対象者となる人は、次に説明する通り、M&A(企業買収)の事案によってケースバイケースで選定をしていきます。
M&A対象会社の関係者であって、M&A(企業買収)の実行後も対象会社に関与し続ける人も多いです。
インタビューを担当する弁護士は、M&A買主の代理人としてインタビューを行いますから、将来のことも考えると有効に進めるに越したことはありません。
このことから、できる限り、インタビューにおいても、インタビュー対象者に不信感を持たれたり、敵対心を抱かれたりしてはなりません。悪感情を抱かれてしまうと、インタビューがスムーズに進まず、M&Aデューデリジェンスの目的が達成できないおそれがあり、慎重な配慮が必要です。
一方で、円満かつ円滑にインタビューを進めることを優先するがあまりに、聴取すべき質問がおろそかになったり、不十分なインタビューになったりするのでは、元も子もありません。
インタビューを行ったにもかかわらず隠れた問題点が発見できなかったのでは、デューデリジェンスにおいてインタビューを行う意義が失われます。
そのため、攻撃的な姿勢で問題追及をするというスタイルは論外であるものの、ある程度「あら探し」というイメージを甘んじて受け、調査を進めなければならないケースも多いといえます。
必要な情報を引き出せるような的確な質問を事前に検討しておきながら、一方で、インタビュー対象者に対して、デューデリジェンスとインタビューの意味を説明し、理解を求めます。
3. インタビュー対象者の選定
インタビュー対象者を、事前に適切に選定しておかなければ、インタビューにおいて得たい情報を得ることができず、デューデリジェンスの目的が達成できません。
したがって、インタビュー対象者を選定の上、対象会社に伝え、スケジュール調整と協力を依頼します。
インタビュー対象者の選定は、次の点を考慮して行います。
- 既に開示を受けている資料の内容
- 開示された資料から推定される問題点
- 追加で聴取すべきインタビューの内容
- 十分な知識を有しているかどうか(通常は担当部署の長)
- M&A(企業買収)の事実を伝えて良いかどうか
- インタビュー対象者のスケジュール
以上の点を考慮の上、通常は、経営者に加えて、総務部門、法務部門の担当役員、人事部門の担当役員などがインタビュー対象者として検討されることが一般的であるといえます。
なお、M&A(企業買収)を秘密裏に進めなければならない場合、できる限りインタビュー対象者を少人数に限定しなければならないという要請があり、現場レベルの従業員をインタビュー対象者とすることが適切でないケースも少なくありません。
この場合、担当部署の長が、担当部署の従業員に対して、M&A(企業買収)目的の調査であることを隠して事情聴取するという方法が採用されることもありますが、情報の正確性に一定の制約があると言わざるを得ません。
4. インタビュー実施の際の注意ポイント
インタビューを実施する際の、具体的な注意ポイントについて解説します。
4.1. 法務DD以外のデューデリジェンスとの関係に注意する
法務デューデリジェンスを担当する弁護士だけでなく、他の分野のデューデリジェンスを行う専門家もまた、インタビューによる事情聴取を行う需要があるケースは少なくありません。
この場合、対象会社のインタビュー対象者の負担を軽減するためにも、合同でインタビューすることが可能であるかを検討してください。
多分野のデューデリジェンスと共に、合同でインタビューを開催することには、次のメリットがあります。
- インタビュー対象者の負担を軽減することができる。
- 重複した質問を回避し、効果的なデューデリジェンスが可能となる。
- 他の分野の専門家から分野を横断した視点での情報共有が可能となる。
- 他の専門家からの質疑を、自身のデューデリジェンスの参考とすることができる。
したがって、スケジュール調整の許す限り、合同でインタビューを開催するよう努めるべきでしょう。
ただし、あまりに大人数のインタビュー対象者がいる場合や、法務デューデリジェンス固有の質疑が多くある場合には、効率的にインタビューを進めることとのバランスを考えてください。
インタビュー時間の一部のみを他の専門家と合同インタビューとするといった方法も検討すべきです。
4.2. 事前に質問事項リストを作成して準備しておく
インタビューを円満かつスムーズに進めるためにも、事前準備が非常に重要となります。
事前に、聴取すべき事項を選定し、質問事項リストを作成しておきます。
事前に開示され、デューデリジェンスの対象となっていた資料から、ある程度、インタビューにおいて質問すべき事項は、事前に固めておくことが可能です。
4.3. インタビューの記録をとっておく
インタビューを行う目的は、デューデリジェンスの目的を達成するためにあります。
すなわち、デューデリジェンスを行い、存在するリスクを報告すると共に、価格に反映することが必要な場合には交渉の材料ともなります。
デューデリジェンスにおいて、インタビューで得られた情報は非常に重要ですから、適切な形で記録に残しておかなければなりません。
インタビューの記録を残す際には、次のことに注意しておきましょう。
- 質問内容と回答内容を、正確に記録すること
- 質問者、回答者を記録すること
- インタビューの時間、場所、同席した者の氏名を記録すること
弁護士が法務デューデリジェンスを担当し、結果を報告する際にも、報告書には、その情報が、インタビューによって得られたのか書面から得られたのか、インタビューによって得られた場合にはその回答者を明示するケースが一般的です。
5. 【売主側】インタビュー対象者となった場合の注意
以上は、インタビューを行う買主側として、M&Aデューデリジェンスを担当する弁護士の視点から、インタビュー時の注意事項を解説しました。
逆に、売主側で関与する場合には、インタビュー対象者としてインタビューを受けるわけですが、この際にも、注意しておくべきポイントがあります。
5.1. 受け身ではなく事前準備を!
M&Aのデューデリジェンスにおいてインタビューが行われるということは、友好的なM&A(企業買収)であるのではないでしょうか。
友好的なM&Aの場合には、インタビューを全て買主任せにしておくのではなく、デューデリジェンスの目的を早急に達成してクロージングの交渉ができるよう、売主側でも行うべき準備を進めてください。
売主側として行うべき準備は、次のようなものです。
- 事前に、買主側の出席者、弁護士を把握しておくこと
- インタビューで想定される質問を理解しておくこと
- 回答が可能な担当者の出席を確保しておくこと
- 資料によって説明する場合には事前に準備しておくこと
M&A(企業買収)が行われた後は、売主となる会社は、今後は株主として、将来にわたって対象会社と関わっていくこととなりますから、できる範囲で友好的な協力をするのがよいでしょう。
5.2. 売主側も弁護士を同席させるべきかを検討する
通常、M&Aにおいて弁護士が関与する場合には、買主側の代理人として法務デューデリジェンスを担当するという役割であることが多いといえます。
これに対し、売主側でも弁護士を代理人として同席させるケースもあります。
ただ、インタビューを行う場合には、そのM&Aは友好的なものであることが前提ですので、タフな交渉をするというよりは、法的な知識を確認したりするという点の便宜上の役割となるでしょう。
売主側が弁護士を同席させるメリットは、次のようなものです。
- 買主側弁護士のインタビューの内容が不明確な場合に、その場で弁護士に確認できる。
- 売主側当事者のインタビュー回答が誤解を招きかねないものであった場合に、その場で弁護士が訂正できる。
- 法的知識を要する回答、交渉に対応できる。
ただし、インタビューの空気が厳かになり、ざっくばらんな会話が出来なくなったり、弁護士費用がかかったりといったデメリットがあるため、全てのケースで売主側に弁護士を同席させることがお勧めというわけではありません。
5.3. 質問を理解して、的確な回答をする
M&Aデューデリジェンスのインタビューにおいて、売主側が的確な回答をできないと、インタビューが長引いたり、インタビューの目的が達成できなかったりといった事態ともなりかねません。
そのため、売主側でインタビューに回答する際には、買主側のインタビューの意味を理解し、万が一理解ができない場合には、そのまま曖昧な回答をするのではなく、買主側のインタビュアー(通常は弁護士)に対し、説明を求めてから回答します。
また、その場での回答が困難であり、資料の検討や調査が必要な場合には、不正確な回答をせずに、回答を留保するようにしましょう。
6. まとめ
以上、M&A(企業買収)のデューデリジェンスにおいて、重要な意義を持つインタビューについて解説しました。
M&Aのデューデリジェンスを進める際には、M&Aの経験豊富な弁護士によるアドバイスが重要です。